659 フーリの剛腕を見上げます
川の近くに着くと、人だらけだった。
河川敷や堤防、橋の上、見渡す限り人、人、人。
私が人だらけでちょっと立ち眩みを起こしていると、ふとフーリが河川敷に誰かを見つけて「ちょっと行ってくるわ」と告げて行ってしまった。
商売相手かな? フーリも忙しいなあ。
私達は橋の手すりにもたれて、みんなでさっき買ったソフトドリンクを飲み始めた。
みんなで一斉に飲みだしたのがちょっと嬉しくて、ニヤニヤしながら飲んでいると、アナウンスが始まった。
『この花火大会は以下の協賛により実現しました――神奈川県、平塚市――』
協賛が読み上げられていく、花火大会で協賛を読み上げるのって珍しいなあ――
『――横浜Aスターズ、湘南フェルメール、沖小路宇宙運輸、スウチャンネル、TV――』
ソフトドリンクを飲んでいた私達が、一斉に口の中のものを吹き出した。
全員で並んで、奇麗に弧を描いて吹き出して、虹ができた。
霧になったジュースが川の流れにさらわれる。
「はぃぃぃぃ!?」
「ちょちょちょ、これスズっちのチャンネルも噛んてるの!?」
「いくらズル姫でも、流石に花火大会はやり過ぎだろぉ!?」
アリス、チグ、みずきの驚愕。
だけどみずき待て、アンタもスウチャンネル所属やろがい。
「掠れた笑いしか出ない」
「あのお嬢・・・やりすぎ」
カレンとミカンも、表情筋のコントロール方法を忘れている。
「涼姫、フーリから話きいてたんですか!?」
「訊いてない訊いてない、初耳!!」
そこへしれっと戻って来るフーリ。
「アナウンスが流れたわね。今、各スポンサーに挨拶してきたわ」
「『挨拶してきたわ』!? いや、なにしてんのフーリ!? ねえ、これフーリが仕組んだんでしょ!?」
「もちろんよ、各所に話を持ち掛けまくって実現させたの。この花火はテレビにも流れるわ。沖小路宇宙運輸とスウチャンネルのいい宣伝になるわよ。花火中継の間に、スウチャンネルのCMをバンバン打つし。沖小路宇宙運輸とスウチャンネルの関係もきっちり流すわ、スズっちさん困ってたでしょ、『一杯ゲート作って欲しいって、お願いしたのが、私だってバレたらどうしよう・・・!』って」
今では結構遠い昔だけど、バレたら怖い事実ではある。
「い、言ったけど、それが理由!?」
「もちろんそうよ! さらに宣伝もできるのよ! ――って、そういえば、オルグスだけはゲート設置できなかったらしいわね。あんなバカな真似しなければよかったのに」
え、そうなの? オルグス――分裂して、すごく小さくなっちゃったけど。
フーリがさらに個人的な理由を口にする。
「あと、最近は屋台も減って寂しかったのよねぇ。母の故郷だし、『ちょっと盛り上げてみようかしら』と」
だけど花火大会だよ、そこまでする?
私は尋ねる。
「で・・・幾ら、・・・・幾ら掛かったの? ――花火大会なんて冗談で済まないようなお金が掛かるよね?」
「そうでもないわ、ウチの出資は1億1000万位だったかしら――まあ正直、花火大会の全てをスウチャンネルだけでも負担できそうではあったのだけれど、長く続けていくなら、いろんな所に美味しさも、負担も分散したほうが良いから――ウチからの出資は、沖小路とスウチャンネル合わせて1億1000万までにしておいたわ」
「しておいたわ・・・って・・・・いや、広告費用としては妥当なのかもだけれど・・・ええ・・・?」
この専務、やる事が豪快すぎない?
『さあ、みなさま。これより夜空を彩る織姫と彦星の恋模様、開幕です』
聞き取りやすい声の女性のアナウンスの後、
しゅ っという音の後、口笛のような音がなった。同時に2つの花火が上がった。
「まあ、小難しい話はあとにして、楽しみましょう。この花火は今日しか見れないわ」
「ですねぇ」「まあ、そうだな」「フーリがお金を振るう時の剛腕が滅茶苦茶なのは、今更やしなぁ」
フーリの言葉に、みんな言いながら夜空に注目した。
右に赤い花火、左に青い花火。
最後に黄金の花火が、中央に上がる。
美しく咲いた夜空の花
『天帝には織姫という、大変、機織りの上手い娘がいました。彼女の織った布は素晴らしく。五色に輝き、四季折々にも輝きを変化させるという物でした』
「5色つの花火が上がって」を4度繰り返す。
花火が咲くたびに、辺りに影絵を作り出す。
七夕伝説に合わせて上がる花火が、空を宝石箱のように飾る。
「ナレーションがあると、花火が物語を作っているのがわかりますね」
アリスが私を向いた気がした。
私は隣を観たけど、暗すぎて分からない。
『――こうして織姫と彦星は、互いに惹かれ合って行きました』
大きな花火が空を一気に明るくした。
赤い光が、アリスを染める。
私の心臓が跳ねた。
「奇麗―――」
「口説いてるんですか!?」
言ったアリスが空を見上げ直す。
「まったくもう」と、ちょっとプリプリしている。
『――二人は天帝の怒りを買い』
噴火花火が、下から一斉に湧き上がる。
『――川の両岸に引き離されました。星のベガ――織姫とアルタイル――彦星は、天の川を挟んで空に現れます』
左赤と、右に青の花火が上がって、その間に物凄い数の花火があがる。
無数の花火が、銀河みたいに輝く。
『――織姫と彦星の悲しみは深く、涙に暮れました』
ナイアガラと言われるタイプの花火が、涙のようにこぼれていく。
『――天帝は、あまりに悲しむ二人を不憫に思い、1年に1日だけ――7月7日に会うことを許したのです』
またも無数の花火が空を彩る。まるで天の川に橋が掛かるかのように。
『――さあ、今日を祝いましょう! 彦星と折姫、今日の二人が幸せに過ごせますように!』
織姫と彦星を祝福するかのように、次から次へと花火が上がる。
夜空に大輪の花が咲いていく。
「涼姫」
「え?」
アリスが私の手を握ってきた。
「来年も、このお祭りに来ましょうね! このメンバーで!」
「――あっ、」
私はアリスに向かって思いっきり頷いて、自分にしては珍しく歯をみせて笑った。
「うん! 約束!」
来年も来よう、みんなで!
アリスだけじゃなくて、みんなが一斉に頷いた。
やがて見上げた暗い夜空は、色とりどりに輝いていた。
だけど私は、おばあさんの予言の時が、刻一刻と近づいていることを、ぼんやりと考えていた。
「また、このメンバーで来たいな」




