私は悪役令嬢ですけど魔女扱いされて婚約破棄の上に追放されたのでダンジョン配信しながらスローライフしていたら実は聖女であることがわかりざまぁします
「エレオノール・フォン・バスシドルク! 君との婚約は破棄する」
今、名前を呼ばれた私がエレオノール・フォン・バスシドルクです。公爵家の娘です。気がついたらいわゆる悪役令嬢になってました。
日本でちょっとSFオタクなOLだった私は転生ってものをしたみたいですね。
おい。本人の承諾も無しかよ……コホン、失礼。
まぁ上位存在たる神が、わざわざ素粒子以下の存在である私たちに個別対応とも思えませんし。
『それな』
『宇宙のスケールを考えたら人間なんてそのレベルだよ。神はそんな矮小なものではないのだ』
『ほえー』
『勉強になるなー』
『実際宇宙の大きさってどれぐらいよ?』
『お前が持ってるその板で調べろやカス』
『観測が可能な半径が465億光年だったか』
『ヒェッ』
さっきから奇妙なことに私の視界、その端にこのようなコメントが流れ続けています。
しかも私の考えていることまで伝わっているとしか思えない内容ですが……。
『そうだよー。Youの思考が字幕で流れてるよ』
『なにこれ。リアル異世界から配信ってマジか』
『部屋の作りとかCGやセットに見えんな』
『いやいやいや……マジ?』
『これだけのセットを用意して外人の役者集めて配信するなんて、普通やらんやろ。コスパ悪すぎる』
『定番の婚約破棄w』
『テンプレやな』
『これでいいんだよ』
『劇中の登場人物視点で配信か』
『エレオノールたんの顔が見たい! 鏡を見て〜』
───私のプライベートは死亡。
どうやら私が見ている光景と思考が勝手にどこかへ配信されている模様。
何ですかこれは。
異世界だからって何でもありですか?
「君には魔女の嫌疑がかけられている!」
はぁそうですか。
ま、視界にコメントが流れ続けているから、そういう意味では魔女と言えなくもないですが。
「君が光魔法を行使する時、光が見えないじゃないか! まるで魔女の闇魔法のように」
はぁ? あー無理やり魔物退治に駆り出されて、マイクロウェーブで体液を沸騰させて退治したことありましたねぇ。
光って可視光線ばかりじゃないんですが……この世界の科学レベルじゃ理解の範疇を超えてますから、別れってのも無理かぁ。魔法は便利でいいですけど科学の進歩を邪魔しますよね。
婚約者である王太子には原理を説明したのですけど。宮廷魔術師の面々はぼんやりとですが理解されてましたけど?
王太子、あなたって隣で勝ち誇った顔を見せている男爵令嬢と同程度のオツムみたいです。文字通りバカップル。
「よってお前を国外追放とする! 極刑にしなかったことに感謝しろ」
「はいはい」
王族と公爵家の婚姻をダメにする……そんな国は遠からず滅びるでしょう。
そんなの政治に詳しくない私だってわかりますよ。
『極刑にならなくてよかった』
『王子はバカなの?』
『そうでないと物語が始まらないから』
『作者以上に頭が良い登場人物はいないからなー』
はいどうも。
その後公爵家で私は貴族籍を抹消された挙句放り出されました。すごいですね。
バカ王族が治める国と心中覚悟でしょうか? こんな人たちが支配階級とは、お先真っ暗ですよ。
幼い頃から私にはまるで無関心だった両親と姉妹。これはまぁ仕方のないことだと思います。
貴族、ましてや支配階級の上位にいる公爵家ですから、日本の家庭みたいに家族揃って団欒とかありえませんし。
父は公爵として働き詰めで帰宅は深夜なんてしょっちゅう。国の運営は大変なんでしょう。
母もお茶会外交に忙殺されていました。貴族社会は足の引っ張り合いの世界。片時も油断できないそうですから。
姉妹も私同様、歴史、算術、政治学、経営学、化学に始まってダンス、護身術、芸術と習い事を一日中やります。
王太子、余計なお世話ですが、あなたの隣の男爵令嬢はその辺りの教育をきちんと受けてるんですよね?
