61 マイルズ・ユーモアはクールな対応をします
「廻れ!」
私は、宙返りする要領で、スワローさんを回転させる。
普段は機体が回転したらすぐに止めるけど、今回は止めない。
ほぼ重力の無い宇宙で、スワローさんは独楽のように回転する。
「うわあああああ」
「な、なんだこれは!」
流石にワンルームから、困惑の声が返ってきた。
❝たしかにこれなら、どっちを向いているか判断不能だけど!❞
❝無茶苦茶すぎるだろ!❞
「イルさん〈臨界黒体放射〉準備!」
『イエス、〈臨界黒体放射〉準備完了』
❝ケルベロスはどこだ、わからんぞ!?❞
❝つかハーピィと弾幕を、避けれんのかよ!❞
私は、一瞬見えるハーピィや弾幕をみてタイミングを計る。
さらに宇宙空間にあるカメラから見える配信画面で自分の位置や敵の位置を知り、ロケット噴射で敵を躱す。
2Dシューティングをやる要領だ。
❝か、躱してやんの・・・・❞
❝―――もう呆れて言葉が出ない❞
「発射!」
『発射』
イルさんが腕を振ると、〈臨界黒体放射〉の閃光の線が宇宙に引かれた。
最後のケルベロスが消滅。
私は、スワローさんの姿勢を安定させる。そして、機首を上げてその場を離れた。
「これで全部倒した――どう?」
❝もう復活すんなよ❞
❝頼む、消滅しといてくれ・・・❞
だけど、宇宙空間に肉塊の泡のような物が出現してケルベロスは復活を遂げる。
❝駄目なのかよ・・・・!❞
これは、流石にキツイ。
「・・・・こうなると――、あとは同時撃破?」
❝スウたん一人で、振り向くと転移しちまう相手をどうしろって!❞
❝逃げれないのかよ❞
❝転移してくる相手とか、亜光速航行ができても逃げられるかわからないだろ❞
「どうすれば―――・・・せめて、ドリルドローンで倒せれば・・・」
『すまないマザー』
『僕たちが、ふがいなくて・・・』
「ご、ごめん! 気にしないで、二人とも」
『マザー、勝てるのか?』
『ママ、大丈夫?』
「きっと大丈夫。カストール、ポルックス、スワローさんに戻って」
『はい』
『ママ、がんばってね』
二人が、スワローさんに戻ってくる。
「でもどうする、どうやって3体を同時に撃破する?」
私は弾幕を躱し、ハーピィを撃破しながら考える。
「さんじゅういち、さんじゅうに――」
途中、〈次元倉庫の鍵〉から162mmキャノンをケルベロスに向けたけど、これも転移された。
(どうする―――・・・)
❝おい、誰かハイレーンにいるプレイヤー、スウたんの加勢に行けよ!❞
❝ハイレーンに居るやつで、見てるやつ居るのかな・・・❞
❝一人くらい、いないのかよ❞
❝いや・・・俺、今ハイレーンだけど❞
❝行けよ!❞
❝無理だろ! 正面むいたら転移するんだぞ!? 俺に回転しながら弾幕躱してハーピィ躱して戦う芸当なんか、出来ねーよ! 死んじまう・・・❞
❝・・・そうか・・・・御免、無茶言った❞
❝あんな戦い方できるヤツなんて・・・❞
❝いねーよ・・・・❞
❝もう・・・絶望的じゃん❞
突破口が、見えなかった時だった。
通信が入った。
『こちら合衆国宇宙軍マイルズ・ユーモア少尉。近隣宙域を飛んでいた所、そちらを発見した。これより援護に入る。オーバー』
❝マイルズ・ユーモア?❞
❝まさか――!?❞
❝トップだ!❞
❝フェイレジェのトップガン!❞
❝勲功ポイント最高プレイヤー〝青き精霊〟マイルズ・ユーモア!❞
❝フェイレジェ史上、最高のコラボ来たぞ! 青き精霊と、狂陰の共演だ!❞
「か、加勢してくれるんですか?!」
私の右側に小さなウィンドウが開く、メガネを掛けた目の下が隈だらけの少年の顔が表示された。
不健康そうだけど昔に見た通りのイケメンだ、隈がもったいない。
にしても――この人、軍人だったの? なんか見た目が、若くない?
