611 最大のピンチを向かえます
ジュウゾウさんの頑張りもあり、どんどん作られていく発電施設。
とりあえず暖が取れればいいので、滅茶苦茶高い発電力は必要ない。
発電施設があらかたできたんで一旦拠点に戻ると、一面雪景色だった場所の様子が、すっかり様変わりしていた。
大きな拠点が幾つも建てられ、火も起こされ、土の地面が視えている。
その向こうでリイムがかまくらを、くちばしと翼でペタペタと一生懸命作ってる。
さらにその隣で、リッカ、綺怜くん、リあンさんが雪合戦してる・・・。
リイムが頑張ってるのに、あの人間たちは・・・。
リイムとかまくらを作っていた綺雪ちゃんに「手伝いなさい」と怒鳴られて、ショボーンとする三人。
呆れる私の鼻腔を、香ばしい匂いがくすぐる。
そろそろ夕食も出来るのかな。
そんな風に気を抜いていた時である。
「スウさん、後ろ!」
アリスの叫び声に反応して背後を振り返ると、月の輪熊みたいなサイズで腕の長い猿が、私に駆けてきていた。
私は腰の後ろの拳銃を抜こうとして、もう弾丸が無いのを思い出す。
「まず――」
私は急いで投石索に鉄球を込めて、頭上で回し始めた。〖超怪力〗。
そして迫ってくる巨躯を持つ猿を止めようと、〖念動――。使おうとした瞬間、猿がサイドステップした。
ちょ――〖念動力〗を避けた!?
猿の巨体がこちらに迫り――猿が、長い腕を伸ばしてくる。まるでナイフのような爪が生えている。
投石も、間に合いそうにない。
――どうする!?
このままでは、あの鋭く長い爪が私の喉を掻っ切りそうだ。
「――どう・・・・」
私は咄嗟に、迫る猿の手を、回していた投石索をブラックジャックの様にした。
〖超怪力〗で高速で回されていた鉄球に手をしたたかに殴られて、猿の顔が苦痛に歪んで奴は後ろに飛び退いた。私はその瞬間、投石索を解放。
パン
という破裂音がして、猿の頭が無くなった。
猿が仰向けに倒れて、雪原に血の花が咲いた。
コンパウンドボウを構えていた自衛隊員さん達が、コンパウンドボウと矢を仕舞いながら笑う。
「あ、相変わらず――支援がいらないとか」
「あのデカい猿を、あんな細い腕の投石で一撃とか・・・俺の上腕二頭筋が泣いてるぜ」
するとリッカが、腕を組んで「ウンウン」と頷いた。
「今の投石索を鈍器にして使うのは良かったぞ。最早、お主に教えることはない」
武術の事は、何一つ教えて貰ったことないのに、なんか後方腕組み師匠面されてた。
この後美味しい夕食に舌鼓。でも猿は食べなかった――霊長類の肉は、なんとなく、みんな食べたくないという意見の一致で埋葬された。共食いに近い事をすると、健康に悪いかもだし。
そしてニッケル電球で温められた部屋で就寝。――ところが次の日、大変な事態が発覚する。
私が焚き火近くに隊員さんが作ったテープルで銃弾を作っていると、アリスがフラフラしながら近寄ってきた。
そして顔色悪く告げる。
「スウさん不味いです」
「どうかしたの?」
これは、相当悪いニュースのようだ。
アリスが私の向かいの椅子に崩れるように座り、頭を抱える。
そして小さな声で呟いた。
「明日・・・・始業式なんです」
「・・・・え・・・」
私の脳はその情報を、必死で拒否しようとしている。
――いやまって、私の聞き間違いじゃないの?
「アリス・・・・いまなんて・・・?」
「明日、始業式です」
「mjd!?」
マジだった、トゥルーだった。聞き間違いじゃなかった。
私は側に置いたバックから木片を取り出し、傷を数えた。毎朝一本ずつ傷つけ、日数をカウントしてきた木片だ。
ひふみ――間違いない、本当に明日は9/8だ――始業式だ!
ヤバい、本当にヤバい。80層の攻略を始めて、もう一ヶ月経っちゃったの!?
今までで最大のピンチかもしれない!!
この惑星からは一週間に一回しか帰れないのに、学校と往復なんて出来ない――このままじゃ攻略リタイヤになっちゃう!
「学生の弱み出たぁ」
私が言って項垂れると、自衛隊員さんが・・・遠くで「あちゃー・・・」という顔になっている。
話を聞きつけたのか、柏木一佐が私の右向いに座った。
「スウくんがいなくなるとなると、戦力の低下は免れないな」
ヴィックが左向いに座る。
「よし、なら外交筋で圧力――」
「ヴィック! そう、すぐに圧力を掛けようとするのを自重してください!」
私が言うとエレノアさんがやって来て、ヴィックにチョークスリーパーを掛けた。
「でありますよ、大佐」
ヴィックが顔を紫色にしながら、「ギブアップ」とエレノアさんの腕をタップしている。
しかし慈悲はなく、泡を吹いて意識を失ったヴィックがエレノアさんの活入れで目を覚まして、平然と話に戻る。
え、・・・・上官を絞め落としていいの? ここのUSSF。




