97 18体の防衛機構と戦い始めます
❝ぶははははははは!❞
❝AIにまで異常を検知されてるwww❞
❝AIたん、困惑中ワロワロワロwww❞
コメントが大ウケ。
アリスまでこっちを見ながら、涙をためて震えている。
リッカさんはジト目で、
「やはり、モノノ怪のたぐいだった」
とか言ってるし。
つか、衛兵さんの二人までお腹を抱えて体を震わせている。
アドミラーさんは、顔を背けて震えてるし!
みんな、酷でぇ!
私が世の不条理を感じていると、ドアが私に言ってきた。
『プレイヤースウ、ドアの前に立って下さい』
「え、何?」
アドミラーさんが、震える涙目でコッチを見ながら下がって「前にどうぞ」と手で示した。
私は「なにワロとんねん」と〝口の中だけ〟で言って、困惑を胸に抱いて前に出る。
そして「安全なんですかこれ?」と尋ねたけど、その間にドアが光った。
『失礼しました、人間である事が確認されました。IDスウ、承認されました』
コメントも、アリスもリッカも、口々に好き勝手な言葉を述べる。
❝良かった、ちゃんと人間だったwww❞
❝『石仮面』とか被ってたら、どうしようかと思ったワロw❞
「『MIB』にピカっとかやられないかと、ハラハラでした」
「成敗できなかった」
「言いたい放題だな、貴様ら」
憤慨しながら、中に入る段階になった。
しかし衛兵さんや、ドローンは中に入れないらしい。
私達はドローンを外に置いといて、部屋に入った。
撮影はドアの外からする感じになった。
酷い部屋だった。
『ドアを抜けると、電子の蜘蛛の巣であった』
「うわぁ・・・」
暗い部屋は無数のコードが見上げるほど高い天井からブラ下がり、4畳ほど先の壁には青いラインがガラスの罅のように走り、淡い光が血流のように流れていた。
「命理さんを検査するために急いで作ったんで、ちょっと歩きづらいですがどうぞ」
❝なんかコード多すぎて怖いな❞
❝若干ホラーだよな❞
アイビーさんが向かう最奥には、CTスキャンかMRIみたいな装置が無数のコードに繋がれ鎮座していた。
アイビーさんが、私達に向き直り歩きながら注意をする。
「コードは頑丈なんで蹴っても大丈夫ですが、転ばないで下さ――おべっ」
アイビーさんが、すっ転んだ。
❝やっぱこの人ポンコツだわw❞
❝後ろ振り向いて喋りだした瞬間、絶対転ぶと思ったワロw❞
❝銀河連合、この人が提督で本当に大丈夫かよwww❞
コメントはアイビーさんにも見えているので、アイビーさんは乙女座りをして顔を覆って真っ赤になった。
私はアイビーさんの恥ずかしがる姿を見て、なんだか整ったが、整えられている方はたまったものではないだろう。あと、気になったので注意する。
「そんなミニスカートでぺたん座りしたら、パンツが汚れますよ」
アイビーさんは、顔が赤いまま立ち上がった。
するとアリスが、首を傾げた。
「そういえばスウさんって、ぺたん座りしませんね。パンツが汚れるから普段からやらないようにしてるんですか?」
「いや、似合わないし」
顔に縦線の入ったグルグル瞳のへちゃむくれがやっても、何も可愛くなかろーもん。
❝えーーー!❞
❝やってよ!❞
はい!?
「・・・・貴様ら、羞恥のあまり顔面蒼白でぺたん座りした女の子みて何が楽しいんだ」
❝羞恥で赤くなるんじゃないんだwww❞
❝顔面蒼白になる羞恥ってなんだよwww❞
❝似合うって!❞
❝みたいみたい!❞
アイビーさんはヘイトが自分から私に飛んで、いつの間にか蘇生したらしく、ドローンに命理ちゃんの身体を黒いCTスキャンみたいな機械に乗せるように指示していた。
アイビーさんが、コメントと言い合いを続ける私に向き直る。
「スウさん、さっき言っていた命理さんの交換した部分をこちらに乗せてくれますか?」
「アイ」
私が〈時空倉庫の鍵〉から命理ちゃんの交換した部分を取り出し、台座に乗せると、MRIみたいな機械が動き出す。
MRIな機械の〝丸いゲート部分〟が前後にゆっくり動き出した。
――壁に浮かぶ青い筋の発光が、激しくなる。
アイビーさんがウィンドウを開く仕草をして、何かをチェックしだした。
私達からは、ウィンドウは見えない。
というか、アイビーさんが調べるんだ?
