577 太陽を指します
「ところで、昼間の航海のために太陽赤緯は計算し終えたのか? こちらは丁度この間、夏至を発見して、やっと計算し終えたのだが。この情報はお前には新しい物か?」
あ・・・。
「いや・・・・その」
「なんだ、計算し終えてないのか? お前らしくもない。地軸はどうやって計算したんだ」
「いや・・・・その――昼の航海に太陽赤緯はいらないかもー? って」
「は? 地軸が25度もズレているんだぞ? どうやって昼間に緯度を割り出すつもりだ」
「これ・・・・かな」
「なんだこの不格好な六分儀は・・・・望遠鏡が大きすぎるだろう大砲か?」
それでも大分、短くなったんっすよ。
私は、六分儀にぶら下げている羅針盤を確認。
「マイルズ、・・・これで、あっちを覗いてみて」
「ん?」
マイルズが、北天を望遠鏡で見る。
そして目を見開いた。
「な――は!? 昼間に星が!?」
目を見開いたままのマイルズが、懐から手帳のような物を取り出す。
チラってみえたけど、ああ、天球図だ。
星の位置がメモられてる。
彼は手帳と望遠鏡に何度も目を往復させて、叫んだ。
「北極星みえてんじゃねーよ!!」
「という訳です」
「いや、という訳と言われても、もう訳わからん」
頭痛でもするように額に手を当てたマイルズの横で、マリさんもビックリしたあと大笑い。
「ぶひゃひゃひゃひゃ、こっちが、毎日一生懸命太陽赤緯調べて、計算して。ってやってたらこれだよ(笑) スウちゃんはもう」
エレノアさんも、望遠鏡を覗きながら「はーーー?」とか言ってた。
「Okay.わかった。これなら確かに太陽赤緯は要らないな。六分儀を覗けば一発だ――なら後は時計か」
「うん。でも腕の良い職人さんだから、間違いないと思う」
「ああ、そこの振り子時計の小ささを見てもわかる」
マイルズが壁掛け時計の裏側を、壁と時計の隙間から覗いて「やはりか」と頷いた。
「どれだけ機関部を小さく作ってるんだ・・・・。裏がスカスカじゃないか」
「だよねぇ。小ささより精度って頼んだんだけど、この程度造作もないんだろうね。この有り様だよ」
私たちが時計に感嘆していると、太陽が真上に来た。
ここは夏至近く、ほぼ赤道。
――南側に掛けてあった時計の針は時針、分針、秒針まで見事に重なり、見事に太陽を指していた。
この時計の凄まじい正確さを、剣のように掲げられた3本の針が、誇っていた。
「正午、16時」
「完璧だね」
「完璧ですMsスウ!」
「ジュウゾウさんの腕だよ」
という訳で、ジュウゾウさんの〝クロノメーター〟3つの完成と同時。私たちはUSSF&自衛隊と共に、大海原に挑むことになった。
「何をしてるんだ? スウ」
マイルズが甲板に風力発電機を甲板にボルトで設置している私を見て、首を傾げた。
「スウ、なんだそれは?」
「風力発電機だよ」
「・・・・ああ、あれか」
「ヴィックには許可を得てるからね?」
私が銅線を撚った物をゴムで補強したゴツ目のコードを3本、船室へ引いていくと、マイルズも付いてきた。
というか物珍しそうに、非番のUSSFの人や、自衛隊員さんもついて来る。
筋肉カルガモの群れ。
しれっとリッカも混じってる。
私は、クロノメーターを入れてる箱に銅線をつなぐ。
ちなみにプラグ規格も作った。
「なんですか? その箱は」
褐色に焼けた筋肉さんが、私に尋ねてきた。
「クロノメーターを入れてる箱です」
「せっかく時計が小さいのに、大きな箱にいれるんですか?」
「はい。この箱は珪藻土を生石灰、石英の粉、水で固めたもので、内部の温度変化を防ぐんです。あと、中はコルクを張って、時計に衝撃を与えないようにしてます」
「温度がダメなんですか?」
「はい。温度が変化すると、金属が膨張したりして、時計の時間がズレてしまうんです」
「あー・・・なるほど。しかし、そこまで細心の注意が必要なんですか?」
「はい、僅かな誤差が何百メートル、何キロにもなります。1秒ズレただけでも、500メートル近くズレるんですよ」
「ごひゃっ・・・・たった1秒で、そこまでですか」
筋肉さんドン引き。
3つのクロノメーターは別々の箱に入れてある。
ちなみにこの箱、補助電源にマンガン電池がはめ込まれている。
風力発電から電気が来なくなったら、回路が切り替わってマンガン電池から電力が供給されるようになってある。
マイルズが腕を組む。
「だがこの時計は信用できるぞ、我々ではここまでの精度の物は作れない」
「作ったのは、マジもんの時計職人だからねー」
「ふぉっふぉっふぉ」
「あっ、あの人。ジュウゾウさんが作ったんだよ」
噂をすれば。
USSFの人が握手を求めた。
「Oh Mr.JUZO! nice to meet you!!」
あ、アメリカン筋肉に、ジュウゾウさん囲まれた。