私、欧米人の年齢の見分けは余りつかないけど――凄く若く見えるだけかな?
『当然だ。お前の船には我が国の政府高官が乗っている、軍人であるボクが救うのは義務だ』
「あ、ありがとうございます!」
マイルズさんは言う事を終えると、さっさとウィンドウを閉じた。
愛想のない感じなのかな?
しかしマイルズさんは話しながらも、青いF‐22ラプターに似た戦闘機で、ハーピィを次から次へと撃墜していく。
しかも、一発の弾丸で二体倒したりしている。
「―――す、すごい」
私が呟くと、またウィンドウが開いた。
眠そうな目が私を思いっきり睨んでいる。
『お前、嫌味か』
「え?」
『気が狂ったようなお前みたいな飛び方は、ボクには出来ない』
「いや、でも・・・凄い飛び方してますよ、貴方」
『ボクは常識の範囲だ、お前は頭の線がどこかプッツンしている』
「ど、どういう意味ですか」
『前を見ろ、ぶつかるぞ』
ウィンドウを観ていた私は、慌てて正面に向き直る。
「―――っ」
正面にハーピィがいた!!
急いで急旋回。
ワンルームから「うお」とか「ぐわ」とか聞こえた。
「ご、ごめんなさい!」
危ないところだった、戦いに集中しよう。
でも、お礼だけはマイルズさんに伝えなきゃ。
「ありがとうござい――」
私はお礼を言おうとウィンドウに視線を向けたけど、そこには何もなかった。
「――ます。――通信切れてる・・・・」
そっけない人だなあ。まあ・・・私は会話が苦手だし、楽でいいけど。
そこから、私とマイルズさんは縦横に交差したり、互いに戦闘機のお腹を向かい合わせにしながら並走したりしてハーピィを倒していく。
すごい楽。
さっきまでは結構しんどかったのに、急に楽になった。
マイルズさんって、合わせるのが凄く上手い。
やっぱりこの人は、操縦が滅茶苦茶上手いよ。
私がマイルズさんと戦ったら、ソロならワンチャン私の方がって思うけど、コンビになると及ばない気がする。
❝まるで、航空ショーでも観てるみたいな戦い方。宇宙なのに❞
❝ちょwww 二人で至近距離の背中合わせで螺旋描きながら飛んでるぞwww そこ繊細な操作がめちゃくちゃ難しい宇宙なんだぞwww❞
❝マイルズさん、アンタも大概プッツンしてるwww❞
『黙れ、スウのファンども。配信は確認しているぞ。ボクは、普段こんな危険な飛び方をしない。このプッツン女に合わせると、こうなるんだ』
「あの、うちのファンに向かって私をプッツン女とか言うの止めてくださいませんか―――ここの視聴者って、私に酷いあだ名付けた前科が有るんで・・・」
しかも犯人探したら、百人以上が自首してくるし。
『お前が悪い』
「全く以てその通り!」
❝口悪りぃwww❞
❝スウたん大丈夫、プッツンしてるのは前から知ってたからw❞
おのれ・・・私のファンには、私を天使とか天女とか呼んでくれる人いないのかよ。
だいたいマイルズさんは男なのに、なんで精霊とか美人な呼び方されてて、私は狂陰なんだよ・・・ああもう、世界が憎い。
私が暗黒神教団でも作ろうかと画策していると、ハーピィが全部片付いた。
❝早っや!❞
❝あの数のハーピィが、カップラーメンが出来るより早く❞
❝こんな短時間しか戻してないカップラーメン食ったら、堅くてボリボリやん❞
うん、殲滅速度が滅茶苦茶早いと思う。
こんな速さは、マイルズさんのコンビテクニックがなかったら絶対無理だ。
「ありがとうマイルズさん」
『集中しろ。戦いは、ここからだ――』
そうだ、ケルベロスがまだ残ってる。
マイルズさんが、私に作戦を告げる。
『――よしスウ。お前は、戦闘宙域を離れてワープを開始しろ。ケルベロスはボクが引き付ける』
「え、あっ! はい」
なるほど、その手があった。
私は、マイルズさんの言う通り逃げようとする――けど駄目だ。ケルベロスは私の方を追ってワープして来た。
「駄目かも・・・」
