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80 〈印石〉が届きます

申し訳ありません。以前家を買ったような記述を書きましたが、あれはだいぶ前に書いた流れでして。

あのままだと、ちょっと話がおかしくなってしまいます><

家を買った――住めるようになったのは、このタイミングです。

ややこしくして、申し訳ないです。

◆◇sight:鈴咲 涼姫◇◆




 いつまでもスワローさんのワンルームで寝起きしているのも問題があるので、私は印石を売ったお金で、神奈川に家を買った。


 リイムも、スワローさんに乗せてたらGがキツイだろうし。ここまで一度もスワローさんでの戦闘が無くてよかったよ。


 リイムをスワローさんに乗せてる時に戦闘になったら、最悪〈時空倉庫の鍵〉に退避して貰う予定。私が入るのは事故の可能性が怖いけど、他の人や生き物なら大丈夫なのは確認済み。


 グリプスは大人になれば人間よりずっと強靭になるらしいんで、ワンルームに住ませてもいいとは連合の人に言われたけど、まだ子猫サイズの赤ん坊だし。

 というわけで神奈川の家に、最近引っ越した。


 ちなみに引っ越しは〖念動力〗〖超怪力〗、〈時空倉庫の鍵〉があるので、引越屋さんにお世話にならなくて良かった。


 リイムも一生懸命荷物を運んでくれようとしたけど、流石に小さな体ではまだ無理だった。

 というか、元々荷物が少ないし。

 そんなわけで荷物整理をしていると、インターホンが鳴った。


 念動力で浮かべていたタンスを置いて、「はーい」と言いながら出ると、注文していた物が早速届いた。


 前から欲しかったものである。


 もちろん印石の代金で購入しました。


 リイムがソファで寝息を立ててだしたので、ママは秘密の行動を開始。


「ついに手に入れた・・・」


 〝ゴスロリ軍服〟。


 あまり知られていないジャンルかもなので説明すると、単純に云えばゴシックロリータと軍服がリミックスしてメタモルフォーゼしたもの。

 ただロリータ要素は少なく感じる。フリルがあまり使われていないから。


 勿論フリルを満載したデザインもあるけれど、少数派な気がする。

 それよりもバチっと決めたカッコイイ物が多い。


 今回買ったのは2着。


 1着は、制服風の物。スカートなんか学校指定のプリーツスカートに近い。というかまんま。そもそもセーラー服や詰め襟学ランが、海軍と陸軍の制服をモデルにしてるんだから制服と軍服は、元々相性がベストマッチ。


 買ったものは、ちょっとカッコイイ学生服に見えないこともない。


 私がこんなの着てる娘を観たら「えっ、どこの学校? ――私もあの学校に、生息したい・・・」なんて思うだろう。

 というか大きなエンブレムが無かったら、普通にどっかの学校の制服に有りそうだ。


 もう1着は、アニメの敵役が着て出てきそうなゴテっとしたもの。黒を基調としてシルバーのラインに、シルバーのボタンやカウス、チェーン。


 腰はベルトでキュッと締めて、Aラインスカートのヒザ下まで三角形に広がるスカート。

 こっちは街中を絶対着て歩けない。最早コスプレなんだもん。


「ひゃーどっちもカッコイイ」


 とりあえず、ゴテゴテの方を着て鏡の前に立ってみる。

 そして絶望した。


「・・・似合わない」


 私じゃ似合わない・・・私のヘタレ部分が軍服に着られている。


「アリスなら似合いそう・・・」


 そっと梱包し直して、一旦脇へ。「アリスへ」というメモを添えて。

 プレゼントしてしまえ。


 くっくっく、彼女なら着てくれるだろう。私はそれを写真に収めるんだ。

 現役モデル――絶対に合う。


 もう一着も着てみる。

 こっちは流石に似合うだろう、制服風なんだ。こちとら現役女子高生だぞ。


 着替えて、鏡の前に立ってみる。


「私、女子高生の才能がないんだった」


 茫然自失で脱いで丁寧に梱包。


 目を覚ましたリイムがこっちをみて「なんかまたママが、ダメな人になってる」みたいな目で見てる。坊や、ママをみないでっ!!


