46 アリスと市役所にでかけます
輸入小物屋で買い物をした後、ご飯を食べて市役所へ。
ご飯、辛かった。
ヒリヒリする口の中を、ヨーグルト系の甘いジュースで癒やしながら歩く。
ちなみにアリスが買ったのは「ウェーイお茶」。なんだその陰なる者達に、お茶だけでなく喧嘩まで売るような、ネーミングセンスは。
ヨーグルト系を飲み終え、視線をめぐらすとチョコチョコ歩く子達を見つける。
「あ、小学生」
かわいい。
「涼姫、そこに交番がありますよ」
「え!? 別に変な事考えてないから!! 母性本能をくすぐられてみただけだから!! ただの愛だよ!!」
「ならいいですが」
何を言い出すのこの子・・・・怖いわあ。
さて市役所の中に入って、いよいよ登録。
今回登録するのは、〈時空倉庫の鍵〉とバーサスフレーム用〈時空倉庫の鍵〉。それからアリスのくれたパイロットスーツ、パイロットスーツは向こうでしか使わないかもだけど、一応。
アリスも〈時空倉庫の鍵〉を登録するらしい。
用意されている用紙に何を登録したいのかを記入して、フェイテルリンク窓口まで持っていく。
綺麗なおばさまが受け取ってくれた。
「では物品の方も登録しますので、こちらに登録したい物を置いて下さい」
「はい」
私は腕輪とネックレス、あとパイロットスーツをカウンターに置いた。パイロットスーツは勿論、洗ってあるよ?
ふと、おばさまの顔が驚愕に変わる。
「この腕輪って、〈時空倉庫の鍵〉じゃ・・・」
「あ、はい」
「・・・・実物を視るのは初めてです。凄いものを見つけましたね」
「やっぱ凄いんですね」
「そうですね――これ一つで幾らになるか・・・・」
凄いものだって訊いてるけど、そんなにも驚くものなんだ?
おばさまがネックレスを持ち上げて、首を傾げる。
「・・・・このネックレスは初めて見ますね。どのような物か分かりますか?」
「バーサスフレーム用の〈時空倉庫の鍵〉です」
おばさまがネックレスを取り落としそうになったので、私は慌てて支える。
おばさまは「速ッ――さすがプレイヤー」と言ってから、お礼を言ってきた。
「あ、ありがとうございます――しかし、少々お待ち下さい・・・・!」
言っておばさまは奥へ引っ込んでしまった。
そして何やら真ん中の方に座っていた男の人に話しかけている。
どうしたんだろう・・・?
やがて戻ってきて「では登録の為に写真を取ってきます。宜しいですか?」と尋ねられた。
「はい、お願いします」
返事を返すと、座って待っているように言われた。
するとアリスが「ステータスを測ってみませんか?」と尋ねてきた。
「え、市役所でも測れるの??」
「はい、窓口横の箱に手を入れてみて下さい」
アリスが示したのは、四角い機械。蓋のない小さな電子レンジみたいな。
ストライダー協会でも小さな機械で読み取られたけど、こっちだとこんなに大きな装置で読むんだ?
ちょっと恐る恐る手を入れると、内部が青に光った。
機械から『読み取り中です。しばらくお待ち下さい』という女性の声がした。
(ストライダー協会だと一瞬だったんだけど、やっぱ流石にアレの真似はできないんだなあ――でもこの様子だと地球製ポイから十分凄い)とか思いながら、1分ほど待つと『ピ』という音がなった。
『読み取り完了です。カードをお受け取り下さい』
という案内とともに、機械の上から結構立派なカードが出てきた。
ラミネート加工されている。
「ストライダー協会のは金属だったけど、こっちは紙なんだね」
「流石にあっちの科学力と比べちゃだめですよ。そのカードで、持っているアイテム、使っている機体、入っているクラン、ステータスの変化とかスキルとかIDが確認できますよ。あと力 敏捷 知力も簡単にですが数値化されます」
「あーやっぱり、知力も?」
「まあ、記憶力とか思考力とか芸術センスとか音楽センスまで含めた総合的な物ですからあんまり気にするものじゃないですよ」
「そっか、何かのセンスとかまで加わってくるんだね」
確かに知力って言っても分野は広いよね。
カードを見れば、私のプレイヤーとしての情報が書かれている。
ID:スウ
力:24
知力:54
敏捷:311
ステータス上昇:
空間把握20%アップ
筋操作(切り替え)10%
酸素消費量低下10%
原始反射加速20%
記憶力拡大20%
称号:〖伝説〗、〖銀河より親愛を込めて〗
スキル:〖奇跡〗、〖暗視〗、〖強靭な胃袋〗、〖超怪力〗、〖第六感〗、〖超暗視〗、〖サイコメトリーμ〗、〖念動力μ〗。
クラン:なし
所持機体:ST‐81 スワローテイル
(たった2ヶ月ほどで、色々変わったなあ)とか感慨深く思う。
それにしてもやっぱ、力と知力が低くない? それとも、敏捷が高すぎるだけなのかなあ?