『その様だな、どうしてもその船を破壊したいらしい。要人狙いか? ――いや、違うか? ・・・・なんだ・・・・やたら、この戦いに執着している気がする』
「とにかく戦うしか、無いんですね。でも自衛隊が来るまで時間を稼げば―――」
『今こちらに向かっている自衛隊には、お前みたいな狂った戦い方ができるヤツが居るのか?』
「それは・・・・わからないです」
『なら待つより倒してしまうぞ。相手は何をしてくるか分からん奴らだ、長期戦は避けたい』
確かに―――コイツ等は学習する形跡があるし、最初の壁アタックみたいな不意打ちは怖すぎる。
「マイルズさんは、回転しながら敵を倒せますか?」
『一応、できるだろうな』
「その機体は、人型になれそうに見えないんですが、可能ですか?」
『この機体は、〝バカ〟と合体して人型になる合体機だ。それがどうした?』
「バカ?」
『で、人型がどうした』
「じゃあ、私が2体を引き受けます。マイルズさんは右側の一体をよろしくお願いします」
『ラジャー。ボクは出来ないことをできるとは言わない、それがボクの強さでも有る。だからハッキリ言う。ボクには2体同時に相手を、この機体ではできない。そしてボクは今、お前にも「出来ないことは出来ない」と言えと、告げている。任せて良いんだな?』
「任せて下さい」
『オーバー』
通信が切れた。
❝スウたん、どうやって2匹を同時に倒すつもりなんだ・・・?❞
❝大丈夫なのか?❞
私はスロットルを上げ、背中を向けてケルベロスに突進。
「イルさん、人型形態!」
イルさんが宙返りする。
『イエス、マイマスター。スワローテイル人型形態』
瞬きするよりも早く、スワローさんが人型になる。
その状態で、私はオーバーヘッドキックをしてケルベロスに蹴りを入れて、もう一匹のケルベロスの方向に飛ばした。
マイルズの納得の声が、通信から聴こえてくる。
『なるほど。5カウントだ。スウ、お前に合わる。カウントしろ』
「はい!」
私はカウントを始める。
「5」
スワローさんが人型形態のまま、回転を始める。
「4」
ロケット噴射をしながら、飛行形態へ移行。
「3」
「イルさん、〈励起翼〉展開。〈臨界黒体放射〉準備!」
『イエス、マイマスター』
「2」
独楽と化した私達は、輝く翼と、輝く機首を持って、ケルベロスに向かう。
「1」
モニターで点滅するように映るケルベロスの顔が2個、至近距離にきた。
その時――私の脳裏に、列車のような物の音が聞こえてきて『確実にやるんだよ、今度こそ――』というノイズ混じりの声が聴こえた気がした。
一瞬(何?)と思ったけど、今はそんな場合じゃない。
「Fire」
『Copy(了解)』
私はケルベロス一体を〈励起翼〉で切りつけながら、〈臨界黒体放射〉を放つ。
こっちのケルベロスが2体、同時に消滅した。
私は右を振り返る―――マイルズさんの方も、成功したようだ。
ウィンドウが右側に開いた。
『スウ、アメイジングだ』
「あ、ありがとうごさいます! そちらこそ!」
『当然だ』
❝もう復活するなよ・・・?❞
❝どうだ・・・❞
私が、コメントと共に固唾をのんで見守ろうとすると、マイルズさんから通信で、『お前は、アホか。早くワープを開始しろ』と言われた。
「あ、そっか。イルさん、ワームホール航行開始」
『イエス、マイマスター』
イルさんが、飛行機を運転する姿勢になる。
「でも、地球まで追ってきたりしませんよね・・・」
『恐らく大丈夫だ。表示されていたケルベロスの文字が消えた』
『〝デンジャーな奴ら〟をクリアしました。銀河クレジット50万、勲功ポイント50万を入手しました』
「よ、よかった。倒したみたい」
『あと、お前の印石が出たようだ。複数人で撃破にもかかわらずよく出たな――』
〖奇跡〗の効果かな? ――それとも印石ドロップ判定は顔1つ1つに有ったとか?
『――ボクが回収して、後でヴィクター大佐に預けて送ってもらおう。構わないか?』
「あ、はい――」
こうして世界を巻き込むような大事件が幕を閉じた。




