42 もっとエリア外で自分を強化します
私はホームセンターの端まで来た、すると雰囲気のちがう一角があった。
妙な杖とかが一杯あるけど。
『ここは量子魔術用品売場のようです』
「え、量子魔術!?」
イルさんの言葉に私は驚愕してしまった。
だって、
「プレイヤーは特別な場所に行かないと量子魔術が憶えられないはずだけど・・・いいのコレ、憶えちゃって」
確かオルテゼオに魔術学校が有るんだよね。そこに入学しないと、プレイヤーは憶えられないはず。
『もちろんマスターは構いません』
「こんなのチートじゃん」
私は本を手に取り、ペラペラとめくる。
なにこれ・・・。
そこにはまさに、呪文のような物が書かれていた。
例えば数字。
σεδὴ (0)
ἄλφ (1)
υφ(2)
σαμτά(3)
単語もこんな感じ。
Ἅιρ(変数)
σιρῖς(小数)
ἀτρά(原子)
「なんでこんなややこしい事になってるの? 日常会話じゃ駄目なの?」
『日常会話で魔術が発動すると不味いからです。指輪のような発動体もありましたので』
「なるほど」
尤も、か?
「でもアルフ位は、日常会話で出てきそうだけど」
『マイマスターの考えているアルフとは、だいぶ発音が違います。カタカナにするとオゥルフに近いですが、これでも少し違います。きちんと発音しなければ魔術は発動しません』
「完全に語学じゃないですか、ヤダー」
『言語体系ではあります』
その位は暗記せーや、って事ですか。
「だけど・・・・むしろだからこそ唆られる。ハリー・◯ッターみたいに杖を振り回して、チエストォオオ!! とか言いたい」
『その方は恐らく、チエストとは言いません。ちなみに杖に登録して、詠唱を省略して撃つ方法もあります』
「私の魔法使いゴッコの夢が潰えた瞬間である」
『いえ、暗記していればそれだけ多様に使えますよ。ただしVRを着けていれば、脳内で言うだけで良いですが』
「結局、潰えた」
『それでも初心者の内は無詠唱より、口に出したほうが良いです』
「なるほど、その辺りはファンタジー小説とかと同じなのかな。初心者の詠唱と、達人の無詠唱――そういえば、銀河連合には自動学習装置とかないの?」
『有るにはありますが貴重です。これは星団帝国時代から変わりません――今の方が貴重ですが』
「もしかして銀河連合って、1000年前より科学力落ちてる?」
『はい、一度文明がほぼ破壊されました。その後、中世のような状態から旧時代の物品を発掘し、宇宙船を作り出し、宇宙に飛び出し各惑星で様々な技術を見つけ復活させながら、今の科学力まで復興しました。現代もプレイヤーの方々に発掘をやってもらっています』
「なるほど・・・じゃあ、どっかで自動学習装置を見つけて連合に提出すれば」
『学習装置自体はすでに発見されていますが、再現できないロストテクノロジーが問題となっています。勉強はVRの3倍の世界で頑張ってください』
「ちぇ・・・」
『ちなみに魔術を使うには、魔術用インプラントが必要です。インプラントを行うことで、杖内部の魔術量子に感応できるようになります。インプラントには属性があり、才能で操れるタイプの感応量が変わります。当然、個人差があります。また複数のインプラントを行うことは難しいです』
うーんまさしく「十分に進んだ科学技術は、魔法と見分けがつかない」って奴だなあ。
「つまり要は、魔術を覚えるには才能が必要で、複数の魔術は覚えにくいわけね」
『そうです、マイマスター。才能はそこにある箱で測れます。そこに手を入れると結果が出ます』
イルさんが向いた方向を視ると、ストライダー協会でステータスを測った時に見たような機械があった。
言われて私は箱に手を入れてみる。
すぐにに私のVRに結果が出力された。
生成 光子(光) = 0%
生成 プラズマ(雷) = 33%
生成 気体(風) = 7%
生成 液体(水) = 15%
生成 固体(土) = 86%
合成 酸素(火) = 1%
加熱(熱) = 2%
冷却(冷) = 24%
習得可能属性数 1
作成可能元素、1、2、21~29。
これはひどい。
「光0%」っていじめ?
加熱もなくて笑う。冷却高くて笑う。
火が1%って。
「イルさん・・・・これって性格診断テスト?」
『魔術の才能に性格が反映されるという話は聞いたことがないので、決してその様な事は無いはずですが・・・・性格が出ていますね』
「イルさんが、私を根暗っていったあああ!」
わーん!
