484 パイセンが出てきます
「ユーありがとう、私のルートより機体に火力が有る人向けのルートだったね」
『ああ、四人いたしな。それに俺は聖蝶機スワローテイルでクリアしたから〈励起翼〉は使わなかった。だからこのルートがお手の物だ』
「なるほど、その差かあ」
『だが、ロマンティックなスウの軌跡を見てからは〈励起翼〉も使うようになったぞ。お前の隣を飛ぶためにもな』
「あ、ハイ」
『しかし、流石に4人で〈励起翼〉を使うルートは危険だろう』
「この4人なら行けると思うけど、必要性もないもんね」
北斗にも、威力は弱いけど〈励起翼〉が付いている。まあ温度が上げられないんで、ほぼ物理攻撃だけど。
名前は〈単分子波動翼〉
❝確かに〈励起翼〉使うルートは特殊すぎる罠www❞
❝危険過ぎるw❞
こうして私達は第2ステージに突入していくのだった。
でも多分、次のステージのボス、ギガントには足の遅いレシプロ機じゃ〈発狂〉デスロのルートが通じないんだよね。
◆◇◆◇◆
視えてきた、地上基地。
「ででで、でっかああああ!!」
『ああ、洞窟の入口を円形に囲むような巨大基地だからな。そうだな日本で例えれば北海道くらいあるだろうな』
「ほ、北海道・・・・」
『この後この基地の地下から超巨大戦艦が出てくる、そいつは全長50キロ、東京都の半分ほどのサイズだ』
「なにその常軌を逸したサイズ」
話していると、基地から私達に向かって攻撃が開始された。
次々飛んでくるミサイル。
正面から飛んでくる――ヘッドオンの形。
『ボク達ににヘッドオンを挑むとはいい度胸だ』
「こっちはレシプロ機だけどね・・・・」
お尻にプロペラを着けたミサイルが、かなりの速度で飛んでくる。これを、私達は撃墜していく。
正面からまっすぐ飛んで来るなんて、撃ち落としてくれと言っているのと同じだ。
マイルズがパワーアップを取ると、マイルズの戦闘機の下から、ミサイルが湧いては落下していく。なにもない空間からポコポコと出現しては落下。
そしてミサイルは地面に着くと、これまたどんな原理かわからない方法で地を這っていく。そうして何かにぶつかると大爆発。高温で爆発してる訳じゃないっぽい、ガスの膨張かな? あれも。
『これは便利だな。スウも取っておいたほうがいいぞ』
「うん、分かった〖念動力〗」
私は近くを漂っていたパワーアップを引き寄せた。
さらに進むと、直立したクマムシパイセンみたいな生き物が飛んできた。
私達とクマムシパイセンの周りが、ドームのような壁で覆われる。
つまり、私達はドームの壁に囲まれた。
「中ボスっぽい」
私が独り言を呟くと、マイルズとマリさんから『ラジャ』と返ってきた。
あれ・・・・? ただの独り言だったんだけども。
マイルズの命令が入る。
『隊列変更だ。ユー、スウ、ボク、マリに変更するぞ』
「はあく」
『ラジャ』
『いいだろう』
壁に囲まれるのは横シューではそこそこ有りそうなシチュエーションだけど、今はあんまり止まれない曲がれない飛行機。
すごく戦いづらい。――というか。
マリさんが憎々しげに呟く。
『まずいね、これ・・・・いくら旋回能力が高いレシプロ機でも、旋回できる範囲が狭すぎて敵に機首を向けられない』
『厳しいな』
私の後ろを飛んでいるマイルズの声も固い。
『ちっ、なんて厭らしい壁を』
先頭のユーも舌打ちした。
「じゃあやっぱり、アレしかないのかな」
私の質問にマイルズが答える。
『そうだな、失速を利用して反転するかコブラ系統しかない。銀河連合の翼ならコブラも出来るだろう。だが失速で行くぞ、全員大丈夫か?』
『誰に言ってる』
『問題ないよ』
ユーとマリさんはOKみたいだ。
「がんばる」
『なぜ、一番問題なさそうなお前が、一番自信なさげなんだ』
マイルズが若干呆れてた。
『――よし、上昇開始!』
先頭のユーの合図で、私達は一斉に機首を限界まで上げて上昇。
私は戦闘機を若干左に横転させながら、後ろのマイルズと衝突しない程度に、徐々にエンジンを絞っていく。
「〖超怪力〗」
今からやる操作は、私の筋力じゃ全然足りないからスキルを使っておく。
この戦闘機は、古い戦闘機みたいな感じだから舵が油圧式で重いんだ。
さて、まず機首上げ。
飛行機を地面にほぼ垂直にして、横転舵を左横転するように利かせる。
左横転を、右回転するプロペラが起こす反トルクの力で、逆ヨー(左右の横転舵に掛かる抵抗の差から起こる、左右の機種振り)を強めると、尾翼が右に横滑りを始める。
この逆ヨーによる横滑りを、普通にヨーをコントロールする垂直尾翼で右に増大させてやれば、慣性が効いて尾翼側の右横滑りがさらに加速。
さらに私の味付け、ここで水平尾翼も横転舵のように動かして、逆ヨーを加速させれば――
飛行機が右回転で転がり、機首の重さも手伝って、瞬く間に逆立ちになる。
伝説になってしまった本当の『捻り込み』を見たことが無いからわからないけど、私的にはこれが伝説になってる『捻り込み』なんじゃないかと思ってる。
最後の味付けはともかく。
あとは、クマムシパイセンの頭上に真っ直ぐ向き直ることになる。
『まてスウ、機動がエグ過ぎだ! これでは僕がオーバーシュートしてしまう! ――なんだ今の機動は・・・ムーンサルトか!?』
あ、後ろを飛んでたマイルズに、私を追い越させちゃった。
そりゃ資料が日本にすらほとんど名前しか残ってない、レシプロ機用で、しかも日本人の作った古い空中戦機動だもんね・・・・いくらマイルズでも知るわけがない。
すると、さらに後ろのマリさんが口笛を吹いた。
『渋っぶい機動知ってるじゃん、さすがスウちゃん』
「た、たぶん、これが一番早いと思います」
急降下していく私の眼に、クマムシパイセンの頭。
「貰った!」




