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54 地球の命運をにぎります

◆◇◆◇◆




 シミュレーターで、アンティキティラを体験しておいた次の日。

 私は、アリスとスワローさんで宇宙名所めぐり配信をしていた。


 今はカリーナ星雲に向かっているところ。

 地球の2000年代を生きる私達の時代から200年前くらいに、ちょっと爆発した恒星なんだよね。


❝スウたん、ボス退治ありがとね。これでまた資源採掘できる❞

❝まさかの世界中から集まった200人が全滅だもんなあ❞

❝なのに、スウさんたちはたった4人で倒してしまうんだもんなあ❞


「音子さんとかも手伝ってくれたからですよ」


❝『ウチはもうずっと、唖然とスウを眺める役やった』って音子さんがいってたよw❞


「・・・そんな」


 コメントと会話しながらワープ航行していると、アリスがスマホをだして私に訊いてくる。

 でも、あれ? アリスは黒いケースにスマホを入れてた筈なのに、今はピンクだ。


「スウさん、スウさん。わたしフェイレジェ用に、新しいスマホを買ったんですよ。新発売の軍用スマホで、プレイヤー用バージョンです。IP79。完璧な防塵、防水です」

「ぐ、軍用スマホ? そんなの有るんだ?」

「はい。フェイレジェの通信対応、長時間バッテリー、光量の強いライト、完全防水、完全防塵、タンクローリーが踏んでも壊れない、対ショック、電磁パルス対策と、プレイヤーなら欲しい機能がいろいろ付いてます」

「すごい・・・私も欲しいかも・・・」


 にしても・・・・電磁パルス対策って。


「それで、また電話番号を交換しませんか?」

「そ、それは可及的速やかに!」


 アリスのフェイレジェ用スマホの電話番号が無いなんて、スマホの価値が半分しかないじゃないか!

 アリスがスマホを操作しながら、ちょっと微笑む。


「このスマホでの、初めての電話番号交換です」

「えっ!? ホントに!? でゅふふ・・・」


❝おーい配信中だぞ❞


 おっと・・・配信してるの忘れてた、考えが銀河の彼方に吹き飛んでた。

 私は配信に映らないように、QRコードでアリスとIDを交換した。


「ふう、」


❝なんか賢者がいる❞


「九死に一生を得た」


❝どんだけ必死やねん❞

❝友達の電話番号が死活問題とか❞


 私が安堵しているとアリスが、なにか尋ねていた。


「じゃあ、ちゃんと電話が掛かるか試していいですか?」

「うん」


 私は安堵感からか、何も考えず相槌を打った。

 しかしこれが不味かった。

 私は、とても重要な事を思い出す。


(え? ――ちょっと待って? ・・・・私のスマホの着信音って確か好きなアニメのOP――)


「――あ――ちょっ、まっ!!」


 スワローさんのコックピットに、アニメのオープニングBGMが流れた。


❝随分古いアニメのオープニングじゃねえかw❞

❝胡蝶のバタフライエフェクトwww❞

❝圧倒的乳揺れアニメ❞

❝俺の嫁が、萌え豚すぎる件❞


「こ、これは!! 違うんです!!」


❝おい、アリスたん逃げろ。胸を狙われているぞ❞

❝つかこの間アリスの方が、スウの胸を嬉しそうに揉んでたけどな❞

❝だよな、胸はスウたんの方が遥かにでかいだろ。スウは自分の揉めばいいだろ❞

❝男子、分かってないなあ❞

❝まあ、一式 アリスはその点は大丈夫だろ❞

❝だな❞

❝その点についてだけは心配ない❞


「コメントの皆さん、どういう意味ですか!?」


❝ト、トップモデルらしい体型だなあと!❞

❝ひ、貧乳は正義だから・・・❞


「誰が、胸がのっぺらぼうですか!!」


❝言ってない言ってない、そんなコメント何処にもない!❞

❝ホタルマルブリンガーを抜こうとしないで!❞


 アリスが、存在しないコメントにキレてる――怖い。

 やがてアリスは怒りを収めて、ホタルマルブリンガーの柄から手を離して、ワープ終了までのカウンターを見る。


「まだ随分時間がありますねえ」


 アリスはスマホを、無重力で回転させて安定させた。


「では歌います、アニメ『胡蝶のバタフライエフェクト』オープニング主題歌――『もう会えない君へ』」


❝ぶはははははは❞

❝スウたん晒し者www❞


「アリス!? ――やめて??」

「〽硝煙の中で呼吸した

奏でる終わりのアムネジア

かすれる記憶の作成者

伝える私のモンタージュ

卒業写真のマグショット

忘れはしない 君は誰?

