51 ファンタジー世界でドッグファイトします
私達がエモリアという場所を目指していると、細いプラナリアに、ダブルデルタ翼が生えたような見た目の白い戦闘機が向かってきた。
なんかアーティファクトとか言われている戦闘機で刺客が現れたのだけれど、彼らの搭乗機が練習機のホワイトマンだったのでアリスと私で呆れていた。
ホワイトマンと言えば、スワローテイルといい勝負の最弱機体である。
ホワイトマンという名前は「まっさらから始める」みたいな意味の機体だったと思うけど、プレイヤーからは、「白と人」で素人と呼ばれている。
「ただまあ、こっちもスワローテイルなんだけど」
「わたし的には普通の人が乗るスワローテイルと、〝スウさんの乗ったスワローさんとは別物だ〟という主張をしたいです」
コメントにも同意という意見が流れていく。
私が流れるコメントを観ていると、配信に映った侍女さんが、涙まで浮かべていた。
「神よ! 神よ! お優しき姫と、無辜の民をなぜお救いくださらないのです! ――神よぉぉぉぉぉぉ!!」
床に突っ伏して、号泣までしてしまっている。
❝いや、神さんは姫も民も君らも見捨ててないと思うけどなあ❞
❝むしろ救い主を遣わしてね?❞
(お姫様や侍女さん――そして騎士さんも、7人は本当にいい人なんだな。――必死なんだ)
私が軽い気持ちで関わるのは悪い。力を貸すべきだと決めたのだから、この人たちを確実に侯爵家へ送り届けよう。
「大丈夫です・・・任せてください! ――皆さん何かに掴まっててくださいね、あんまり無茶な飛び方はしませんけど」
私はスロットを前に倒して加速。
僅かに後ろから「きゃあ」とか「うわ」とか「姫!」とか聴こえた。
「ご、ごめんなさい本当に何処かに掴まってて下さいね!」
私が謝ると、アリスが「〖重力操作〗」と言って、スキルを使った。
騒ぎが少し止む。
「アリス、ありがとう」
「いえいえ。まあ一人ずつしか守れないんで、そこは気をつけて下さい」
「りょ――」
私は、背後の頭上に座っているアリスに尋ねる。
「――敵の機体さ、帝国時代の古い機体って事は黒体塗料とか黒体放射系の武器あるのかな?」
「無い可能性が高いですね」
私の疑問にアリスが答えてくれている間に、相手が大昔の〈レーザー〉らしきものを撃ってくるけど、スワローさんに塗られた黒体塗料が熱を吸収してしまう。
吸い込んだ熱は、スワローさんのエネルギーとして充填されていく。
私は試しに〈励起バルカン〉で、中央の機体の翼を打ち据える。もちろんコックピットには絶対当てない。
〈励起バルカン〉は効いたみたいで、
『な――うわああああああ!』
光の速度の攻撃を躱せる訳もなく、中央のホワイトマンが落下していった。
パラシュートも開いている。良かった。
「熱武器が通用するって事は、黒体ないじゃん――勝負にならないって」
「わたし達の機体と違って、あちらはシールドが熱武器も弾くみたいですが、〈励起バルカン〉でも威力は桁違いですし。帝国時代の特機ならともかく・・・ホワイトマンでは黒体のせいで勝負にならないですね」
私は機首をひねって、斜め上にカーブ。右のホワイトマンの背後・上空を取る。
「――ドッグファイトも知らないみたいだし」
私は〈励起バルカン〉で2機目も撃墜。
こちらもパラシュートが開いた。
『こっちはアーティファクトが3機だぞ!? ――な、なんだこの強さは』
「帝国時代の機体は今のより強かったらしいけど、そういうのは特機って呼ばれてるしなあ・・・・発掘された特機だって、プレイヤーが使う時は黒体塗料塗るし。というかホワイトマンは練習機だし。じゃあラス1――ん?」
『私は他の二人と違う、アーティファクトを使う際の奥義を知っている!!』
3人目はドッグファイトを仕掛けてきた。
私は背後のモニターを視る、敵に背後を取られてる。
「なるほど、ドッグファイトを知ってるんだね――」
❝大丈夫か? スウさん❞
「――でも、テクニックがない」
相手は、ただただ後ろを取ろうと私の後をついてくるだけ、しかも低い位置にいる。