『な、泣かないで下さいマイマスター! マスターはちょっと明るくないだけです!』
「いや、それ同じ意味じゃん。――にしても、横の()内の文字が〝これは魔術なんですよ!〟って主張してくるね」
『創始者の趣味です。創始者は西暦2000年付近の日本のサブカルチャーが大好きだったようです』
「なるほど・・・・。火属性だけ浮いてるねえ」
『火が得意な方は化学反応を促進させるのも得意な事が多いです』
「なんだろう、酸素と炭素の合体を早くしたり出来るの?」
『はい』
「――習得可能属性数が1ってことは憶えられる属性は1個? あんまり才能ないのかな」
『いえ。確かに憶えられる数は少ないですが、土属性80%超えは素晴らしい才能です。50%あれば、才能ありの世界ですので』
「それは嬉しい!」
土って絶妙にダサいのが、アレだけど。でも、土魔術はチートだもんね。
「この作成可能元素って、周期表の番号?」
『その通りです』
「1と2は、水兵で、水素とヘリウムなのは分かるけど、21から29ってなんだっけ?」
私はスマホで周期表を調べてみる。
「あー、第一遷移金属かあ。色々有用なのが揃ってるね。電気を通しやすかったり、熱を通しやすかったりする辺りかな」
『はい元素番号の低い、水素から酸素までは扱える方が多いです。あとは鉄までは作りやすいようです。鉄が安定しすぎているので、それ以降を作れる方は希少です』
私、若干希少種なのね。
「これ才能が火で、酸素作れなかったらどうなるの?」
『可哀想な感じになります、』
な、なるほど。
「でも『魔術の才能が火なのに酸素が作れなくて、追放された俺の英雄譚』的に頑張ってる人もいるかも知れないし・・・」
『実際、いるようですね。そのせいでパーティーを追放された方が』
「ヒエッ。が、がんばぇー」
私、希少種で良かった。
「と言うか私、水素作れるなら、擬似的に火魔法も使えるんじゃ?」
『マスターが作れるのは、固体水素です』
「水素って・・・凝固点幾らだっけ?」
なんかヤバそう。
「これ作成した物質は、消えないの?」
『消えません』
私は周期表を観る。
「ちっ、銀は第2遷移金属。白金と金は第3遷移金属か・・・」
『何を考えてるんですか・・・マイマスター、』
悪いこと。
『とはいえ魔術よりも、スキルの効果の方が遥かに強いです。スキル持ちには魔術はあくまで補助にしかならないでしょう』
「魔術で起こす熱より、超能力の発火で起こす熱のほうが強いとか?」
『正しくそのとおりです、マイマスター』
「でも弱いとは云え、スキルと組み合わせたら結構凶悪なことできそう。例えば空中に鉄の槍を生成して、それを〖念動力〗で飛ばすとか」
『素晴らしい発想だと思います。通常は物質を生成しても、魔術で物質を飛ばすことが難しいので。そうして銀河連合市民は魔術は使えてもスキルは使えません。プレイヤーには魔術を使える人が少ないので、槍を念動力で飛ばすような行為が可能なのはマスターだけである可能性が高いです』
「ふふふー」
私は鼻を高くする。
『ただし、銃を撃ったほうが強い場合が多いでしょう』
「――ふ・・・・――」
私は遠くを見た。薄っぺらい蛍光灯らしき物の近くで、羽虫がブンブンしていた。
「――じゃあ〖念動力〗がない人は、魔術で行う遠距離攻撃は自由落下の力を使ったり、爆発を使ったり。元々攻撃的なプラズマでの攻撃がメインになるのかな?」
『その通りです』
「インプラントはどうやって受けるの?」
『そこに売っているカプセルを飲めば、ナノマシンがインプラントを行います』
「危険性は? 副作用とか」
『確認されていません』
「作れるのは元素だけ?」
『難しいですが、化合物も可能です。混合物は不可能です。化合する数によって、指数的に難しくなります』
「それは・・・大変そう。じゃあ逆にさ、炭素だけで出来たカーボンナノチューブを作るのはどうなの?」
『それも難しいです。非常に精密なイメージが必要になります』
「ままならないんだねぇ」
私は「土魔術」と書かれたカプセルを、買い物カゴに入れる。
杖はどれにしよう。
いかにも魔法使いっぽい樫の杖みたいなのや、ポッターさんが持ってそうな指揮棒チックなのもあるし。
魔法少女が持ってそうな、星やらハートやら翼っぽいのが付いたデザインなのもある。