教育はコストです。男爵家にそこまでの財があるとは考えにくいのですが……。
国境へ歩いて向かう私に人々は容赦のない罵声を浴びせ、時には投石もしてきました。
流石に石が当たったら痛いので阻止させてもらいます。
今まさに私へ石を投げようとしている男の手のひらへマイクロウェーブを照射。
「あっ! がっ!」
成功です。堪らず石を落としましたね。血液やら体液が沸騰したんですもの。
正当防衛ですから心は痛みません。
「まっ、魔女だ!」
「逃げろぉ」
皆さん蜘蛛の子を散らすように逃げていきます。
王太子との婚約が決まってからの新年式典では『未来の王妃様に栄光あれ!』なーんて祝福してくれましたのに。遠い思い出ですね。
『すげぇな民衆は』
『エレノオールたん、かわいそすぎる』『集団心理こわい』
『俺たちは味方だから!』
隣の国へ行きました。私を見張っていた人達もここでお別れです。国境警備の人に金貨を適当に渡すと笑顔で通してくれました。
さてまずは職探しですね。どんな仕事があるのかしら。いえ、それ以前にどこで探せば……。
私、ファンタジーにはそれほど詳しくないのですが、コメントの人たちによると冒険者という日雇い稼業が定番なんだそうです。
自分で商売始めたかったのですが、おすすめされると私は弱いんもんで……。
ダンジョンに潜って、モンスターを倒してドロップ品とやらを換金すれば食いっぱぐれないとのこと。国による施策でしょうか?
不良労働層を救うセーフティネット。これは安定した社会に必要ですからね。
しかし困りました。冒険者はその日暮らし、憧れのスローライフには程遠い感じです。
あぁスローライフ!
適当な家を買って召使い雇ってグータラしたいんです。そのためには先立つものがないと!
遊んで暮らせる資金を稼ぐために頑張ります。
『魔法使えるなら余裕やろ』
『元公爵令嬢の冒険者?』
『楽しみ』
『冒険者ギルドへGO!』
コメントの人達の言う通りに冒険者ギルドに行きます。
おお! 西部劇に出てくる酒場みたいなとこですね。受付らしきカウンターにはむさくてマッチョなオジサマ達が腕組みして座っています。
『え? 美人で露出高めの受付お姉さんは?』
『リアルだとこんなもんだろ。荒くれ男達の相手するんだぞ』
「あの、冒険者になりたいんですけど」
「登録料に銀貨二枚。これに書き込んで」
無愛想な顔して渡された書類に必要事項を書いて渡すと、クレジットカードみたいなものを渡されました。
「これが冒険者カードだ。身分証にもなるし、ここでの仕事は全てこれを使ってやり取りする。これにはあんたの仕事が自動で記録されるからな」
まぁ随分とハイテク! 魔法でしょうか? 何でもありですねぇ。原理は不明ですけど。
『エレノオールたん、考えたら負けだよ』
『お手軽お気楽中世風世界が定番なんだし』
まぁそうですね。ここがどこなのかわかりませんが、かなり適当な世界なのは否めません。
さて! これで私も冒険者になりました。ふふふ。
受付のオジサマによると、ある程度の報酬が出る依頼を受けるにはパーティ編成が必須だと言われ、メンバー募集をしました。
でも私を見て冒険者の方々は変な顔して通り過ぎていくばかり。
───変ですね? 理由を訊いたところ、
「あんた、貴族のご令嬢か何かだろ? 面倒ごとの予感しかないんで関わるのはごめんだ」
と言われました。
まあ庶民の感覚だとそうでしょうねぇ。支配階級に関わるとロクでもないことしかない、その判断は正解です。
それにもめげずに粘り強く勧誘を続けた結果、やっとパーティ組めました。
全身鎧の男性剣士と猫娘です。こんな私と組んでくれるなんて人間としてのスケールがその辺の野郎、コホン、殿方達とは違うんでしょうね。