「見ていいですか? わたしのも見せるので」
「う、うん」
「力は女の子として普通ですねぇ。知力――あら・・・結構普通なんですね、首席なのでもっと・・・・――」
言ったアリスが目を見開いた。
「――なんですか、この敏捷!! はあ!? ――おかし――に、人間の数字じゃない・・・・!」
「え、え、そんなに高いの?」
知力と筋力が低いのではなく? ――いや、筋力は知力に対して比べても明らかに低いけど。
「オリンピック選手でもこんな数字になるのか―――・・・100を超えたらもう化け物なのに300超えって、・・・・・・これが私のです」
ID:アリス
力:86
知力:58
敏捷:65
ステータス上昇:
思考加速30%
反射加速40%
記憶力拡大10%
筋力上昇50%
筋操作(切り替え)10%
頑強10%
称号:〖ヘラルド〗
スキル:〖重力操作〗、〖真空耐性〗、〖透視μ〗
クラン:なし
所持機体:WI36TYPE-R1 アンカーフェイス
「スウさんは称号も2つ持ってますし、スキル8個って・・・」
「そ、そんなに凄いのかな」
「普通は称号どころか、スキルすら一個も持ってないんですよ」
「そんなにかあ。でもこの機械の方が凄い気がする」
「まあ、それもそうですね」
「ストライダー協会のに比べると劣るけどさ、この機械を地球で再現出来てるのが凄すぎない? ガチで地球のものとは思えないんだけど・・・・」
アリスが教えてくれる。
「この機械はフェイレジェの技術を使って、日本の町工場が開発したんですよ。今は日本だけで導入されています」
「町工場!? ・・・・さすがロケットまで作っちゃう日本の町工場、何が飛び出してくるかわからない」
ちなみにロケットを作った町工場があるのは、ここ神奈川県の湘南です。神奈川驚異の科学力。
「欲しがっている国もあって、そろそろ輸出されるらしいですよ」
輸出、上手くいくと良いなあ。とか思いながら椅子に座って待っていると、再び呼び出しされた。
ただ、なぜかおばさまではなく、真ん中の方に座っていた男性に対応してくれる人が変わっていた。
「おまたせしました。登録完了しました。物品をお返しします」
こうして登録が終わった。
続いてアリスも登録を終える。アリスもバーサスフレーム用の〈時空倉庫の鍵〉を持っていたので驚かれていた。
その後、アリスが欲しい本が有るというので、駅裏のビルに入り本屋にGO。
目的の品は、フェイレジェのガイドブックだ。
『宇宙の歩き方』という本らしい、平積みにされた横にあった立ち読み用に紐に結ばれた一冊を二人で手に取り覗きこむ。
銀色をベースに、中央に青い惑星の浮かんだ宇宙を描いた装丁が美しい。紙も随分丈夫だ。
それでも立ち読み用に置いてある一冊は随分ボロボロになっている。みんなフェイレジェに興味津々なんだなあ。
二人でパラパラとめくってみる。
――おおっ、さすが本。ネットの情報より〝濃い〟。
「おすすめアイテムとか、機体のおすすめ改造とか。連合基地のマップとか載ってて助かりますね」
「だね! 写真や挿絵も沢山入ってて、分かりやすい――というか私、紙の本好きなんだよね。紙の本を所持するのって、ネットにはない知識を持ってる特別感があって好き」
「わたしも、本が宝箱に見える時があります」
ネットが有れば無料で情報にアクセス出来る時代だからこそ、お金を出して本を買って特別な情報を手に入れるのは今の本の価値だと思うなあ。
