84 重大な発見をします
私はニューゲーム・カービンでコウモリを撃ち落としながら、さらに〈64mm機関銃〉を撃ち続ける。
あんまりにも接近されそうになったら、〖念動力〗で弾き飛ばす。
マイルズが、指輪を着けた指先を前方に向ける。
そうして、詠唱をした。
「ἀτρά(原子) Ἅιρ(器) ἄλφ (1) υφ(2) ἀτρά(原子) Ἅιρ(器) βαλ(8) τεκ(結合) μαχά(メートル) σαμτά(3) ἀμὰρα(10) 【δαμδά δαμδά κατακαύσων δαμδά(炎よ生まれよ) 】」
グレムリンの中央で、爆発が起きる。
❝おお、〝量子魔術〟だ❞
❝珍しい❞
❝流石トップランカー❞
洞窟で火・・・・一酸化――ああ、私達宇宙空間でも大丈夫な服着てた。
魔術かあ、私も使ってみよう。
腰からペンを抜いて、使ってみる。
「ἀτρά(原子) Ἅιρ(器) υφ(2) σεκ(5) ροτρο(生成) μαχά(メートル) ἄλφ (1) 【ω χάλυψ ω χάλυψ】(鉄よ生まれよ)!」
体の周囲に鉄の棒を8本生み出して〖超怪力〗を乗せた〖念動力〗で飛ばした。
狙いすましたので全部グレムリンに刺さる。
するとマイルズが「くわっ」という感じで私の方へ振り向いた。
「お前――なぜ量子魔術が使える!? お前はオルテゼウスの魔術学院に入学していないだろう!?」
「え、なんで入学してないことバレてるの――マイルズ、なんで私のそんな事まで知ってるの!? ファンなの!?」
「何を言っている、お前は。魔術学院にいる人間が極端に少ないんだ。17人しかいないから、全員と面識がある」
「な、なるほど―――」
自意識過剰を発揮して、ちょっと恥ずかしい。
恥ずかしいので、魔術に集中してるフリをする。
「【ω χάλυψ ω χάλυψ】、【ω χάλυψ ω χάλυψ】――」
でもコレ。
「――魔術って効率悪いなあ。銃で撃ってる方が早いや」
「当然だ、魔術はあくまでスキルの補助だ。スキルが無い者の為にある。普通はスキルなど1つ持っていればいい方だからな。勲功ポイント1位の俺でも3つしか持っていない。9つも所持しているお前が異常だ」
❝スウって、スキル9つも持ってんの!?❞
❝・・・・ありえんて❞
9つ? そんなに持ってたっけ。
ちょっとチェックしてみよう。
〈発狂〉デスロクリアで貰った。
〖奇跡〗
ゴブリンから手に入れた。
〖暗視〗
〖強靭な胃袋〗
ドミナント・オーガから手に入れた。
〖第六感〗
〖念動力〗
〖サイコメトリー〗
〖超暗視〗
〖超怪力〗
ケルベロスから手に入れた。
〖再生〗
〈繁殖力強化〉? なにそれ。
本当に9個だ。
ちょっとまって、やっぱ怖い。
「なんでマイルズ、私の所持してるスキル数を正確に把握してるの。私のファンなの!?」
「軍内で有名な話だ」
「やっぱりそんな感じだよね」
自意識過剰エピソードⅡ。
にしても、第2の主惑星オルセデウスかあ。
行ってみたいな。
SF魔術学園にも行ってみたい。
私が思いを馳せると、マイルズがコウモリを撃ち抜きながら言ってくる。
「お前は称号まで持ってるしな」
「マイルズも、流石に称号を持ってるんじゃないの?」
「ああ。初めての勲功ポイント3000万達成者に贈られる〖先駆者〗と、20層ボス討伐で貰える〖ヘラルド〗だ」
「え、マイルズって、勲功ポイントを3000万も持ってるの!?」
「なぜ驚く。ボクは、3年で3000万だ。お前は、3ヶ月で500万近く稼いでいる。俺のほぼ倍の速度で勲功ポイントを稼いでいる計算だぞ。1位の男の倍稼いでいるんだ、しかもボクは効率のいい狩り場でポイントを貯めているが、お前はそうではないだろう?」
「え、効率のいい狩り場なんてあるの?」
「オルテゼオ近くにある」
「なるほど」
「トップランカーは大体効率のいい勲功ポイントの稼ぎ方を知っているぞ――恐らく閃光のアリスも知っているだろう。最近はお前といれば稼げるようだから、使っていないみたいだが」
「そうだったんだ?」
「とにかく、お前は自分の異常さを理解しろ」
「う、うん・・・。マイルズの――称号って、どんな効果なの?」
「〖先駆者〗は移動速度を上げられる。肉体も、バーサスフレームも。〖ヘラルド〗を持つ人間は3000人近くいるが、お前の〖第六感〗の弱いバージョンだ。なんとなく嫌な予感や、良い予感を感じるだけだ。お前が持っている称号は、バーサスフレームを特機化する〖伝説〗だったな」
「あっ、あと、〖銀河より親愛を込めて〗ってのも有るよ」