まず剣士はヘンテコな鎧を常に着ていて顔が見えません。入浴と就寝時以外は脱がないとのこと。何それ怖い。
『ガン◯ム?』
『俺が◯ンダムだ』
『ガ◯ダムにしか見えないデザインだよな』
『鎧のデザインかっこいい!』
『ユニコーンが近い?』
『いやWやろ』
『金属加工の精度が凄すぎん?』
剣士の鎧はコメントの人たちに人気ですね。夏は暑くて死にそう。
猫娘は彼女の自称で、どこにも猫要素がない美少女です。
『猫娘可愛い』
『猫耳がないんだが』
『鬼◯郎と同じじゃね?』
『耳を伏せてるんじゃないか』
『語尾にニャはいらん」
『お前は俺にケンカ売ってんのか?』
『ちっさ』
『おっぱいが大きけりゃいいってもんではない』
『戦闘には不利だしな』
『よし表へ出ろ』
猫娘に関してはレスバも始まりました。
早速ダンジョンに向かいます。
出るわ出るわスライム、ゴブリン、オーク、オーガ、何故か種族名になっているミノタウロスやフェンリル。
猫娘が解説してくれるのはいいのですが、私は少し脱力します。ちょっとぐらい創意工夫してくださいよ。
ファンタジーに詳しくない私でも、ミノタウロスやフェンリルが種族名ではないことは知っていますよ。
まぁ地球の古い神話に出てくる名前が、何でここにいるんだって話ですけど。
ここを作った作者の人、そこまで考えてないんじゃないかな。はぁ。
『いいんだよ、それで。知らないモンスターが出てきても困る』
『そうそう。オリジナル設定なんて知たくない』
『ベテランラノベ作家の人も編集者にオリジナルモンスターはやめろと言われたらしいからな』
なるほど。
するとここはファンタジーweb小説ワールドっぽいですね。はぁ。安直すぎ。
『婚約破棄の時点で気づくだろ』
『エレノオールたんはめんどくさいSFオタクだし』
カラシニコフ社がエアガンメーカーやゲーム会社相手に訴訟を起こしましたわね。
あれと同じようにトールキン財団が訴え始めたら大半のファンタジー小説から『ミスリル』の名称は消えそうです。
『あーあったな。我が社のアサルトライフルを勝手に使うなって』
『架空銃だらけになったんだよな』
『それより剣士見ろよ。すごく強いぞ』
おっと物思いに耽っている時ではないですね。
剣士は目にも止まらぬ動きでさくさくっとモンスターを切り裂いていきます。
刃の部分がうっすらと光ってますね、あの剣。何なんでしょうか。
荷電粒子を纏わせている?
数が多い敵には兜から何やら発射してモンスターを穴だらけにしています。飛び道具内蔵の鎧、これもまたハイテク!
『やだ強い』
『あれはビームサーベルw』
『いや違うと思う』
『頭部のアレってバルカン?』
『ますますガンダ◯ww』
『俺男だけど剣士に抱かれたい』
猫娘は顔が獣っぽくなったかと思うと、華麗で俊敏な動きで敵を翻弄しつつ、長い爪でとどめを刺していきます。この子も強い。
彼らが通った後は死屍累々。私の出番はなさそうです。
『かっこ可愛い』
『猫耳は……出ないの?』
『多分Bカップ』
『巨乳好きばかりだと思うな』
『見えてる』
『この子も強いな』
『尻尾も出ない……だと』
一部不満が出ているようですが、頭蓋骨の形からして、頭頂部に耳があるのは変では? などとどうでもいいことを考えていると、広い空間に出ました。
そこにいたのはワイバーンの群れ。
ガンダ◯、いえ、剣士と猫娘は空中を飛ぶ敵には手こずってます。やれやれ。
「二人とも! 私に任せてください」
「エレノオール嬢、すまない!」
「申し訳ないニャ」
「いえいえ」
さてあのおバカ王太子の前では見せたことのない可視光線の出番としますか。
レーザー。
何せ光速なので狙いは適当でかまいません。すぐに修正射できますから。それっ、と。
わっ眩しいっ!
