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60 世界の重要人物のピンチで頑張ります

◆◇◆◇◆




 知らなかった、私は「ハイ」か「イイエ」ではなく。――「ハイ」か「イエス」以外の会話以外、苦手だったんだ。


 私がスワローさんで宇宙に出て飛んでいると、ワンルームに居る8人の要人から声が掛かった。


「スウさん、配信しなよ!」

「おお、ぜひ君の配信に我々を映してくれ」


 なんということでしょう、無茶振りが飛んできます。

 しかし、私はどうあがいても鈴咲 涼姫。


 生まれながらのイエスマン。特技は「ハイ」と「イエス」と「首の縦運動」。


 古くから続く格式高い、ノーの言えない日本人。


「イエッサー・・・」


 死んだ魚のような目で、恐ろしい人達の要求に応えるで候。


 カメラドローンを準備して、配信開始。

 暫く視聴者0だったけど、だんだんと増えて10000人くらいになったところで、要人さんにカメラを向ける。


 様々に、変なポーズをキメる要人たち。


「「「イエーイ!」」」


 ああ、駄目だ、「イエーイ」が「ウェーイ」に聞こえる。絶対この人たち陽キャだ。

 よく考えたら、各国の要人とか社交界の花やん、究極の陽キャやん! 


「みなさん観てますかー! 我々はいまスウさんに救出されて、なんと地球のはるか彼方の宇宙を飛んでいます!」

「日本にゲートをもたらした英雄スウさんは、流石です! アクシデントにも素早く対応して我々を救出してくれました!」


 多分、日本人全員、今「英雄?」ってなってると思うで。


「我々は無事なので、皆さん安心してください」


 ヴィックが言って、自慢するように続ける。


「我々を運んでくれているスウさんは、気高く、可愛く、強い。まさに大和撫子の化身のような人物です!」


 そのスウは、一体どこの誰?


❝ちょwww スウなにしてんwww❞

❝世界中の偉い人救って飛んでるよ、この人❞

❝で、何が起きてるの? 詳しい人教えて❞

❝ゲート開通 → 偉い人が入る → ハイレーンのゲートに(はい)れーん → スウが救った ← 今ココ❞

❝あと物資はハイレーンから持ち出せないので、資源が持ち出せなくて大混乱❞

❝あらまー❞


 私はこの配信を一刻も早く終わらせたくて、地球に向かおうと要人に告げる。


「そ、それじゃあ、そろそろワームホール航行に入りますね」

「おおっ、さっきのゲート内のようなものを渡るのかな?」

「あの不思議な体験を、もう一度か!」


 要人さんたちが、アトラクションでも楽しむような声を発して笑っていた時だった。


 突然、メガネを掛けたイルさんがダッシュボードの上に ポン と現れる。

 するとイルさんから警告が入る。


『マイマスター、時空震を検知。MoB来ます』

「え」


 前方に、無数の波紋が浮かび上がる。


 私は叫んだ。


「こんな時にMoB!? 不味い、皆さん何かに掴まって下さい! ワームホール航行は一旦中止です!」


 ワームホール航行に入るには、暫く光崩壊エンジンの全エネルギーをワープに注ぐ必要があって、敵に襲われてる時になんか出来ない。


 私は、要人さんの分のパイロットスーツを買おうと思うけど・・・、


「パイロットスーツ――だめだ、銀河クレジットが足りない・・・・」


 ヴィックが私の声に反応した。


「パイロットスーツは私が買う、任せてくれ」

「い、一枚だけ、収納にあるんで使って下さい! デザインが女性用ですが、フリーサイズなので男性でも着れます! 要人のみなさんは、スワローさんにパイロット申請しておいて下さい――でも承認までは時間がかかるので、なんとしてもみなさんを守り抜きます!」

「OK!」

「じゃあ、できるだけGの掛からない飛び方を心がけますので―――」

「頼む!」


 現れたMoBは、ハーピィと――なんだ、初めて見る敵だ。


 知らないヤツは〝3つの顔〟だった。なぜか3つで一体な気がする。


「〖サイコメトリー〗」


 うん、やっぱりそうだ。

 というかMoBにも〖サイコメトリー〗は通用するのか――精神が有るから?


 顔には胴体手足がない、完全に3つの顔。


 私が3つの首に警戒していると、ウィンドウが表示された。


『ハプニングイベント、〝危険、デンジャーな奴ら〟を開始しますか?

