657 懇願します
◆◇Sight:鈴咲 涼姫◇◆
「・・・も・・・もう、嫌だ・・・」
私の喉から震える声が出て――走り去ろうとした。
すると――腕を掴まれた。
止めて! ――離してよ、もう止めてよ!
私をもう、苛めないでよ―――!!
涙目で振り向くと、みずきが私の腕を握っていた。
みずきの顔を見ると、優しい眼で―――辛そうな瞳で、私を観ながら、首を振った。
すると少し慌てた様子のフーリが、私が自分の耳を塞いでいた手を、ゆっくり――やさしく解いた。
「ご、ごめんなさい、スズっちさん! ――ひ、否定しただけでスズっちさんが、そんな反応をするとは思ってなかったの!! ほ、本当にごめんなさい!!」
私は、涙が止まらない眼で怯えるようにのけぞって、腕を掴んでいるフーリから距離を取ろうとしてしまう。
もう止めて・・・・これ以上止めて・・・。
私、もうこれ以上トラウマは要らないよ。トラウマはもう、入らないよ!!
これ以上詰め込めないよ、もう無理だよ!!
「でも、スズっちさん、やっぱり違うわ! 私達、友達じゃないと思うのよ―――そこは訂正しないと!」
「わた、わた、わた・・・し。みんなを・・・友、友だち・・・だ、と」
鼻が詰まって、唇が震えて、うまく声が出ない。
フーリが目をつむって首をふる。そして――告げた。
「スズっちさん。違うわ――」
やめて、やめて! やめて!!
もう止めて、これ以上止めて!! 私の何もかも奪っていいから―――その先の言葉だけは、謂わないで―――聞かせないで!!
心臓が引きつる、血の気が引く、血管が冷たい。
世界が、肌を切り裂くように痛い。
音が遠ざかっていく。
お祭りの雑踏の声が―――ぼやけていく。
地面に立っている感覚がなくなる。
だけどフーリの続きの言葉は止まらない。
視界がパズルのように崩れていくのを感じていると、フーリが継いだ言葉は、
「――〝親友〟だと思うのよ、私達って」
「え」
一瞬、フーリが何を言っているのかわからなくて、私は停止した。
5秒――多分、そのくらい、息をするのも忘れて、言葉を理解しようとした。
そして、やっとフーリの言葉の断片を掴む。
――しん・・・ゆう?
「・・・親友・・・??」
「そ。この関係に名前をつけるなら、そっちの方が相応しくない?」
フーリが表情を溶かすようにして、眉尻も目尻も緩めた。
親友―――。親友!?
その言葉は晴天の霹靂――いや曇天を吹き飛ばす一陣の突風。
(それって―――!)
急激に、私の視界が輝いていく。
曇りがちだった世界が、一気に輝きだした。
「親友!? わ、私に親友!? ――い、い、いいの!?」
鈴咲 涼姫に、友達どころか親友だよ!?
そんなの、そんなの、そ、そんなの、そんなの!
フーリが微笑む。
みんなも微笑む。
「私、一生あなたとは、友達でいたいわ。――あっ、フーリのことだからお金の為に言ってる・・・とだけは思わないで。貴女が無一文になっても――そしたら『私の家においで』というくらいには、あなたと一生友達でいたいの」
「あ・・・そ、そんなに?」
「そんなによ」
するとチグが、私を抱きしめる。
「ビックリしたよな、スズっち。フーリもあんな勿体ぶった言い方して酷いよなあ――でも、私も変に笑ってごめんな」
「あーしも笑ってごめん。でもさ、スズも気づいてくれよ――ずっと前からスズの事、親友だと思ってたんだからな。気づいてなかったのかよぉ」
カレンが、私の頭を撫でながら、ちょっとだけ頬を膨らませた。
「ウチもとっくに親友のつもりやったのに。ホンマえぐいって、スズっちは」
みかんもちょっと口をとがらせた。
「そ、そうだったの―――? ――み・・・みんな・・・私がおかしかったの? 親友なんてあり得ないって思ってた私がおかしかったの!?」
「スズっちにとって友達って、それだけ重いことだったんだな・・・・本当にごめんな」
「あーしらには友達なんて、勝手になってるのが当たり前だと思ってたんだよ・・・・だけど、スズには違ったんだな・・・間違いなく親友だぞ、スズとあーしは」
私は涙が抑えられず、溢れさせて、あえぐ。
「あ、ありがとう・・・ご、ごめんなさい」
するとみんな苦笑い。
「スズっちだなぁ、そうかぁ」
「まあ、スズだし・・・・仕方ないもんなぁ」
「スズっちやもんなあ」
みんな許してくれる。
・・・ごめんなさい。
すると、アリスが微笑む。
「まってましたよ」
言って、私のおでこを押す。
「親友だと気づいてくれる、時を。――こんな荒療治は予想してませんでしたけど」
アリスはずっと・・・・待っててくれたんだ?
ごめんなさい・・・。
・・・そして、ありがとう。
みずきが、私に寄ってくる。
「涼姫、もちろん、わたしもだよな?」
「う、うん、親友!」
私が言って、頬を熱くして頷くと、アリスとみずきの二人が私に抱きついてきた。
まって、チグが抱きついて、そこにアリスが抱きついて、さらにみずきが抱きつくと、私が圧縮されてしまう。
「ぐぇぇ」
私が潰されたカエルみたいな声をだすと、アリスとみずきが慌てて手を離した。