「アイビーさんって研究者なんですか?」
「機械工学研究で、賞を貰うくらいにはに詳しいです。プレイヤーさんが持ち帰るテクノロジーに関しては、わたくしが最終チェックを行っていますよ」
「准将なのに、若いのはそんな理由があったんですね」
アイビーさんは、何もない空間に向かって瞳を上下させながら色々呟きだした。
「これは――こんな物まで装備していたんですか、危険すぎる・・・」
とか、
「有りました。この技術が復活すれば、ボスを消滅させられる。――これがあれば、奴らに対抗できます」
とか、
「――なるほど、こうすればデータノイドにも印石が使える可能性が開ける? しかし、一体どうやってこれを・・・? いや、まさか・・・・そうか―――生体で・・・・昔の研究者は、なんと恐ろしいことを考えるんですか・・・――そうすると駄目ですね、現在は使えない技術です」
とか。
10分ほどして検査が終わったらしく、機械が止まってアイビーさんはウィンドウを閉じる仕草をした。
「皆さん助かりました。お礼のクレジット100万と、ポイント20万を送信しておきます」
『〝重要情報〟をクリアしました。銀河クレジット100万と、勲功ポイント20万を入手しました』
命理ちゃんを連れて来ただけで、色々貰えるんだ?
でも、今回はポイントよりクレジットが多いから、マトモな報酬かな。
❝銀河クレジット100万て・・・・❞
❝勲功ポイント20万って・・・・❞
そんなにマトモじゃなかったみたい。
リッカさんは、勲功ポイントが枯渇していたので「ワーイ」と言いながら、バレリーナのように手を上げてつま先立ちで トテトテ とゆっくり回転した。
あざと可愛い。
その後、さらにクエストの話をするために通されたのは、アイビーさんの提督室だった。
出された黄色いクッキーみたいなお菓子が、これまた甘い。と言うかなにコレ、信じられないほど美味しいんだけど。
私は、リッカさんと競うようにクッキーを口に放り込む。
アリスが、お菓子に夢中な私たちを見てアドミラーさんと交渉をしてくれた。
「つまり設計図が有るはずのコロニーだけれど、銀河連合の皆さんでは取りに行けないと?」
「はい。フェロウバーグから2500光年離れたガス惑星の遺跡なんですが、そこはプレイヤーさんしか入れないんですよ。しかも遺跡付近ではガーディアン――海底遺跡に居たようなヤツですね。それがまだ稼働していて、近づくのも難しいのです」
「そこで、スウさんに白羽の矢が立ったんですか」
「はい」
「連合軍艦隊でも勝てないんですか?」
「勝てるでしょうが、大損害が出ます。クナウティア様の計算では、勲功ポイント換算にして1億ポイントですね」
「そ、それはクリアできるプレイヤーが居るなら、そっちに個人用の勲功ポイント渡した方が得ですね・・・・なるほど、中古とは言え空母をポンとくれようとする訳ですね・・・」
「はい、これはスウさんにしか出来ないミッションです。――という訳でスウさん、お願いしますね」
急に呼ばれて、私は「なんの話?」と返事をする。
「もご?」
「あの、そのリスみたいな頬袋はなんですか・・・・話訊いてました?」
「もごもごもごもご」
「飲み込んでから話して下さい」
「(ごくん)お、お菓子が美味しくて・・・」
すると、リッカさんが私を笑う。
「もごもごもごもご」
アドミラーさんが、呆れて額を抑える。
「いや、リッカさんもハムスターみたいに頬袋作ってんじゃないです」
❝二人とも食いしん坊キャラだったのかw❞
❝クッキーが美味しいだけなのもワンチャン。――フェローバーグ行ったらあのクッキー食べてみたい。メッチャ美味しそう❞
❝どんな味なんだろう❞
❝運営、早くフェロウバーグを開放してくれぇ!❞
