表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/455

70 体育祭の終わりと共に、ボス戦へ向かいます

 幾つもの種目がこなされて行く。


 私は、午前では騎馬戦に参加した。もちろん馬役で。

 そうしてお昼、エレノア軍曹とブルーシートの上でエレノア軍曹のお弁当を頂く。


 丸いおにぎりは、ちょっぴりしょっぱかった。


 私が水滴を作っていると、エレノア軍曹は私をなでなでしていてくれた。


 「腕で抱きしめると、貴女は壊れそう」そんな事を言っていた。


 その後お昼の部、最後の種目が近づいてきた。


 少し緊張を感じていると、エレノア軍曹が私に走ってきて軍用らしいスマホを渡してくる。


「すみませんMs鈴咲。ハリソン大佐からの緊急の連絡です」


 私が首を傾げながらスマホを頬に当てると、ヴィックが少し慌てた調子で事情を話して、内容に私も慌てた。


「よ、――予定より早まった!?」


 なんとヘルメス討伐の時間が、早くなってしまったと言うんだ。


『すまないスズ! ヘルメスに近づきすぎた初心者がいて、戦いが始まってしまった! 人数が集まり切っていなかった事もあり――マイルズが抑えているが、かなり押されている。なんとか、今すぐ来れないか!?』


 確か、募集期間が短くて全員でも1000人くらいしか集まらなかったんだっけ。

 ――それより、さらに少ないのか。


「で、でも・・・・今から最後のクラス対抗リレーで――」


 ふと、クラス別の点数表を見る。――ウチのクラスは3位だ、最後の種目のクラス対抗リレーは点数が高い。

 この結果によっては、ウチのクラスが1位になる目もある。


「――そっか。なら、運動の苦手な私がアンカーを走るより・・・・」


 誰かに代わってもらった方が、勝ち目は高い。


 昼になってクラス別の点数が上位に食い込み始めてから、みんながここまで押し上げたんだし。

 でも。言い終わる前に、エレノア軍曹が私の手を包んだ。


「Ms鈴咲。きっとご両親が見ています。どうかこの1走を、他人の問題にしないでください。――それに我々も、貴女がきちんとこの行事に参加できるように頑張りました。貴女が最後のレースに出られるように。どうしますか?」

「・・・・エレノア軍曹」

「大丈夫。マイルズには、意地でも頑張れと言っておきます。マイルズを信じて」


 私は必死なマイルズの姿を浮かべて、思わず吹いてしまう。


「ぷ」

「ふふっ」


 エレノア軍曹も笑って返してくれた。


 私はスマホを頬に当て直す。

 

「―――ヴィック――私、まだ行けません」

『ああ。そのようだね。ならば、そのリレーが終わったらすぐ来てくれ。そちらの学校に連絡を入れるようエレノア軍曹に伝えておく。エレノア軍曹に、通話を切らずにスマートフォンを返してやってくれ。Ms一式も、すぐに来れるように話しておく』

「わかりました」


 でも――ヴィック達はなんで、そこまで私に拘るんだろう。


 私がエレノア軍曹にスマホを渡しながら、疑問を感じていると、


『これより、最終種目クラス対抗リレーが開始されます。参加する生徒は――』


 放送部のアナウンスが入った。


 私が立ち上ると、みんなの声援が掛かった。


「鈴咲ー! たのむぞー! このままウチのクラスが1位だー!」

「スウ、アンカーをたのむぞー!」

「スウならいけるかもー!」


 私は、頬を叩いて気合を入れる。

 頑張ろう。空を仰いで心のなかでつぶやいた。


(みててね)


 小走りでグラウンドに向かう。控えの線に並ぼうとすると、私の隣に――アリスが立った。


(え、まさか・・・)


「アリス、嘘、なんでいるの――3組は、別の人じゃなかった!?」


 練習の時、別の人だったもん!


