96 アリスにバレます
「じゃあ空母は自分で買います。タンカーの方が入手条件難しいので、そっちを下さい」
『了解しました。あ、わたくしがさしあげようとしていた空母は、惑星フェロウバーグの基地でしか買えないので注意して下さいね。通販は不可能です。スターエッグという空母です』
「はい」
よし、さらに水素が運べそうだ「くっくっく」私は商売人モードのフーリみたいな顔をしてみた。
私はそこで、大事なことを思い出した。
「あ、そうだ。もう一つ報酬が欲しいです」
『いえ、銀河連合から出せる物はもうないですよ。流石にわたくしの権限でもホイホイ物品は渡せません』
「違います。これはアドミラーさんから個人的に頂く報酬です」
『わたくしから?』
「その耳をモフらせてください」
私が言うと、アドミラーさんがなぜか締めくくった。
『では、惑星フェロウバーグでお待ちしておりますね』
「耳、モフらせてください!」
『―――』
「――じゃあ尻尾!」
音沙汰がない。あ、アドミラーさんとの通信が切れてる。
❝ワロワロワロワロwwww❞
❝スウ、ケモナー疑惑www❞
私は、アリス達にこれからの説明が必要か尋ねる。
「えっと、状況って分かる?」
「はい、配信をみてました」
「同じくみてたよ」
「私も見てました」
「見てたわ。スウに当機のメモリーを渡せば良いのね」
アリス、リッカさん、メープルちゃん、命理ちゃんと答えてくれた。
全員配信を見てたようだ。
「命理ちゃん・・・大丈夫? 怖くない?」
「全然、スウなら怖くないわ」
「そっか――ありがと、絶対護るからね」
「おねがいね」
命理ちゃんが固定してあるローテーブルの前に座って「シャットダウン開始。チップ排出――3、2、1」と言うと、歯車のような瞳の虹彩の光が失われ、命理ちゃんの体がゆっくりと倒れ――そうなのを私が支えた。
パチンという音がして、マイクロSDみたいなチップが命理ちゃんのこめかみから出てきた。
「ここに、人間の記憶と思考が入っているの・・・・?」
青いラインに白い光が流れる不思議なチップを手にして、目を丸く覴めていると、
「小さい」
アリスが説明してくれる。
「そんなサイズなのに、たしか1ゼタバイトも入るらしいですよ」
❝ゼタってやべえ❞
とかコメントが流れてくるから、やっぱヤバイんだろうなあ。
私は、クナウティアさんから貰ったケースに命理ちゃんのチップを大切に入れて、時空倉庫に丁寧に仕舞った。
そうしてから私はコックピットのシートに命理ちゃんの体を固定しようと〖超怪力〗で運んでいると、妙なコメントが流れた。
❝なあ、ゼタバイトって、世界中のエロ画像が入れられるんじゃね?❞
「お前は命理ちゃんのチップを、なんだと思ってる」
私がジト目で問いただすと、焦ったらしいコメントが返ってきた。
❝ちがうスウたん、新しいチップに入れるならって話ね!❞
「それなら赦そう」
❝エロ画像みてるのは、構わないのかw❞
「それは、一向にかまわん」
❝スウたんのお気に入の画像は?❞
「えっと、君の金髪を愛し――だまらっしゃい!」
するとアリスの不穏な声が、ワンルームの方からした。
「君の金髪を――? ・・・ですか。えっと」
私が急いで命理ちゃんを固定してハシゴを降りると、アリスがスマホで検索してやがる。
「ちょ、駄目アリス!!」
しかし時既に遅く、アリスが顔を真赤にして口元を抑える。
「えっ、黒髪の女の子が金髪の女の子を押し倒して――えっ、えっ」
「くぁwせdrftgyふじこlp」
アリスが鏡で、自分の髪色と、私の髪色と、出てきた画像の関係が同じ事を何度も確認する。
「しかも髪質は違うけど、私とスウさんと髪型が同じ――」
アリスが戦慄の表情で、私と鏡に映った自分を交互に見続ける。
「アリス誤解だから! 君は今、大きな勘違いをしている!」
❝エロ検索履歴が家族に見つかった、中学生男子みたいになってるw❞
❝男の操縦桿の意味が分からないから純情なのかと思ったら、そういう事かwww❞
❝一式さん。しかもその黒髪って、病気で弱った金髪の子を襲うのよ❞
貴様らコメントで、誤解を広げるような真似を!
あと、最後のコメントは女の子!? ――同好の士に裏切られた! いやなるほど、アリスを狙っているのね!?
アリスが、涙まで浮かべて私を見る。
「信じられない、なんて卑劣な」とでも言いたげな瞳である。
い、言い訳しなきゃ不味い!
「違うんです、金髪と黒髪のカップリングって常識じゃん!?(――いや、どこの?) ――じゃなくて―――本当に私は、そんな邪な気持ちは無いんです! 純粋な気持ちで、綺麗だなー、可愛いなーと!」
❝囚人服なみにヨコシマなくせに❞
❝言い訳する時って、意味もなく敬語になったりするよなw❞
リッカさんまで「うわぁ」という顔で私を見る!