さらにはエンジンを絞って、飛行機の速度を落として、私の後ろに着こうとまでする。
「上昇旋回にも着いてくるのね――でもドッグファイトっていうのは、ただ相手の後ろを取れば良いわけじゃない。エネルギーが大事なんだ。速度は簡単に捨てちゃいけない、基本的に上昇することで速度を高度にして保存しなきゃ」
ちなみにフェイレジェの機体は推進力も凄くなってるけど、機体が重く進化してるんで、前時代的に高度も重要な要素のまま――というか現代より重要なんじゃなかろうか。
「FPSで鍛え上げたドッグファイトの腕、ちょっと見せてあげよう」
「こんなセリフが笑えないんですよねえ、この人の場合。これはもう、相手が悪すぎます」
アリスがため息混じりに呟いた。
レーザーが効かない事を悟った相手が実弾を撃つけど、私が実弾を躱すと、相手は必死に食らいつこうと、無茶な動きをしている。
剣などを使うような、接近戦をしようとしたのだろう。
例えば今も〝下から、私と同じ動き〟で着いてくる。
だけれど、下からは不味い。
飛行機っていうのは、フェイレジェでも地球と同じだけど、そんなに簡単に高度を上げられない。
高度を上げるには、速度に縛られた限界角度が有って、速度も無いのに機首の角度を上げたら失速という状態になって、むしろ機首を下げて速度を回復しないといけなくなる。
相手は私の背後を取ろうと、さっきまで何度もエンジンを絞って速度を捨てていた。なので、速度では私のほうがずっと上。
(だから)
私は機首をさらに上げて、角度を際どくする。
当然だけど、飛行機の翼は地面に対して翼を水平を保つのがベストだ――水平に飛んでいる時最も揚力を得られるように設計されている。
とすると、どんどん上昇角度を上げていけば――・・・・私の手に伝わってくる独特の振動、失速――揚力を失う寸前の振動だ。
翼の上を滑り、揚力を生んでいた空気の流れが剥離しようとしている。
私は、スワローテイルの翼を風を受けやすいように水平に広げる形(テーパー翼)にした。――翼を大昔の飛行機みたいに水平にする形は揚力が得やすい、なぜなら昔は揚力を得るだけで精一杯だったから、速度より揚力を得やすい形に翼はなっていたんだ。
テーパー翼にすると、振動が収まる。私はここから、さらに機首を上げる。
しかもスワローテイルは複葉機だ、揚力に関してはチート性能を持つ。
相当機首を上げても、揚力を保ち続けるスワローテイル。これ対して、相手の乗るホワイトマンは単葉機の中でもダブルデルタ翼というもので、揚力を失いやすい。その上、可変翼機能もない。
ホワイトマンの機首が、だるーんと下がり始めた。
翼の表面で揚力を生んでいた空気の流れが、とうとう剥がれたのだ。
相手は飛べなくなるほどではないけれど、もう高度は上げられなくなる。
一旦機首を下げて速度を回復しなければ、まともに操作できず、重力から逃げられない。
機体のコントロールを失った相手のパイロットの慌てた声が、私の耳を叩く。
「なんだ、どうした白き翼よ! なぜ言うことを聞かん!?」
「相手の後ろを取ればいいって知識は有るみたいだけど、貴方には過去の人々が無数の血を流して考えた。どうやって相手の後ろを取るか、という知識がないんだ。そして、」
地球のドッグファイトも直ぐに熟達したわけじゃない。
今では当たり前に使われている様々な機動も、それを生み出した人達がいる。
この惑星では飛行機が少なすぎて、飛行機を持っているだけで勝ててしまうんだろう。だから〝練られていない〟。
私は逆噴射後、スワローさんを人型に変形して振り向く。
そうして〈励起剣〉を取り出し、重力と慣性に任せて落下しながら剣を振り下ろす。
迫ってきていたホワイトマンを、真っ二つにした。
「フェイレジェにはフェイレジェの空中戦がある。――これが、空中戦での剣の使い方!」
『なんなんだ、この戦い方は!? こんな事あってたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
私に両断され、最後の1機も、あっさり墜落していった。