「出る筈だった子が、怪我をしてしまいまして。急遽(きゅうきょ)こうなりました」

「ちょちょちょちょちょ―――3組、アリスを出してくるのは酷くない!?」


 アリスが、クラス別の点数を指差す。


「現在わたしのクラスは、クラス別で2位ですからね。本気なんですよ」

「だからって、リレーで鈴咲 涼姫のいる場所にアリスをぶつけるのはよくないよ!?」

「残念ながら、ここはもうわたしの独擅場です」

「むぐぐぐぐぐぐ」

「涼姫ふぜいが、この舞台に上がって来れるでしょうかね。おほほほほ」


 アリスの似合わない高笑いに、私は返す。


「カッチーン。その挑発、乗ってあげるよ!」

「ふふっ」

「私って、結構負けず嫌いなんだよ。これでも、FPSプレイヤーだからね!」


 アリスが再び、クラス別の点数を指差す。


「ウチと涼姫のクラスの点数は僅差――意味、わかりますよね?」

「アリスより、私が先にゴールしないと駄目!」

「負けませんよ」

「私だって、見てて貰ってるんだから負けられない!!」

「合衆国宇宙軍のエレノアさんでしたっけ?」


 私は空を見る。


「彼女だけじゃないけど」


 アリスは首を傾げていた。


 私が空を見ていると、発砲音。

 リレーが始まった。


 ウチの第一走者は、チグだ。

 アリスの方は、ミカンらしい。


 流石チグ、速い速い速い。

 すぐに第二走者へたどり着く。1位で繋いだ――だけど次のウチのクラスの男子が、アリスのクラスに抜かれる。


 でもそのまた次でウチのクラスの男子が、アリスのクラスを抜き返した。

 さらに次の男子が1位をキープ。

 そして私達の順番の一つ前、アリスの所は――フーリ!

 遅い――め、めちゃくちゃ遅い。フーリ、びっくりする程遅い。アリスの3組は2位に着けてたのに、一番後ろまで来た。


 逆にうちは、速い。とんでもなく速い。

 陸上部所属で、インターハイ予選を勝ち抜いた黒田さんだ。

 ぐんぐん後ろと差をつけていく。それはもう、後ろの相手が止まって見えるほど速い。


(黒田さん、1位で来た!!)


 私は、黒田さんのバトンを受け取って―――走り出す。

 なんだかもう、バトンから熱を感じそうなほどだった。


 私が、このバトンをゴールテープまで1位で、持っていく!

 

「みててね!!」


(うおぉぉぉぉぉぉ!)


 全力で走る、でもこの体――ちょっと使い心地が悪い、まだ走り出したばかりなのに鉛みたいに重い。

 運動は、本当に苦手すぎる!


 だけど、


「頑張って、鈴咲ー!」

「いけースウ! ちょっとでも前に出ろー!」

「頑張ってくださいまし、鈴咲様ー!」


 クラスの声援――そして、


「頑張って下さい! Ms鈴咲ーーー!!」


 エレノア軍曹の声援!


 私は、目を描き込む前の達磨みたいな顔を、振り乱して走る。

 すると、後ろの方で「ワッ」という歓声が挙がった。


 何事かと思って振り返ると、とんでもない速度で迫る陰。いや陽光(ひかり)


 今はポニーテイルにしている黄金の長い髪を完璧なリズムで弾ませ、見事に背筋の伸びたフォームで迫ってくる。

 なんかもう異質、そのフォームが完璧すぎて高校生の体育祭とは思えない・・・・完全に浮いてる。

 あそこだけ別世界。


 ――ウ◯イン・ボルトかよ、あの人!!

 アリス、本当になんでも出来るな、アンタ!!


 私はなまはげみたいに、髪を振り乱しながら必死に逃げる。


「くるなくるなくるなくるな!!」


 だけど足音が、足音が近づいてくる!!


 も、もうちょっとでゴールなのに!

 しかも、私の体が性能を落とし始める。どんどん肺が痛くなってくる――足が上がらなくなってくる。

 なんだこの体、耐久力低すぎやしないか。大量消費文化の量産品か!?


 私がどんなに足を振っても、手を振っても――だんだん風を切り裂くような音が近くなってくる。


(き、来てる、来てるよ、化け物ぉぉぉぉぉぉ!!)


「涼姫、逃しませんよ―――!!」

「くんなぁぁぁぁぁぁ!!」


 アリスが絶望的な事を言いさらす!

