66 アカキバ軍団の人を助けます
◆◇Sight:とある配信者コハク◇◆
「みなさん、アカキバ軍団ですー!」
「こんにちわー」
「という訳で、皆さんのアカキバです!」
私の名前は、コハクといいます。フェイレジェのプレイヤーをやりながら配信者やってます。
現在登録者数は8万人です。
これでも随分伸びたほうで、一週間くらい前は8000人位でした。
これもアカキバさんのお陰なんですが・・・。
今私は、雪原が広がる極寒の惑星、ロストフに居ます。
アカキバ社長に呼び出されたので来たんです。
しかし撮影場所が極寒の惑星だとは聞かされておらず、防寒処理をしていないパイロットスーツで来てしまいました。
アカキバ軍団のもう一人の団員リあンさんが、やんわりと抗議します。
「しゃ、社長、事前に寒い場所で撮影するって教えて下さいよ・・・」
「ですです・・・」
私は、リあンさんに同意する相槌を打ちました。
「訊かなかった君らが悪い(笑)」
まあ無駄なんですけど。
ちなみにリあンさんは黒髪ロングのすらっとした高身長で、メガネを掛けた美人さん。
わたしは短い髪に大きなリボンを着けた、ちょっと幼児体型です。
アカキバさんというのは、髪色を赤にした大柄な男性で、最高難易度のシミュレーターを世界最速でクリアしたプレイヤーで、超絶テクニックのパイロットです。
特機を使っている上に、弾避けが本当に凄いんです。
そんなアカキバさんに誘われる形で、私はアカキバ軍団という物に入りました。
同時に株式会社アカキバに入り、契約タレントとなりました。
アカキバさんのチャンネルは最近ものすごい勢いで伸びています。
アカキバさんと同じく最高難易度シミュレーターをクリアした人が、物凄い事をして世界から注目されて、アカキバさんにも注目が集まってる感らしいです。
だから、アカキバさんとコラボすることで、私のチャンネルもぐんぐん伸びていきました。
ただ、最近思うのです。ここにいて大丈夫なんだろうかと。
アカキバさんは基本的に、他人を使って笑いを取る事が多いのすが。
戦闘機をぶつけてきたり、結構危険な冗談が多いのです。
本当の所、大事になる前に株式会社アカキバとの契約を止めたいのですが、これも簡単な話ではなくて。
現在私のチャンネルの所有は株式会社アカキバの物になっており、契約を解除すると、私はチャンネルを奪われてしまいます。
これがアカキバ軍団に入ってから作ったチャンネルなら仕方ないとも思いますが、私が元々持っていたチャンネルなんです。
確かにアカキバさんに20000人まで伸ばして貰ったチャンネルなのですが、私も頑張って8000人視聴者を集めたんです。簡単に捨てることは出来ません。
私たちが寒さで身を縮めて震えていると、心配するコメントが流れてきました。
❝なんか可哀想❞
❝リあンさんと、コハクさん大丈夫?❞
私とリあンさんは、震えながら笑顔で「心配、ありがとうございます」と返します。
「なに、俺が悪者みたいじゃん(笑)」
アカキバさんが、愉快そうに笑いました。
この人やっぱり苦手です。
アカキバさんの声は愉快そうですが、顔には明らかに不機嫌さが現れていました。私はリあンさんと視線を交わして2人でお世辞を並べます。
「今日もイケメンです社長!」
「相変わらずカッコイイです社長!」
アカキバさんは女性に好意を寄せられるのが本当に大好きなので、私達が褒めれば結構簡単に機嫌を直してくれます。
アカキバさんが嬉しそうな顔になったので、さっさと話題を変えてしまいましょう。
「社長、今日はどんな配信をするんですか?」
私が尋ねると、アカキバさんはこっちを見てニヤニヤとしました。
アカキバさんのあの笑顔は大概、被害者に向けられるものです。
嫌な予感がします。
「はーい、ちゅうもーく――」
アカキバさんが手を叩いて、カメラドローンを自分に向けました。そうして机に並べられた料理を紹介するみたいに手を優雅に横に振って、私達をカメラに映しました。
「――この中に一人、勝手に他所の配信者とコラボした人がいまーす」
私は、一瞬リあンさんを見ました。
でもリあンさんも私をみて、キョトンとしています。
株式会社アカキバの契約タレントは、勝手なコラボが禁止されています。
だから私もリあンさんも、勝手にコラボしたりしないんですが。
勝手なコラボは男性も女性も駄目ですが、特に男性相手だとアカキバさんが滅茶苦茶嫉妬するので、ご法度です。
アカキバさんが私を見ました。
え?
