485 焦ります
私はクマムシパイセンの頭に向かって、機関銃を撃ち据える。
『綺麗なもんだ』
『ディサイシブだ、スウ』
「ユーが、私の知らない単語で困らせます」
あ、クマムシパイセンが身体を丸めた。パイセンの防御形態だ。マグマでも真空でも生き延びたという、地球上の生物で最も防御力の高い姿勢だ。
銃弾が、キンキンいいながら弾かれ始めた。
「銀河連合の機関銃を弾くとか、硬すぎでしょ・・・」
『攻撃が通用しないな・・・このドームを早く消したいのだが』
攻撃が通用しないので、仕方なく私達は丸まったパイセンの周りをグルグル回る。
ちょっとだけ飛んでくる相手の砲弾も躱さないといけないし、躱してると戦闘機が壁に当たりそうで怖いからその姿勢止めて欲しいんだけど。早く決着を着けたいんだけど。
『長いな・・・・ただ飛んでいるだけでもキツイというのに。〈単分子波動翼〉をぶつけても大丈夫か? 弾かれたら面倒だが』
「そっか・・・やってみる」
私は再び上空に上がって、もう一度、捻り込みからの垂直降下。丸まったクマムシパイセンに〈単分子波動翼〉をぶつけてみた――って、弾かれた!
「わっ!」
姿勢を失ってクルクルと回る、私の北斗。
「フラップを下げて、操縦桿を押して・・・!」
『大丈夫かスウ! 早く姿勢を戻せ、壁にぶつかるぞ!』
「〖超怪力〗〖怪力〗!」
私は右にあるレバーを急いでクルクル回す。
これで車輪が出て来たはず。
そうして機体の姿勢をなんとか戻していると――マイルズが叫ぶ。
『駄目だ、姿勢制御が間に合わない! 壁にぶつかる! ――』
私は、ギリギリのところで壁面に車輪を着けて、そのまま球状の壁面を走った。
『――んなっ!?』
『あはははははは』
マイルズがビックリして、マリさんが大笑いした。
『エレガントな回答だ、スウ』
ユーは相変わらず独特だった。
私はホッと安堵のため息。
一応、できるだけ上の壁に着地して、速度と接地圧を和らげたけど成功して良かった。
「今のは、流石にちょっと焦った」
『あんな状態で、着陸を決められるとは・・・・それも椀型の場所に・・・』
❝ちゃんと化け物だなあ❞
❝ $100:Coooooooooooooool !!❞
「あ、投げ銭どもです」
一気にコメント欄がカラフルになる。
『お金が飛んできたんだ?(笑)』
「はい。ですが、儲かっても二度とやりません」
『危なすぎるもんね』
「次は成功するかも分からないですよ」
私は、そのまま壁面を走ってクルクル回り続ける。
すると3分くらいして、やっとクマムシパイセンの身体が伸びた。
「待たせてくれたなあ」
まあ、私は壁を走ってるだけだったから楽だったけど。
他のみんなが大変そうだった。
私は壁を伝ってパイセンの直上に回ると、そのまま落下。
再びパイセンを機関銃で撃ちまくる。
「次に丸まる前に倒そう!」
『ああ』
『だね』
『おう』
❝いけるのかな?❞
❝火力足りる?❞
「トビラ・オブ・カナガワ!!」
❝あー、スウたんにはそれが有った❞
私は〈時空倉庫の鍵・大〉を開いて一斉掃射。
今回はいつも使ってる大砲や荷電粒子砲じゃない。
ガス式の大砲を、銀河連合に作ってもらった。
流石に60mmみたいな大口径じゃないけど。
47mm位。戦車砲くらいはある。
クマムシパイセンは、ジルコンの玻璃みたいになって砕けました。
「よし、後はボスかな? 〈発狂〉ギガント?」
『だな、行くぞ。隊列をV・フォーメーションに』
『ラジャ』
『ああ』
「はーい」
私達は、への字みたいなの編隊を維持して飛んでいく。
基地から機関砲やらなんやらあちこちから飛んでくるけど、レシプロ機の凄まじいい旋回力があれば全部躱せる。
「やっぱレシプロ機の小回りはすごいなあ」
私が感想を述べていると、ユーが、なにやら嬉しそうに言い出した。
『スウにもレシプロ機の素晴らしさが分かったか。どうだ、今度北海道の空をレシプロ機デートというのは、パイロット免許も取ったのだろう?』
「えっ、嫌です」
『なぜだ・・・』
「ユーって、私の言う事全部無視するんだもん」
『―――!』
❝ユーが凍りついた❞
❝至極真っ当な意見❞
やがて見えてきた、人間の下半身だけみたいなMoB〈ギガント〉。
上の二門の砲台から弾幕を、股間みたいな場所の砲台が常にこちらを向いて真っ直ぐ砲弾を飛ばしてくる。
どうやら私を狙ってきている。ヘイトがこっちに来ているので「前に出るね」と言おうとしたら、私の前のユーが砲台に集中砲火。
『スウ、俺にも活躍させろ』
ユーが砲台のヘイトを取った。
途端に弾幕を躱すのが楽になった。
ギガントの強さは、常にこちらを向いている大砲から放たれる砲弾だ。
これが来ないなら、ただのパターンが決まった弾を吐いてくるでっかい的にすぎなくなる。
「こんな楽な〈発狂〉ギガント始めて」
流石ユーだわ。
『ふっ、俺の価値に気づいたか?』
「ユーが凄いのは知ってるよ」
『そ、そうか』
「それを台無しにする性格が問題なんだよ」
『・・・・』
❝今日二度目の絶句w❞
私は弾幕を暫く躱しつつ攻撃しながら、みんなに尋ねる。
「ねえ、みんな気づいてる?」
尋ねると、マイルズ、マリさん、あと再起動したユーが尋ねてきた。
『なににだ?』
『どうかしたのかい?』
『どうしたスウ』
「何回考えてみても、レシプロ機じゃ弾幕を躱せない瞬間があるんだ――そこまでのルートを考えると一択で、次のルートにレシプロ機の速度じゃ絶対に間に合わない弾丸が飛んでくる」
『確かに――、そういう瞬間が有ったな』
「・・・・どうしよう。スピードアップを取りまくろうかなとか思ったけど」
するとユーが胸を叩く。
『安心しろ、俺に考えが有る』
「ほんとに!?」
『ああ、俺に任せておけばいい』
「わ、分かった任せるよ」