というか、この配信ワンチャンどころではなくクラスメイトも見てんじゃね?
「貴様らコメント、マジ黙れぇ!」
オワタ。
オワタ。
涙目の私の悲鳴が、宇宙の暗闇に飲まれて消えた。
それから暫くアリスは、私から距離を取るようになりました。
ねえ、泣いていいかな?
惑星フェロウバーグ、そこは浮遊大陸の惑星だった。
惑星のサイズが地球より大きいこの星で1Gを得るためには、高度の高い場所に住む必要があり、都市はおおよそ高度14000メートルに作られている。
私達は、一面の雲海を眼下にして浮かぶ島の中で、一番大きな物に向かう。
島の上の光景は、まるで針だらけの盆だ。
丸く区切られた壁の中に、遠くからは針にも見える高いビルが無数にそびえたっている。
その中央、一層高く巨大な建築物がある。
宇宙に突き刺さりそうな高い中央塔を持つ建物が、私達の目指す場所。
――銀河連合軍フェロウバーグ本部。
メープルちゃんだけはまだクランに入ったばかりなので、今回は残念ながらフェロウバーグに降りちゃ駄目ということで、衛星軌道で待機してもらっている。
❝圧倒的リアリティで迫る、浮遊大陸がヤバイ❞
❝しゅげー!! どうやって浮いてるん? 重力制御装置?❞
❝浮遊大陸から流れ出る滝とか、光景が幻想的すぎる。途中で霧になっちゃってるけどwww❞
❝早くこの惑星行きてえ!❞
私達はめちゃくちゃ広い滑走路に着陸する。もう路というより、広場。まあ人型に変形できるバーサスフレームに、滑走路なんか要らないんだけどね――人型に変形できない機体もあるけど。
周囲には門兵のように、バーサスフレームがズラッと並んでいる。
騎士ロボの一体が私達に近づいてきて、道案内してくれる。
『銀河連合軍フェロウバーグ本部へようこそ。スウ様、アリス様、リッカ様こちらです』
案内されたのは、巨大ビルの正面だった。
入り口の直ぐ前だけど、ここに駐機していいの・・・?
スワローさんのカメラに小さく、アドミラーさんが見える。
アドミラーさんの両サイドには、護衛の兵士さんみたいな人たちが付き添っている。
私達がバーサスフレームを駐機させると。
アドミラーさんが、小さくこちらに手を振った。
フェネック耳が、ピコピコしてる。
「かわえぇ。モフりてぇ」
❝異議なし❞
❝解釈一致❞
❝アドミラーさん、絶対、スウより年上だけどな❞
私と視聴者は、どうやら意見が一致したようである。
年齢は知らない。
私は、スワローさんのタラップから「面倒だ」と飛び降りる。
そしたら一瞬、突風に煽られた。
「どぶ」
私は風に飛ばされかけて、歌舞伎に出てきそうなステップでバランスをなんとか保持した。
❝でた「どぶ」www❞
❝もう、女子高生じゃないんよwww❞
「さ、流石の高度、風が強いですねー」
❝あ、コイツ誤魔化すつもりだ!❞
無様な着地を決めていると、ショーグン改め、ニュー・ショーグンから降りたアリスと目が合った。
すると、開口一番「覚悟完了です。いつでもどうぞ」と言われた。
「へ?」
覚悟・・・? マジでなんの話?
❝スウ、キョトンとしてるの笑う❞
❝マジで分かってない顔www❞
「アリスって『覚悟のススメ』の読者だったの?」
❝何いってんだ、オタクw❞
❝思考が迷子になってるワロwww❞
❝今回の謎は迷宮入になりそうだなwww❞
「確かに、さっきまで『当方に迎撃の用意あり』って感じだったけど」
とりあえず、アリスが普通に私の近くに来てくれるようになった。
よ、よかった。
私が安堵していると、リッカさんがニュー・ダーリンから降りてきて、なんか酷いことを言い出した。
「アリス、そいつに近寄ったら襲われるよ」
おぉん?
(その言葉、宣戦布告と判断するぞ!?)