アリスが一番前のページを指す。
「銀河の地図とか詳しく描いてあって最高ですね。銀河の地図知りたかったんです」
「この協力にある、『ビブリオ・ビブレ』って。確か、フェイレジェの日本勢の4大クランの一つじゃない?」
「情報クランを名乗ってるトコですね。フェイレジェの情報に関してはNASAとJAXAの共同クランNAXAよりも豊富なんだとか。まあ、宇宙科学に関しては勝てないでしょうけども」
さらに私達はパラパラとめくっていく。
「あ、最後の方に有名クランの一覧とかある。アリスの所属していた星の騎士団も紹介されてるね」
「今クラマス大変でしょうねえ、こういう所で紹介されちゃうと、毎回入団希望者が一気に増えるんですよ」
「そりゃそうだろうねえ」
で、さらにめくって行くと、有名プレイヤーまで掲載されてて、アリスが【赤い閃光の】アリスとか紹介されてて草。
私が「クス」と笑うと、隣のアリスが「涼姫?」と言いながら肘でつついてきた。笑顔が怖い。ごめんて。
他にも主な惑星の紹介とかもある。
エリアスも有るなあ。
水の惑星で、陸地がハワイ諸島程しかない。海が綺麗なリゾート惑星なんて書いてある。
極付近の写真もある。奇麗だけど危険な生物が居るから近寄らないほうがいいのか。
あと深海の底は、地球なんか目じゃない程深いんだとか。
よし、私も買おう。
買って〈時空倉庫の鍵〉に入れておこう。
こうして二人で「宇宙の歩き方」を購入することにした。
あとは帰るだけ。
でもアリスとお出かけできるなんて、ホントに嬉しい一日でした。
◆◇Sight:三人称◇◆
涼姫の元義母、佐里華は涼姫の産みの父親の残した通帳を娘に見せながら嬉しそうに笑った。
「見てみて、折姫」
「なによお母さん」
「このジジイの通帳、お金が増えてるのよ」
「えっ、なんで!?」
言われて数字を見れば、数百万増えている。
「知らないわ。でもまだまだ鉱脈になるのよ、これ」
「ジジイが投資でもしてて、今も払われてるのかな?」
「多分そうね」
この通帳の数字が増えているのは涼姫のお願いでフーリがこちらに振り込んでいたのだが、フーリは涼姫が追い出された事を知らず、涼姫もストップしてもらうのを忘れていたのだ。
涼姫の元義姉、折姫は名案が浮かんだとばかりに母親に提案する。
「じゃあさ、投資とかしない?」
「そうね。もっと儲けられるように、お店のオーナーにでもなりましょうか。そうしてお店を誰かに任せればあとはメニューや経営方針でも考えればいいだけよ」
「良いこと思いつくねお母さん、流石だわ」
「少し足りない分は銀行の融資でも受けましょう。どうせこの通帳にどんどん振り込まれるのだからすぐに返済できるのだし」
涼姫はもう親子では無いのだからこの通帳を使うと贈与税が掛かることを、佐里華は知らない。
けれど、折姫は母を褒め称える。
「お母さん天才すぎるわ」
二人はこれでまた贅沢ができると、嬉しそうに笑いあう
「そうだ、まだ涼姫の私物ちょっと残ってるんだけど、どうする? アイツからハガキとかも来てるけど」
ハガキとは、涼姫がスウ事務所に住む場所を作ったという転居の知らせだった。
そこには、涼姫への連絡先が明記されていた。
「要らないわよ、早く捨ててしまいなさい」
「だよね」
言われて折姫は、涼姫の私物を全て処分するのだった。




