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433  事故紹介します

『パッシブソナーで、海中の音を聞き分けろ!』

『パッシブソナーって、ただのちょっといいマイクでしょ? つまり水の中の音を聞き分けて、敵を探せって言う事よね!? こっちは一般人なのよ、そんな潜水艦乗りでも熟練の技が必要な分野できないわよ!!』


 水中では音が眼の代わりになる。

 けれどその眼を開くには、大変な訓練が必要だった。


『・・・だから、アクティブソナーを使わないと、私達一般人には海中の状況なんて分かんないのよ』

『パッシブソナーで見つけろって言われても、この敵、魚みたいな動きするから本物の魚と音の違いが聞き分けつかないんだ』

『と言うか敵を見つけても、氷山を遮蔽物にして逃げ回るから倒せない! なのに相手はこっちの位置を察知して遠距離攻撃を繰り返してくる!』

『お前が馬鹿みたいに音を出してるから見つかるんだろ・・・』

『なんだとテメェ!』


 攻略が行き詰まるせいで、仲間内でバーサスフレームの殴り合いを始めるものまでいた。


『仲間割れ止めろ! 殴り合うな! うるさくて何も聞こえなくなる!』

『てか氷山って海の上はわずかしか出ていない――「氷山の一角」って言葉があるけど、マジで海の中の氷山デカすぎ・・・あと地形複雑すぎ』

『こんなさ、地面が上にあるみたいな世界での戦い、俺は始めてだぞ!?』

『俺だってそうだよ・・・!』

『俺の機体は船モードがあるんだけど、海面から狙撃しようかな』

『海中の敵は3次元で戦えるのに、海面は二次元なんだが、大丈夫か?』

『うっ』


 海上から水中の敵に向けての攻撃は、誘導弾でも撃たない限りほぼ攻撃が当たらないが、逆に海面の敵は海中からは当て放題なのだ。


『どいつか知らないけど、バルカンの無駄打ち止めろ! うるさすぎて適わない、耳が潰れる!』


 そもそもプロの潜水艦同士の戦いですら、誘導でない魚雷が相手に当たった回数は、ほとんどない。

 誘導兵器がない水中での戦いとはそれほど困難なのだ。


『ちょ――誰だ、熱武器使った馬鹿は、水蒸気爆発で耳がイカれた――しかも氷山が吹っ飛んだぞ・・・氷が崩れたり溶けたりする音がうるさすぎて、何も聴こえねぇよ!!』


 などと最前線プレイヤーと呼ばれる猛者たちでも、慣れない海中の戦いで、四苦八苦しているのだった。




 一方その頃涼姫は、


「じ、自己紹介!? 新学年始まった時の一番最悪の儀式!!」


 大ピンチを迎えていた。

 クラス替え後の自己紹介である。

 もちろん自己評価の低くて、他人に自分の何も知られたくない涼姫の大の苦手分野である。


「涼姫・・・・上手く喋ろうなんて思うからいけないんですよ」

「だけど、会話が苦手な私は、上手く喋れて標準じゃない!?」

「涼姫は普段から面白いですよ、変なことばかり言うんで」

「アリスさん!? てかそれって――変な子って思われたくないのに、絶望的じゃない!」


 アリスの歯に衣着せぬような物言いに、若干悲鳴を挙げる涼姫。


「冗談ですって、とにかく普通に話せば良いんです」

「でも、ここでしっかりしないと、この一年お先真っ暗じゃないの!? 友だちができずに、全てを一人で行動する事に!」

「今年はわたしとフーリがいるんで大丈夫ですから!」

「そ、そうだよね!」

「今回は注目される必要ないんですから、普通に自己紹介をすれば良いんです!」

「よ、よし。普通――普通――」


 涼姫が「普通」と言い出すと、なんだかとても嫌な予感のするアリスだったが、時間は止まらないので自己紹介の時間になった。

 現在、1組の生徒の席は自由に座ってよく、座った並びで自己紹介が始まった。


「八街 アリスです。趣味は料理、FLのプレイヤーなんかもやってます。イギリス出身です。あとモデルなんかもやってます」

「おー! 一色 アリスさんだ! 背たっか! 頭ちっさ!」

「綺麗ー」

「後でサイン下さい!」


 アリスの自己紹介を視て、涼姫は思いついた。


「そうか、アリスみたいにすればいいんだ」


 隣で呟いた涼姫の声に、またも嫌な予感を感じるアリスであった。

 そうしていよいよ、涼姫の番。

 周りも、有名なスウこと鈴咲 涼姫の自己紹介が始まるということで、静まり返っていた。


「鈴咲 涼姫です。趣味は料理――」


 アリスは涼姫が自分と全く同じことを言い出したので、胸の嫌な予感が、とても強くなる。

 あと、(確かに涼姫は料理が趣味な所あるけど、アンタの本当の趣味はサブカルだろう)とも思った。


「――FLのプレイヤーなんかもやってます。イギリス出身です」


(((アンタは、イギリス出身じゃないだろ!?)))


 クラスメイトの心に、一斉に同じツッコミが鳴り響いた。

 涼姫の隣のアリスが苦笑い。


「涼姫・・・・」

「え・・・? あ、そうだ。私イギリス出身じゃない」

「ですよね?」


 周りの視線に気づいた涼姫が、若干テンパる。


「あ、あとモデルなんかもやってます!」


 これもアリスのマネだが、これは事実だった。


「フェアリーテイルか」「あー、例の写真集? すごかったよな」


 だが、クラスメイトの言葉は、涼姫のトラウマをえぐる物だった。


「ひぎぃ」


 涼姫が仰け反って、絞め殺される豚のような声出したので、クラスメイトが若干引いた。生暖い空気が教室を包む。


「涼姫、ちゃんと自分を紹介しないと・・・・」

「自分!? ・・・・そうだったこれは自己を紹介する場面だった。私は引きこもりで、ボッチで・・・」

「貴女、どんだけ自己評価低いんですか!? 得意な事を言って下さい!」

「と、得意? あったっけ・・・? あっ・・・・アニメと漫画とゲームとプラモデルとロボットと武器の事なら、何時間でもうんちくを述べれます!」

「うんちくって・・・・そ、そういうんじゃなくて、飛行機の操縦が得意とか!」

「あっ、飛行機の操縦とか得意です!」


 こうして涼姫は例年通り、自己紹介でクラスメイトに変な紹介をして、『変な人』という印象をしっかりと植え付けたのであった。

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