435 状況を変えます
❝どうしたスウたん?❞
❝リイムが鳴いた途端、遠い目をして❞
リスナーは、スウがリイムの言葉が分かるようになったのを知らない。
「ち、違うよリイム・・・・みんな、私の情報発信を喜んでくれてるんだよ・・・・」
『コケッ』(なるほど! ママはやっぱりみんなの役に立ってるんだね! 流石ママ!)
「う、うん。ま、まあとにかく・・・・気を取り直して、戦い集中しよう。――にしても百メール先しか見えないのに、1キロ先から始まる空中戦なんてやってらんないなあ」
❝スウたん、当たり前に飛んでるけど・・・AI補助なしで大丈夫なの?❞
❝そこAI乗っ取られるんだけど❞
「あ、私普段からAI補助無しで飛んでますので」
❝まじかよ❞
❝フェアリーテイルも、スワローテイルも前進翼だぞ・・・おいおいおいおい❞
❝・・・知ってた❞
❝・・・知りたくなかった❞
スウが予定通りに〖マッピング〗を使う。
「――〖マッピング〗の範囲内、半径10キロには5機かな――にしても、この半径10キロの索敵って絶妙に困る距離なんだよねぇ」
スウは〖マッピング〗微妙な性能にちょっと困っていた。
なぜなら1キロ先の敵と空中戦してたら、1回の回避運動している内に、10キロ向こうの敵が到着するので後ろを取られそうになる距離なのだ。
今回は大気中だけれど、宇宙だともっと早く相手が到着するから、かなり危険な距離だ。
「だから」
スウは〈時空倉庫の鍵〉を開いて中からスポーティーな狙撃銃を取り出す。
そうして人型モードになり、空中で構えて。
「ここと、ここと、ここと――」
スウが、スポーティーな銃――ペイント銃で、次々タグ付けしていく。
すると辺りのプレイヤーに、敵の位置が表示されるようになった。
『え、なにこれ・・・え?』
『敵の名前が、VRに表示されてるんですけど・・・』
「皆さんにも見えるようにしないと。皆さん、それが敵の位置です! ペイント弾でタグ付けしました!」
スウが言うと、辺りの前線攻略プレイヤーが呆気にとられる。
『ふぁいぃ!?』
『い、今まで敵の位置が全く掴めなくて困ってたのにぃ!?』
❝ぶはははははははは❞
❝スウに掛かったら、敵が地形適応Sでも、この有り様だよワロワロワロwww❞
『コケ?』(あれ? みんなお喜び方が普通じゃない・・・――もしかして、ママの配信する情報って、普通じゃない?)
「えっ、あっ、そうかも!」
『コケケケ!!』(ママすごい! ママの情報をみんな、凄く頼りにしてるんだね!!)
「そ、そうそう、ママのみんなにあげる情報は一味違うんだぞー!」
『コケー』(ママすげー)
「っと、マッピングの範囲外にまだいたみたい。範囲に入ってきた。ちょっと遠いな・・・・」
スウはペイント銃はレールガンだから当たるだろうかと考える。
レールガンであっても、相手に弾丸が届くまで、約5秒。
ペイント銃のスコープを覗くと、物凄く遠い偏差が表示された。
相手は高速で動いてるしなあ。
鳥みたいな形をしたMoBが空を高速で動いている。
「相手がすぐに動けるのは、3次元的な扇形に限られるけど――もう少し絞れないかな」
『私が囮になるわ!』
「きらりさん!? 上空にきたんですか!?」
『スウさんが来たら、上空の状況が好転してるんだもん! ――あ、きらりとか呼ばないで、駄犬とお呼び下さい』
「よ、呼びませんけども!?」
『コケ?』(駄犬?)
「リ・・・リイム、反応しなくていいから」
『では私のTACネームはダケンで!』
「絶対呼びませんけど!」
『じゃあとりあえず、このダケンが囮になって、敵をまっすぐ偏差予測枠に入れてみせます!』
『よ、呼ばないって。大丈夫ですか!?』
『任せてきらりん☆ スウさんは普通に、偏差予測枠に撃って下さい』
「へ、偏差予測の枠に撃って良いんですか? ――それって、きらりさんが、まっすぐ追われることになるんじゃ」
『大丈夫! きらりん☆って合図したら、偏差予測枠にきっちり撃てば良いですから。ど真ん中、狙えますか?』
「わ、わかりました。狙えます」
きらりさんが、またたく間に10キロ先の相手に接敵。ヘイトを取って自分を追わせる。
『いっきますよー。――3、2、1、きらりん☆』
スウは、合図に合わせてペイント弾を発砲。
(あとはきらりさん次第だけど)
きらりが、相手の弾丸を躱すためカーブを描き出した。
コメントが騒ぎ出す。
❝まてまてまて、カーブしたら弾丸の到達に間に合わないだろが!❞
❝なにやってんだよ、きらり!❞
しかし、スウはなるほどと納得した。
「あっと――いえ、これは大丈夫です」
(だって、きらりさんは上昇でカーブしたんだもん)
きらりは上昇で速度を高度に変えて保存。
さらにきらりは下降で一気に加速。さらに側面飛行で最速降下曲線を使って降りる。
(これなら、きらりさんが偏差予測枠に入るのが、少し早いくらいだ)
見事に敵にペイント弾が命中した。
この結果に、スウの配信のコメントがざわつき出す。
❝マ、マジかよ、蛇行したのに当てやがった❞
すると、きらりが胸を張る。
『スウさんのファンは私を誰だと思ってるの!? ――私は明洲香 きらりよ! これでもずっと最前線常連張ってる、配信勢では、上澄みも良いところプレイヤーなんだから! スウさんには、赤子の手をひねるかのように負けたけどね!』
❝うーん、スウにボコボコにされたから弱いイメージだったけど。そう言えばこの人、下層攻略に行けない俺よりすっと強いんだったわ❞
❝俺等きらりのリスナーには、きらりは普通に猛者だから❞
❝明洲香 きらりって、ちゃんと実力でファンを獲得してるんだな❞
❝たまに性格が豹変するけどな❞
❝あっちが素だけどなwww❞
❝ファンにはとっくに化けの皮剥がれてるんよw なのに化けの皮かぶるの止めないんw❞
スウは思う。
(きらりさんはファンに愛されているんだなあ・・・。まあ、この前彼女が怒ったのも、アレックスさんの為だったし。根はいい人なのかも知れない。――あと、誰も突っ込まないけど、今きらりさんはAI無しで上昇から側面飛行したんだよね。扱いにくい菱形翼と、ダイヘドラル垂直尾翼――斜めで二枚の垂直尾翼、で。きらりさんは、飛行機乗りとしても相当だと思う――)
スウはそう考えてから、つけ加える。
(――この人怖いんで、あんまりお近づきになりたくはないけれど)
『スウさん、さあ私達の連携をMoBに見せつけましょう!』
(――この人怖いんで、あんまりお近づきになりたくはないけれど)
その後、きらりが囮になりつつ、スウがペイント弾で狙撃した。リイムは「こけぇ」(ほぇぇ)といいながら、二人の活躍を視ていた。
そうこうしている間に、猛者たちが空中の敵をあらかた片付けた。
流石、前線攻略組の猛者たちだった。




