94 友好大使に選ばれます
ちょっとクエスト開始まで5話は多すぎると思ったので、色々削って3話にまとめました。
◆◇Sight:鈴咲 涼姫◇◆
「え、全滅?」
❝モデレイター(アリス):はい。40層のボス戦が開始されたんですけど、全滅したらしいです❞
現在配信中。アリスは部活なので遅れてくる事になった。
するとアリスがコメントを打ち始めたので、コメントと配信で会話している。
前回のボス討伐戦は私達とアリスは期末前だったので、参加は見送ったんだけど。
ヴィックに何とかならないかと言われたけど、今回は流石になんともならなかった。
毎回、私達に無理をさせるのも悪いと『では様子見にでも行ってこよう』とヴィックは言っていたんだけど・・・。
アリスも、いよいよインターハイが近くて忙しいんだよね。
ちなみにアリスは6月に行われたインターハイ予選を、見事に通過している。
あと「立花さんが部活の練習で男子部員をバッタバッタとなぎ倒して、男子部員の心をへし折っている」と笑いながら話していた。すんごい強い部長も、たまに負けるんだとか。
そんな立花さんに、アリスも10回に3回は勝てるようになってきたらしい。
アリスは、立花さんの動きも見えるようになって来たと、嬉しそうにしていた。
「なんで全滅したの?」
❝モデレイター(アリス):第二形態を何度倒しても復活するそうなんです❞
「・・・ドミオ系かあ」
❝モデレイター(アリス):各国の軍隊や大規模クランもドライアドを倒す方法を見つけ出すって、躍起になってます❞
「うーん、無限に復活するボスサイズを倒す方法かあ。ちょっと思いつかないなあ」
❝モデレイター(アリス):あ、ニュー・ショーグンが降りてきました。じゃあ今からそちらに向かいますね❞
「うん、待ってる。――待ってる間なにをしようかなあ。よし、視聴者の皆さんとどうやったらドライアドを倒せるかを考える配信にしよう」
❝いいね❞
❝3人よれば文殊の知恵、視聴者10万人なら何になるかな❞
❝10万人、多すぎワロwww❞
「じゃあ、脳みその燃料にブルーベリーレアチーズケーキもってくるんで、みなさんアイデア書き込んどいてくださいね」
こうして暫くアイデアを出し合ったんだけど、まるで倒す方法が見つからない。
❝無理だなこれ❞
❝でも、星団帝国時代には50層まで行ってたんだろ? ドライアド倒せたんじゃないの?❞
「確かにそうですね」
私は思考の沼に陥る。
唸っていると、私の眼の前に大きなウィンドウが開いた。
『失礼します。わたくし銀河連合提督、アイビー・アドミラーと申します』
いきなり現れたので、ビックリして、思わず叫んでしまう。
「どぶっ」
ブルーベリーの粒が宙を舞って、無重力で回転する。
❝なんて色気のない叫び声❞
❝女子高生が「どぶ」ってwww❞
相変わらず手加減のないコメント共だった――いや「どぶっ」は流石に酷いな。
私はブルーベリーの果実を拾って、ゴミ箱に放り込む。
それはともかく、今はアイビーさんだ。
「えっと、お久しぶりですアイビーさん。何か用でしょうか」
『なにか用も何も、あなた何時まで私を待たせるのですか』
「え、何の話ですか?」
『まさか、忘れたのですか? アトラスの大攻勢の時に、わたくしの所へ来るように言ったでしょう』
❝え、スウさん、アドミラー提督から呼び出しかかってたの?❞
❝連合提督に呼ばれたプレイヤーっている?❞
❝訊いたことない❞
❝さスウ❞
「えっと、私は行ったんですが、追い返されて」
『なるほど、やはりあの時すでに・・・・分かりました』
「話って、なんだったんですか?」
『貴女を、正規軍に誘いたかったんですが』
「はい――!? ねえ、なんで私を軍隊に誘おうとする人ばっかなの!?」
❝Missスウ、宇宙の果てまでその法則は適用されるのだよ❞
『まあ、セントラル・コンピューターに怒られたので、お流れですが』
アドミラーさんが、良くわからない単語を使ってきた。
イルさんに勉強を教えてもらっている時『マスター。分からない単語は、恥ずかしがらずに訊ねないとダメです』と怒られたので、きちんと尋ねる。
「セントラル・コンピューターってなんですか?」
『昔の映画などに出てくる、いわゆるマザー・コンピューターと言ったら良いでしょうか。連理演算器と言う方もおりますね。無限ビットを持つアナログコンピューターです――っと、連絡です。ちょっと待ってくださいね』