コメントが味を知りたがっているので、グルメな私は食レポしてみる。
「バターケーキと、クッキーの間の子って感じです? ふんだんに乳製品を使っている感じかな」
「まあ、これも結局天然物ではなく合成乳製品ですけどね」
「合成でもこんなに美味しいのかあ・・・」
「首都ユニレウスを取り返せれば食糧事情も変わるのですが――この惑星はワープ航行が難しくて、本物の乳製品は高いのですよ」
するとアリスだ。アイビーさんに尋ねる。
「あの・・・アイビーさん、目的のコロニーはどのように危険なんですか?」
「あ・・・と、それは――」
アイビーさんがちょっと言いにくそうに一瞬黙ってから、口を開く。
「――防衛機構が18体出てくるんです」
目を見開いたアリスの大きな声が、室内に響いた。
「ぼ、防衛機構が18体!?」
コメントもざわつく。
❝まてまてまて、盾役のバリアを一発でぶち抜く弾幕を放ってくる相手が18体!?❞
❝スワローテイルだと、一発被弾しただけでシールドとバリア毎爆散だぞ・・・❞
「だ、駄目です! そんな危険なクエスト、スウさんに受けさせるわけにはいきません!!」
「えっ、そ、そんな――そこを何とか・・・」
「駄目です、このクエストはキャンセルです!!」
キャンセル!? ――待ってアリス。
「で、でもさアリス! 空母がないとPvP大会出れないんだよ! 空母は絶対必要だよ!」
アリスが私の顔を見た。
泣きそうになっている。
「スウさんが貰ったのはタンカーじゃないですかぁ。空母は、普通に買えば良いんです」
「それは・・・」
「なんなら空母くらい、わたしが買いますよぉ」
「う・・・だけど、銀河連合も困ってるんだし。攻略進めないと、命理ちゃんとの約束も守れないし、アイリスさんも助けられないし・・・」
するとアリスがアイビーさんを見た。潤んだ瞳で、ちょっと睨んでる。
「そのクエストをクリアしたら、攻略は進むんですか?」
「そ、それは勿論です! 昔――人類は星団帝国の時代、銀河の中心射手座αまで行き来していたんです。当然ワームホールを設置できる場所も、当時は分かっていました。しかし現在は50層以降の設置できる場所が分からなくなっていまして・・・・目的のコロニーには、星団帝国時代の地図があるんです。そこにはワープ港の位置も記入されています」
「・・・地図が欲しいのですか。地図くらい、そこらにないんですか・・・?」
「――非常に詳しい地図が確実に有ると確定しているのは、目的のコロニーだけでして」
「・・・そうですか」
「それで、あの・・・このクエスト、受けて下さいますか?」
アリスは、頷いた。
私達はラリゼスガ目指して、ワープしていた。すると、アリスが個人回線で通信を入れてきた。
「どうしたのアリス?」
『あの・・・やっぱりこのクエスト、断りませんか?』
「えっ、また!?」
『だって、このクエスト―――銀河連合も勝てるらしいじゃないですか。そっちに任せて・・・・流石に防衛機構18体はスウさんでも危ないと思うんです』
「で、でも、止めるわけには」
『止められないって・・・どうしてですか』
「どうしてって、銀河連合にも大きな被害が出るらしいし――アイリスさんや、命理ちゃんの為にも」
『銀河連合や、アイリスさん、命理ちゃんの為止められない――本当に、それが理由なんですか?』
「どど・・・・どうしたのアリス急に、いつものアリスらしくないよ・・・? もっとアリスは堂々としてて」
『それは、自分の事だから堂々としていられるんですよ! スウさんが危険な目に遭うんなら、私だって不安になるじゃないですか! この防衛機構相手じゃ、盾役のわたしは何も出来ないんです!』
アリスの愛が、私にベアハッグしてくる。