 私はサッと「立花さんへ」とメモを添える。


「良いんだ。私は見る側で・・・・」


 命理ちゃんの分がないけど、彼女は普段から着てる帝国時代の軍服っていうのが、まさしくゴシックロリータの学生服みたいな所あるから。

 欲しがったら買ってあげよう。


 リイム用にも縫ってみようかな――どんどん大きくなるから、すぐ着れなくなるだろうけど。


 その後、アリスとリッカの二人には、とても喜んでもらえました。ちょっと罪悪感。

 でもしっかり写真撮影はしました。


 アリスは流石モデル、ポージングも完璧で360度どこから撮っても美しかった。


 立花さんは―――なんか、無表情であんまりポーズ取ってくれなかったけど、カッコ良かった。


 最終的になぜか私が、あれらの服を着てアリスに写真撮影されてたんだけど。


 命理ちゃんも服を欲しがったんで、バリッバリのフリル搭載型――私が絶対着れないような、お人形さんみたいなゴスロリ服を通販で購入してプレゼントすることにした。


 リイムにもミニサイズのゴスロリ服を縫ってあげる事にした。あの子、男の子だけど。

 撮影会が楽しみです。


 そんな事があった次の日。下校中。ぽかぽか日和で、そろそろアイスクリームが美味しい時期だと思い至り、ソフトクリームを買い食いしながら帰っていた。


 アリスは居ません、お仕事らしい。となると私はボッチで帰る事になる訳で。

 ちなみにリイムは私が学校に通っている間、イルさんのドローンか、江東さんに面倒を見てもらっている。


 今日は事務所で「ピィピィ」しているはず。江東さんは「仕事できるかなぁ」と苦笑いだったけど。

 この後は事務所でリイムを受け取って、神奈川の家に帰る予定。

 というわけで、ソフトクリームをちまちま舐めながら踏切の遮断器が上がるのを待ってたんだけど。


「え・・・・」


 街中でゴスロリ軍服を着ている、外国人の高校生くらいの女の子を見つけた。

 それはもうゴテゴテの方。


 ヨーロッパの人形みたいな子が、可愛さの欠片もない軍服風の上着にAラインスカートを履いて、江ノ島湘南駅近くで踏切待ちをしていた。


「なんて胆力・・・」


 あんな格好をしていたら注目を集めないわけがなく、周りの人がチラチラ視線を送っている。

 私ならめまいがして、へたり込むレベル。


 踏切の遮断機が上がった。

 私は彼女の丹田の強さに驚愕しながらも、とにかく気にしないように歩む。

 やっぱ見られると辛いと思うし、というか「なにエロい目で見てんの、変態」とか謂われたら怖いんで。


 彼女とはもう二度と会う事もないので、気にする必要もないと思ってた。

 私は、アイスクリームが他人にぶつかったりしないよう他人と距離を取りながら歩いている。

 なのに、軍服の女の子は私に寄ってくる。


 あ、あんまり近づかないで、その高そうな服にアイスクリームが着いちゃったら絶望じゃん。とか思っていると。

 彼女は、私とのすれ違いざま呟いたんだ。


「久しぶりだねスウ。ボクの名前はシュネ――」


 彼女が、私の背後へ抜けつつ言葉を続ける。


「――その記憶はプレゼント。隔離しておいたから、時が来たら思い出せるよ」


 (え、スウ? 久しぶり――!? いや貴女、誰!? ――き・・・記憶!?)と思って振り向くと、彼女の姿はどこにもなかった。


「消えた? ――というか、記憶をプレゼント?」


 あ――〖サイコメトリー〗!? 


「〖サイコメトリー〗で記憶を植え付けられた!? ――って云われても、なんの記憶を植え付けられたか分かんないから、思い出したり出来ない!?」


 一体、なんの記憶をくっつけられた!?

 私は踏切の真ん中で足を止め、ソフトクリームの先っぽを落としながら、背後を見たまま呆然とした。


 「そうだ」と思い。自分に〖サイコメトリー〗を使うけど、沢山の記憶が見えてきてどれが彼女に植え付けられたものか分からない。というか隔離とか言ってたし。


「――やられた―――! こんな使い方できるの!? ・・・・〖サイコメトリー〗って!」


 記憶を持ち運んで、誰にでもくっつけられるんだ!?

 ・・・・とんでもないトラウマとか植え付けられてたら、どうしよう!