他にもペンダントとかキーホルダーになってて、持つと使いやすいサイズになるのもあった。
あとは鍵みたいなデザインのとか、指輪とか、箒とか、剣、フォーク、スプーン、ペンライトみたいなのとか
「あ、これにしよう」
私は万年筆ぽいのを手に取る。別に握っても大きくならないけど、ペンを使う感じで使えそうだし、これなら携帯しやすい。
『マイマスター、そのサイズでは魔術の登録がほとんど出来ません。また大きな物の方が出力も高いです』
「でも携帯性や利便性がなあ――。トレードオフかあ。じゃあ――大きいのと小さいの、どっちも買うかあ」
私は樫の杖ぽいのも、買い物かごに入れた。
で、銃やら杖やら全ての商品の総計53万クレジット也。
これ日本円にすると530万円使ったわけで――レジの店員さんが、目をまん丸にして私と値段の間で、目を何回も往復させていた。
会計を終えて、店の外に出る。
商品はぜんぶ<時空倉庫の鍵>の中です。
私は早速ラジオを取り出し点けて、魔術テキストに目を通す。
なんとこの魔術テキスト紙である。この世界で紙は殆ど見かけないんだよね。
「なるほど――〝ἀτρά(原子) Ἅιρ(器) υφ(2) ροφ(6) ροτρο(生成) μαχά(メートル) ἄλφ (1) 【ω χάλυψ ω χάλυψ】(鉄よ生まれよ) 〟で、1メートル先に鉄が生成できるのかあ。形はイメージしながら魔術の発動体を振る。と――ていうかルュってどう発音するの?」
『ルュですマイマスター』
「ルュか」
私は早速、魔術の発動体なペンを取り出して誰も居ない方を向いて、
「ἀτρά(原子) Ἅιρ(器) υφ(2) ροφ(6) ροτρο(生成) μαχά(メートル) ἄλφ (1) 【ω χάλυψ ω χάλυψ】(鉄よ生まれよ)!」
と、球体をイメージしながら杖を丸く振ってみる。
すると本当に鉄の玉が生成されて キン と落下した。
「うわっ、うわっ! なにこれ!! 本当に魔法使いみたいで、すんごい楽しい!!」
役に立つか、立たないとか、もうどうでもいい、楽しい―――!
この呪文っぽい言葉もいい! これが更に、魔法感を引き出してる!
創始者ナイス!!
ただ、ちょっと精神的に疲れた気がする。しっかりMP? を消費するのかな――でも、それがまた良い。
便利とか不便とかもう、どうでもいい。疲れてるのが嬉しい。
とりあえず試しに、魔術で生み出した鉄球を〖念動力〗で握って投げてみる。
ビュン っと風を貫いて飛んでいく鉄。
「よし、出来るね完璧。まあ、なにかの役に立つでしょう」
実はペンはもう一本買ってある。
「このペンは第1周期を作るペン」
鉄を作ったのは第4周期を作るペン。
「で、私は固体を作る力を持ってるわけで」
もし、私がヘリウムを作ったら、固体ヘリウムが出てくる筈。
ヘリウムは、1気圧だと絶対零度でも凍らないほど凝固点が低い。
作ったらどうなるんだろう。
「ἀτρά(原子) Ἅιρ(器) υφ(2) ροτρο(生成) μαχά(メートル) ἄλφ (1) 【ω ἥλιον ω ἥλιον】(ヘリウムよ生まれよ) !」
真っ白な粒が、1メートル先に産まれて落下しながらすぐさま蒸発して消えた。
すると私は立ちくらみがした――その場に崩れ落ちた。
『マ、マスター!! 大丈夫ですか!!』
「う、うん――辛うじて意識は失ってない」
凄まじい疲労感。
肉体は元気なのに、感じたこともない強烈な倦怠感が私を襲っている。
これはまずい・・・。駐車場のはしの方に寄って、休憩する。
途中で乳製品ぽいジュースを自販機から買って、座り込んだ。
ジュースを一口呑んで、大きく息を吐いた。
「こんなに疲労感が出るとは思わなかったぁ」
砂粒みたいなサイズのヘリウムを作っただけで倒れかけるんじゃ、ヘリウムを作るのは現実的じゃないかも知れない。
「水素も止めといたほうがいいな、これ。ワンチャン、酸素もまずいかも知れない」
第1周期を作るペンは封印しよう。
MPを上げる方法はあるのかな? ステータス上昇に有ったり?
ウィンドウを開いて調べると、あった。〖MP上昇〗っていうステータスアップが。
勲功ポイントに余裕が出たら、上げようかな。
挿絵、というか図解です。光崩壊エンジンの大体の仕組みです。
ただの裏設定です。