あらあら。
オレンジの光が瞬くたびに汚い花火、ワイバーンが一瞬だけ燃え上がり、炭化して墜落していきます。脂肪分が燃えてるんでしょうか?
「す、すごい」
「ニャ!」
『レーザー!!』
『魔法便利!』
『米軍はもう実用化してるんだっけ?』『自衛隊も開発中だよ』
『光魔法で無双w』
「エレノオール嬢、凄まじい威力だね、光魔法」
「あたい、あんなの見たことないニャ……」
「飛行型のモンスターは任せてください」
ふざけたマンガやアニメで光線を回避する描写を見かけることありますが、秒速三十七万キロメートル、時速だと約十億七千九百万キロメートルで迫るものをどうやって避けるんですか。ありえないでしょう。
すると前方からゾンビの群れがやって来ました。
臭い。
鼻腔に遠慮なく突撃してくる死臭で鼻で曲がりそうです。特殊清掃の人が書いたマンガを読んだことありますけど、本当にキツイみたいですし。近寄りたくないです。
でも走ったりしないので、私的には高評価。ロメロ万歳。
『数で攻めてくるゾンビやばい』
『エレノオールたん逃げて!』
『さすがに厳しいんとちゃうか』
『エレノオール推定Fカップの危機』
『まず服を脱ぎます』
コメントの皆さんも心配してくれてます。うーむ。ノロノロヨタヨタ歩くゾンビと言えどもあの数は面倒です。居合わせた他のパーティも大騒ぎしてますね。
「なんでこの階層に?」
「数が多過ぎる!」
「魔法使い何とかしろ!」
あのぅ何故魔法使いの女性ってあの変なトンガリ帽子を被るんでしょう? まさかあの帽子って実は生き物で喋ったりしますかね? 確かそんなアニメがあったような。やたら露出の高い服と並んで謎です。足とか擦り傷できませんか?
『エレノオーラ、手厳しいw』
『もうそういうものとして決まってるからなぁ』
「あいつらの弱点は光魔法ニャ! エレノオール出番ニャ!」
「お任せを」
ゾンビどもにはガンマ線バーストを高出力で浴びせてやりましょう。
あらあら。
次々と吹っ飛んでいきますね。
それに皮膚が火傷ですごいことになってます。目も白濁してきて大変。まぁゾンビは元々死んでますけど。どんどん倒れていきます。こんなのを見ると、超新星爆発が近くで起きてほしくないと切に思います。
『グロいな』
『うわぁ……』
『ヒエ』
『瞬殺で草』
『ガンマ線て何?』
コメントの皆さんにもドン引きされてます。
「た、助かったぞ!」
「すごい威力だ」
「あなたは聖女か!」
「あたい見たことある! 聖女様がゾンビの群れを浄化した時もこんな感じだったニャ」
本当ですか? そもそも何ですか聖女って。
『聖女爆誕』
『そもそもなんでエレノオールが魔女?』
『言いがかりなんだよなぁ』
それからは毎日ダンジョンに潜ってはモンスターを片付けての繰り返し。スローライフには程遠いですが、頭の中は昭和のままでパワハラ上等! の営業部長に数字のことを言われないだけ、百万倍マシな生活です。
剣士はよく私を食事に誘ってきます。気まずくなってもあれなんで一応は付き合いますが、色々と聞いてくるから少しウザいんですよね。
「なるほど。そんな経緯があって公爵令嬢の君が冒険者になったのか」
「そうです。あの国は遠からず滅びるんじゃないですかね」
様々な失策がジワジワとボディーブローのように国をダメにしていくなんて、稀によくある話。
私のような冒険者の立場にいても、関税の値上げだとか、その手の噂が入ってきます。
そうそう、私が変だと思うのはモンスターって死ぬと死骸が一瞬で消えて、しかも何かをドロップする、これですよ。どんなカラクリなんでしょう?