◆◇◆◇◆

 



 記憶を植え付けられたのは、どうにもならなかった。

 だからもう気にしても仕方ないので、私の得意技「諦め」を発動して、その日もいつも通り学校で忍んでいた。


 忍びながら教室の隅で、電話をかけていた。


 今朝、以前ケルベロスからドロップした印石がマイルズから届いたんだ。


「マイルズ、印石を郵送してくれてありがとう」

『やっと届いたか、国際郵便は随分時間がかかるな。今日、ボクは休暇なんだが、直接届けに行った方が早かったと思っていた所だ』


 印石の種類は〖再生〗だった。

 そういえばケルベロスの首の意味に、再生っていうのが有ったっけ。

 で、ヴィックにお礼を言ったら、マイルズに言ってくれとスマホをマイルズに回されてこうなりました。


「あはは、他所(よそ)の国にバーサスフレームで入ったら領空侵犯だよ・・・」


 私は、苦笑いをスマホの向こうに向けた。


『当然だ。旅客機で成田に行くつもりだった』

「そんな時間まで使って貰ったら、流石に悪いし』

『別にお前のためではない、お前の住んでいる国に興味があるだけだ』

「え、なに、その・・・なに?」


 私のためじゃないけど、私の住んでる国が知りたい・・・・? マジのなに・・・?


『そして印石を届けた報酬として、お前に日本を案内してもらおうと思っていた』

「わゔぁうゔぉえ!?」

『どうした』

「無理無理無理! 私は男の人と出かけたこと無いし、というか女の人ともでかけたことあんまり無いし! そもそも私は滅多にでかけ無いし―――! 案内できるような場所は知らないよ!」

『そうか、ならネットで調べてから行くか』


 私はホッと安堵の息を吐いて、返事をする。


「まあ、そうするのが良いと思うよ」

『そして俺が、お前に日本を案内してやろう』

「どういう事!?」


 なんで日本人の私が、アメリカ人のマイルズに日本を案内されるとかあべこべになるの!?


『だがお前は、そうなっても不思議では無いタイプの人間だろう?』

「否定できない! ――じゃなくて、私は男の人と出かけるなんて無理だから!」

『お前は多分、普通の相手とは結婚できないな』

「余計なお世話ですよ!?」


 マイルズが話題を変えてくる


『ところで、お前らは命理とかいうヤツの為に100層に行きたいんだよな?』

「うん」

『40層のボスのいる場所の大気の状態が、かなり酷いことはしっているか?』

「え、初耳」

『40層ボス・ドライアドがいる惑星は、風速340メートルもの嵐が吹き荒れる星だ』

「風が音速で吹いてるの!?」

『基本的にロケットエンジンだけで飛ぶ事になるだろう。それでも殆どの人間はまともに飛べないだろうがな。――だが俺とお前なら可能だろうな』

「どうかなあ・・・」

『お前も参加してくれ、ボクと並んで飛べる人間がやはり一人は欲しい』

「できるだけ――でも期末テストも近いからどうなるか」

『テストがあるのか。できれば来てくれ、ヘルメスの時もそうだったが、お前の力は頼りになる。なによりお前とボクが並んで飛べば、ケルベロスの時のように、かなり無茶が出来るはずだ』

「私は、無茶はしたくないんだけど」

『・・・・お前は、何を言っている。お前が無茶するからボクがそれに合わせているんだろう』

「――あ、あれ?」

『そういえば。配信ではほぼ見ていないが、お前はまともに層の探索をしているのか?』

「それが――あまり層の探索をする機会に恵まれなくて」


 〈時空倉庫の鍵〉を取りに行って、命理ちゃんを助けた時くらいかも。

 ファンタジー世界だった、ファンタシアはMoB領域どころか銀河連合領域の外側だから層ですらないしなあ。


『なら俺が38層辺りを案内してやろう。40層は危なすぎるから、今日はやめておけ。今からハイレーンに来れるか?』

「え――それは――」


 どうしよう・・・男性と二人でとか・・・・凄く怖い。

 ・・・・アリスは、放課後から撮影らしいし。

 けど、命理ちゃんの為には層の探索を体験しといたほうが良いよね・・・。


「――学校が終わった後なら」

『そうか、そっちは午前か。あと何時間で終わる?』

「いや、午後だけど今15時くらい。あと1時間で学校は終わりで――あ、チャイムが鳴った」

『了解した。では、ハイレーンの〝オクトバス〟という軽食屋で待っている』

「うん、じゃあ後で」


 こうして私は、マイルズと出かけることになった。

 にしてもハイレーンの人はタコが好きすぎではないか? ルルイエでも隠してるんじゃないだろうね?




