639 甘えさせてもらいます
ゾンビみたいに歩いてきたメガネの人が、震えながら私に言ってくる。
「O... Okay. W... Wait. Miles told me something unbelievable…(お・・・おう。ま、まってくれ。マイルズが信じられないことを言っていたんだけれど・・・)」
・・・え、英語やめちくり。
彼はまるで水中でジェスチャーをするような動きで、ゆっくり、ゆっくり動き、私に尋ねてくる。――なぜか私に落ち着け落ち着けみたいな動きをしてくる。
「Ah…um…y―you built this jet fighter? You’re Sū, right? And…you’re really a high school girl? (あ・・・あの・・・き、君が、このジェット戦闘機を本当に作ったの? 君は、スウだよね? 女子高生、だとか、本当に?)」」
「Y…Yes」
「That's impossible! Incredible! Unbelievable! You must be…extraordinary!! ――A…absolutely astonishing!!(あり得ない!! 信じられない!! 驚異的だ!! 君は、規格外すぎる!! ――きょ・・・驚天動地だ!!)」
相手が早口でビックリしすぎてて、最後の方、何言ってるか聞き取れない。女子高生のリスニング舐めんな。
私がちょっと引いてるので、相手が「ハッ」として、メガネを正した。
「Can you speak English?(君、英語は話せるかい?)」
「N…No(い、いいえ)」
私が答えると、メガネさんが停止した。
暫く間があった。
「Do you speak English?(君、英語は話せるかい?)」
「N…No」
私が念を押すようにもう一度言うと、彼はしばらく私の目をみて・・・。
だって自信ないもん!!
彼は目をつむって、顔を空に向けて・・・・しばらく何かを考えるようにしてから、近くのマイルズの肩を叩いた。
なんか英語で、「どうなっている。彼女は天才では?」、「あれが日本の普通の女子高生だ」「普通!?」「まあ、普通ではないが、普通だ。日本は英語がわからなくとも高等教育が受けられる。それなら母国語がいいに決まってる――」、「そ・・・・そういえば日本は――そ・・・そうか」とか話してた。
ま、まあ、言語は科学の基本だからね。英語を使わないで良いのは大助かりです。
――というかそもそも、言葉がわからないと科学はわからない。
日本語は難しいと言われるけど、それでも識字率は100%近い。言っちゃ悪いけど、母国語で高等教育を回せる言語環境がない国は不利。
科学を学ぶ前に、まず言葉でつまずく。そんな状態で発展しろって、ムリゲーに近い。
勉強でも、大概わからないのって「言葉や記号がわからない!」じゃない? こんなのが常にあると、科学の発展なんてできないんだよ。
だから言葉は大事。――アラビア数字なんて最たる例。現代の私たちは、アラビア数字があるから簡単に計算できる。――漢数字やローマ数字で数学しろって、何の拷問。
言語がわかるって、日本人は当たり前に思ってるけど、言語によっては、科学を表すのが難しいものもあるんだ。
つまり『ヤード・ポンド法死すべし慈悲はない』。
先人に感謝。日本語を高性能な言語にして、各国の言語の良い部分を組み込み、科学を母国語に訳して、早々に尺貫法をメインストリームから遠ざけてくれた皆様ありがとう。
世界中どこでも、科学の発展には言葉が大切だ。と、手記には日本語で書かれている。
とまあ、ここまでの前置きとか全部、私が英語で話したくないことへのただの言い訳で!
日゛本゛語゛で゛は゛な゛し゛て゛ー゛ー゛ー゛!゛
だって頭良いんでしょーーー!? 英語で話したくない! 英語で話したくない! 私の言語負担減らしてぇぇぇ。
私、女の子なの、紳士してぇぇぇ、甘えさせてぇぇぇ!
私が心の中で叫んでいると、メガネを掛け直した男性が、日本語で話してくれる。
「す、すまなかった。私は何か先入観を持っていたようだ。日本語で話そう。――君、すごいよ、降参だ! 私がやりたかったことを全てやっている! ・・・・っと、申し遅れたけれど、私はフレデリック・グリーン大尉だ」
日本語で話してくれてよかった! 私、女の子で良かった! 女の子だから日本語にしてくれたのかはよくわからないけど!
にしても、この人がフレデリックさんだったのね。何度も名前を聞いてたけど、姿は見たことがないと思ってた。すでに出会っていたんだ。
「え、えっと、スウです」
配信中なんで、本名は言えない。私は続ける。
「わ、私、飛行機は好きでして、〖サイコメトリー〗で完全記憶ですので」
「なるほど・・・・どうやって材料を?」
尋ねられたので、論より証拠。私が魔術で材料を作り出してフレデリックさんに渡すと、彼は材料を一瞬太陽にかざして、また大興奮。
「本当にニッケルにコバルト、それにチタンだ!」
まって。
「どうやって見分けたんですか?」
「比重と、色だよ?」
「手で重さを?」
「そうだよ?」
神の手の持ち主だった。




