650 ピンチになります
水素アフターバーナーを点火して、全力加速。
「時速1000――1100――1200――遷音速域に入るよ!」
「はい!!」
機体の振動が、激しくなる。
水蒸気の傘が、空翔テイルを覆う。
点滅するように傘ができたり消えたり。
やがて、
―――静寂―――。
音を超えた!
「ほ、本当に音を超えて飛んでます・・・・! 風が詰まってる」
「そのための、ジェットエンジンだからね! ――じゃあ、ちょっとGが掛かるから、筋肉を思いっきり締めて!」
上昇開始――、計器を見れば、ほぼ7G。私の限界Gだ。
私は綺雪ちゃんに〖質量操作〗を掛けながら、私も〖超怪力〗と〖怪力〗を使って、全力で筋肉を絞める。
重力加速が、私を押しつぶそうとしてくる。
「ぐぅぅぅぅ!」
「だ、大丈夫ですか、スウさん!」
「だ、大丈夫!!」
パイロットスーツが、私の足を思いっきり締め付ける。
このパイロットスーツにはダイラタンシーが入っていて、Gが掛かると下に溜まって、筋肉を締め付けてくる仕組みにしてある。
現実のパイロットスーツはGに反応して空気を注入らしいんだけど、現状で再現は難しいから。ワシが考えた。
酸素マスクを苦しくて外したくなるけど、外した瞬間にブラックアウトだ。
「んんんっ!!」
「頑張ってください、スウさん!!」
「大丈夫!! だけど酸素マスクが無ければ、気絶してた・・・! よし、抜ける!!」
カーブさえ終われば、一気に楽になる。
「――っふぅ」
『スウいけるか? 降下開始だ!』
マイルズからの掛け声。
『「ラジャ!!』」
3人で一気に下降。
『3、2、1――フォックス・ワン!』
『「フォックス・ワン!!』」
綺雪ちゃんがソニックブームを貫いて、スリップストリームを展開。
綺雪ちゃんのミサイルを先頭に、2つのミサイルが付いて行く。
今回は3発とも命中!
「ナイス、綺雪ちゃん!」
「で、できました!」
『アメイジングだ、綺雪!』
『本当にすごいよ、綺雪ちゃん!』
マイルズとマリさんも、べた褒め。
「う、嬉しい・・・!」
「あははっ、本当に凄いもん。綺雪ちゃん、パない」
バックミラーで見れば、綺雪ちゃん滅茶苦茶照れてる。
この戦い、綺雪ちゃんがいなかったらと思うと怖い。
ここでマイルズが唸った。
『しかし、しぶといな・・・・まだ撃破できないか。――ボクとマリ曹長は、ミサイルがあと1発づつか』
『4発ミスったのが、ちょっと痛いね』
『機関銃の弾もあまりないな――残り60発か。スウはまだミサイルは3発あるな』
「大丈夫」
『それで倒せたらいいが・・・・』
地上や、支援のレシプロ機からの攻撃もあるけど、目標が遠すぎるのと速すぎるで当たってない。
『よし、全員一旦上昇だ!』
私たちは、またも急上昇――って、え? なにこれ。
タイラント・ケルベロスからなんか、大量の緑に光る線が伸びていく。
なんかLEDみたい。
「ワイヤーフレーム?」
ワイヤーフレームみたいに展開されたそれは――か、壁になった!!
以前のケルベロスがやってきたピラミッド攻撃の大規模版―――!?
壁の生成とワイヤーフレームが追いかけてくる。
「不味い!!」
『上昇しろ!!』
マイルズの命令を待つまでもなく、私とマリさんは上昇を開始していた。
ダメだ、ワイヤーフレームが追いついた!
眼の前にも壁ができかかってる!
スロットルを下げる、エアブレーキも、全ての動翼も使って、速度を下げる。
「タービンお願いだから、溶けないで!!」
戦闘機の急激な速度低下は、タービンに大ダメージを入れる。
私は祈りながら「こうなったら全部使う」と、車輪まで下ろして、速度を下げようとする。
「スウさんの作ったタービンなんだから、大丈夫ですよ!!」
「信頼は嬉しいけど、私が作った物だから不安なの!」
手製のジェット機を、そんなに信用しないで。
私はエンジンの音を聞きながら、スロットルを下げるタイミングを決める。
「大量に空気が入った――温度が上がりすぎる。――少し速度を上げて・・・・空気が減った、今!」
こういう時に人型形態があれば良いんだけど、んなもん私に作れるわけがない。
推力偏向ノズルを動かして、上昇コブラ!!
なんとか、タイラント・ケルベロスの作った壁との衝突は免れた。
『ふたりとも無事か!?』
『こちらマリ曹長、無事だよ!』
『こちらスウ、無事!』
推力偏向ノズルが無かったら死んでたかも・・・・怖っ。
「人型になれなくても、せめて足だけでも欲しい・・・・足は、やっぱ飾りじゃない。――って、弾幕が壁を貫通してくる!」
『分断されたか・・・・ランチェスター作戦ができなくなったな。――ここからは各自、自らの考えで行動せよ!』
『ラジャ!』
「ラ、ラジャ・・・」
すると、優しい声がした。
『スウ、お前ならできる。ボクが保証する。不安になるな』
「あ、ありがとうマイルズ・・・」
やるしかない。
そうだ、戦闘機のパイロットは、一人一人が指揮官でもあるんだ。
私、自分を指揮しろ。
限りなく低速にしてタイラント・ケルベロスに向かう。
でも、これならもう、〖飛行〗だけで飛んだほうが戦いやすいんじゃ・・・?
――いや、限界まで戦闘機に乗っていよう。
なんだか、「飛行機を降りたほうが良いかも」って考えると、首筋が寒くなる。
――私の勘が、言ってるんだ。『戦闘機から降りてはいけない!』と。




