580 あいどんのー(しりません)ます
ジュウゾウさんがお酒の香りを嗅いて、膝を叩く。
「これは、パイン酒か!」
なるほどパインか。カルデラのは私がだいぶ収穫しちゃったけど、他の場所にもあったんだろうね。
ちなみにカルデラで収穫してたから、ヒ素大丈夫かな・・・ってちょっと焦った。〖毒無効〗で良かった。
あ、ジュウゾウさんとヴィックの話が始まる。
というかどんどん弾んでる。
「ほう! ジュウゾウさんには、苗字にも〝時〟を示す文字が」
「そうじゃ。そしてワシが時計職人になるのを決めた、60年前のあの日じゃが、――ワシの苗字を呼ぶ、可憐な少女が現れてのう――彼女は自分を、オークだと名乗ったんじゃ。・・・・彼女は、ワシに時計技師を目指せと言ったんじゃ。確かにあの頃、日本初の腕時計が発売されてな・・・ワシも時計に興味が芽生えておった。しかし、あの日は奇妙な日で、ワシはオークの少女に『貴方に、妹のような存在が生まれる』と言われ、『いや、知り合いに妊娠している者なぞおらん』・・・などと思っておったら、立花さんの所の七草兄さんの嫁さんが懐妊が分かってのぅ――運命かと思ったのぅ」
「オークといえば、あの醜悪な?」
「いや、彼女には確かに獣の耳があったが、・・・・実に美しい娘じゃった――こうして生まれたのが、みずきちゃんの婆さんハナじゃな」
「みずき――Msリッカですね。凄まじい侍の」
「そう、そうじゃ! どうじゃ凄いじゃろう、みずきちゃんは!」
話に入れそうだが、入らない。――それが涼姫クオリティ。
「じゃあ、私、これで」
「っと、スズ、もう行く――ああ、そうだね。うん・・・またね」
ヴィックちょっと寂しそうだったけど、コミュ障な私はとっととラナウェイ。
ちょっと後ろ髪引かれる思いで甲板に出た私に、大きな声が聞こえた
「|What the heck(なにやってんだこれ!)」
FPSとかで、外人さんから、たまによく聞く「|What the fu*k(『なにやってんだお前ェっ!!(怒)』)?」 ――かと思ったら、ちょっと違ったな。なんだろ?
声の方を見れば、大砲みたいな望遠鏡を昼間に北へ向けて覗く、眼鏡の男性。
そ、そういうことね。
「避難避難っと」
だけど、足音を察知されたのか、
「Huh? …Hey Hey Japanese Girl!(ん? ・・・ちょっと、ちょっと、そこの日本のお嬢さん!)」
この船には、日本の女の子なんてそこら中にいる。私じゃない。
「Hey Hey Japanese Girl!! You're Sū, right?」(まってまって、日本のお嬢さん!! 君、スウでしょ?)
いえ、人違いです。
「Hey, listen to this! I just looked through this telescope - I saw Polaris. In the daytime! That should be impossible!(君、聞いてくれ! 今この望遠鏡を覗いたら、北極星が見えたんだ! 真っ昼間にだよ! ありえない!)」
付いてきてる付いてきてる!
「Hey - what is this black coating made of? How did you make this under survival conditions!!(君、この黒いコーティングはなんなんだ――どうやって作ったんだ! こんなサバイバルの中で!!)」
すごい早口で付いてきてる!
「You know, don’t you! Please. Tell me!!(君、知ってるだろう! どうか教えてくれ!!)」
「I don't know!(しりません~!)」
スタコラさっさ!
あと甲板で、みずきと楓ちゃんが軍人さんに剣術教えてた。あの姉妹、戦闘のプロに戦闘教えてるの? なにそれ怖い。
という訳で、与えられた自室に籠城。やはり自室から、あまり出るものではない。
ちなみに相部屋とかじゃない。みんなは相部屋だけど、私だけ特別に個室にしてくれた。ヴィックったら、もう完全に私の扱い方心得てる。
そして、その夜。
甲板でアリスと隣り合い一緒に膝を抱えて空を見上げていた。
「凄い星の量ですね」
「だねぇ――さすがバルジ。よくこんな中で北極星を憶えられたね」
「あー、見つける方法が有ったんですよ。あそこに目立つ星が有るじゃないですか」
アリスが指を指す方向には物凄く明るい星が。
「メチャクチャ明るいね。地球のどの一等星より明るい」
「で、あっちにも明るい星があって、あそこにも」
「うんうん」
「あの3つの星を、涼姫座と呼ぶことにします」
「呼ぶな」
「じゃあスウ座で」
「有情」
「で、3つの星で三角形を作り、垂線を作って垂心を見れば――」
「あっ、北極星がある!」
「そういう事です!」
「これは、みんなにも教えてあげたいね」
「ですね!」
「元々星座って、こうやって星の配置を覚える為に有ったんだろうね」
「あー!」
「じゃあ、次は季節をわかりやすくするため、黄道星座を決めようか! 1年は360日だから、12ヶ月で12個の星座を決めよう――今日は6個かな?」
「いいですね! じゃあ、そろそろ夜の16時ですから、あの真南にある星座を決めましょう」
「アリス座!」
「あははっ、じゃあ隣はリッカ座ですかね」
「その隣はリイム座!」
「その隣はオックス座です」
こうして、黄道12星座の6つはクレイジーギークスのメンバーになってしまい。
後にアリスが配信で言って、そういうことになった。
星座を決めたあと、私がベッドで揺られ、眠りに就いていると――、
ウーウーウー、カンカンカンという音が鳴り響いた。
「手回しサイレンと、警鐘?」
さらに、船の各所に固定されている拡声器で女性の声が聴こえてくる。
『敵影有り、人型2! ――各位、戦闘配備!! 各位、戦闘配備!! ――これは訓練ではない! ――繰り返す、これは訓練ではない!』
一大事っぽい!




