434 攻略に参加します
始業式の日は、授業もないのですぐに下校となった。
教室で、アリスが涼姫に今日の感想を話す。
「なんとか自己紹介を無事終えましたね」
「いや全然、無事じゃなかったけどね。なんとか致命傷ですんだくらいだけどね」
涼姫が「一緒に帰る?」と尋ねると、アリスは首を振った。
「今日は、わたしは一緒に帰れません」
「あ・・・・そっか。アリスはこれから剣道部の新人勧誘だっけ?」
「です。絶対参加しないと駄目みたいです」
「アリスなら綺麗だから客引きに強力だもんね」
「いえ、去年のインターハイ優勝者なんで、わたし目的で入学してきた新入生が結構いるらしく――しかも塚原部長も、男子で優勝ですからね。爽波高校剣道部は男女で優勝した、強豪校ですから、今や。かなり入部希望者が多いんですよ――塚原部長は卒業してしまったんで、期待が私に掛かっていまして」
「そっちかあ」
「そっちです。そういえば、スウさん目的で入学してきた人はほぼ居ないみたいですね」
「何処の学校か明かしてないからねぇ」
「そういえばそうですね」
(というか私目的で入学した人がいても、対応に困るだけだし)
涼姫は自分目的で入学してきた一年生の対応をする自分を想像して、無駄に疲れた。
これから69層の攻略に行くのに、誰か一緒に行ってくれそうな人を思い浮かべる。しかし、
「リッカも今日は、新人勧誘かなあ」
「あの子もインターハイで準優勝ですし、美人さんですからねぇ」
「ちっこくて可愛いし」
「ですねぇ」
「クレイジーギーカーの面々はコラボばっかだしなあ。というかさくらくん以外は、下層にはあんまり行きたくないらしいし。私は、今回もボッチで攻略かなあ」
「わたしは一緒に行けませんが、頑張ってくださいね」
「がんばる~」
ふにゃふにゃーと、元気無く拳を挙げる涼姫であった。
しかし、ふと気づく。
「あ、そうだ。リイムを連れて行こう!」
「リ、リイムですか・・・? 大丈夫なんですか?」
「連れて行くだけ。危ないことは、させないよー」
かくして涼姫は、69層に向かいながら配信を始める。
「というわけでこんばんわ、いま69層に向かってるんですが、攻略終わっちゃいましたか?」
❝全然終わってない! 私、攻略に参加してるんだけど、スウさん助けて!❞
「え・・・?」
予想外の答えに、スウは首を傾げた。
❝水中の戦いなんだけど、みんな慣れて無くて大変なのよ!❞
❝空中もAIが乗っ取られて、まともに飛べないんだ!❞
「まじですか。マイルズとかは?」
❝今回はマイルズも、アレックスも休み!❞
「自衛隊の潜水艦乗りさんがいたらいいんだけど、自衛隊も、あとユーも、あんまり攻略に積極的じゃないしなあ。助平さんはいないのかな? 他の国の猛者は?」
❝飛行機の得意なのと、潜水艦乗りが何人か戦えてるけど❞
❝・・・・潜水艦乗りって、基本的にあんまりFLにいないから❞
確かに、普段から水中で勲功ポイント貯めてるみたいだけど、水中戦が少ないもんね。
「分かりました、ちょっと急ぎます。リイム今回はあんまりなにもしなくていいよ、視てるだけでいいから。いきなり下層だからね・・・」
『コケ』(分かった、いい子にしてる)
「うん、助かるよ」
❝お、リイム連れてきたんだ?❞
❝え、リイムが機体に乗ってるの?❞
「ですです、リイムが動かせるようにカスタムしてもらった、リイム専用サジテイルです」
❝おおお❞
❝サジテイルの上半身が鳥になっとる。グリフォンになっとる❞
「カッコイイですよね! ――にしても水中戦かあ、私もなにか対策を考えないと駄目っぽいなあ」
スウは他の人の配信を視て対策を練ろうと思った。
「あ、きらりさんが配信してる」
配信を点けると、さっそくきらりが咆哮していた。
『どの音が敵なのか全然わからないじゃない!』
❝大きめの魚みたいな音だよ!❞
どうやら水中戦をしているが、パッシブソナーを使いこなせていないようだ。
『そんなの、全然聞き分けられないわ!』
❝じゃあ、得意な上空行ったほうが❞
『あっちもあっちで雲だらけの数メートル先も見えない視界不良だし、敵を見失うと、どこからともなくいきなり敵が現れるのよ。至近距離でずっと敵を追いかけられないと――相当な反射神経がないときついのよ。しかも私じゃ、追いかけれても相手にちょっとでも空中戦機動されたら即追い越しよ――そこからは後ろを取り返そうとしても、相手を見つけられないで逃げられるだけ。あと着氷も怖いじゃない・・・〈励起翼〉とかバカみたいな武装もってないのよ!』
❝霧の中で戦うようなものだもんなあ❞
❝霧ってそんなに前が見えないの?❞
❝マジで見えない。車で走ってても前が見えないレベル❞
❝この惑星の空は、濃い霧ってほどじゃないけど、百メートル先が見えない――超音速戦闘していい視界じゃない❞
❝着氷の失速は、怖いからなあ❞
きらりの様子をみたスウは唸った。
「とりあえず、〖マッピング〗は必須っぽいなあ」
その後スウは、各所配信を視ながらリイムと大気圏突入、速度を上げすぎないように降りて行く。
「プレイヤー配信が喜ばれるのって、こういう情報を得られるからな面あるって、コハクさんが言ってたなあ。ちょっと意味がわかった」
『コケー』(ママも〝はいしんしゃ〟なんだよね? ママも、情報発信してみんなの役に立ってるの?)
「どうかなぁ?」
スウはゆっくり大気圏突入して高度1万メートルで戦闘開始。
すると広域通信が流れ込んできた。
『クラメンから緊急ニュース! スウだ、スウが到着したぞ! スウの配信を視てるクラメンからの緊急ニュースだ!』
この騒ぎに、スウ当人が困惑する。
「き、緊急ニュース?」
『これで事態が好転するわ!』
困惑がさらに深くなる。
「こ、好転するの前提なの・・・・? ――にしても本当に視界が悪いなあ。これは確かに戦えないね」
『コケッ』(みんなお母さんが来ただけで喜んでる! お母さんってこんなにお友達が多いんだ!)
「―――ッスー」




