50 ファンタジー世界で戦います
「ちょ、なにアレ!」
「ド、ドラゴンですね・・・!」
五名ほどのフルプレートを着けた騎士が、姫と侍女らしき人物を背にドラゴンに立ちはだかっていた。
「おのれ、邪悪な竜よ! 姫様には指一本触れさせん!」
「姫様お逃げ下さい、ここは我らが!」
「なりません! 貴方たちの力が今の王国には不可欠なのです。今は一人も失うわけにはいきません! わ、わたくしも少しでも力を―――!」
「くそっ、よりにもよって国の命運を左右する書状を携えている時に!」
「我が国の命運もここまでか・・・・!」
騎士さんとお姫様が叫んでいる。何やら重要な局面にいるようだ。
しかしドラゴンは舌なめずりをするだけ。
『くっくっく、久々の馳走だ。どこから食ってやろうか。いや、やはりその女の柔らかいハラワタからだな』
ドラゴンの言葉を聞いたらしい、お姫様の目に決意の光が宿った。
「りゅ、竜よ! 偉大な竜よ――わたくしはそなたに食されても構わいません、その代わり他の者を見逃してもらえませんか!」
「姫!」
「なにを!!」
「書状さえ、わたくしの実家――侯爵家に届けられれば良いのです。わたくし一人の命でそれが叶うなら、たとえこの命!」
「お止め下さい、姫!」
姫の覚悟に、騎士と侍女が涙を流して訴える。
竜が笑った。
『ほう。自らが犠牲となると?』
アリスが私の袖を引いた。
「どうします?」
「そうだね・・・・最悪スワローさんで空爆でもすれば勝てるだろうけど――すぐに許可が出るのかな? ちょっとまってね。〖第六感〗――いや生身でも、スキルがあれば勝てるって感じるね」
「じゃあ力を貸しませんか?」
「うん、しかも〖第六感〗がドラゴンの気持ちを(嘘嘘嘘)って言ってる。〖サイコメトリー〗・・・・あの竜、人間との約束なんて守る必要ないって感じに考えてて、何回も人間との約束を破って殺してる。多分お姫様を食べた後に他の人も一人ずつ食べて、人間の絶望を楽しむつもりだと思う」
アリスが怒りの表情になって、背中の大型サーベルを抜いた。
ウィンドウが出た。
『ハプニング・クエスト。〝救え! 優しき姫の切なる願い〟を開始しますか?
⇨はい
いいえ』
⇨はい
「〖重力操作〗」
「〖念動力〗」
私も、背中のハンマーを持ち上げて〖念動力〗で上空に浮かび上がる。
アリスが大声を発しながら、〖重力操作〗をしたのか弾丸のように竜に迫る。
「私が相手だ、邪竜!」
竜が、アリスの声に振り返る。
『いいところを邪魔する気か? なんだ貴様らは―――』
ドラゴンはアリスに、尻尾を振るおうとした。
しかし〖重力操作〗されたのだろう、尻尾が地面に貼り付けにされた。
ドラゴンの顔に、驚愕の色が浮かぶ。
『スキル持ち――だと!?』
騎士さん、姫さん、侍女さんが背後を振り返って希望に瞳を輝かせる。
けれど、
「あの町娘のような格好は・・・・?」
アリスのエプロンドレスに、絶望の表情になった。
「面ェェェン」
アリスが縦一文字に、サーベルを尻尾に叩き込む。
だが、〖重力操作〗をしていただろう一撃が、ドラゴンの鱗に弾かれた。
アリスの顔に焦りが浮かぶ。
『馬鹿め。いくらスキルを持っていたとしても、人間の膂力などたかが知れておるわ。竜種に勝てるなどと、自惚れも甚だしい――その傲慢さ、万死に値する!』
アリスの〖重力操作〗の鎖を引きちぎって、尻尾を再び振り上げる竜――その竜の頭上に落ちてくる私。
「アリス――!」
「――はい! 〖重力操作〗!!」
「〖超怪力〗〖念動力〗!!」
私は〖超怪力〗で強化した〖念動力〗で、自分を加速。
さらに、腕に掛かった〖超怪力〗でハンマーを振り下ろす。
〖超怪力〗&〖念動力〗+〖超怪力〗+〖重力操作〗という重ねがけで振り下ろされたハンマーは、
ぷしゅ
ドラゴンの頭を爆ぜさせた。
「「「「「「「え?」」」」」」」
騎士さんとお姫様と侍女さんの声がハモった。
アリスも「うわぁ」という表情。
私も「うわぁ」という表情。
「本当にありがとうございました戦士の方々!!」
お姫様や騎士さんたちが、深々と頭を下げてくる。
「いえいえ、当然の事をしたまでです」
「・・・・当然の事をしたまで・・・? なんと謙虚な受け答え!! 神々に祝福されたような気高き魂!!」
「素晴らしい―――このような偉大な人物が、今我々の間に現れるのは正に運命では・・・!?」
なんか適当に言った言葉で、大層なことを言われ始めた。
しかし、七人を助けた私達だけど、皆さん馬を失って困り果てていた。
やがてその話題になる。
「この森の中で馬を失ったのは痛すぎる」
「このままでは謀反が成功してしまうやも・・・」
「そんな、せっかく救われた私達の命なのに」
そこで姫様が私に振り向く。
「そうだ・・・スウ様・・・・貴女は空を飛べるのですか!? もしそうなら、どうかこの書状を、わたくしの実家に届けていただけないでしょうか!! エモスナの侯爵家を尋ねてくだされれば、この封蝋の印で分かってもらえると思います!!」
姫様が、必死な様子で私に訴えかけて来た。
いや・・・・エモスナって言われても分かんないし。
でも、じゃあ――私は頷いて答える。