❝おいおい。提督、今サラッととんでもない発言しなかったか?❞
❝こちらアメリカ海兵隊大佐ジェームズ・スミスだ。スウさん、彼女から情報をどんどん抜き出してくれないか。例えばFLの兵器はどこで生産されているのか、謎運営とは何者で、どこにいるのか❞
「え、ジェームズさん、それは・・・」
❝コレは祭りか?❞
❝とんでもない事になってまいりました❞
『ス、スウさんすみません! 今わたくしが話した連理演算器の話を忘れて頂けませんか!!』
「は――はあ。あの――FLの兵器ってどこで作られているんですか?」
『え、なんで急にそんな事を訊くんですか!? ――それは、超極秘事項です!』
「そうですか。謎運営って誰なんですか?」
『それも、超極秘事項です!』
「そうですか、。謎運営ってどこに居るんですか?」
『イッツァ、超極秘事項!』
「そうですか・・・。あの、さっきの連理演算器の話なんですが」
『なんですか?』
「いま生配信してまして―――」
『え、アナログコンピューターの存在が、地球の方に知れたってことですか!? 何人くらい見てるんですか・・・』
「いま101000人ほど見てます」
『ちょ、ちょっと待ってくださいね!!』
❝生配信をしている事をバラしてしまったか❞
「ジェームズさん。さすがにこのまま騙していたら、私にFL出禁とかペナルティ来そうじゃないですか?」
❝まあそうだな、君の戦力を失う訳にはいかない❞
暫くして戻ってきたアイビーさんの顔は、真っ青だった。
「大丈夫ですか、顔が真っ青ですよ・・・・」
『かなり危険な状態です・・・・。そうじゃなくて、ス、スウさん――連理演算器の話とは別件ですが、そもそも貴女に通信を繋いだ理由で依頼があります。今回の依頼をこなしてもらえば、恐らく40層のボスであるドアイアドを消滅させられます。現代では攻略不可能だと思われていた道が開けるかも知れません』
「え!?」
❝おい、マジかよ!!❞
❝10万人で話し合っても、まるで手詰まりだったのに❞
❝銀河連合の発行している情報雑誌、ザ・フェイテルリンカーに載ってたんだけど。42層にあるっていう惑星ユニレウスが、すごい自然豊からしいから資源とか凄そうなんだ。私は、採掘プレイヤーなんで、攻略プレイヤーには惑星ユニレウスを是非開放してほしい❞
❝採掘されてもなあ❞
❝いや、自然豊かって事は美味しいもの一杯食べれそうだぞ❞
❝ユニレウスが開放されたら食料事情が回復するらしいから、銀河連合市民も期待してるらしい❞
そうなのか。私は立ち入り禁止区域で出会った人たちの顔を思い浮かべた。
私が思いふけると、アイビーさんから声がかかる。
『というわけで、一度惑星フェロウバーグへ来て下さい』
❝惑星フェロウバーグってどこ?❞
❝ohなんてことだ、惑星フェロウバーグ、地球人が誰も行った事のない主惑星だ! 前人未到だぞ!?❞
❝俺SNSで拡散してくる、スウたんが新惑星に行くって! あと40層ボスを倒す方法がついに発見されるかもしれないって❞
❝俺は掲示板行ってくるわ!❞
❝切り抜き班! この後の映像❞
❝おk、任せろ❞
「クリティカル・クエストって表示されました・・・クエスト名〝秘匿報告書No.71〟ですか」
『クエストが表示されましたか・・・、そういう感じです。それから、必ず命理さんを連れてきて下さいね』
「は? 嫌ですが」
『はい!? ――』
❝おっと、反抗的なスウたん珍しい❞
『――ど、どうしてですか!』
「命理ちゃんを、あんな場所に閉じ込め、友達の所へ向かうのを邪魔していた人たちかもしれないんです。――なんですかメモリーって。はっきり言ってこの件に関しては、私は本当に怒ってます」
アドミラーさんが、取り出したハンカチで冷や汗を拭くのが見えた。
『その件は連合軍人として、謝罪します。――ですが星団帝国が滅び、連合の考え方も変わりました。また、命理さんを封印したのは星団帝国の残党です』
星団帝国の残党・・・?
私はリイムを助けた時に訊いた、シンクレアさんの言葉を思い出す。
「あそこのデータノイドには、星団帝国の元・上層部も多いからな」
これって、リアトリス旗下のデータノイドには星団帝国で上層部をやってた人達がいるって事だよね?
