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まずやって来たのは、資源惑星アインマイン。
所々、まだ赤く光る元・恒星だった。
ここは元は、ダイソン球で覆われた恒星だったらしい。
ダイソン球っていうのは、恒星のエネルギーをチューチューする仕組み。
某、吸引力とはちょっと違う。
恒星の活動を活性化されながら、放つエネルギーを吸われていたらしい。放つエネルギー以外も吸ってしまうと、恒星の核融合が途中でとまってしまい無駄になるので、連合は活動を活発化させて吸っていたそう。
そうして早々と殆ど熱を発さない黒色矮星にまで至ったそうな。
遠くから見ると、赤くひび割れた黒い星と言った感じ。
降りてみると、鉄のマグマの河が流れ続ける星だった。
アリスからの通信ウィンドウが、私の視界の端に開いて警告される。
『この星は、誰でも資源採掘していいフリーエリアです。でもバーサスフレームから絶対に降りないでくださいね。灼熱地獄ですから――いくらパイロットスーツが有っても蒸し焼きになってしまいます。あと今降ってる雨、これチタンの雨ですからね。ここは雨の少ない場所ですけど、非常に危険です』
「わ、わかった!」
え、チタンが蒸発して雨になるって、どんだけ温度高いの!?
というか、そんな雨は弾丸が降ってくるようなもんじゃん!? バーサスフレームのシールドもガリガリ削れてるし!
普通に怖いので、震えながら返しておいた。
あと資源採掘しちゃいけない場所も有るっぽいのね。
『じゃあ、採掘を開始しましょう。採掘機を刺したらわたし達は雲の上に逃げますよ』
「う、うん!」
私達は買ってきた戦車より硬そうな巨大な採掘マシーンを、真っ黒な地面にバーサスフレームで突き刺してスイッチオン。
ドリルが回転し始め、資源を採掘してくれる。
この採掘マシーンは結構アナログだけど、採掘ドローンっていうのもあって、放置してたら勝手に鉱石を探して掘ってくれる奴もあった――超高かったけど。
「そういえば、バーサスフレームの銃ってなんでレールガンじゃなくてこんな未来でも火薬使ってるんだろう」
「口径が大きいから、レールガン化が難しいみたいです」
「あ、そっか40mmとか戦車砲みたいなのを1秒間に何十発も連射するんだから、砲身メチャクチャになっちゃうね」
「はい溶けてしまいます、でも大口径のレールガンもちゃんとありますよ。勲功ポイントで200万とかですけど」
「た・・・高い。スワローさん20機分とかなんだね」
「しかも弾丸が空になる頃にはバレルがズタボロなんで、バレルも一緒に装填しなおさないと駄目で、時間がかかりますし、使い勝手が悪いです。しかもこのバレルが高い高い。1本勲功ポイントで30万とかします。普通のプレイヤーだと、運用するだけで破産しちゃいますよ。ちなみに無料補給権の対象外らしいです」
「無料補給権の対象外とかあるんだ・・・? ――でも赤熱したバレルを捨てて、新しいのに入れ替える画はカッコイイかもしれない」
「カッコイイですか?」
「アリスには良さがわからないかあ。メチャクチャかっこいいよ――ロマン武器だなあ。使ってみたい」
❝分かる、メッチャクチャ胸が高鳴る❞
「〈励起翼〉も本来ロマン武器だと思いますけどね――使うものではないですよアレも。――まあ、ペイント弾用の弾丸くらいならレールガンにするのは簡単みたいです。私達でも作れるくらい」
「なるほど」
などと会話しながら半時ほど雲の上で待つと、十分すぎる量の鉄とチタンが手に入った。
というかスワローさんの表面が、現在チタンまみれだ。
『この位で十分ですね』
「早い」
『一旦ハイレーンに戻って機体の整備をしたら、次はホウ素を取りに行きましょう』
「ゆこうゆこう」
『そういうことになりました』
次に来たのは、超新星爆発で出来たとある星雲の端っこ。この辺りは小惑星がいっぱい有って、ここから様々な資源が採掘できるらしい。
