479 御本人ます
お、おのれ・・・どこまで私をイジくり倒すつもりだ!
同じ学校のみんなが観てたらどうしてくれるんだ・・・っ! あっちでもイジられるんだぞ!?
一時期学校で、「スタジオにお返しします」が流行ってしまったんだぞ!!
他人に「なにか面白いこと言って」みたいな無茶ぶりするのに使われてたんだぞ!?
廊下歩いてたら、急に知らない子が、私に向かって「なんか面白いこと言って」みたいに「スタジオにお返しします」って言ってくるんだぞ!?
何の刑戮だ!?
コミュ障の私が、そんな無茶ぶりに応えられるとでも思ってるのか!!
なにか言わなきゃって思って何も言えなくて大混乱して、必死にひねり出したのにスベって大笑いされて、恥ずかしすぎて顔の皮を剥がされたかと思うほど、顔面が熱くなるんだぞ!?
なんだよあの学校とかいう、伏魔殿!!
私の怒りゲージが、そろそろ天元突破しそう。
「スウさん、抑えてね。本当に抑えてね」
なんかフーリが猛獣でも宥めるみたいに、私に向かって手のひらを上下させている。
こうして暫く私への刑戮は続き、やがてウウさんは、私がいない別のテントでフェアリーテイルの格好になり「もう会えない君へ・・・」を熱唱し始めた。
「やめろっ・・・貴様!」
「さあ、そろそろスウさんの出番よ」
天誅でござる、天誅でござる!
私はゴスロリっぽい服で、熱唱するウウさんの背後のテントから出て、合唱する。
蜂巣さんは休憩中なのか、500mlペットボトルを傾けていたところで私を見て「ぶーーー」と吹き出した。
蜂巣さんが、私を拝む姿勢になって何度も頭を下げる。
口元が〔堪忍や、堪忍してや・・・スウの姐さん、ホンマ堪忍してくなはれ〕とか動いている。
私が出てくることを知らなかった一部のスタッフも、目が真ん丸だ。
「〽空の向こうには素敵な世界があると信じて、飛んでいく蝶 『雲の波間で何も見えないよ』」
ここで、ウウさんが「ん?」という風に首を傾げた。
異変に気づいたようである。
そして、背後を振り返り、前に向き直り、再び背後を振り返った。
それはそれは、奇麗な二度見だった。
そして悲鳴を挙げる。
「ヒ゛キ゛ャ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
悲鳴を挙げたいのはこっちである。
ウウさんの視線の先には、プチ羅刹。
「ちょ・・・な・・・・ご、ごめんなさい!!」
私は、手にスキルで光球を生み出す。
〖輝け〗だ。
もちろん〖輝け〗は、光る光球を生み出すだけの殺傷力のないスキル。でも、相手にはどんな効果のスキルか分からないのだから、ヤバイスキルだと想像してしまうだろう。
私は光球を持ち上げ投げる姿勢になる。
「や、やめてぇぇぇぇぇぇ、殺さないでぇぇぇぇぇぇ!!」
ウウさんの顔が真っ白になり、涙を滲ませて、本気で怯えて尻もちを着く。
「殺しはしません、このスキルを浴びると、ブタになるんですよ」
「ヒ・・・ッ、ヒィィィイイイィ!! ブタにするのもやめてぇぇぇえええぇ!!」
私が適当に言った言葉で、ウウさんはもう顔面蒼白だ。
私は「投げるぞ、投げつけるぞ」と言う姿勢で、尻もちを着いたウウさんに〝歯を剥き出した怒りの表情〟でジリジリ迫る。
「ほ、本当に許して下さい! 自分がスウさんにチョット似てるなあって、調子に乗りましたァァァアアアァ!!」
ここで私はため息。「はぁ」と胸に溜まった空気を抜いて、
「――まあ、ウウさんも頑張ってるんだし、止めろとは言いませんけど」
ちょっと大物感を演出。
「あ、ありがとうございます! ありがとうございます!」
「ただし、私のモノマネを続けるには条件があります」
「えっ」
私はしゃがんで、ウウさんのお腹をつまむ。
「私はここまで酷くない!」
「ヒイッ」
「痩せて下さい! 私のコラージュみたいにならないで!」
「は、はいいい!」
悲鳴のような返事が返ってきた。
「あと・・・」
私はウウさんを睨む。
「さっきの、『スタジオにお返しします』っていうの止めて下さい! それ、ウチの学校で「なにか面白いこと言って」ていう無茶ぶりに使われてるんです! ――私廊下で知らない子にいきなり『スタジオにお返しします』って言われるんです! ――コミュ障が咄嗟に面白い事なんか、言えるかぁ!!」
ここで蜂巣さんが吹き出した。
「それは困るわ(笑) 芸人の腕試しやないんやから(笑)」
「蜂巣さんにも、言いたいことがあります!」
「なんや、ごめん! 先に謝る、堪忍してや姐さん!」
「私と貴方は対面してないでしょう!! どこで私を見たって言うんですか!?」
「あ、いや・・・それは・・・斑鳩はんが・・・」
以前は辛口だったけど、なんか最近ちょっと中辛になったコメンテーターさんだ。
「『本物のスウちゃんを、見に行きたい』ゆいはってな」
「・・・・は?」
「それで、二人でこっそり後を」
「普通に会いに来よう!? そこは普通に会いに来よう!?」
「いや、斑鳩はんあれで結構シャイでな・・・面と向かって会うのは恥ずかしいゆいはって」
「乙女か!!」
辛口コメンテーターの意外な一面が暴露されて、ウウさんとのコラボは終わったのだった。
――後日談、というか悪夢。
コラボの後、ウウさんは私との約束通り、必死に痩せてなんか顔も私より可愛くなった。
そしたら私の視聴者に〝奇麗な方のスウ〟とか呼ばれ始めたのである。
どういう意味じゃ視聴者ァ!!