もしかして、命理ちゃんをあんな場所に閉じ込めたのって・・・。
しかし、
「謝罪はその残党さんたちが、命理ちゃんにしてくれたらいいんです。私は別に責めたりしている訳ではないんです。確かに色々な情報から、安全かもとも考えました。――しかし、この考えにブレーキが掛かるのです。信用できるほど証拠が提示されていないと。だから確実に安全だという証拠がほしいのです」
というかリアトリス旗下が、またちょっかい掛けて来ないとも限らないし。
「私も、連合には様々な考えの人々がいるのを体験しましたから」
『そ、それは・・・・その節は連合市民が大変失礼しました・・・・助けていただいたのに〝あの件〟は本当に――』
「それに関しては、怒ってないですから」
『は、はい。ありがとうございます』
❝あの件ってなに?❞
❝なんか、連合准将のアドミラーさんがスウさんにやたら平身低頭なんだけど、なんだこれ。なにが有ったらこうなるんや❞
アドミラーさんが机に肘をついて、額の前で手を組んだ。
私は命理ちゃんに危険のない、別の方法を提案してみる。
私はただひたすら命理ちゃんの安全を確保したいだけ。だからコチラからも解決策はどんどん提案したい。
「通信で命理ちゃんに会うのでは、駄目なんですか」
『命理さんの身体を、少しチェックさせて貰いたくてですね』
「それは、本当に危険なんで嫌なんですが」
『どの様にわたくしたちが、命理ちゃんに害意を持っていないことを証明すればいいか・・・クエストを発行した証明書なんて見せても、無駄ですよね。しかし確かに連合も一枚岩ではありませんし』
「はい」
特に、星団帝国の元・上層部って人たち。
ジェームズさんが尋ねてくる。
❝Missスウ、護衛を増やしてはどうかな? ――我が海兵隊からも人員を出そう❞
「他のプレイヤーに、護衛をしてもらう感じですか・・・」
『それは駄目です。今回フェロウバーグに招待できるのは、スウさんか多くてそのクランメンバーと、命理さんだけです』
❝ち――っ、――そうだ、今すぐMissスウのクランに入れば・・・❞
「私のクランに、今から入ればどうですか?」
『OKすると思いますか?』
「だそうですジェームズさん」
❝ダムッ!!❞
「じゃあ――他の方法を、ちょっと考えてみますね」
『えっと、はい』
私が考え込んでいると、一つのコメントが流れた。
❝少なくとも、銀河連合が約束を破れば、俺等スウのファンは銀河連合に敵対的になるけどな❞
感情的になり過ぎられたら困るけど、そうでないなら助かるかも。
「ありがとう御座います」
『ん? 急にお礼を言って、どうかなさいましたか、スウさん』
「あ、配信のコメントで、少なくとも私のファンは銀河連合が約束を守らないなら敵対的になるって言ってくれたんで」
『スウさんのファン? え・・・・そ、それは―――。今・・・スウさんのファンってどのくらいいるんですか?』
私はスマホで、チャンネル登録者数を確認する。
「チャンネル登録者数が、1185万181人ですね」
『い、1185万181人の地球人の方が敵にですか!? ・・・ちょ、ちょっと馬鹿にならない数です! わたくしにも、そのコメントというのを見れるようにして貰えませんか!?』
「みんなが敵になるわけじゃないと思いますけど。イルさん、アドミラーさんにURL送れる?」
『イエス、マイマスター』
アドミラーさんが『ま、待ってくださいね』と言って、しばらくなにかの作業をする。
『うわっ! あなたの配信を、今200000人近くが見てるじゃないですか!! さっき101000人って言ってませんでしたか!?』
「時間が経って増えたのと、新しい惑星に行くって情報が出回って、増えたみたいです」
❝イエーイ、アイビーちゃん観てる~?❞
❝合法ロリ提督ち~ッス!❞
❝アイビーちゃんすっごくカワイイよね。ファンなんだ~❞
❝ちなみにアイビー・アドミラーさん。スウのファンで登録してない人も居るんで、潜在的ファンもいることも考慮して下さい❞
そんな発言のせいだろうか、登録者数が一気に伸び始めた。
❝お、ガンガン登録者が増えてるぞw❞
❝隠れファンめ、こんなに居たのか❞
❝ごめん、なんか知らんけど登録渋ってたわ❞
❝この機会に登録する❞
❝あたし、一式さんのファンだけど、銀河連合が嘘つくなら敵対的になるかも。登録ポチった❞
登録者数が、瞬く間に1200万人に達する。