『この辺りも、誰でも資源採掘できるフリーエリアです。反応がありました、あの小惑星にホウ素が大量に含まれているようです』
「あれね」
ショーグンが指さした方向に、私は飛ぶ。
『あ、小惑星のサイズが小さいので着陸失敗して弾くと面倒――』
私はアリスの言葉が終わる前に、人型形態で着陸していた。
「え・・・・、えっと」
『そんな小さい小惑星だと、慣性やロケットの勢いで弾いちゃうんですけどね・・・・何で普通に一発で着陸に成功してるんですか、』
❝本当に初めてなんか・・・?❞
❝なんかこの人、相対速度合わせるのが異常に早くない? なんでよ❞
❝高性能な、相対速度調節装置でも有るの?❞
❝訊いたこと無いけど❞
『相変わらずですねえ――じゃあ、そこにも採掘マシーンを打ち込んでください』
「りょ、了解!」
こうしてホウ素も十分採掘できた。
「ホウ素を大量に含む小惑星なんてあるんだねえ」
『ホウ素自体は宇宙にはありふれた物質ですし、宇宙ですから色んなことがあるでしょう。――では、木の実を取りに行きましょう』
「ゆこうゆこう」
『そういうことになりました』
次にやって来たのは、惑星ファンタシア。
昔の地球に似た、穏やかな環境の惑星だ。
ここは元々MoBと戦う人造人間の実験場かつ、様々な物を生産する惑星だったらしい。
人造人間というのは、例えば身体を大幅に強化したアニマノイドさん――他にも印石を使えるようにした人造人間、ホムンクルスって言う人達。
それが実験台になっていた人造人間たちの反乱戦争が起きて、最後は惑星ごと転移。
1000年後、まるで中世ファンタジーのような世界になっていたところを、銀河連合が再び発見し文化保護されている惑星らしい。
現在も、牧歌的雰囲気残る惑星なんだとか。
銀河連合からすれば大した性能でもないAIが、神のように振る舞って勇者を選んだり。
MoBを改造した生き物がクリーチャーとして存在していたり。
量子魔術が古代魔術と呼ばれていたり。
精霊魔術という独自の魔術があったりと、他の銀河連合の星とは一線を画す存在らしい。
『この惑星は文化保護されていますので、バーサスフレームで降りてはいけないんですよ。文明度の高い物も持ち込んじゃ駄目です』
「そうなんだ・・・」
『はい。衛星の裏側にある宇宙ステーションで着替えて、ワームホールゲートで惑星に降りる形になります』
「なんか地球に宇宙人が来てたら、やってそうな所業だなあ」
『いるんですかね、宇宙人』
「さー、銀河連合に訊いたら分かるかも?」
私達はまずこの星の文明レベルの服を、お土産屋さんみたいなお店で買う。
あとできるだけ、降りる地域に合わせて買う服の種類を変えないといけないらしい。
言語に関しては専用の言語インプラントが必要なんだとか。インプラント自体は、無針注射で1秒でおわった。
ヒューマノイド種らしい店員さんが案内してくれる。
「ドラゴンヤードの森に降りられるなら、できればこちらの文化圏の服からお選び下さい」
「ドラゴン? ――まって、ドラゴンがいるの!?」
私が慌てると、アリスは平然と応える。
「らしいですね。でも、遭遇例はめったにないですよ」
平然としてるなあ、この肝の座り具合さすが。
アリスのお陰で、私もちょっと落ち着く。しかし不安なのは不安だけど。
「大丈夫なのかな・・・・にしても服もなんだろう、アニメのコスプレみたいなファンタジー衣装だね」
「ですね。地球のヨーロッパの衣装とは少々違いますね」
「私はこの、空賊とか言い出しそうな格好で良いや」
肩がモサっとした短めの上着に、キュロットをサスペンダーみたいなので持ち上げて、ゴーグルを付けた感じの格好。色合いは上着が白がベースで、シャツが黒、サスペンダーは赤って感じ。
「えー、こっちにしましょうよ!」
私が鏡でちゃんと着れているか確認していると、アリスがビキニアーマーの下に着るやつみたいなのが掛かったハンガーを取ってヒラヒラさせてくる。
