436 状況を変えます そのに
スウは狙撃自体は楽だったが。きらりがどこで豹変しないかと、ビクビクしていた。
きらりが空中のMoBの最後の一匹を、袈裟斬りに真っ二つにした。
『これで、空は片付いたかな☆きらりん』
あとは水中の敵を片付けるだけ、さっきまで苦戦していたのが嘘のように、スウのお陰で今回の下層攻略も早々と終わるかな。と、皆思っていたが。
ふと、空中のMoBがやられた場所でボンヤリとした光が生まれ、それが海中に向かう。
『えっ、なに?』
きらりが眼の前で生まれた光が海中に向かったのを視ながら、疑問を呟いた。
すると、海中で戦っていたプレイヤーたちの悲鳴が通信から漏れてきた。
『て、敵が強くなった!!』
『ま、不味い、一撃でバリアが破られ――敵が早――うわァァァ!!』
『―――駄目だ、脱出する!!』
『攻撃が通用しない――撤退だ、撤退しろ!!』
「これまさか、片方の敵が全滅すると、もう片方が強化されるとかそういう奴!?」
❝同時に数を減らさないと駄目なやつかよ!❞
❝んなもん分かるか!❞
❝初見殺しじゃねーか!❞
瓦解していく水中戦線。
そもそも人数が少ない前線組――水中戦が出来る人間はさらに限られる。
このまま撤退されては、攻略が失敗になる。そう考えたスウは急いで海中に向かう。
「〖マッピング〗」
すぐにペイントでタグ付けを開始しようとするが、
「えっ、なにこの数!?」
〖マッピング〗に表示される無数のMoB。
半径10キロに、数千は表示されている。
「こんなの数――」
とにかくスウはタグ付けしようとペイント弾を当てるが、何の反応もない。
「――これ、まさか幻影!?」
スウは40層のボス攻略を思い出した。
40層ドライアドは、〖マッピング〗に表示される幻覚を放ってきた。
「あれと同じ感じなわけ!? にしたって幻覚の数が多すぎる――一匹一匹〖サイコメトリー〗で調べて、数千の中から本物を数匹見つけ出すのは、一人じゃ無理! ――皆さん、幻覚と本物を見極められる方いませんか!?」
『一応出来るけど、ペイント銃を持ってない!』
スウは気づく。
「そうか40層の時は、ペイント銃を全員が所持してるっていう星の騎士団が居たから・・・・どうする・・・とりあえず〖輝け〗! 〖輝け〗! 〖輝け〗!」
スウは、光を放つスキルを連射してみる。
「だめだ、――数十キロ範囲での戦闘だから、焼け石に水だよ。フェアリーさんのAIは使えないし。これは、私もソナーを使わないと駄目かな。せっかくだし、〖超聴覚〗」
スウが、パッシブソナーで索敵を開始する。
「よし、分からん」
スウに、水中の音なんて聞き分けられる訳がなかった。
「ただ、幻覚からは音がしないことが分かった」
(聞き分けられる人がいたら、ペイント銃を預けても良いんだけど)
「まてよ・・・・みんなはアクティブソナーを使って相手に狙撃されたら困るみたいだけど、私はアクティブソナー使っても問題ないよね? むしろ狙撃して敵が位置バレしてくれたら助かる」
❝なるほど?❞
❝狙撃を躱すつもり?❞
「敵の放った弾丸も魚雷も、〖マッピング〗に表示されますんで。よほど近くから打たれない限り躱せると思います」
❝なるほど❞
「一応、3択ブーストの防御も長くして掛けます。なんせ紙飛行機のフェアリーテイルなので」
『スウさん、安心して! 私が貴女を守るから!』
「え」
『私の機体はロブⅡよ! 今はタンクに換装しているわ。囮になれたのも、そういう事。さあ、遠慮なくアクティブソナーで騒音を撒き散らして!』
『騒音・・・まあいっか、じゃあ行きますね』
スウがアクティブソナーを放つと ピコーン ピコーン とフェアリーテイルが何度も音を辺りに撒き散らし始めた。
ちなみにスウがアクティブソナーを使っても、文句を言うものは、誰も居なかった。
「スウなら、何か考えがあるのだろう」、「スウなら、無駄な行動ではないだろう」、「スウなら、自由にさせていれば事態が好転するのだろう」。という考えが全員にあったのだ。
特に彼らは自分たちが命を掛けていると自覚しているので、無駄な注意はしないし、スウが状況を一変させた事例を何度も視てきている。
だから「スウが、またなにか始めた。助かるわー」くらいにしか思っていない。
兎にも角にも、アクティブソナーを使えば、スウのVRに物体が有る場所が光って表示されていく。
「――あっ、幻影はソナーに表示されないんだ? これは氷山――、これは魚群かな? ――じゃあ、この高速で動いてる大きな物体は、」
スウが警戒した瞬間、高速で動く大きな物体から、何かが放たれた。
「あれがMoBだ! 近づこう、きらりさん!」
スウの使っているペイント弾は水中用ではない。普通の弾丸の形をしているので、水中だと弾丸がほとんど前に進まない。だから、零距離近くの接射をする必要がある。
スウが急いで、敵に向かおうとすると、きらりさんが悲しそうに叫んだ。
『ダケンって呼んで!!』
「い、いや、・・・だから」
❝スウ、残念ながらきらりはドMなんだ❞
❝誠に残念ながら・・・・❞
「ええ・・・・」
❝気に入った人間に罵られるのが好きらしい❞
「わ・・・私そういう事出来ませんからね!?」
『スウさんの意地悪!』
スウは困惑しながらも、敵に近づいて接射でペイント弾を当てる。
きらりはきちんと、相手の魚雷をバリアで受け止めた。
15世代の最新鋭機のロブⅡだから、バリアが砕けずなんとか耐えれたようだけれど、14世代機だとバリアが抜かれていたのではないだろうか。
タグが表示されると、歓喜が通信から漏れてくる。
『ナイッスウ!』
『これで相手の位置が分かった、ありがとう! ――もう逃さん! よくも今までやってくれたな!? ダメージが通りにくいみたいだけど、全員で袋叩きにしろ!』
一旦逃げたプレイヤーも、様子を見て戻って来はじめる。