「事と次第によっては構いませんが。どういう状況なんですか? 反乱が成功すると誰がどんな被害をこうむるのですか?」
〔慎重ですね〕
〔これで、姫様が救いたい物が伝統と格式とか誇りとかなら、私が加わる方が伝統やら格式やら誇りの邪魔になりそうだし〕
「第一王子は平民の母から生まれた妾腹の王子なのですが、その出自からか民草の事を考えています。しかし第二王子は、純血を重んじ多くの貴族の後ろ盾を得ていますが、民のことなど考えていません。それどころか彼が王になれば、北の大国に国を操られることになるでしょう――やがては傀儡となるか、併呑されるか・・・」
「〔〖サイコメトリー〗〕。嘘も言ってないみたい――アリスはどう思う?」
「第一王子の方が、イイモノに聴こえます」
「だね。この国の事はわからないけど、本来第一王子が受け継ぐべき国なんだろうし。姫様、この国では長男が王位を受け継ぐのが当たり前なのですか?」
「そうです――そうですが・・・・我が国では、長男が王位を受け継いだ事は殆どありません・・・暗殺によって・・・」
この国、かなり酷い状態だと思える。
「――分かりました。手を貸します。姫様」
「有難うございます! ――あ、お名前を教えていただけませんか? わたくしは、リメルティアの第一王女、セーラ・リメルダと申します」
「私は、スウです」
「アリスです」
「スウ様、アリス様――本当に有難うございます」
「いえいえ。じゃあ、ちょっと待ってくださいね」
私は渡されている通信機で、連合と連絡を取る。
「というわけでスワローさんを使いたいんですが」
『少々お待ちください』
暫く待っていると、どこかで聞いた声が聴こえてきた。
『やあ、君がスウ君だね?』
誰だっけ・・・?
ああ、そうだイベントの時にホログラムで出てきたロンレイル・ユタさんだ。
寝癖だらけの男性の顔が、私の脳裏に浮かぶ。
「あ、はい。私の事を知ってるんですか?」
『もちろん、君のことは連合軍内で有名になってるよ。さてスワローテイルの使用だけど――ちょっとしたAIの演算結果があってね、その王国のことは我々も気になっていたんだ。いいよ、使っても』
「ありがとうございます!」
『だけど〈黒体放射〉は使っちゃいけないよ。ロックされているけど――あれは小さなガンマ線バーストだからね。ファンタシアのような星で放つのは、我々の領域で使うのとはちょっと意味が違う』
「そ、そうですね。了解しました――」
こうして通信が切られた。私はみんなを振り返る。
「――使って良いみたいです。スワローテイル、来て!」
指パッチンをすると、暫くの沈黙。
お姫さまが、代表して尋ねてくる。
「あのスウ様、何を?」
姫たちが妙なものを視る目を向けてくる。
やめて、その視線は私に刺さる。
「も、もうちょっと待ってください」
「はあ――しかし少々急いでおりますので、出来るだけお早めに・・・」
私がまだかなと焦れていると、スワローさんが降りてきた。
騎士さんが騒ぎ出す。
「な、何だアレは!」
「鋼鉄の怪鳥!?」
「えっと、アーティファクトです」
騎士さんが鎧を鳴すほど体を揺らして、驚く。
「アーティファクトですと!? 汝らはスキル・キャリアーというだけではなく、アーティファクターなのですか!」
アティファクター――アーティファクトの所持者って事かな。
アリスが首をふる。
「いえ、アーティファクターはスウさんだけです。〔特別権限ストライダーは、スウさんだけですし〕」
〔あ――そっか〕
姫様とかが私に、望敬の視線を向けてくる。
私・・・そんな視線向けられても、不安になるだけなんですよ・・・。
「と、とりあえず皆さん乗って下さい」
私は7人をスワローさんの中に招く。
流石にワンルームが、きつきつだけど。
「す、凄まじい――これほどのアーティファクトは見たことありません!」
「帝国に有る、アーティファクト並なのでは!?」
「じゃあ、これでひとっ飛びしますね」
私はコックピットに向かい、ワンルームが狭いのでアリスを上の座席に座らせて発進。
セーラ様の指示に従い10分ほど飛ぶと、もうすぐエモリアだという所まできた。
ところが近くまで来ると、戦闘機が3機、浮いていた。
待ち伏せのようだ。
あちらから通信が入ってくる。
『こうして網を張っていたが、まさかアーティファクトで空から現れるとはな。だがこちらは3機、1機で勝てると思うか?』
配信を確認すると、姫様の顔色が真っ青になっている。
「そんな―――」
騎士たちも戦慄した様子だ。
ワンルームから声が聞こえる。
「神よ、なぜ我らを見捨て給うのか!」
「終わりだ・・・」
「第二王子の母の持つアーティファクトの機神を、全て投入してくるなんて!」
私は、正面に浮く3つの白い機体を見てつぶやく。
「いや、ホワイトマンじゃん」
「ですねぇ」
アリスも呆れたような返事を返してきた。
ホワイトマンは、フェイレジェで最初期に貰える初期機体。
その後スワローテイルとか、選択式で安い機体を貰えるんだけど、最初の最初はこのホワイトマンに乗ることになる。私も最初に使ってた、練習機。
細いプラナリアに、ダブルデルタ翼が生えたような見た目の白い戦闘機が、私達に向かってきていた。