「そ、それは・・・」
『スウさん、防衛機構18体もの弾幕を躱せますか? しかも今回は水中とか大気中じゃなくて、宇宙なんですよ? ――流石に今回は分が悪いです』
「し、心配のし過ぎだよ」
『18体の攻撃で、しかもスワローテイルだと一発当たっただけでアウトなんですよ?』
「一発だけなら、3択ブーストでなんとか。駄目そうなら帰るよ、様子を一回見てみよ? ね」
『そう・・・ですか。分かりました』
アリスは納得したのか通信を切った――、いや納得した様子じゃなかったなあ。
◆◇◆◇◆
というわけでクエストをこなすためやって来たガス惑星、ラリゼスガ。
その惑星は、ガス惑星によくある縞模様の天体だった。
ただ、その模様が「白青白青」という感じで。
❝縞パン❞
「言うな」
アリスの言葉を気にかけながらも、いつもの調子で視聴者にツッコミを入れておく。
❝青の縞パンとは分かってんな、この惑星❞
しかも青の気体なら、多分ここもメタンでしょ。
ともかく私達はメープルちゃんと合流し、遺跡が存在するという極(地球の北極とか南極に当たる部分)の宙域に向かう。
ガス惑星――それもかなり回転の早い惑星の極ということで、沢山のガスの渦がまるで銀河の集合体のような模様を描いている。
禍々しいような、見方によっては宝石のようで美しいような。
そんな極の上の宇宙空間で遺跡が、ゆっくりと回転していた。
ドラムのようなその遺跡は半径1キロほど、全長3キロほど。
アリスがニュー・ショーグンから不安そうな声を出す。
『どこから入るんでしょう。出入り口が見えませんね』
「出入り口はドラムの上の円の部分だと思うよ――ガ◯ダムのコロニーもそうだし」
ゆっくり近づいていくと、やっぱり入り口があった。長方形の形をした入り口が、中心を囲むように4つほど開いている。
入り口の辺りはドラムの側面とは逆のモーメントが働いているのか、静止している。
ガ◯ダムを履修しておいて良かった。
しかし確認した出入り口から、海底遺跡で見たヤツにそっくりなガーディアンが出てくる。
出入り口からミミズのように這い出してきたのは、連結球体〝防衛機構・4842〟――〝18体〟。
『出てきましたね・・・18体・・・・』
憎々しげにアリスが言うと、リッカさんとメープルちゃんが尋ねてきた。
『強いの?』
『危険なんですか?』
アリスが返す。
『・・・・強いなんてもんじゃないです。バーサスフレームの中でも、最強のシールドとバリアを持つ機体のシールドとバリアを一発で破ってくるんで、タンクが全く役に立たない相手です。・・・・アイツには日本で3本の指に入ると言われる、私が元々所属していたクラン、星の騎士団100人掛かりでも一体すら倒せませんでした』
『まずくない?』
リッカさんの疑問に、アリスが答える・・・声が震えている。
『滅茶苦茶まずいですよ。あんなコロニーに、入れるわけがないです。予想被害1億ポイントは、伊達じゃないって訳です・・・』
❝マジに出てきたよ・・・幾らなんでもこれは、スウたんでもヤバくないか?❞
❝やっぱ引き返した方がいい、スワンプマンの話あったし❞
私は周囲の様子を見て、頷く
(いける)
「大丈夫だよ、アリス。――イルさん。<ドリルドローン>」
『イエス、マイマスター』
❝戦う気かよ!❞
❝どうかしてるぞ!!❞
ドリルドローンのAIが、不安そうに語りかけてくる。
『マザー、流石に大丈夫か?』
『ちょっと相手が悪いよ・・・』
リッカ、メープルちゃんも、不安そうだ。
アリスが特に。
『流石に心配』
『大丈夫なんですか!?』
『スウさん・・・・』
「3人は安全な場所で待機してて! 行くよカストール、ポルックス」
『イエス、マザー』
『了解、ママ』




