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「誰だ」
え、なにその漫画の達人みたいな台詞。
誰か居るの?
私が〖超暗視〗でリッカの視線の先の暗闇を見ると、本当に20人以上の団体がいた。
プレイヤーだと思うけど。
知らない人たちだ、大学生くらいの人が多い。
「なんだろう?」
すると代表だろうか、なんか目つきの鋭い青年が前に進み出てくる。
「やあ、クレイジーギークスさんだね?」
対応したのは、サメの皮を鞣していたオックスさん。
「いかにもだが。そちらは?」
「これは申し遅れた。このたび設立されたプレイヤー共同体〝イコール・フューチャー〟の代表をさせてもらっている。ヒューイ秀と言う」
「マッドオックスだ」
「もちろん知っている。――今回は貴方たちに、有益な提案を持ってきた」
「有益な? ――どんなだ」
「クレイジーギークスさんも我等の共同体、イコール・フューチャーに参加しないか? イコール・フューチャーには、既に100名以上賛同者が所属している。貴方達にも悪くない話のはずだ。一緒に協力すれば、簡単にこの層の攻略が終わるはず」
オックスさんが私を見た。私の意見が聞きたいみたいな顔だ。
うーん正直、私達だけで攻略できそうだし、入るメリットを感じないなあ。ああ言うのに入ったら、むしろ足を引っ張られそうなんだよね。それでも普段なら別に入って良いんだけど、今回は夏休みの間に終わらせないと駄目だし。足が出ると、学校休まないといけなくなっちゃう。と思って、そういう顔を向けると。
オックスさんはヒューイ秀という人に向き直り、告げる。
「ウチはウチだけで十分だ。アンタ等はアンタ等で自由にやるといい。返事はノーだ」
オックスさんの言葉を聞いたヒューイ秀という人は、肩を竦めて大仰にヤレヤレというポーズをした。アメリカ人でもあんなに露骨なヤレヤレはしないと思う。なに、ヤレヤレ系の方?
「我々は、貴方達の発見していない様々な物資を所持している。それらを提供しよう。イコール・フューチャーでは物資を持ち寄り、必要なところへ分配するんだ」
「だとすると、俺達にもなにかそちらに渡すわけだろう? そういうのが困るんだ」
「ああ、まあそこは共同体だからな――そして貴方がたには他のプレイヤーが持っていない、素晴らしい物資がある。例えば――」
ヒューイ秀という人が、リッカに近寄る。
彼の目は、現在解体して手入れされている刀に向いている。
「その刀、女性に持たせるのは惜しい。そんな小さな女の子が使うより、僕みたいな剣道経験者で腕力もある男がもっと、有効に使え――」
ヒューイ秀という人が刀に手を伸ばした途端、リッカが側に座っていたメープルちゃんの腰から鞘と刀を抜いた。
メープルちゃんがちょっとビックリしてる。メープルちゃんがビックリするとかどんな動きしたの、リッカ。
リッカは、ヒューイ秀という人に柄を突きつけ剣呑な声を出す。
「早々に立ち去れ、このこそ泥」
「アッハッハ!」
刀を持ったあのリッカを前にして、余裕を崩さないとか――この人の危機察知能力、大丈夫なんだろうか?
ヒューイ秀が、リッカの握る刀の柄頭に手を当てる。
「知ってるよ。こうして柄を押さえれば、刀なんて抜けない――」
「バカかお前は」
言ったリッカが、左足を大きく一歩下げて空間を作った。
そうして鞘を後ろに向かって抜いて、勢いよく後方に投げた。
白刃があっさり顕になった。
「えっ!?」
「武家の人間に、そんな単純な方法が通用するわけがないだろう。刀を抜けないなんて状況、とうの昔に克服している。何のための抜刀術だと思っている」
「もー。お姉ちゃん、私の作った鞘投げないでよ・・・・作るの大変だったのに」
しかもメープルちゃんは飛んできた鞘を、見事にキャッチしている。予想していたかのような反応だった。立花家は、本当に刀を抜けない状態なんてのは、克服しきってるんだ?
私ならリッカみたいなヤバイ人と戦うなんて、絶対嫌なんだけど。
ヒューイ秀とか言う人は眼の前の戦力がどれほど恐ろしい物なのか、早く気づいたほうが良い。
だけどヒューイ秀とか言う人は、状況が――何を前にしているのかまだ分からないのか、勝ったような顔のままだ。
「だけど、柄を掴まれていたら女の子の力じゃ振れ」
「――るに決まっているだろう」
相手は握力に自信があるみたいだけど、リッカが刀の峰を左手で押すと、テコの原理になって――ヒューイ秀とか言う人の握力じゃ耐えられない――筈なんだけど、リッカはそれだけで赦さなかった。
峰に手を当てたまま柄を回して反転させて、相手の手首を捻り上げる。そのまま刀全体を大きく回して、ヒューイ秀って人を一回転。地面に投げた。
地面に叩きつけられたヒューイ秀は、目を白黒。
「な・・・・な・・・な・・・?」




