493 深く潜ります
『お前は本当になにからなにまで、よし!』
「でも待って、一旦さ、後ろに戻って速度を溜め直さない? ――で、後ろの門を抜けて、その先正解を見つけて一気に」
『流石だマンチ。全くお前の言うとおりだ――しかし、これは中ボスが居なかったも同然だな』
「絶妙に褒めてないんだよねえ」
私達は降下、背後のいま出てきた田に入って逆走。
今回は後ろ向きには飛ばない。降下を始める時に機体を反転すると速度を失いかねない。
上昇状態から降下に切り替える時にハンマーヘッド・ターンするには、結構速度を捨てないとできないんだよね。
さっきはすでに降下中だったから、ハンマーヘッド・ターンで反転出来てよかった。
私達は普通(翼を縦にして)に降下して、速度を溜め直す。
4つの門を抜け直して、機首上げ。
「〖第六感〗――正解は、たぶん右上!」
『よし、行くぞ』
「りょ!」
こうしてこのステージのボスにたどり着いた。
工場の床のような場所に有った田から飛び出した私達の後ろで、田が閉じていく。
隔壁の様な物で、田が閉じた。
もう戻るのは駄目、って事か。
「こ、ここからは冗談ですまないね」
『ああ、お前ほどじゃないが、分かっているつもりだ』
「リスナーもごめん、ここからはコメントをあんまり見れない」
❝うん❞
❝頑張って❞
❝\1000:千円で戦勝祈願❞
あ、なんか一杯、千円が入ってくる。
見れないって言ってるのに――まあ後でアーカイブで確認しよう。
「さあ来るよ、マイルズ!」
『ああ、頼りにしているぞ、スウ!』
◆◇◆◇◆
現れたタロース。
「〈発狂〉タロース、懐かしいな」
人間の胴体だけみたいな見た目。
手も足も頭もないけど、背中に翼が生えたような。
「入れ、ゾーン」
わたしはゾーンに入って、全身の神経をタロースに繋ぐ。
いや――違う。
かつては、私の体から神経の糸が出てタロースに繋がっているイメージだったけど、今や私が飛行機と一体になって、飛行機から神経が伸びてタロースに繋がっているイメージだ。
まるで主翼が腕、尾翼が足みたいに感じて、風の形まで分かる。
――前の私とは違う。
私のゾーンも、どんどん強化されてる。
そうだ私は、〈発狂〉デスロードをクリアしたての頃より、強い!
負けはしない!!
私とマイルズは上昇しながら、完全ランダムの弾幕を躱していく。
「マイルズ!!」
『ああ、速度がどんどん失われていく・・・!』
「門を戻って速度を溜め直せないし、急がないと――」
『だが、タロースの体力も半分――』
マイルズが言い掛けて『ちぃっ』と舌打ちした。
タロースの後ろから、アンモナイトみたいなザコが飛んできたんだ。
しかも・・・、
奴ら、衝撃波を放ってくる。
回避不能の全体攻撃だ。
なにこれ、訓練場と違いすぎる!
『これは・・・不味いぞ! 速度云々より、機体が先に崩壊する!』
❝杏桃ナイトちゃん、なにしやがる!❞
杏桃ナイトちゃん。クラン、ストリーマーズの人だね。
「まって、ザコを倒すと何か出すよ!?」
十字マークの付いた光。
・・・十字マークかぁ。
『回復か?』
私は念動力で引き寄せてみる。
すると、機体の損傷が一気に治った。
「うん、回復だこれ! なるほど、弾幕を躱しながら回復を取って戦えって事ね?」
❝いやいや・・・鬼畜か❞
❝まあ、ずっと鬼畜ゲーだったが❞
いや、回復を取らないといけないことより、失速機動が使えないのがキツイ。
落下するために速度を落としたりなんかした日には、速度を溜め直せない。
入ってきた門は閉じちゃってるし、速度を溜め直すには、距離が足りない。
私は後ろ向きの機銃で、後ろにいるザコを倒しながら叫ぶ。
「マイルズ火力特化で行こう」
『どういう事だ!』
速度を上げられないからタロースに追いつけない。
だから〈励起翼〉は駄目、だけど正面に捉えれば、機銃から飛んでいる6weyの拡散弾が、6回攻撃でタロースに命中する。
ショットガンみたいな感じだ。
でもタロースを正面に捉えられるルートは少ない。
私と、マイルズが一列になる必要がある。
私はマイルズに前に入ろうとする。
『何をしているスウ! お前にボクの弾丸が当たるぞ!』
「大丈夫! 躱すから撃ち続けて!」
『な―――っ。ラ、ラジャ・・・』
私はさらに深くゾーンに潜っていく。
深く深く。
青く見えていた世界の余計なものが消えていく。
静かに、静かに。
世界が単純になっていく、音が消え、映像もワイヤーフレームのようになっていく。
なにか・・・・なにか、掴めそうだ。
背後から飛んでくるマイルズの弾丸と、正面から迫ってくる弾幕を同時に躱す。
全ての弾幕と、弾丸がスローに視える。
後ろに目が付いてるみたいに、後ろが視える。
「これだけ風が分かるなら、できる!」
私はスナップロールで高速横転をして、ターロースの弾幕やマイルズの弾丸を躱し続けた。
『スナップロールか・・・・』
弾幕も弾丸も当たらない、当たるわけがない。
やがて、タロースがジルコンのようになって砕け散った。