「〖銀河より親愛を込めて〗? なんだそれは」
「えっと、命理ちゃんを目覚めさせた時もらえたの。NPP、NPCからの好感度アップ」
「――なんだその無茶なスキルは・・・連合の人間の脳内を書き換える気か、運営」
「いや・・・・なんか命理ちゃんを復活させた事自体が、銀河連合の人に好意的に受け取られるみたい」
「―――それは・・・心の持ちようだろう。その称号には何の特別な効力もない――本当に、ただの称号ではないか」
「・・・・だよね」
薄々思ってたんだけど、そうだよね・・・。
❝マジの称号贈ってどうするんだよ、運営www❞
❝クソ吹いたwww フェイレジェがリアルだった場合、ただの手抜きじゃねーかワロwww❞
❝そのうち〖良い人〗とか、〖悪い人〗とかの称号配りだしそうだワロワロワロwww❞
❝あー、〖良い人〗とか〖悪い人〗っていう称号は、実は隠し称号としてもうあるんじゃないかと噂されてる❞
❝なんかNPPさんに悪いことしたら、全然関係ないNPPさんにまで冷たくされたとか言う噂があるんだよなあ❞
私は〖銀河より親愛を込めて〗の称号を持ってるせいか皆さん優しくしてくれるんだよね。
まあ、一回撃たれたけど。
銀河の市民さんも、人それぞれという感じなんだろう。
とりあえず私達は、アサルトライフルとスキルと〈64mm機関銃〉で、コウモリを一掃していった。
「片付いた」
言って、私は「ふんす」と銃を掲げた右腕の力こぶを、左手で叩いた。
最後のコウモリが、結晶になって消える。
マイルズが額を押さえ、うつむき首を振る。
「以前来たときは1時間近く掛かったんだが・・・・ものの3分で片付くとはな・・・・」
マイルズが言ってから、私の〈64mm機関銃〉にジト目を向けた。
「・・・・何が、アメリカ人はワイルドだ。リュックをひっくり返す程度、全然大人しいだろう」
「あ、たしかに・・・ハハハ」
マイルズは私の乾いた笑いを聞いた後、洞窟の地面に視線を向ける。
「しかしまた、大量に印石が出現したな。ボクは1つも出なかったというのに」
「〖奇跡〗の効果かなあ?」
やたら印石が出やすくなるんだよねえ、このスキル。
でも印石ってMoBからしか出ないから、どっかに〈奇跡〉の印石を持つMoBがいるんじゃないかと思ってる。
それを運営は、〈発狂〉デスロの賞品にしてたんじゃないかなって。
それか、運営は印石を作る技術があるのかもしれない。称号とかも印石みたいな効果あるのが存在してるし。
どちらにせよ、バラ撒かないって事は希少な物なんだろうけど。
スワローさんドローンの放つ光を床に向けると、星色の宝石が沢山転がっていた。
「イルさん、回収してきて」
「横着な」
「フンとかありそうだし・・・」
「グレムリンは食事をしない。よって、排泄物は出さないぞ」
「あれ・・・そうなんだ?」
「んじゃ良いか」と、私はイルさんドローンと一緒に石拾いをする。
マイルズも参加してくれた。
「出たメモライツは〖マッピング〗×4に、〖超音波〗×5、〖超聴覚〗×4、〖飛行〗×3だな」
「色々でたねえ。でも〖飛行〗は要らないかもなあ。私、〖念動力〗で飛べるし」
「俺は〖マッピング〗以外はもっていないし、飛べないから欲しいがな」
「でも全部、私にしか使えないんだよね?」
「そうだな」
印石が出現するとドローンが教えてくれるけど、印石に触れた場合も自分が使えるものなのか〝なんとなく〟分かるんだ。
前にアリスも言ってたけど、具体的には使える人には暖かく感じる。
「――そういえば、英語ではなんで印石をメモライツっていうの?」
「記憶と、隕石を組み合わせた造語だな。研究によると、こいつはMoBの記憶や意識が結晶化したものらしい」
「そうなんだ?」
私は、印石を目の前に持って来て、MoBの記憶から洞窟の景色を透かしてみた。
星空のような輝きの向こうに、暗闇が見える。
「〖サイコメトリー〗」
ふと「記憶といえば」と、なんとなく〖サイコメトリー〗を掛けてみた。
「お前は――また危険な事を・・・」
「アメリカの研究でも、印石に〖サイコメトリー〗してるんじゃないの?」
「一応聞いたことが有るが・・・〖サイコメトリー〗を持つ人間がほとんどいない。そもそもスキルが希少な上に、超能力のメモライツは更に希少だ。その中からランダムで〖サイコメトリー〗を当てる必要がある。しかも低レベルな〖サイコメトリー〗では強力なメモライツには、なにも出来んらしい」
「そうなん――ん?」
なにこの〝紐〟。
印石から、私に紐が繋がっている。
これって、記憶とか見た時の紐じゃない?