またそれを誰も不思議に思わず、また解明しようともせず、それを誰も変だと思わない……何とも気持ち悪いです。
『ゲーム世界だからじゃね?』
『でもそういう説明ってなかったよな』
その後もドラゴンを倒したり、魔王軍を撃退したりして忙しかったです。
さらにはモンスタースタンピードとやらが発生して周辺各国を巻き込む大災害となりましたが、私があちこち出張ってレーザーで片っ端から焼き払い、どうにか鎮圧できました。
出張で全国を回った記憶が蘇り、精神的肉体的な疲労でダウン。
そんな私を剣士が優しく労わってくれます。不覚にも彼のことが段々と素敵に見えてきました。私もただの女だったということでしょう。
『ほおお。異世界恋愛かー』
『わしは許しませんよ』
『剣士ってイケメン仕草だしな』
『後方腕組み勢の俺は応援させてもらう』
クタクタでまさにグータラな日々を過ごす私。そんな私を世間は放っておいてくれませんでした。
『聖女だ!』との賞賛があちこちの国から巻き起こり、私達へ『王(教皇、皇帝、その他貴族)と謁見してほしい、褒賞を受け取ってほしい』という要請が殺到し、どうにも逃げられず、謁見の旅が始まりました。屋敷を買えるぐらいの現金は貰えるかな? 勲章とかは換金できないからいらないなぁ。
あ、私を追放した王国は最後に回しました。本当は断りたかったんですが、あまりにもしつこいので渋々です。
王城へ向かう私たちの馬車は国民総出の『聖女』コールで迎えられ、私は『あなた方、国を出る私に罵声を飛ばして石を投げたの忘れたの? 頭大丈夫?』と落ち着きません。
私を追放した王太子とその相手の男爵令嬢『真実の愛を育んだ二人』は、私のことを憎々しげに隅の方で私を睨んでいましたけど。
『物足りないざまぁだなw』
『もっと酷い目にあってほしい』
『とことんやってしまえ』『KO☆RO☆SE』
コメントの皆さん、物騒なこと言いますね。バカには『寄らず触らず』が基本ですのよ。
微妙な空気の中(そりゃ追放した私が聖女だってことになったら気まずいなんてものじゃないでしょう)で無事褒賞授与式が終わり、城の外へ出たところでバカ王太子と男爵令嬢が馬車まで追いかけてきました。暇人ですね。
「エレノオール! どうせイカサマを使ったのだろう? それとも魔女の力か?」
私を指差して何か言ってきましたが、たちどころに衛兵達に取り押さえられ、第二王子や宰相が土下座で謝罪をしてきました。まともな神経を持った人もいらっしゃる様子。
ええ知ってますよ。なんの力もない男爵家を王妃に迎えたらどうなるか、やっと周囲の人も気づいたのですよね。既に第二王子を神輿に担いだ派閥が台頭して混乱の真っ最中。その皺寄せは全て国民に向かってますし、国境を接する国々が侵攻の準備をしているとか。
王太子殿下、あなたのやらかしは国を傾けたのです。
王国を出た時、剣士は初めて兜を私たちの前で外しました。あらぁ! 耽美派とでも言うのでしょうか、とても美しいお顔をしています。
「正体を隠す必要があったのでね。私は隣の大陸にあるレブセーナ帝国の皇子なんだよ。この国の魔法というテクノロジーを調査に来たんだ。用は済んだ。ぜひ君を妻として迎えたい」
いきなりのプロポーズ。そして抱きしめられてキスされました。まぁ強引。ええ。文明や文化が違うということは、こういうことなのでしょう。
イケメンで優秀なさ遺伝子を欲しがる私の遺伝子には逆らえません。人間は結局のところ遺伝子の乗り物ですし。もう好きになりそう。
すると猫娘もカミングアウトしました。
「私は別次元から来たんだニャ。この銀河には異常な数の歪な文明が観測されたので、殲滅に来たんだニャ」
ああ、そうでしたか。猫娘が色々と説明してくれました。転生者である私もそう思います。よくわからないチグハグな、まるで素人が適当に考えたようなガバガバな世界だと思ってました。
私も持っているギルドカード。様々な情報を自動で記録するのですが、テクノロジーは不明です。
建築や人々の生活を見る限りせいぜい近世程度の文明なのに、これだけオーパーツ。文明の釣り合いが取れてないんですよね。
ここまでハイテクなものを作って冒険者にばら撒くことができるなら、情報伝達機器や他の技術もちゃんと発達してるでしょうに。
学園もそうでした。何故か日本でお馴染みのブレザー制服や生徒会が当然のようにありました。
蛮族が跋扈する命の軽い世界に、現代日本みたいな学園が突然変異みたいに生えてる。成人前の子どもに自治権を持たせるとか、もう少し世の中マシじゃないと釣り合い取れません。
ダンジョンなんて危険なものに国が対応せず、冒険者なんて民間の日雇い労働者に任せる出鱈目なとことか。日本だったら警察や自衛隊といった組織が対応するでしょう?