(でたら)めに蝶が舞って 嵐を起こす~♪」


「やめてってば、アリス!!」


 アリスのスマホから大音量で流れるカラオケ。

 熱唱するアリス、無重力で乱れ舞うアリス。

 綺麗だけど、美しいけど!!


❝一式さんのライブ始まった!!❞

❝踊りも完璧!❞


 その後もアリスは、私の好きなアニメの主題歌を次から次へと歌っていった。

 ねえ、なんでこの人私の好きなアニメ把握してんの? なんで歌えるの、なんで踊れるの!?


 やがてワープ航行が終了。

 見えてきた――て、まって星雲が殆ど無いじゃん!!

 私が以前インターネットで見た星雲の形とは、ぜんぜん違う物がそこにあった。


 アリスが、バスガイドのように右手を挙げてカメラに微笑む。


「右手をご覧下さい、あちらがイータカリーナです。イータカリーナは西暦1840年に軽く爆発し、近々超新星爆発(スーパーノヴァ)よりすごい極超新星爆発(ハイパーノヴァ)を起こすと言われていました。それでも数万、数十万年単位の未来の話だったのですが、どうやらフェイレジェのイータカリーナの中央に有った恒星は、あの通り極超新星爆発を起こしブラックホールと化したようです」

「なにを呑気に、ブラックホールとか言ってんの!?」


 なんでこの人、こんなに動じ無いの!?


 宇宙に浮かぶ〝真っ赤〟な宇宙を背景に、〝真っ黒なレンズ〟のような天体。

 巨大な円盤を持ち、上下から恐ろしく眩しいジェットを吐き出している。

 私は震え、冷や汗をかく。


「やばい、やばいやばいやばよアリス、めちゃくちゃやばい! あれに捕まったら、一巻の終わりだよ!!」

「大丈夫ですよ、事象の地平さえ超えなければ、ワープ航行で逃げ出せます」

「じゅ、重力に捕まったら一瞬で終わりだって!! 逃げてる時間なんて無いよ!!」


 私はとりあえずブラックホールから遠ざかりながら、泣く。

 アリスが私の悲鳴を無視して、カメラに微笑む。


「ちなみに超新星爆発では、通常なら崩壊しない鉄原子すら崩壊します。これが鉄の光崩壊で、フェイレジェのエンジンは、この鉄の光崩壊を起こすエンジンなのです!」

「ゆ、悠長に解説しないで!?」

「ごくごく小さな光崩壊ですけれども。それでも、途轍(とてつ)もない熱量が生まれます」


 私はアリスの豪胆ぶりに恐怖しながらも、一応ツッコミを入れて、とにかくハイレーンに帰ろうとワープ航行の準備に入った。

 だってね、今も逆噴射してないと、座標がどんどんブラックホールに近づいてるんだよ。


「まあ、急いで帰ったほうが良さそうですね」

「紛れもなくその通りだよ!!」


 だけど、ブラックホールを見ながら思う。


(・・・・アイリスさんは、あれよりはるかに巨大なブラックホールの中にいる筈なんだ。どうやって助け出したら良いんだろう)