⇨はい

 いいえ』


 逃げられないから はい も いいえ もないけど、とにかく ⇨はい。


 網膜に、敵の情報が映される。

 3つの顔の中心に名前が表示された。間違いなく3つで1体なんだ。

 ――ただ、表示された名前がおかしい。


 〝???〟と表示されている。


「イルさん。この〝???〟ってなに、もしかして未確認の敵?」


 司書の格好になったイルさんが本を取り出して、字を目で追う仕草をする。


『イエス、マイマスター。セントラルに照合データなし、近似MoBもなし。完全に新種だと思われます』

「完全新種・・・??」

『命名されました』


〝???〟が〝ケルベロス〟に変わる。


 3つの顔だからケルベロスか・・・こいつ――― 一体、何をしてくる敵なんだ。


❝こんな時に、何してくるか分からない新種とか!❞

❝スウたんマジで頑張ってくれ! 要人が怪我したり、死んだりしたら・・・❞

❝要人の人たち、プレイヤー登録してないんだろ? ・・・・死んだらどうなるんだよ! 復活あんの!?❞

❝ない❞

❝死ぬ❞


 私には読めないけど、色んな国の人のコメントが流れてくる。


❝Sue! Sana inanıyoruz. Başkanı sağ salim eve getir!(スウ! 貴女を信じています。大統領を無事に連れ帰ってください!)❞

❝Sen bunu yapabilirsin! Lütfen, dileklerimizi gerçekleştir!(貴女なら出来る力がある! どうか私達の願いを叶えて!)❞


 すると、後ろからトルコの大統領さんだろうか。

 彼が大声を出した。


「Sakin olun, vatandaşlar. Ben şanslıyım çünkü bu zor anı paylaştığım pilot mike Hanımefendi! Kader, bana yaşamayı buyuruyor!(国民のみなさん、落ち着いてください。私は幸運です。なぜなら、この困難な瞬間を共にしたパイロットはスウさんです! 運命は、私に生きるよう命じている!)」


 爆発するように、トルコ語ぽいコメントが一斉に流れる。


 さすがに義務教育しか勉強してない私に言葉の意味はわからないし、コメントもほとんど読めない。でも、私のやることは決まっている。


 スワローさんの細めにカスタマイズした操縦桿にキスをして、長い息を吐く。そしてコックピットの床をしっかりと踏みしめ。


(入れ―――ゾーン)


 緊張と焦りで嵐に揺らされる水面の様だった心の波が、静かになっていく。

 やがて水面は真っ平らになり、世界を鏡のように映す。


 ―――入った。


「発進します―――!」


 強く宣言して、スロットルレバーを前方に倒した。


 ワンルームの方からうめき声が聞こえたけど、非難の声はない。


 私は汎用スナイパーの1発ずつで、ハーピィを落としていく。弾丸も温存したい。


❝やっぱスウだわ、命中力も段違い❞

❝これなら行ける?❞


『マスター、ハーピィの(かず)を確認しました。総数、百体』

「ありがとう、イルさん」


 私は、続けてハーピィを撃ち落としていく。


「ふたつ、みっつ、よっつ―――」


 大丈夫、グランド・ハーピィですらない奴らに負けるわけがない。


 激しい飛び方は避けないといけないけど、ドッグファイトにも持ち込ませるものか。


❝なんか、今日のスウ調子悪い? 飛び方がいつもみたいにグルグルしてない❞

❝後ろに8人も乗ってるんだから、Gを掛けるわけに行かないんだろ❞

❝え、じゃあスウって今、縛りプレイ状態なの?❞

❝モデレイター(音子):やけど、スウなら大丈夫や! 必ず皆さんを地球に連れ帰ってくれる!❞

❝こちら防衛大臣、蜂田です。スウさん、申し訳ない。今応援を向かわせているが、到着までどうしても10分は掛かる。一般国民の君に、この様な事を頼むのは非常に心苦しい。しかし今は、君に頼るしか無い。頼む、各国要人の方々を無事連れ帰ってほしい!❞


 私は、ゾーンを乱さないように返す。


「はい」


 ワンルームからは殆ど声が来ない。私の集中を乱すまいとしてくれているのだろう。


「――じゅういち、じゅうに、じゅうさん」


 そこで、ケルベロスが不穏な動きをした。

 すこし、犬のような顔が波打つように揺れたかと思うと、

 短距離ワープした。


「な――っ」


❝ちょっとまて、こんな行動するモンスターは初めて見たぞ!❞

❝短距離ワープしたモンスターは、今までいない!❞

❝こんな時になんてモン投入してくるんだ、MoBは!❞


 ケルベロスの顔が、私を三角形の配置で囲む。

 そして、ピラミッド型の〝壁〟のようなものを形成した。


(不味い)