「またそんなのを! 絶対に嫌だ! アリスの趣味に合わせたら、いっつも裸みたいな格好にさせられる!」
「むー。じゃあせめて、下に着るのはショートタンクトップにしてお臍を出しましょう、お臍」
「なんでお臍にこだわるの・・・・」
結局お臍を出すことになる、私。
どうして逆らえないんだ・・・。
アリスは、不思議の国のアリスみたいな格好になった。
「自分だけ着込んでズルくない!?」
「だってアリスですし」
❝アリスなら仕方ない❞
❝アリスだもんな❞
「なにこのアウェイ感。私の配信じゃないのか? この人たちは私のファンじゃないのか? ――お前らは、推しをもっと甘やかせよ!」
❝スウたん、甘やかしたら駄目になるタイプだし❞
「断じてそんなことはない! 褒められて伸びるタイプだ!」
「武器はどうしますか?」
「え、私・・・銃しか使えないと思う」
❝銃しか使えない現代女子高生っていうのも、どうなんだ❞
「だって、銃は引き金引くだけじゃん」
❝スウたんの曲射とか、化け物じみてるんだよなあ❞
「スウさんは〖超怪力〗がありますし、いっそ力任せにハンマーとかどうでしょう」
「どうかなあ。前に実験した時、〖超怪力〗で肩が抜けかけたんだよね。ハンマーとか振り回したら骨が折れたりしそう。というかこの惑星でスキルは使っていいの?」
「MoBを改造したクリーチャーが、印石を落とすらしいです」
「なるほど、この惑星で繁栄してるホムンクルスは印石を使えるんだっけか」
私とアリスが相談していると、店員さんが大きなハンマーを持ってくる。
「では、この無反動ハンマーはどうでしょうか」
「そんなの持ち込んで良いいんですか?」
「仕組みは単純ですので、問題ありませんよ」
「じゃあ、それでお願いします」
私が購入を決めたので、ウィンドウをいじっていた店員さんが「ん?」という顔をした。
店員さんの目が大きく見開かれていく。
「スウさん・・・・貴女は〝特別権限ストライダー〟なのですか!?」
「え、そうですけど・・・・今は別に遊撃で動こうとか関係ないですし――立ち入り禁止区域とかあったりするんですか?」
「いえ、今回は特別な権限が与えられるんです」
❝スウたんって、噂の特別権限ストライダーだったの!?❞
❝こんな近くに居たのかよ!❞
アリスまでビックリしている。
「ス――スウさんだったんですか・・・」
「あれ・・・・みんな特別権限ストライダーの事知ってるんだ?」
❝大規模クランが特別権限ストライダーになろうと、条件を血眼になって探してるんだよ!❞
❝で、特別権限ストライダーになった人間がいるらしいから、本人に聞ければ一番だって❞
❝スウだったのかよ! 噂通り凄腕だったけども・・・❞
アリスが、食いつくように尋ねてくる。
「スウさん、特別権限ストライダーになる条件ってなんだったんですか!?」
「えっと、私も多分全部は把握してないんだけど――でも、予想はつくと思うんだけど」
「・・・・予想は付きますね」
❝――予想、ついちゃったよなあ❞
❝噂が広まった時期は丁度、スウさんが俺等の眼の前に現れた時期だろ?❞
❝で、あの頃はスウはなんの成果も出してないわけで、唯一の成果は・・・・❞
❝〈発狂〉デスロのクリアかよ!!❞
❝いや、それだとアカキバも特別権限ストライダーになれてる筈だ❞
❝量産機でクリアとかいう条件もありそう!❞
アリスが頭を抱える。
「出来ませんよ、そんなの!」
❝特別権限は禁止区域に入ったりするから、人格も影響しそうだから・・・・アカキバは結構アレなヤツじゃん❞
❝どっちにしろ〈発狂〉デスロのクリアなんか出来るか・・・!❞
❝モデレイター(音子):短時間でアトラス大量撃破の方であってくれればいいんやけど―――❞
❝いや、トップランカーには、流石にアレに近い戦果を挙げてるのがいるぞ。てか音子さんいたのかよ。アンタ今、配信中だろ・・・❞
アリスまで混ざって視聴者と、特別権限ストライダーになる方法について話し合いだしちゃった――音子さんまでいるし。
