532 磁石を作ります
その後、実際にやってみた。
その辺のゴムっぽい木をいくつか傷つけて、樹液を採取。
釘みたいな鉄を作って樹液を塗って、銅線を巻いて、空さんが焼いてた湯呑みみたいな陶器に入れた海水に備長炭と銅の棒を入れて、銅と備長炭を銅線の端と繋ぐ。
あとは釘みたいなのに鉄がくっついたら電磁石になってる。ならその樹液は絶縁体として使える。――こうして、絶縁体を発見。
そして大きめの鉄に絶縁体を塗って、綺雪ちゃんが見つけた積乱雲の上から安全に垂らして、放電現象に触れさせたら――
「できた! 磁石!」
これで本格的な発電も可能かもなあ。でも発電しても、欲しいものがないんだよなあ――明かりはスキルにあるし。私には複雑な電気道具は作れないし。
でも、嵐が近づいてきていることは、周囲にいるはずのプレイヤーに伝えないといけない。
そこで拡声器を作ろうと思ったけど、アンプに必要なタングステンがないし、加工も不可能な事に気づいて諦めた。
「磁気アンプはどうだろう・・・」
マイクは炭、スピーカーは紙で良いし・・・・紙どうすんだよ。
❝磁気アンプ? なにそれ❞
❝真空管が使われていた時のライバル❞
「磁気アンプは、音質悪すぎて無理か」
ちなみに、リッカが「声の増幅に半導体が必要なのか? 半導体くらい配信ドローンに・・・」なんて配信ドローンを分解しようとしたら、配信ドローンが消えた。
アイリスは、ドローンの配信以外の用途を許さないようである。
リッカは数日、配信できなくて涙目だった。
というわけで、私は、リッカのドローンが消えた時点で物理で殴ることにした。
「ス、スウさん・・・・なんですかこの巨大なラッパは・・・」
「拡声器」
私は魔術で超々巨大なラッパを作った。
拡声器とかラッパの筒には音を増幅する力がある。だから超・巨大に作ったんだ。
これを〖超怪力〗で持ち上げて、〖空気砲〗で声を放ちながら、嵐の影響を受けそうな地域の人々に注意喚起する。
「そこまでしますかぁ」
「そこまでするよ。みんな嵐が来ることに気づいて無くて危ないもん――日本なら台風ニュースがあるけど、ここじゃないし」
で、超怪力で拡声器を持ち上げて、〖飛行〗で飛びまくって、台風の予測進路で『台風が来ます!』って叫びまくった。
嵐が予測進路以外に行ったらごめん!
で、後日の話になるけど、嵐が通り過ぎた次の日、なんか沢山の人が拠点に来た。みんなお礼言ってるけど・・・・私はそれどころじゃない!
「な、なんで拠点しってるんですか!?」
そんな私の慄いた疑問に、
「クレイジーギークスの配信みてたら分かるよ」
「あ・・・」
デスヨネー。
嵐の到来を拡散して拠点に戻って、拠点で磁石と銅のコイルを近づけて発電で遊んでいた私に、メープルちゃんが駆け寄ってくる。
「スウさん、巨大イノシシを倒したんで、〖念動力〗で川に運んでくださいませんか! 血抜きを早くしないと不味くなります。殺したイノシシにも悪いと思うんです!」
「おおお! ちょうど皮が欲しかったんだよ! 仕留めたのはどこ、連れてって」
私がメープルちゃんの言う場所に急いで飛んで行くと、予想以上に大きいイノシシが倒れていた。
巨体を運んで、川に浸す。これでダニも窒息死するといいな。
まあ、皮は燻すけど。
水にイノシシが浸かったところでメープルちゃんが安堵のため息を吐いた。
「ふー、これで美味しく頂けますね。にしても―――倒すの結構大変でした」
「この巨体をどうやって・・・・」
「そこは、相手が真っ直ぐ突進しかして来なかったんで」
あー、猪突猛進ってマジなのね?