 さて放課後。私は今日の日直だったので、日誌を書かないといけない。

 なので教壇でシャープペンをノックしようとしたら、芯が出ている方を思いっきりノックした。


「ぉ゛き゛ょ!!」


 突然挙がった私の奇声に、掃除をしていたクラスメイトが「鈴咲さんがまた奇行してる」みたいな視線を向けてきた。


 私は、みんなの視線から目をそらしながら、


「シャ、シャーペンの芯を押しちゃった」


 言うと男子が「スウ、しっかりしなよ」「スウなのにドジ(笑)」なんて言葉が返ってきた。


 ああ・・・今、たった一つだけ願いが叶うなら、クラスメイトが私を「スウ」と呼ぶのを止めてくれますように。


 星に願ったら叶うかな――ハイレーンにでも願ってみようか。


 親指に赤い玉ができていたので「ペロ」っと鉄分を補給する。にしても、指先に穴とか普通に痛い。

 フェイレジェの塗り薬でも塗ろうかと思った。――けど、(そうだ、ついでに〖再生〗のスキルを試してみよう)と思い至る。


 「〖再生〗」と、スキルを使うと左手が光ったので傷を撫でてみる。

 すると、消しゴムで擦ったみたいに傷が消えた。


「すご・・・」


 感動していると、メガネに三つ編みおさげの子が「鈴咲さん、保健室連れて行く?」と言ってくれた。文芸部の綾野さんだ。


 優しい・・・・本当に優しい。スウって呼ばないのが。

 でも流石に1ミリ程度のかすり傷で運んで貰う必要はないし、もう治ってしまった。


「フェ、フェイレジェパワーでもう治ったから」


 と、指先を見せると掃除班から「おおっ」と歓声。


 私は、優しい三つ編みっ子さんにお礼を返す。


「あ、ありがとね」

「うん」


 言葉を交わしていると、なんか男子二人が両腕を広げて「励起翼ー」とか言って走り回り腕をぶつけ合い出した。


「やめて!!」


 私が絶叫すると男子達が大笑いしだした。なんで男子って何時までも小学生みたいな事するの!?

 その後、掃除に戻った掃除班を見てから、日誌の一言欄に「爽波戦線異状なし」と書いておいた。


「じゃ、じゃあ、帰るね――掃除頑張って」


 こうして教室を後にして日誌を先生に届けると、先生が一言欄の部分を見て「お前は、本当に女子高生か」とか尋ねてきた。


 「自信は有りません」と返すと、近況を訊かれた。


 学費とか生活費の事だろうなーと思いながら「異状なし」と答えると、先生が苦笑いになった。


 先生たちみんな私の状態を知っているので、配信者をやっている事を何も言ってこない。


 「あんまり危ないことはしないように」とは言われてるけど。


 多分、配信者止めたら学費も生活費もなくなるんだろうと思われてるんだと思う。


 いやー、ゲートの使用料が当初の予想より圧倒的に少ないけれど、それでも学費に困らない位には入ってくるし、そのうち沖小路宇宙運輸からもオーナーとして報酬入ってくるみたいだし、印石の報酬もまだあるし、配信料なくても生活費も困ってないんだけどね。

 でも確かに、未来の為にお金は貯めないといけないんで、配信者を辞める訳にはいかない。


 話を終えて、礼をして職員室を出た。

 さて今から下校なんだけど、一緒に帰るなんていうのはアリスくらいしかいないのに今日はアリスが部活で一緒に帰れない。チグは別方向だし、フーリとカレンとは一緒に帰ったこと無い。


(今日も1人で帰りますか。――というかもう、スワローさんのワンルームで着替えてそのままマイルズの所に行こうかな?)


 とか思いながら、下駄箱から自分の靴を取り出すと、泣いてる女の子を見つけた。


(え――泣いてる!?)


 抱き合った二人の女の子の一人が泣いているんだけど、膝に包帯を巻いている。

 もしかして怪我?

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