 でも、あと1メートル。

 あと、1メートル。

 なのに――だめだ、アリスが隣に来た―――もう、勝ち目は――、


「Ms鈴咲―――頑張って!!」


 エレノア軍曹の喚声。


「こうなったら!」


 ――私は全力で跳躍した。

 なんか時間がゆっくりに感じた。


 空中でバランスを崩した私に、グラウンドの地面が近づいてくる。


 私は、顔面から転びながら、額でゴールテープを切った。


 ・・・・。


 でも、――「胸がゴールラインに入らないと駄目だ」と言われました。


 鼻に詰め物をしながら、みんなの方へ向かう。


「―――ごめん、負けちゃった」


 クラスメイトと、エレノア軍曹に謝る。

 すると、


「よくやった!」

「2位まで行った!」


 クラスのみんなが、笑ってくれる。


「ありがとう」


 私が返すと、エレノア軍曹が拍手していた。


「Ms鈴咲、ナイスガッツです!」

「―――うん、頑張ってみました・・・」

「――しかしすみません。急いでもらえますか?」

「それに関しては、もう既にスワローテイルは、呼んであります」


 すぐさま降りてくる、スワローさんと、ニュー・ショーグン。それからエレノア軍曹の機体らしい、小型潜水艦に翼が生えたような機体も降りてきた。


 私とアリスは着替える時間もなく乗り込み、そのままヘルメス戦闘宙域に急いだ。




「え、マイルズが撃墜された!?」


 私は、ワンルームで体操服を脱いでパイロットスーツに着替えていた。

 すると、ヴィックから連絡が入ったんだ。


『ここまでほぼ独りで抑えたが、流石に無理だった。今は自衛隊の柏木がなんとか抑えているが。――スズ、急げるかい!? ――今どこだい』


 日本はフェイレジェ攻略に積極的じゃないのに、流石柏木さん。


「今、ワームホールの中です。10層を通り過ぎました――マイルズは無事ですか?」

『ああ、少尉に怪我などはない。別の機体を準備中だ――だがハイレーンに転移してしまったので、すぐには出られそうにない。スズ、急いでくれ! 本当に戦線が瓦解し始めた』

「はい! ――で・・・・でも、スキルやステータスの復活まで、まだ少し掛かります・・・」

『それはこちらの手違いで、本当にすまないと思っている。だがマイルズがいない今、君だけが頼りなんだ!』

「わ、わかりました。やれるだけ、やってみます!」


 そこで通信に、エレノア軍曹が紛れ込んでくる。


『大佐、マイルズ少尉に伝えてください。ポンコツと』

『軍曹―――任せたまえ』

「いいんですか!? 上官なんでしょう!?」


 するとエレノア軍曹がしれっと続ける。


『では、上官の癖に頼りない。と付け加えておいて下さい』

『軍曹、任せたまえ』

「大丈夫なのかな、このUSSF」

『軍曹、マイルズからの返答だ。「不甲斐ない。しかし軍曹、お前はスクワットだ。覚悟しておけ」だそうだ。マイルズには、私が後でスクワットを200回させておこう。アイツは運動不足だからな』


 マイルズ・・・。

 にしても、さすが軍隊、200て桁が違う。そんなにスクワットしてしまったら、私なら次の日は這って歩くしか無くなる。


 いやマイルズって前に、私の開いた講座の時すぐに息を切らしてたけど、スクワットを200回もできるの?

 ・・・・それをやるのが軍隊なのかな・・・・怖い――軍隊、怖い。

 というかスクワット200回しないと運動不足って言われる世界が、どう考えてもおかしい!


