654 平塚につきます
アリスが、冷たい視線を放ちながらフーリを見て教えてくれる。
「涼姫、浴衣は入浴時に着る衣ではなく、入浴後に着る衣です。入浴時に着用する服は湯浴み衣です。別にあります」
「――フーリィ!?」
私がアリスに向けていた顔を、勢いよく巡らせてフーリに向き直ると、
「ちっ」
ヤツは舌打ちをした。
フーリは舌打ちをしてから続ける。
「でも、昔は本当に下着をつけなかったのよ? 浴衣を着る時、下着をつけなかった。これは事実よ。だから間違ってはないわ」
「え、そうなの? ――なんか、ごめん」
アリスが頭痛でもするように頭を押さえた。
「確かに昔は現代のような下着を着けませんでした。――そりゃそうですよ、今みたいな下着は無いんですから、当たり前です。その代わり別の下着を着けていました。それを着れば、現代の下着みたいな線も出ません。さっきのフーリの言葉に一切嘘はありませんが、『昔は浴衣を着る時〝は〟下着を』と言い直すと、途端に嘘になります。意図的に接続詞を取り除いていますね」
「――フゥリィ!?」
私がアリスに向けていた顔を、勢いよく巡らせてフーリに向き直ると、
「ちっ」
ヤツは舌打ちをした。
「貴女は何が目的なの!?」
私の詰問に、フーリは悪びれなく返してくる。
「もちろん、物凄い人混みの中『なんだかスースーする』とか言いながら恥ずかしがるスズっちさんを、プークスクス、ニヤニヤと眺めるためよ」
「貴様、敵か!?」
「というか」と言いながら、フーリがアリスを見る。
「アリッちさんなら、むしろ協力してくれると思ったのだけれど」
「確かに下着を着けてない涼姫というのは、惹かれる物がありますが」
「んなもんに惹かれるな! あなた女の子でしょう!! 下着を着けてない女の子に惹かれたら、いけないの!」
「バレた時に嫌われる可能性を思うと、流石に協力できません」
「残念だわ。――だけどスズっちさん、ブラは襟元から視える事があるから、特に大きい人は――」
アリスが、フーリにチョップする。
「いい加減にしなさい、邪悪」
放課後、江ノ電に揺られながら平塚に向かう。
灯り始めた街の明かりが、車窓に流れていく。
私は、車窓から暮れなずむ空に、一番星を見つけて呟く。
「ベガ(折姫)、アルタイル(彦星)ってバーサスフレームで行けないのかな?」
「無理ですね・・・ベガとアルタイルは地球から近すぎます。ベガは25光年、アルタイルは16光年でしたっけ」
「そ、そんなに近いの!?」
私の驚きにアリスが頷く。
「FLのワープって地球方向には飛べませんからね。こっちの地球から亜光速航行を使って飛べば、16年ほどかければ・・・到達できるかもしれませんが。やります?」
「やりません」
すると、みかんがスマホを取り出した。
「でも、前に記事で見たんやけど、プロキシマ・ケンタウリに向かって飛んでいる人おらんかった? 4.2光年だから、そろそろ到着するんやない? って言われてる人」
カレンが返す。
「しかも、たった一人で向かっているんだよな?」
私はちょっとびっくり。
「ボッチで4年も宇宙旅行? まじで・・・? す、すごい勇気だなあ」
「あったあった」
みかんがスマホを見せてくれる。『〝宇宙探検家〟いよいよプロキシマ・ケンタウリに到達か!?』なんて記事だった。
『ここ数ヶ月、連絡が取れなくなり心配されていた宇宙探検家ウイリアム・ジョンソンさんが――』
みたいな感じの内容。
「私なんか平塚に行くだけでも、心臓バクバクなのに」
「それは草なんよ」
みかんが私の漏らした呟きに小さく笑った。
その後、電車の乗り換えと同時に、みずきと合流。
かくしてみんなで浴衣を着る。
カレン、みかん、みずきの浴衣レンタル料金は、私とフーリで持った。
「なんで、配信で儲けてるみずきの分までやねん」というツッコミは、リッカに、一応フーリと二人で入れておいた。
というかみずきは私に浴衣を買わせた。まあ超カワイイ姿を見られたから許すけど。デュフフ。
涼姫さん、可愛い子に貢ぐのはやぶさかではないのです。
ちなみにフーリはみんなの集合写真を撮って、
「宣材にして経費で落とすから、問題ないわ。スズっちさんと、アリっちさんと、みずきさん以外の顔はわからないようにするけれど、スウの日常みたいな感じにして宣伝に使うから! ――いいわね? スズっちさん!」
と、反論できない感じで念を押してた。
ちなみに全員の浴衣の見た目を説明すると。
私は何故か似合いそうにない白地にピンクの花柄を着せられた。
そこにミントブルーのアゲハ蝶が舞っている。
さらにピンクの帯。
――派手だなあ・・・じゃあ今日は、アゲハ嬢な気分でいこうかな!
アリスは赤い生地に白い花が散りばめられてい感じ。そして優しい白の帯。
なんか――ザ・女、艶やかって感じ。
みずきは、桜吹雪。
といっても、桜花びらの入れ墨で悪人を黙らせるお奉行様みたいな感じではなく。
白地に、薄い桃色の桜の花びらが舞ってるかわいいもの。
私が買う時こっそり金魚帯(リボンタイプの帯――子供がよく着けてるやつ)にしようとしたら、危うく私の肘が、逆向きに曲がるところだった。
「私がお金出すんだからいいじゃん!」
「本当にそう思うか? 女子高生に小学生の格好させて、『お金を出すから良い』とか、とんでもないこと言うか? ヘンタイか、貴様」
「すみません」
平謝り。
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前回のあとがきの続きですが、順番を間違ったのものの「これで良かったのでは」とも思っております。
もしかして運命? 必然? とも思っております。