それと王族と貴族しか見当たらず、日本で言えば、各省庁や役人に当たる存在が一切存在しないんですね。どうやって国を運営してるんでしょうか。
食べ物も日本で見かけたものばかり。変ですよね。
あ、一番変だったのは、例えば日本が殺し殺されの戦国時代を何百年も続けて、その後民主主義を取り入れ、二度目の世界大戦で敗北後に経済復興をして民主教育を施されて、生活がそこそこ豊かになってやっと手に入れた『現代日本の倫理観』を、盗み殺しは当たり前で命が軽くて社会保障なんて皆無で人権なんて存在しない、厳しい身分制度に支配されたこの王国の平民や農民が持ってること。ありえないでしょ。
猫娘に聞いた話ではまだまだあるんですって、歪な世界。ステータス画面が空中投影されて、数値化された各数値が見ることができる惑星とか。ゲームですか、それ。その数値どうやって決まるのでしょう?
私は皇子を迎えに来た船に乗ってこの国ともおさらばです。その後、猫娘がこの国の上空で小型のブラックホールを発生させるとか。ざまぁみろってとこですが、国ごと滅ぼすのはお願いしてやめてもらいました。無関係の人たちが気の毒すぎます。
猫娘も私の言うこと聞いてくれて、王城だけをマイクロブラックホールで消滅させました。バカップル、無事生き残れたならいいですね。無理でしょうけど。
私は皇子の妻として帝国で楽しく暮らしました。勉強することが沢山ありましたけど、連日徹夜して頭に叩き込みました。皇族って色々知ってないと何もできないんです。国の運営してますからね。
倒れそうになるほどの勉強漬けでしたが、知ってることが増えていき、それが活かされる場面もあると面白くなってきます。まだまだですけど。
息抜きに猫娘の手助け『トンチキ文明国の殲滅』を時々やりました。ブラックホールよりガンマ線バーストの方が後々の処理が楽でいいとか。
そして猫娘が教えてくれました。この惑星を含む銀河は上位存在が遊びで作ったもの。不慮の事故で死んだ魂をカスタマイズ(不相応な力を与えて)して、放り出された人間がどう生きていくのかを眺めて愉悦に浸る遊戯盤──そんな場所だと。
大抵は欲望をむき出しにして生きていくそうで、それはまぁ仕方ないかなと。男の人ってハーレム願望が強いですものね。
現実はなかなか辛いこともあります。努力が報われることは中々ありませんし、子どもの頃の夢なんて大半の人が諦めちゃいます。だからその反動ではじけちゃう。まぁ当然と言えば当然ですか。
かと言って努力もせずに、分不相応な結果を望むのなんて妄想だけにしておく──そんな当たり前のことを私は心得てるだけなんです。
私は皇子とラブラブでずっと暮らしました。
カクヨム、ハーメルン、Talesにも投稿しています。