『ん? スズ、マイルズが君と話したいらしい。回線を繋いでも?』

「はい。もちろんです」

『スウ、今向かっている所だな?』

「うん、今ワームホールの中だよ」


 ちなみに前に、マイルズに『ほとんど年が変わらないので、敬語は止めろ』と言われたので、普通に話している。

 その時「マイルズはパイロットだし若いのに、少尉って軍学校の大卒じゃないの? 全然年上なんじゃ?」って訊いたら「ボクは、軍学校に飛び級で入学した」と言われた。

 その時は軍学校の飛び級・・・・? って思って検索したら、いる。しかもマイルズは大統領の推薦を受けてる、超絶エリートだった。


『なら2つ、提供したい情報がある――ヘルメスは毎回攻撃方法を変えてくるのは知っているか?』

「うん、聞いた」

『では1つ目はヘルメスの今回の弾幕パターンだ。パターン動画と、ボクの思った情報を書き込んだデータがある。大佐に情報をまとめて送っておいた。ダウンロードしてくれ』

「そ、それは凄くありがたいよ!」

『もう一つはヘルメスで注意すべき点』

「うん、どんなの?」

『ヘルメスの弾幕は〈発狂〉クラスでパターンは変わるが、パターンが有るなら、お前には物の数ではないだろう。問題は今回奴が行ってきた、もう一つの方の攻撃。恐ろしさは寧ろこっちだ』

「ど、どんな攻撃なの?」

『弾丸を光速の10%で飛ばしてくる』

「こ、光速の10%・・・?」

『その機構から〝ハドロン砲〟と名付けられたこの攻撃は、流石にお前でも躱せないだろう。そうして回避不能の攻撃なのに、熱攻撃ではないので黒体では防げない――ボクはこれの対策が思い浮かばず撃墜された。スウ――対策は思い浮かぶか?』

「――わ、わかんない・・・考えてみる」


 光速の10%の攻撃、幾らなんでもそんな速さの攻撃は避けられない。


「銃口とかある?」

『無い。頭上に浮いている球体から、その一部が突然撃ち出される』

「そ、そっか」


 銃口を避ける方法は使えない――か。


 とにかくまずは、マイルズに貰った弾幕を暗記する。


 ルートもきっちりと書き込まれていて凄い。袋小路になる場所も教えてくれている。


 私はマイルズに貰った情報をさらに最適化して、咀嚼していく。

 そうしながら、光の10%の速度の攻撃を避ける方法を考え続ける――けれど、対策を思いつかないまま、ワームホール航行が終了した。


 遠くに、沢山の光の筋と爆発が見えた。

 でもレイドにしては随分、光が少ないんじゃないだろうか。

 規模的に――プレイヤーが300人程度しか、いないんじゃ?


 1000人でも足りないって言われてるレイドなのに。


「あそこに、ヘルメスがいるんだね? ・・・・イルさん亜光速航行できる?」

『イエス、マイマスター』


 イルさんが飛行機に乗る姿勢になると、周りの星の光が引き伸ばされ、矢のようになって後ろに消えていく。

 この亜光速航行は光速の90%だけど、これで躱す?


 ムリだ――暫くエネルギーを溜めないと亜光速航行は出来ないのに、ムリに決まってる。

 しかもこれをつかったら、攻撃するだけのエネルギーが確保できない。


「光の10%の速度の攻撃を避ける方法――そんなの」


 アリスから通信が入ってくる。


 今日のアリスは、新しく買った、ニュー・ショーグンだ。

 以前よりさらに、武者武者しいデザインの機体になってる。


『スウさん。アビキャンの効果は切れましたか? スキルとステータスは戻りましたか?』

「だめ、あと30分は掛かりそう」

『これは、スキルとステータスは無しで戦うことになりそうですね』

「・・・・うん」

『あと、わたしもマイルズから敵の情報を訊きました。正直、わたしには躱せる気のしない攻撃です。スウさんは、どうですか?』

「ごめん。・・・・今回は、流石に無理かも」

『じゃあ、わたしが盾を張りますんで、後ろから攻撃して下さい』

「うん、それが一番無難かもしれない」


 でも・・・・それじゃ、ただ普通の火力役になってしまう。


 マイルズまで撃墜され、柏木さんが抑えているとはいえ――戦場の状況を一変させられるとは思えない。


 恐らく、ヴィックが私に求めているのはこんな普通の事じゃないとは思うけど――。

 するとエレノア軍曹が私に尋ねてきた。


『Ms鈴咲――対抗手段は思いつきませんか?』

「ごめんなさい」

『そうですか』


 やっぱりそうだよね、私に何かを変えてほしいんだよね?

 だけど今回の敵は、躱して戦うわたしには、相性が悪すぎる相手かもしれない。

すみません予約ミスしてました!

もちろん、今晩も更新があります!

本当に、申し訳ありません!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>光速の10% 絶妙に分かりにくい言い回しで現場を混乱させていやがる…!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