「皆さん、本当にありがとうございます」
『なるほど・・・。では、私からファンの皆さんにお尋ねしていいですか?』
❝うん❞
❝おk❞
❝ほい❞
『もし、銀河連合が命理さんに危害を加えた場合、わたくしたちを許さないって言う方はどのくらいおられますか?』
❝ノ❞
❝ノ❞
❝ノ❞
❝私一式さんのファンでここに居るけど、一式さんも命理ちゃんの事を気にしてるから。ノ❞
❝俺は命理ちゃんの境遇が可哀想すぎて、ノ❞
❝yes❞
❝ノ❞は手を挙げるという意味ので使われている。逆に手を下げる意味は❝ヘ❞
物凄い勢いで❝ノ❞と、意思を示すコメントが流れる。
海外にニキからも、❝yes❞というコメントが沢山流れてきた。
だけど、冷静なコメントもある。❝危険だよ、地球と銀河連合の関係を考えるべき。へ❞という意見とか。
❝アンケート機能使ったら?❞
そっか、そういう機能があったっけ。
私が「どうしようかな」と思っていると、アイビーさんの方から言ってきた。
『アンケートを取れるなら、アンケートを取ってみてくれますか?』
「あ・・・じゃあ取りますね」
私はアンケートを作成して、配信に表示した。
そうして票が集まるのを観ていると、何人かの人が声を上げた。
❝こちらアメリカ海兵隊大佐ジェームズ・スミスです。文字だけですが、お初にお目にかかります。アイビー・アドミラー准将❞
『アメリカ海兵隊の大佐さんですか。貴方がたの勇猛さは、銀河連合でも聞き及んでおります』
❝Miss、光栄です。立場的に「敵対する」などとは公言できませんが、わたくし個人は気持ちいい事ではないと言う事を、お伝えしておきます❞
❝わたくし、自衛隊一等空佐の柏木 総一朗も、同じ意見です❞
色んな国の軍人さんが、声を上げる。
『――そうですか。各国の重要人物までおられるのですね』
やがて10万人ほどのアンケートが集まったので、結果を表示してみる。
『危害を加えたら許さないという人が、80%ですか』
結果を見たアイビー・アドミラーさんが目をとじて、額に手を当てて深い思考に入った。
❝逆に約束を守れば、俺たちは友好的だと思うよ❞
❝銀河連合はMoBと戦ってほしいから、俺らをFLに参加させてるんだよな? 違う?❞
❝噂では印石が、プレイヤーにしか使えないからって言われてるけど❞
『そうですね、地球人の方が友好的であってくれるのは我々にとっても重要な要素です。――では、我々が命理さんに危害を加えなかった場合のメリットとして、スウさんに地球と銀河連合の〝友好大使〟になって貰いましょうか』
ん―――?
―――。
今、アイビーさんなんて言った?
私が「友好大使」に?
つまり、〝仲良く〟して、〝外交〟をする?
ゆ、ゆゆゆ、友好大使の活動ってなんだろう!
私はスマホで、ざっと検索する。
イベントへの参加、講演、パーティーや会食に参加、SNSで宣伝みたいな? 最後の1つはともかく、他の3つは待て!
「わったふぁ!?」
私は極めつけのコミュ障だぞ!? そんな人間に友好大使など務まるわけ無いでしょ!?
「だ、だだだ、駄目でしゅそょれは!! I'm超陰キャ!! 至りしコミュ障!! ATフィー◯ドの擬人化みたいな人間に、友好大使がつとまるわけないでしぃ―――!!」
❝噛みまくりw❞
❝さっきまでカッコ良かったのにwww❞
❝いつものスウになったwww❞
アドミラーさんが、発狂したように目を血走らせて首を旋回させる私に驚いている。
そうかアドミラーさんが私を見たのって、戦闘時と今日の交渉だけだから、私の本来の姿を知らないんだ。
けど、アイビーさんの条件なんか飲んだら私の人生オフラインが、サ終(サービス終了)する。
私が首で旋風を起こしていると、アドミラーさんの困ったような声が聞こえてきた。
『・・・しかし、貴女以外に適任がおられないようですが』
「私よりファンの多い配信者に、なって貰って下さい!!」
『その方々は、命理さんが側にいませんよね? そもそも貴方よりファンの多いプレイヤーっているんですか?』
❝日本にはいないな❞
❝海外ならいるけど、命理ちゃんが側にいないからなあ❞
「shit!!」
『お手洗いですか? 待ってますんでどうぞ』
「ちげーよ!」
❝本性漏れてるwww❞
❝口悪いw❞
「でも、命理ちゃんを護れるなら・・・・そうですね。アドミラーさん――そ、その条件、う、う、う、受け入れ、ます」




