645 最適化します
「パ、パラメーターを勝手に書き換えないでくれたまえっ!!」
フレデリックさんは悲鳴を上げるけど、今はそれどころじゃない。
アイツに捕食されそうなんだ。
「貴方は戦闘員じゃないんでしょう、戦闘については黙ってて下さい!! 食べられたいんですか!?」
「ぐっ」
「エルロン、フラップ、エレベーター、ラダーもっと深く、反応も速く――」
「そ、そんなにフラップを戦闘中に下ろしたら・・・」
「折れるんなら、後で折れないようにして下さい! アフターバーナーもないのに動翼が折れるような戦闘機なんですか!? ――そんな貧弱な戦闘機じゃタイラント・ケルベロスは倒せません!!」
「そ、それは――あっ、トンボが正面から」
「見えてます! あった、これが可変翼の自動制御だ」
私は、デルタ翼モードで三角形になっていた可変翼のパラメーターを書き換えて、強制的にテーパー翼モードにして開かせる。
「ちょ、この速度でテーパー翼モードに!? 速度が消え・・・・」
「分かってます! アフターバーナーなしじゃアイツを速度で千切れません! なら運動性の高いテーパー翼の方が良いんです!」
私は、スナップロールでアノマロカリスの突進を躱す。
ドリルみたいな回転を始めるスタークーガー。
「うわぁぁぁ、なんだこの回転は!?」
「スナップロールですよ!!」
「なんだいそれは、聴いたこともない機動だ!!」
「スナップロールは、基本的に曲芸飛行ですからね!」
「曲芸!?」
私は、アノマロカリスの次の攻撃に備えるためスナップロールを停止させる。
フレデリックさんが、言って上を見上げた。
「ま、またトンボが直上に! ひぃぃぃ!!」
フレデリックさんは、また頭を抱えて悲鳴を上げた。
私はアノマロカリスの上からの突進を躱して、奴へ機首を向けようとするけど――駄目だ、旋回力が足りない。瞬間移動みたいに飛ばれたら機首が向けられない。
こうなったら・・・・、
「あの機動をしたいけど・・・・この自動制御のままじゃできない。――コードを追加しないと!」
「コ、コードを追加!? 無理だよ!! もう容量一杯まで詰め込んでいるんだ、これ以上入る余地は無い!! それは私たちが苦労して最適化した、美しいコードなんだ! もう何も入らない! ――それに君はなんで、この凄まじい回転を制御しながらコーディングしているんだ!?」
「慣れです!」
隙間がないなら、隙間を作る。
私は、簡素なキーボードでコードを無理やり打ち込んでいく。数値と分岐を、無理やり組み替えていく。
「このコードと、このコードを繋ごう」
「ちょちょちょ、整理してあるコードを滅茶苦茶に書き換えないでくれたまえっ!」
「あとこのコードは、パラメーターにできるな、ラダーの角度に使おう・・・」
「うわあああ、それは数値じゃなくてコードだ!」
「どうせ、どっちも数字です。このコードを逆から読ませて――」
「もう滅茶苦茶だ、子供の落書きみたいなコードになっちまった!! 汚すぎる。エレガントさの欠片もない!!」
「泥臭くても、勝てればいいんです!」
よし、コードができた!
同時、フレデリックさんが叫んだ。
「まただ、またトンボが上に来た!!」
私はスタークーガーを横倒しにする。
「き、君! トンボの攻撃は、まだ来てないよ!?」
そうして、ペダルを思いっきり踏み込む。
横薙ぎのGが私たちに襲いかかる。
「ななな、なんだこのG!? こんなの想定されてない!! なんだこの機動!?」
「逆回転、木の葉落とし―――!」
「日本の機動!?」
起き上がるように転がる、スタークーガー。機首が上を向いた。
「上ばっか取って、下から撃たれることは想定してなかったでしょ!?」
私は機銃のトリガーを握り込む。
弾丸が放たれる反動が、しばらく振動が機内を揺らし、アノマノカリスの頭が穴だらけになっていく。
そうして頭だったものがなんだったのか判別できない程に崩れると。
――アノマロカリスが空中で、ジルコンのように砕け散った。
「よしっ! スタークーガー、初白星! ――管制室・・・・」
「か、勝った? あんな滅茶苦茶な動きをするトンボみたいな相手に・・・?」
「いやー、さすがだ。テスト中の遭遇にも関わらず敵を撃破とは――それもかなりの強敵だったんだって?」
帰ってスタークーガーから降りてヘルメットを脱いだら、なんかヴィックに背中を軽く叩かれた。
「えっと、まぁ」
マイルズが笑顔で、竹の水筒を投げてくる。
慌てて〖念動力〗でキャッチ。
「お疲れ。フレデリックの奴、お前の操縦する飛行機には二度と乗らない、と言っていたぞ。かなり無茶をしたらしいな」
――んっ、爽やか!
・・・・あれ? 炭酸? ソーダの湧き水で作ったのかな?
「ちょっとスナップロールを」
「――いや、戦闘中に飛行制御コードを書き換えたそうじゃないか。『あんなトンボみたいな動きの相手と戦いながら、他所見とか・・・・』と、フレデリックが青ざめていた」
「も、もちろん敵も見てたよ・・・? 肌感覚で」
「・・・・鉄とアルミを通して感じる肌感覚とは、なんだ・・・?」
「こう、翼に当たる空気の揺れとか?」
「お前、だんだん綺雪みたいなことを言い出してるぞ」
「いや、風は見えんよ」
雨の日でもないと。
「まあ何にしてもお前が書き換えてくれたコードのお陰で、スタークーガーがずいぶん扱いやすくなったぞ。助かった。フレデリックはスパゲッティーをグチャグチャにかき混ぜながら、泣いていたがな」
「あはは・・・・謝っといて」
というわけで、私、マイルズ、マリさんのジェット戦闘機が完成した。
テストも十分ということで、いよいよボス戦となった。