私は見えた紐を引っ張って、プチンと切ってみる。
「おお、切れた」
マイルズが私を訝しげに見て「また奇行か?」という顔をしている。
そんなにずっと奇行してるわけじゃないんだけどな。
あれ? 印石とのつながりがなくなった気がする。印石が冷たくなったような。
・・・・まさか、この紐って。
――以前公園で行ったスキルの実験で、鉄棒から滑り台や私に記憶を移植できたけど―――もしかして。
「マイルズ、ちょっといい?」
「ん?」
私はマイルズの耳にヒソヒソと、今思いついた事を告げる。
〔今、印石と私を繋いでいた糸を切ったんだけど〕
〔糸?〕
〔〖サイコメトリー〗を使ったら残留思念を持つ物体と思念を繋ぐ、糸の様な物が見えるの〕
〔ほう。確かにメモライツは残留思念の結晶のような物だな、だが切ったから何なんだ?〕
〔切ったら、誰にも使えない印石になったんだ〕
〔それは、良くないニュースだな〕
〔ちがうの、この糸ってね移植出来るの。つまり記憶の移植〕
〔なに!?〕
〔この糸をマイルズに繋いだら、もしかしたらだけど――マイルズが使える印石になるかもしれないの〕
「Seriously!?(マジか!?)」
「うん〔でも、バレると何が起こるかわからないから、秘密にして。確か〖サイコメトリーμ〗以上でないと、記憶に干渉出来ないはずなの〕」
〔確かにコレがバレたら、またお前を襲う国が出てくるかも知れないな〕
〔そうかもしれないから〕
〔了解、今聞いた事は他言無用にしよう〕
〔ありがとう――でもいいの? 軍人なのに〕
〔ボクがこの事実を誰かに明かせば、米軍はお前の信用を失うだろう?〕
〔まあ、二度と重要なことは言わないと思う〕
〔天秤には掛けられないな。その内、同じことを誰かが気付くかもしれんし。伝えるならお前が自ら伝えるべきだ。何よりボクは、今日は非番だ〕
〔あはは。・・・・――じゃあ、マイルズに紐をくっつけてみる? 安全の保証は無いんだけど・・・〕
〔人柱になるだけの価値はある。やってみてくれ〕
〔分かった〕
(もし何か有っても、記憶の糸を切れば大丈夫だよね?)
私は〈飛行〉の印石の紐を〖サイコメトリー〗で切って、マイルズにくっつける。
しっかりとくっついた。
「どうかな」
くっつけた〈飛行〉の印石をマイルズに渡すと、マイルズが目を見開いた。
驚きの表情のまま、私の瞳を覗き込んできた。
どうやら成功したみたい。
よし、じゃあこうしよう。
「それ、私の印石じゃないよ。マイルズのだよ」
マイルズが私の顔をみたまま、ニヤリとして頷いた。
「なんだ、ボクのメモライツが出現していたのか」
マイルズが印石を握り込むと、石が砕けて、マイルズの身体が少し光った。
「〖飛行〗」
マイルズの背中に光の翼が出てきて、宙に浮き上がった。
「ははは! これはいいな、今度大気外も飛べるか試してみよう。ありがとう、スウ!」
「うん。マイルズのだって気づいて良かった――」
マイルズの体に変調は無さそうなので、さらに提案してみる。
「――あとね、コレとコレも私のじゃないみたい」
「!」
マイルズが、「他の印石もくれるのか!?」という顔になった。
だって、マイルズがここの印石の情報を教えてくれた上にここに連れてきてくれたんだし。
私にあの地底湖を単独で抜ける勇気なんて無いから、マイルズが居なかったらきっとこの石は1つも手に入ってない。
あと、ダブった印石って使い道無い気がするし。
私は〖超音波〗と〖超聴覚〗の紐を切って、マイルズに「降りてきて」と手招きする。
降りてきた彼に、紐を繋いで2つの印石を渡した。
〔恩に着る〕
マイルズが、真剣な表情で言ってきた。
〔マイルズのお陰で手に入った印石だから〕
〔お前は本当に、気前がいいな〕
こうして欲しい物を手に入れて、私達は洞窟を出た。