と、心のなかだけで言っておく。
いや、あんな人力最終兵器みたいな女の子に失礼な口利けるわけ無いですよ。
私なら、リッカ様が刀に手を掛けたら、歌舞伎なステップで10メートルは距離を取る自信があるね。
私が恐怖に震えていると、アイビーさんがねぎらいの言葉を掛けてくれる。
「皆さん、フライトお疲れ様です。では先に命理さんの検査からしたいと思いますが、宜しいでしょうか。早めにチップを戻してあげたいので」
「ご配慮ありがとうございます。じゃあ先にお願いします」
私の返事に頷いたアドミラーさんが指示をすると、ドローンが2機飛んできた。
命理ちゃんの身体を、宙に浮かぶドローンみたいなのが2つ、担架みたいなので運びだす。
「ではこちらです。着いてきて下さい」
案内された建物は、研究所だと言われた。
研究所は外から見ると、透明素材がふんだんに使われた四角い宝石みたいな建物。
アリスが強い日差しを避けるため手で庇を作りながら、アイビーさんに尋ねる。
「随分、透明感のある研究所ですね」
「隠すような事はしてませんからね、ここは」
「じゃあ隠すような事をしてる場所もあるんですか」
「勿論ありますよ」
私は(あるのかー、なにをこそこそやってるんだろー)とか思いながら内部へ。
護衛さんがアイビーさんの前と、アイビーさんに着いていく私達の後ろに一人ずついる。
私は背後を取られて、心の中のゴルゴが不安になったけど、私のゴルゴは気弱なので文句は言わなかった。
私の感想は、大事なことをアイビーさんに尋ねる。
「ここで命理ちゃんの身体を調べるみたいですが、具体的に何を調べるんですか?」
「命理さんの身体はロストテクノロジーの塊なんです。それを調べてロストテクノロジーを復活させたいんです――そのロストテクノロジーの中に40層のボスを消滅させるヒントがある筈なんです」
「あー、ロストテクノロジーですか。そういえば命理ちゃんの身体の修理を頼んだ、ハイレーンの技師さんも言ってました」
「え―――修理を頼んだんですか・・・!?」
「はい」
「パーツ交換とかしましたか!?」
「もちろんしましたけど」
「今そのパーツはどこに!!」
「私が、<次元倉庫の鍵>に預かってますが」
「よ、良かった・・・・それも調べさせてもらえますか?」
「はい、後で出しますね」
「ありがとうございます」
もしかして、壊れたパーツを交換されてる可能性を考えてなかったのかな?
――ちょいちょいポンコツな気がする、この人。
初遭遇の時も、私の視界を覆うし。
(そこがまた愛嬌力高いけど)
❝アイビーさんって、ドジっ子?❞
やっぱそうだよね? 気づき始めた人が、コメントにもチラホラ。
「命理さんの身体は、ロストテクノロジーの塊なんです。私達の場合文明ごとテクノロジーが失われたんですが」
「結構ヤバくないですか?」
「やばいんですよ。ですからわたくし達は、1000年以上前の設計図などを最も欲しています。プレイヤーさんに遺跡を開放している理由も、この辺りですね。わたくし達に必要ない物は差し上げるので、わたくし達が欲しているものはコピーさせて貰ったり、回収させて貰ったりしています」
❝なるほどなあ❞
❝理解❞
「でもMoBって、そんなヤバイ相手なのに・・・・銀河連合は、どうやって戦争に勝ったんですか?」
「勝ってはいません。終わっただけです」
終わっただけ・・・ああそうかあの報告書や命理ちゃんの言葉からすると、人類が滅んだからアイリスさんが止まっただけなんだっけ?
「技術がそんなに落ちてしまったから、命理ちゃんは『パイロットスーツが、随分劣化している』って言ったんですね」
「面目ない事ですが、昔の高性能なパイロットスーツは古代遺跡から発掘して頂かないと駄目です」
「見つけたら、使って良いんですか?」
「もちろんですよ」
アリスが迫真な目で言う。
「デザインは変更できますか?」
「高価なものは、ほぼ可能ですよ」
「スウさんの格好は変えたくないですからね、良かったです」
「何もよくないと、心が怯えてるのは私だけ?」
❝被害あるのスウたんだけだから、怯えるのは君だけだなwww❞
❝俺等は喜ぶワロwww❞
そこでアリスが、なにかに気づいたように呟く。
「そういえば――」
呟いたアリスは、リッカさんを「ジーーー」っと見つめた。
「――似合いそうですね」
アリスは「誰が、何を」とは言わなかったが、リッカさんが毛を逆立てたネコのような顔をして、素早く私の後ろに隠れた。
そうして最大の警戒をもって、
「だめ、わたしは駄目! コイツみたいに胸部が太ってないから、駄目!」
私の胸部をデブと称しやがった。
私はリッカさんの両頬を引っ張りながら、アリスに言う。
「実際、体の線がでるパイロットスーツじゃ、おデブになる訳にいかないから好きなもの食べれなくて辛いんだよね」「痛じゃい~」
「モデルの苦しみですね」
「いや、私モデルじゃねーし」「痛じゃい~」
「今度一緒にモデルをやりましょう!」
「いいえ」「痛じゃい~」
私は当然、選択肢「いいえ」を選んだ。
「つれませんね」
そんな事を話しながら、廊下のつきあたりまで来ると、先頭の衛兵さんが脇に控えてアドミラーさんがドアの前に立った。するとドアが光って透き通った女性の声がした。連理演算器クナウティアさんとは違う声。
『連合軍所属アイビー・アドミラー准将、入室可能です』
「准将権限で、プレイヤー三名の入室を申請します。ID名スウ、アリス、リッカ」
アイビーさんがドアに言うと、辺りに「ヴーン」という冷蔵庫の唸り声みたいな音が響き、30秒ほどして。
『アリス、リッカ、承認されました。スウお待ち下さい』
えっ―――?
「なんで!? 私、弾かれる可能性あるんですか!?」
『履歴を確認しております。そのプレイヤーは、人間でない可能性があります』




