489 人間卒業試験が始まります
「じゃあマリさんは弾幕が薄くなる、思いっきり遠くまで下がって狙撃して下さい――マリさんの狙撃力ならその方が良いかも知れません」
『なるほど。VR訓練シミュレーターだと、距離を離そうとしてもボスが近づいてくるから狙撃は出来なかったけど、今はスウちゃんとマイルズがタゲ取ってくれれば行けるね』
「はい、タゲは任せて下さい! マイルズ、火力特化ルート入るから、フォロミー!」
『了解!』
マリさんが、機体を倒して遠ざかっていく。戦艦の構造を遮蔽にして使うみたいだ――なるほど、あれもVR訓練シミュレーターには無かった要素だ。
私とマイルズは、突撃するようなルートを通ってミダスに接近。
よし、ミダスがマリさんを追いかけたりしない。
「〈単分子波動翼〉!」
『〈単分子波動翼〉!』
「トビラ・オブ・カナガワ!」
私とマイルズはミダスをかすめるように飛んで、ミダスを斬りつける。
私は一斉掃射も含めながら。
❝おおお、ミダスのHPがゴソっと減った!❞
❝これなら火力が相手の回復を上回れる!❞
マイルズが、苦しそうに言う。
『こ、これは本当にキツイルートだな。それに〈単分子波動翼〉が難しい』
❝エレガントじゃないぞ、マイルズ。俺ならその程度余裕だ❞
「このコメントはマイルズに見えていません」
どうせ今のコメント、ユーだろうけど。
『ボクはお前のように、プッツンじゃない』
「見えてるの!?」
❝モデレイター(アリス):スウさん頑張ってください!❞
❝モデレイター(リッカ):スウ、マイルズがんばぇー。わたしたちにはそのボス達は倒せないぞー。スウとマイルズとマリが無理だったら、もう誰も倒せないぞー❞
❝モデレイター(アレックス):ふっ、まだ俺が控えてるぜリッカちゃん❞
❝モデレイター(リッカ):スウとマイルズとマリが無理だったら、もう誰も倒せないぞー❞
❝モデレイター(アレックス):なぜ2回言った!?❞
❝モデレイター(アリス):入れるなら命理ちゃんでしょうね。こういう場所一番有利そうなのは、命理ちゃんです。ただ彼女の場合、ボディが失われたら代えが効かないので最終手段ですが❞
❝いやアリスたん、あの惑星では命理たん。命理たんはロケットエンジンで飛ぶから、あの惑星では飛べない。命理たんも飛行機に乗ることになる❞
❝モデレイター(アリス):あ・・・そうですね。命理ちゃんも無理ですね。スウさんとマイルズさんとマリさんが無理だったら、もう誰も倒せないですよー❞
❝モデレイター(アレックス):一式 アリス!?❞
私の眼に、火力優先ルートの線が見える。よし、ここだ。
「マイルズ、フラットスピンで素早く反転するよ!」
『は!? お前フラットスピンで素早く反転って――フラットスピンは事故の名前だぞ!? 機動の名前じゃないッ!! まさかお前、――ラジコン飛行機みたいに反転するつもりか!?』
「これが火力優先のルートだから、いくよ!」
『それは、本物の飛行機でやって良い行動じゃない! 危険極まりない!! お前、さっきのムーンサルトもまさか――』
私は、上昇しながら左ペダルを踏み、操縦桿を左後ろに引く。
『このっ、プッツン女ぁぁああぁぁぁぁああああ!』
❝マイルズ涙目w❞
❝それでも、スウの言うルートを通って弾幕を躱すにはやるしか無いな。マイルズ・・・がんばぇ❞
私の機体が若干斜めに弧を描き、コンパスのように180度回転。
私は後ろを確認。
よし。さすがマイルズ、付いてきてる。
『――くそっ、誰だ、こんな頭の可怪しい女を作り出した奴は!』
❝なんだかんだ言いながら、マイルズついて行けるんだ❞
❝俺なら100ぺん墜落する❞
❝口では文句をいいながら、実力は正直なマイルズニキ❞
❝あんな回転の仕方して大丈夫なん?❞
❝全然大丈夫じゃない。あれはいわゆる操作を失った状態だし、その中でも回復がかなり難しい部類なんだよ。あれ、下手したら操作を一切受け付けずに墜落する可能性すらある❞
❝狂陰さん・・・マジ狂陰❞
「〈単分子波動翼〉!」
『た、〈単分子波動翼〉――お前、このまま突っ込むつもりか!? まだボクはストールから復帰仕切ってないぞ!』
「マイルズ、お前を誰だと思ってる!」
『いや、それをお前が言うのか!?』
❝先回り肯定ワロタ❞
❝実力は正直だから❞
こうして私とマイルズはフラットスピンを繰り返し、〈励起翼〉でミダスを切りつけ続ける。
マリさんの狙撃も完璧で、やがてミダスは砕けて消えた。
『GJ!』
マリさんが通信で褒めてくれた。
だけど、マイルズはご立腹。
『確かに倒せたが、改めて言わせてもらう。本物の飛行機でやって良い機動ではない。――いや、あれは機動ではない』
「結果オーライ」
『じゃあ、ぼくはここまでかな。洞窟が狭いし』
そっか、マリさんとはここでお別れなんだっけ。
『ああ。マリ曹長、ありがとう。助太刀助かった』
「マリさんありがとう! 気をつけて帰ってね、家につくまでが遠足だからね!」
私が言うと、マイルズが呆れた。
『お前、ピクニック気分だったのか!?』
するとマリさん大笑い。
『あはは! そっちこそ気をつけてね。この先、本当に危ないみたいだから』
「はい!」
するとマイルズが決め声で言う。
『ああ、吉報を持ってくるから待っていろ』
親指を立てたマリさんの北斗が、流れていくように遠ざかっていく。
さあ、いよいよ第4ステージだ。この次のボスはゴルゴン――〈発狂〉デスロードなら、人間卒業試験に入るステージ。