「コハクさん、言い訳よろ(笑)」
「わ、私ですか!? コラボなんてしてませんが!?」
「何いってんの(笑) 他の配信者と協力してクエストクリアしてたでしょ(笑)」
「え、いやっアレはコラボとかじゃなくて、たまたま同じクエストで一緒になっただけで・・・!」
「はい、言い訳ご苦労さま(笑)。じゃあコラボの意味を説明してあげるわ。人やグループが協力して目的を達成することを、コラボといいまーす(笑)」
「いや、それは世間一般のコラボの意味で! 配信者としては事前にコラボしましょうって約束するものがコラボじゃ!」
アカキバさんの顔が険しくなり、私を睨みます。
「偶然ならコラボにならないなんて理由を見逃してたら、抜け道だらけになるだろうが」
「そ、それは―――そうですけど、それじゃフェイレジェの配信が出来なくなります!」
「俺が勝手にコラボをするなっていうのは、君等の為なんだよ! 君等が無用なトラブルに巻き込まれて炎上したりしないようにと思っての事なんだよ!」
アカキバさんが大声を出しました。急に大声を出すので私は思わず両手で体を庇うようにして、怯えてしまいました。
「ご、ごめんなさい」
「なんだその態度は、自分で事故を起こすような真似をしといて被害者面か? 君等が心配だから、俺はこんなに怒ってるんでしょうが!? 大事になる前にさあ―――!?」
「は、はいっ、申し訳ありません!」
怖くて、もう何も言い返せません。
「というわけで、ちゃんと罰を与えます。じゃないと今後また同じ事をしてしまうからね」
「え――そんな過失です、どうか許してください―――」
「事故を避ける意識が足りてない。まあ罰ゲームみたいな物だから、そんなに怖がらなくてもいいよ(笑)」
「・・・・はい」
「この近くにゴブリンの大きな要塞があるので、コハクさんにはそこに単身乗り込んでもらいまーす」
え!? それって―――!
私は自分の顔から、血の気が失せるのを感じた。
最近、私なんかよりずっと強い、実力派配信者の音子さんがゴブリンにひどい目に遭わされたばかりだ。
「や、止めて下さい! 無理です!!」
「大丈夫大丈夫。複座のスウみたいなザコでも、ゴブリンは余裕なんだから」
「ゴブリンは、銃火器を持ってるんですよ!?」
「君も持ってるじゃん」
「ピストルしかないです!」
「じゃあ、俺のアサルトライフル貸してあげるわ。罰ゲームなのに、俺ってやっさしー(笑)」
黒く光るアサルトライフルが、雪原に投げ落とされました。
「わ、私の銃の腕じゃ、死んじゃいます」
「フェイレジェは死にませーん(笑)」
「確かに死なないですが――ゴブリンは、その・・・女性をレ――」「君さー、言い訳多すぎ、言い訳なんかしても何も変えられないよ――」
アカキバさんの顔がまた厳しくなって、私は恐怖で黙り込んでしまいます。
動かない私を見てアカキバさんは、遠くに浮かぶ巨大な建造物を指さしました。
「――ほら早く行く。これ、カメラドローンね。じゃあ俺らは宇宙でクリアを待ってるね。君が、要塞のゴブリンを全滅させたら迎えに来るわ(笑)」
「そんな無茶な!!」
アカキバさんは私達が乗ってきた、航宙空母に向かいます。
渋るリあンさんも連れて、本当に宇宙に行ってしまいました。
もう、私に地球に帰る術は2つしかありません。
ゴブリンを全滅させるか、死んで地球に転送されるかしか。
「うそ―――」
絶望で、目の前が真っ暗になるのを感じました。
私の頬を、ゴブリンの放った銃弾がかすめました。
「――いっ!!」