帰る時に地底湖を渡るのが、やっぱ辛かった。
洞窟の外の嵐は、すっかり止んでいた。
雨露に輝く巨大な樹々が、神々しさすら孕んでいた。
私は地球では見られない光景を、仰いで言う。
「壮大な光景だなあ」
「ああ、圧倒される」
「日本って、巨木を神様って捉えたりするんだけど」
「そう言えばそうだったな、ではここは無数の神の在る場所と言えるのか」
マイルズがヘッドギアを取った。
「え、大丈夫なの・・・この惑星の大気とか」
「問題ない。ここは地球と同じ大気組成だ」
「そうなんだ・・・?」
マイルズが、大きく深呼吸した。
まるで、神を体内に宿そうとするような光景に見えた。
「そういえば大気もそうだが、この惑星には人間が食える物もたくさんあるぞ」
「マジで」
「お前の足元に生えている、植物もそうだ。ジャガ芋の様な食べ物らしい」
ジャガ芋かあ。
ジャガ芋と言えば、異世界で無双するアイテム代表って感じあるけど。
「持って帰って育ててみようかな」
「ははは、お前はやはり奇行が多いな」
いやー、日本人なら案外同じ行動するかもよ?
こうして目的の印石と新事実を手に入れ、私達はレスト4を後にした。
その後はレアメタルが沢山取れる惑星で採掘したり、遺跡が沢山ある惑星に行って、生身のまま空を飛びながら、2人で探索したりした。宇宙空間も〖飛行〗で問題なく飛べた。
次の日、少し思うことが有って、命理ちゃんが泊まっている宿に向かう。
スマホで連絡してロビーに来てもらった。
「涼姫。どうしたの?」
「ちょっと知りたい事があって。ごめんね付き合わせて」
「いいわ、涼姫の為ならなんでも協力するわよ」
「今なんでもって」
「なんでもって言ったら、なんでもよ?」
「ごめん今のなしで――命理ちゃんたちデータノイドやヒューマノイド、アンドロイドにさ、〖サイコメトリー〗って効くのかなって」
「効くと思うわよ。昔、連合の元・元帥にやられたもの」
「あ、効くんだ? 一応試して良い? ゲームって形で、命理ちゃんが勝ったら、このホテルのパフェ奢ってあげる」
「何言ってるのよ涼姫は私が、何かを食べたいって言ったら、いつも奢ってくれるくせに」
「そこはそれで!」
というか私が必勝のゲームだし。命理ちゃんが勝てる要素皆無だから、ごめん。
「了解よ」
「じゃあ、このカードの数字憶えて」
私はトランプのダイヤの7を取り出す。
「これを隠すから」
私は命理ちゃんに見せてからカードを背後に隠し「命理ちゃんのダイヤの7を見た」という記憶の糸を切る。
私なら「ダイヤの7を見た記憶の糸を切った」という記憶から思い出せるけど、命理ちゃんには無理だ。
命理ちゃんがカードの数字をあてるのは、理論上不可能。
結果の決まってるゲームで、ちょっと胸が痛い。
「さあ、命理ちゃん。私が後ろにが持っているカードの数字はなんでしょう」
「急にカードとか言われてもビックリだけれど、ダイヤの7ね」
は!?
「えっ!? ――なんで分かったの!? 〖サイコメトリー〗で記憶の糸を切ったのに!!」
「なるほど・・・・涼姫、忘れてない? 当機には〖透視〗があるのよ?
「――あ!!」
「パフェはゲットね」
「なんてこった。『必勝のゲームでごめん』とか思ってたのに負けるとか――じゃあ。ご、ごめんもう一回!」
スマホの自由帳アプリに5と書いて命理ちゃんに見せて画面を消す。記憶の糸も切った。
「さあ、命理ちゃん、この画面にさっき映っていた数字は!?」
命理ちゃんが首を振る。
「無理、わからないわ・・・11とかかしら」
「今度は本当に分からないみたい? ・・・〖サイコメトリー〗は人間以外の記憶にも通用するんだね」
というわけで命理ちゃんと一緒にストロングビッグサイズのパフェを食べた。約束された美味さでした。
今日は5話ほど投稿します。