アリスが眼下で開いたパラシュートを見ながら呟く。
「スウさんにドッグファイトを挑むのは・・・・止めておくべきですよ、ほんと」
私も3つの目のパラシュートが空に開いているのを確認してから「じゃあ目的地に向かいますね」と、発進し直す。
ワンルームから声が聞こえてくる。
「え? ・・・・勝ったんですか??」
「な・・・・なな、なんでこんなにあっさり、スウさん貴女は一体・・・」
「もしやスウ様は、神が遣わした奇跡!?」
❝タイミングバッチリで、最強プレイヤーが現れてるからなあ❞
❝案外ありうるかもね❞
❝神様も、よー視とる❞
かくして、5分ほど飛んでエモリアへ。
お姫様は無事に書状を実家に届けました。
「無事、簒奪を防げそう」という話をしてくれた。
あと、イベントクリアで、1万クレジットと5000ポイントを貰いました。
ここに降りる時に使った分が、回復しちゃった。
「何か、お礼をさせて下さい!」
全てを終えたお姫様の私室に呼ばれていくと、お姫様が私の手をにぎって瞳を潤ませて見上げてきた。
柔らかい、良きにほひ。
アリスが私の脇腹をつつく。
はい話を進めます。
「えっとじゃあ、ペンタルっていう樹の実が欲しいです。手に入る場所を教えてもらえないですか?」
お姫様が ポカン と口を開く。
「ペンタル? 食す事も出来ないどころか、粘液が一度着いたら普通の方法では落ちない上にヒーラーの力を借りなければ一生痒みをもたらす、使用方法すらないあの果実をですか?」
え、そんなエグい果実なの?
――体に塗られたらと思うと怖すぎ!
「は・・・・はい、それが欲しくて」
「それなら、我が国の西の森に自生しておりますが・・・」
「じゃあ、それをちょっと多めに貰って行って良いですか?」
「一向に構いませんが、地図をしたためます。―――他には?」
「うーん・・・」
お金は欲しいから、金銀財宝は欲しい。
でも、地球に持ち込んでも関税が凄いらしいからなあ。
しかもお姫様たちは、これからお金持ちの貴族とバチバチやるんだろうから貰うのもねえ。
「じゃあ、また来ますんでその時に姫様の故郷の名物料理でもご馳走してください」
「そ、そんなことでいいのですか!? ――でも、それはいつでも! ここが故郷ですし、今からでも!」
「いやー、明日も学校があるから・・・そろそろ帰らないとなんですよね」
「学校?」
「あっと――、なんでもないです。とにかくまた来ますんで――また会いましょうね? また会うんですよ? ――もう自分の身を捧げようとしたりしないで下さいね」
お姫様が驚いた様な顔になり、次いで泣きそうな顔になった。
彼女は「はい」と小さく呟いて頷いた。
そこで私は思いつき、連合に連絡を入れる。
許可が出たんで、今日命理ちゃんと通信をした通信機を取り出す。
「ス、スウ様・・・・それはもしや伝説のアーティファクト〈道具袋〉では・・・」
私は驚くお姫様に、通信機を渡す。
「あ、そ、そうです。秘密にしてくださいね――で、もしなにか有ったらこれで連絡してください。私のスマホとかいろんなのに繋がる――なんて言ったら良いんだろう。私と会話できますから」
「と、〈遠話の箱〉ですか!?」
「そ、そうそう、それです」
お姫様が私に抱きついてくる。
私は背が高めなんで、さまになった――と思う。
「わたくしの救い主様――わたくしの騎士様」
「騎士ですか!? ・・・これでも女――ああ、女騎士ってのも有りなのかな?」
私が納得すると、後ろからアリスの冷たい声がする。
「『くっ、ころ』フラグですね。スウさんはそんなプレイが好きなんですか」
やめて? あと、有名モデルが『くっ、ころ』とか『プレイ』とか言っちゃいけません。
こうして私達は、目的の木の実を手に入れた。
そうして、ハイレーンに帰ってレプリケーターに放り込んだ。
「出来た! ペイント銃!」
「これで連携もバッチリ上手くいきますね!」
でっかいスポーティーな銃が出来上がった。
大冒険な一日だったけど、目的の銃が出来て満足です。