「迎え撃って、頭にグッサリです」
「・・・なるほど」
「流石、私の右星降です」
メープルちゃんが右星降を鞘ごと腰から引き抜いて、鞘越しに頬ずりする――やっぱメープルちゃんも、ちゃんと強くて怖い。
「メープルちゃん・・・この皮、リッカとリイムの防具に使って良い?」
私が尋ねると、メープルちゃんが食い気味に即答。
「もちろんですよ! 寧ろ役に立つなら、どんどん使ってください!」
食い気味過ぎて、私はちょっと怯えながら返す。
「そ、そっか、ありがと・・・」
「お姉ちゃんとリイムちゃんの安全に、私が役に立てて嬉しいです!」
確かに誰かの役に立つのって嬉しいもんね。
血抜きが終わったところで、私とメープルちゃんは解体を始める。
もちろん私はあんまり上手くない。
メープルちゃんは流石に結構上手い。
――にしてもイノシシって油がすごい、このサイズだと油の厚さも尋常じゃない――手が油まみれになっちゃった。油も料理や石鹸に使うけど、これは流石に多すぎる。ある程度貰ったら埋めておこう。
あと、内蔵はあまり手を出さない方が良いよね、よくわからないし病気持ってたら怖いし――まあ私は〈強靭な胃袋〉や〈毒無効〉が有るから食べても大丈夫だろうけども――でも、わざわざ毒素なんかを貰う必要はない。
大事に皮を貰って、皮は綺麗に洗った。
皮を鞣せるのはオックスさんだけ。鞣してもらったら、皮の毛は抜いたり切ったり焼いたりしよう。
とりあえず盾は出来たから、リッカに見せに行こうかな。――というか、目的忘れて磁石とか作ってる場合ではなかった。
「〖テレパシー〗」
(リッカ、盾できたの~。いまどこー?)
(嵐が来るらしいから準備してる。小屋を作ったりしてる――高台の方にいるぞー。アリスを見つけたら〖重力操作〗で手伝ってって、言ってくれー、今のペースじゃ嵐が来るまでに間に合わない)
(りょー)
というわけでアリスを見つけて、リッカの言ってたことを説明する。
「――リッカとオックスさんが、アリスに小屋作成を手伝ってほしいんだって」
「もちろんです!」
アリス、とっても嬉しそう。この嬉しそうな顔を見れて、私も嬉しくなる。
私はアリスと飛んで、高台の方へ向かう。
アリスはオックスさんの方へ行って、早速お手伝い開始。
リッカの運ぶ丸太に〖重力操作〗を掛けながら、モルタルに草を入れて強度を増すようだ。
私は丸太に釘を打っていたリッカに、盾を見せる。
「リッカ~、この盾どう?」
「おっ、いいじゃん見た目はカッコイイ!」
「でしょ!」
「いいね! でもパイナップルの盾とか言われたら嫌だから名前をつけよう」
「名前かあ――確かパイナップルって鳳凰の鳳に梨って書く呼び方があるから、鳳凰の盾とか呼ぼうか?」
「それ!」
私はリッカに盾を手渡した。
「思った以上に軽いじゃん。でも、こんなので火炎放射器みたいな炎から身を守れるのか?」
「灼熱の鉄球を置いても大丈夫だよ。土台にしてるチタンも1600度くらいまで溶けたりしない。まあ熱くなったら持てないだろうけども。そうだ、鎧作るから寸法とらせて」
「計るのか?」
「いや数字だと訳が分からなくなる自信あるし、メジャーもないし、針金作ってそれで型を取っておくよ」
「なるほど、それなら分かりやすい」
私はリッカにの体のいろいろな部分を、針金で形を取る。どれがどの部位か分かるように、ちゃんと人の形にした。
その後リイムの型もとって、鎧製作開始。
剣山みたいなリッカ用の兜、胸当て、肩当て、腰当て、小手、足当て。
リイム用の兜、胸当て、胴当て、足当て。
リッカの動きに邪魔になるような場所は作らない。これらを原材料大イノシシの革紐で体に結べるようにして、針にパイナップルの皮を刺して、針先を曲げて、パイナップルに刺して完成。
あと、鐙も作った。
――でも足で走るのではなくて、翼で飛ぶリイムと鐙は相性悪いんだよなぁ。
普通はこのチートアイテムは有るか無いかで戦いの趨勢が、大きく変わるレベルなんだけど。
「よし。あとはこの防具を二人が身に着けて、リイムが飛べるか、かな」
その後試そうと思ったけど、とうとう嵐が来た。