 地球の科学の常識では、ブラックホールからは絶対に出て来れないってなってる。

 救い出す方法なんかあるんだろうか・・・・? ――いや、見つけないと。

 命理ちゃんと約束したんだから。


 でも、今はとりあえず目の前に迫った危機から逃れないと、約束もクソもない。

 私は帰路のワープ航行を開始し、ワープ空間に入った。

 ここまで来れば安心と胸をなでおろしていると、アリスが「そういえば」とスマホを取り出した。


「よかった。ブラックホールの電磁波を受けても、わたしの軍用スマホは無事のようです」

「え? ――あ!! そうだよ!!」


 私は自分のスマホを取り出す。

 電源を点けようとしても、ウンともスンとも言わない。


「・・・・アリス」

「軍用スマホに買い替えますか?」

「・・・・うん」

「出発前に気づかなくてすみません」

「だいじぶ。自分のせいだから」


 私が自分の愚かさに涙目になっていると、急にアナウンスが流れた。


『フェイテルリンク・レジェンディア・オンライン運営からのお知らせです。以前お伝えした、3章開始プレゼントに関する情報の、第1弾速報です』


❝お、謎運営からお知らせ来ちゃ❞

❝運営さんよー、今回は『量産型・スワローテイルをプレゼント』なんて止めてくれよ・・・w❞

❝スワローテイルとか乗りこなせるの、スウたんしかいねーんだから・・・www❞


 アリスやコメントが、プレゼントの話で盛り上がる。

 スマホが壊れて泣いていた私も、ちょっとワクワクする。


「何くれるんだろうね?」

「楽しみですね」


『まずプレイヤー全員プレゼント、今回は選択式となります』


❝前回の反省が生きてるwww❞

❝さす謎運営❞


『プレゼントは三択。BG‐16ブリガンダインもしくは、SP‐88シプロフロート、または30万勲功ポイントから選択下さい』


❝勲功ポイント30万プレゼントって、太っ腹だな❞

❝でも、現物の方が価値が高いぞ。ブリガンダインが騎士みたいな見た目の盾役メカで50万勲功ポイント相当❞

❝シプロフロートはヒーラータイプの機体で、60万勲功ポイント相当❞

❝人数が足りてない盾役とヒーラー役を、増やしたいんだろうな❞

❝そういえば、なんで盾役とヒーラー役を分けてるんだ? 盾役が自己ヒールできればいいじゃん❞

❝分けてないよ、バリア持ってるヒーラー機とかある。盾火、盾治とか火治とかいろんな組み合わせの機体があるけど、やっぱ特化してる機体の方が強いんだよ❞


『次は地球の皆様すべてにプレゼントとなります。以前から要望のあった一般地球人の皆様がフェイテルリンク・レジェンディアの惑星ハイレーンへ転移できるゲートを、今回の記念で、1つ設置させて頂きたいとおもいます』


 あっ、前々から噂になってたやつだ。

 一般の人がフェイレジェ行って何するんだろう? 生産職みたいな感じになるのかな? なんかクラフトしたり、資源採掘したり?

 レプリケーター使えるだけでも大分凄いけど。

 「フェイレジェにも生産職登場かー」なんて思っていると、コメントが騒がしくなった。

 

❝まてまて、ゲート設置って――大変なことにならない? 設置された国は凄まじい利益を得る筈❞

❝どういう事?❞

❝宇宙の資源を簡単に地球に持ち込めるようになるから、様々な資源の産出国になれるんだよ❞

❝もちろん、沢山の国の人がゲートを通ってフェイレジェに行くだろうから、観光資源もやばい❞

❝物も人も出入りしまくって、その利益はゲートを設置した国が思いっきり享受すると思う❞

❝とんでもない経済効果を出しそう、地球のパワーバランスが容易に傾くほど❞

❝いや、経済効果だけじゃない。チョークポイントっていう経済でも戦略でも重要な場所があるんだけど、それを無視できる可能性もある❞


 な、なにそれ・・・メチャクチャ重要じゃん。どこに設置するんだろう? ――とか、私は〝一大事だ〟とは理解しながらも他人事だと思っていた。

 だけど続いた謎運営のアナウンスに、私は凍りついた。


『つきましてはフェイテルリンク・レジェンディアを、第2章〝潜伏〟に導いたIDマイルズ様にも特別なプレゼントを致しましたが。今回も同じ様に致します。設置箇所は、フェイテルリンク・レジェンディア・オンラインを第3章〝それはきっと奇跡の始まり〟に導き。さらに重要NPPを救い出したプレイヤー、ID名スウさんに決めていただく事に決定しました』


 時間が止まったかと思った。


 コメントも止んだ。

 アリスも絶句している。


❝いや❞

❝まって❞

❝え、これって❞

❝スウさんが、地球の命運を握るゲートの設置箇所決めるってことで良いんだよな?❞


 私は、困惑しながらコメントに訊ねる。


「ま、まってください、ゲートの設置場所ってメチャクチャ重要なんですよね!? 地球の命運を握るほどなんですよね? ――というか何をしてくれるんですか、謎運営!」


❝Missスウ、大した問題ではない。だから人種の坩堝(るつぼ)であり、様々な人種が恩恵を受けられる、ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカに設置するんだ❞

❝流石にその嘘は無理があるよ、ジェームズニキ❞

❝だよなあ・・・❞

❝んだ❞


 私は頭を抱える。


「う、運営は、地球の命運を、私に決めろと―――!?」

「ちょっと不味いですね」


 アリスが呟きながら、私を心配そうに見た。

 運営から最後のアナウンスが入る。


『ゲート設置日時は、ハイレーンでは元旦であり、地球時間では一ヶ月後の6/28正午を予定しております。それまでは、ゲート設置予定地の変更が可能です。これからも、フェイテルリンク・レジェンディア・オンラインを、よろしくお願い致します』


❝Missスウ、世界各国が君の争奪戦を始めるぞ❞

❝運営はこれをスウたんへの感謝の証とか、本気で思ってそうな所がタチ悪いな❞


 どうしようどうしようどうしよう!


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