私は廊下の角から通路の先の様子を見ていましたが、突然現れたゴブリンに攻撃されてしまいました。
いそいで、壁の裏に体を隠します。暗くてゴブリンが居るのが分からなかった。
私は今、ゴブリンの要塞の内部の2階に居ます。
ゴブリンの要塞の外観は、まるで赤くサビたネジが、尖った部分を空に向けて、傾むいたような形をしていました。
高さは多分、東京タワーより高いです。しかも、とても広い。
私一人で、こんな場所をどうやって攻略しろと・・・。
アカキバさんは、私が死ぬ前提で考えてるとしか思えません。
せめて、この様子が、本当に配信されている事を願うだけです。
今、私に配信を確認する方法はありません。機材がなにもないので、配信画面どころかコメントすら見えない。
『ギャッギャ!!』
私を撃った、茶色い蟻みたいな見た目のゴブリンがアサルトライフルを構えて、ゆっくりとこっちに向かってきます。
私は撃ち返そうかと考えますが、内部は暗くてあまりよく見えません。
そのくせ壁の様子などは見えて、その様子が気持ち悪い。
壁の様子は、どことなく昆虫の腹を思わせる壁に、赤黒い血管のようなものが規則性のない網目のように張り巡らされ見た目でした。完全にホラーです。
それに匂いが酷い。腐った牛乳の饐えた様な物で、嘔吐感を誘う。
「とにかく、全滅させないと―――迎えは来ない」
私は角から顔をだして、アサルトライフルを構えます。が――
「え、ゴブリンはどこ?」
『ギャ』
声は上からしました――天井に張り付いたゴブリンが、私にアサルトライフルを向けています。
私は反射的に床を転がりました。
饐えた匂いの茶色い液体が滴る床が気味悪いけど、気にしている場合ではない。
アサルトライフルの弾丸が、転がる私を追うように向かってくる。
「死にたくない!!」
私は叫びながら、ゴブリンにアサルトライフルを乱射しました。
幸運にも私の銃弾が先に当たり、ゴブリンが天井から落下してきました。
私は立ち上がり、ゴブリンが痙攣して結晶のようになって消えた床を見つめながら荒い呼吸を繰り返します。
私のトレードマークの大きなリボンが気持ち悪い液体まみれになったので、引き抜くように外して床に捨てました。
「と、とりあえず一匹――」
これを、あとどれだけ繰り返さないといけないのだろう。
絶望的すぎて泣きそうになっていると、銃声を聞きつけたのか、奥から無数の足音が聞こえてきました。
「不味――逃げないと!」
私は来た道を引き返そうとしました――しかし、
『ギャッギャ!!』『ギャッギャ!!』『ギャッギャ!!』
来た道からも10体を超えるゴブリンが・・・。
ゴブリンたちは、全員私に銃口を向けています。
下手に動けば射殺されます。
「こんなの無理だよ・・・」
私はとうとう泣き出すのを堪えられませんでした。
武器を投げ捨て、手を上げ、膝をつき降伏の意思を示します。
するとゴブリン達の歩みが遅くなり、舌なめずりを始めました。
ヤツ等が、私に群がり始めます。
ゴブリンからは、強烈な腐臭が漂ってきました。
私のパイロットスーツが、ゴブリンの持つ刃物で破かれていく。
「ぅぅぅぅぅ」
悍ましい行為が始まる。
私はゴブリンの紫色の舌に肌を舐められ、全身を震わせました。
その時です―――私の耳に女性の声が響いたのです。
「コハクさん!! ――貴女のファンに呼ばれて来ました!!」
私が来た道から、カーリーヘアの女性が走って来ました。
この話は、皆さんちょっと気分悪いと思うので今日は解決まで、同時投稿です。続きはアップしてあるので「ここで終わりかー」と思って寝ちゃわないで下さいね!