「――なにかに掴まって下さい、ちょっと荒っぽい飛び方をします。すみません!」


❝ぶつかる❞

❝ヤバイ❞

❝モデレイター(音子):あかん❞


 私はスワローさんの翼を変形させながら逆噴射、機首を上げてトンボ返りをした。

 そして後ろにいた、ケルベロス顔を黒体放射バルカンで滅多撃ち。


 ヤツは宇宙で爆散。

 この敵は、硬くはないみたいだ。


❝顔1個撃破!❞


 壁の2面が消えた。私はそこから素早く包囲を脱出。


 私は要人さんたちに、声を掛ける。


「大丈夫ですか!」

「Msスウ、大丈夫だ! 誰も怪我をしていない!」

「パイロットスーツが守ってくれる! 少々荒く飛んでくれても構わない!」

「はいっ」


 私はスワローさんの飛行にひねりを加えて、ケルベロスに向き直る。


 すると――


「え」


❝ウソだろおい・・・❞

❝止めてくれよ、こんな時に・・・❞


 ケルベロスの顔が〝3つ〟あった。


「再生持ち――・・・」


❝ドミナント・オーガみたいなヤツか?❞

❝そんなヤツ、どうしろってんだよ・・・・❞


 弱ったぞ、あんなのを恒星に放り込む手段はちょっと思いつかない。

 ドミナント・オーガと違って、宇宙空間でも自由に飛び回りそうだし。

 だいたい、恒星に落ちても転移してきそうだ。


「いや、まだ完全再生と決まったわけじゃない」

『イエス、マスター。あのサイズのMoBを完全再生するのは容易ではないはずです』

「じゃあ、何か倒す方法はありそう。イルさん、付近に怪しい物体はない? ケルベロスの本体とか」

『探知できません、恐らくコアのような物は存在しません。MoBにはレーダーが利きづらいので確証はありませんが』

「じゃあ、先ずはどれかの顔を倒せば再生が止まったりしないか試してみる」


 ケルベロスが弾幕を放ち始める。

 あまりパターンの多い弾幕じゃないし、弾数も少ないけど。好き勝手動くハーピィが、かなり邪魔だ。

 しかもだ、また面倒な事が起きた。


 私が機首をケルベロスに向けると――


❝転移した!?❞


 私はスワローさんで、他のケルベロスに向き直る。

 だけど、ケルベロスが転移してしまう。


「学習した? 機首を向けられたら攻撃が飛んでくるって――」


❝どうすんだよ、これ!❞


「――なら!」


 私は、逆噴射でハーピィと弾幕を躱しながら飛ぶ。


❝ちょ、なにして――❞

❝滑る宇宙で後ろ向きにドリフトしながら、敵と弾幕を躱してるよこの子!❞


「イルさん〈励起翼〉!」

『〈励起翼〉。イエス、マイマスター』


 イルさんの羽が、発光を始める。


「〈ドリルドローン〉!!」


『イエス、マイマスター!』

『ママ!』

『マザー、ぼくたちの出番かい』


「ポルックス、カストールあっちの顔を倒して!」


『任せて』

『お安い御用!』


 双子のドリルドローンが、左右に分かれて私が狙うケルベロスとは、別のケルベロスの顔に向かう。


 私は後ろ向きに飛びながら、〈励起翼〉でケルベロスに斬りつける。


 私とドリルドローンの2人で、同時に3体を撃破すれば――!


❝マジか!❞

❝実戦で使うことすら難しい〈励起翼〉を、後退飛行なのに見事に当てて、ケルベロスを撃破した!?❞


 だけど、ドリルドローンの方は駄目だった。


 カストールとポルックスがケルベロスの方を向くと、転移してしまう。


「なら―――」


 私は〈励起翼〉を左側だけ消す。すると、スワローさんが横滑りするように飛んだ。


❝うぉい!❞

❝スウたん、〈励起翼〉使ってる時、どうやって左右移動の微調整してるのかと思ったら――これが秘密かよ! 俺も真似し――たら激突するのがオチか・・・❞


 私は、横すべりしながら弾とハーピィを躱して飛ぶ。やがて、左にいたケルベロスに近づいたところで左の〈励起翼〉も再展開。


 機体が慣性で飛んで、左側に居たケルベロスに〈励起翼〉が突き刺さる。


(――撃破した! 残るは、右前方のケルベロス――いまので学習されたかも、どうやる?)


 私はワンルームの要人さんたちに、大声で話しかける。


「――すみません、ちょっと本当に滅茶苦茶な飛び方します。絶対どこかに掴まって下さい!」


 ワンルームから「了解!」「任せた!」という答えが返ってくる。


 私は横転しながら機首を〝下げ〟、ケルベロスにスワローさんの背中を見せたところで、ロケットエンジンをすべて下に噴射。

 背中を向けて、ケルベロスに突進。


❝背中なんかを向けて飛んで、どうするんだ!?❞



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