一応、私の予想を言ってみる。
「私の予想は、❝量産機で〈発狂〉デスロードを、ソロクリア❞だと思います。この事を受付嬢さんが驚いていたので。――人格どうのは聞いてないですが」
またコメントが盛り上がり始める。
とりあえず店員さんが手持ち無沙汰そうにしてるんで、私は店員さんと話を進めよう。
「え、えっと店員さん、ファンタシアでの権限とは」
「はい。実は、惑星ファンタシアでは星団帝国時代の発掘品が出まして。魔導具として扱われているのですが、特別権限ストライダーの方は連合の少将以上の方の許可があれば、高度文明の道具を持ち込んでも良いというなっています」
「つまり私は、許可があれば銃とか使って良いんですか・・・・?」
「はい」
「―――じゃあ銃を持ち込みたいです」
「そのくらいは全然問題ないと思います。ただ弾薬の補給が難しいので、ハンマーも持っていったほうが良いかもしれません。アーティファクトは盗まれることが多いようですし」
「なるほど。〈時空倉庫の鍵〉は持ち込んで良いです?」
「それは特別権限ストライダーの方なら可能です。向こうでは〈道具袋〉と呼ばれております」
「じゃあ向こうでは〈道具袋〉って呼びますね」
「この惑星では大変希少なアイテムなので、あまり見せびらかさないほうが宜しいかも知れません」
「了解です――あ、配信とかって続けられます?」
「こちらの光学迷彩で、ドローンを透明にして下さい。あとドローンには通信以外で喋らないように言っておいて下さい」
「はい、じゃあそれも購入で」
その後、アリスは大きめのサーベルを選んだ。
そこで私は、ふと疑問が浮かんだ。
「あれ? そういえばアーティファクトとしてバーサスフレームも発掘されるんですか?」
「発掘されます」
「それだとこの惑星の人、宇宙に出てきちゃわないですか?」
「ファンタシアで発見されるバーサスフレームは、マスドライバーがないと宇宙に出られません。マスドライバーは巨大且つ精密な施設なので、ファンタシアの全てが崩壊しています」
「マスドライバーですか」
ちなみに現代地球でも宇宙用カタパルトは、一部実験成功している。
ちょっと前までは完全SF装置だったんだけど、とうとう成功してしまった。
弾丸みたいなのをギュンギュン回して、遠心力を掛けまくって射出するタイプのマスドライバー。
ちなみに、かかる重力加速度、実に20000Gらしい。フェイレジェの重力制御装置が有っても、人間が乗ったらプチ。なんなら精密機器もお陀仏。
もちろん用途は全然有る、Gに耐えられる物資を宇宙に運べるだけでも凄い。月から地球をマスドライバーで攻撃するアニメとかもあったけど。
でも、マスドライバーって段階的にGを掛ける事を想定してない感じだから、人間を宇宙に送るのは本当に大変だと思う、フェイレジェではどうやってるんだろう。
「また、もし宇宙にでることが出来ても、ワープの補助装置が使えないのでワープできませんし、亜光速航行や超光速航行で連合惑星に移動できる機体があっても辿り着く前に寿命が尽きます。ファンタシアにはエルフが存在しますが、彼らでも無理です」
「大気中で亜光速航行すれば、宇宙に出れませんか?」
「バーサスフレームは、大気中や惑星の重力下では亜光速航行などはできません」
「そうなんですか」
「――しかし、もしこの惑星の人が銀河連合にたどり着けば、市民権を与える準備は整っていますよ」
「ほえー、なるほどです」
出てこれないけど、出てきちゃ駄目って訳じゃないのか。
さて、私達は持ち込む物以外の所持品の全てを宇宙ステーションに預け、さらに全身をしっかり消毒されて、持ち込んじゃいけない菌に感染してちゃだめなので(主にインフルエンザ)を殺す薬を一応飲まされて、ワームホールゲートで地上に移動。
地球にはないインフルエンザの特効薬があるとか、やっぱ凄いなあ。
――いや、地球にも一応あるんだっけ? とか考えていたら、
降りた先の森で、ドラゴンと出会った。




