432 クラス替えします
◆◇sight:三人称◇◆
フェイテルリンク・レジェンディアの60台の層攻略もいよいよ佳境。
69層の攻略に入っていた。だがそこにスウの姿はなかった。
彼女は、ただいま大変な事態に陥っていた。
クラス替えである。
「あ、あった! 有ったよ私の名前!」
スウこと鈴咲 涼姫が、張り出された紙に自分の名前を見つけて指さして ぴょんぴょん と飛び上がった。
隣りにいた八街 アリスが、若干困惑する。
「受験じゃないんですから、有るに決まってるじゃないですか」
「あ、そっか」
「何組ですか?」
「また1組」
「えっ、わたしと同じじゃないですか!」
「ほ、ほんと!? やったぁぁぁ! アリスと同じクラスなら、今年は体育の授業一人じゃない!」
「どうでしょうかー、そうとも限りませんよー?」
涼姫が愕然とした表情でアリスを観る。それはもう、魂が抜け、正体を失ったような様子だった。
アリスは体育での「二人組作って」で組む相手がいない辛さを知らず、甘く見ていたのである。
アリスがスウのあまりの変貌ぶりに、猛烈に慌てだす。
アリスはいつも、姿勢も動きも美しい。
それが、今は珍しく手足の連動していないジタバタダンスになっている。
「じょ、冗談ですよ! 二人組の時は必ず涼姫と一緒に組みますから!」
この言葉に、涼姫の魂が戻り蘇生した。
太陽が登るように笑顔になる。
「よ、よかったあ!」
アリスの手を握り、アリスの顔を下から視る涼姫に、アリスの胸中に「この笑顔を独り占めしたい」という気持ちが居座るのだった。
そんな気持ちになったアリスは、涼姫の様子をみて先生側が涼姫のボッチっぷりに配慮して、自分と同じクラスにしたのではないかと思案するのであった。
そこで気づく、
「あ、フーリの名前もありますね」
「えっ、ほんとだ! ――チグとカレンとミカンはいないかあ」
「なんだか不安そうですね」
確かに、涼姫は慈母神チグがいないのはちょっと不安だと感じた。
「うん、チグは事あるごとに私を守ってくれたから」
「じゃあ今年は私が守りますよ」
「ほんとに!?」
「私も守るわよ」
後ろからフーリがやってきて優しそうな顔をしていた。
「今年は乗り切れそう」
「もう17回も繰り返してきたんですから、大丈夫ですよ――って、そろそろ69層の攻略が始まってる頃ですね」
「今日は参加できないねぇ、参加しても途中からかな。学校終わる頃には攻略も終わってそう。――あ、話は変わるけどさ、そろそろアリスの誕生日だよね? 去年の今頃、私達は出会ったんだし」
「そういえば、そんな時期ですねえ」
アリスは少し懐かしそうな顔になった。
「どんなサプライズしようかなあ、アリスはどんなのがいいと思う?」
「いや、サプライズするって言っちゃったら、驚かすのが凄く難しくなりませんか? あと、サプライズされる側に相談してどうするんですか」
「―――」
「今の言葉は無しで」という涼姫だが、当然無しにはならないのだった。
涼姫やアリスがのほほんとクラス替えを楽しんでいる頃、69層の攻略は大変な事になっていた。
攻略対象の惑星は、水に覆われ、陸地のまったくない惑星だった。
どれだけ潜っても水ばかり、惑星の核まで水という水球の惑星だった。
ただ水は水素と酸素の化合物なので、酸素もあり大気が有った。
すると69層は水中と空中、二箇所での戦闘となった。
しかも――、
『AIが乗っ取られたぞ!! AIを物理的にシャットダウンしろ!』
『なっ――俺、AI補助がないと、戦闘機形態でまともに飛べないぞ!?』
この惑星を占拠しているMoBは、AIをジャックしてくるのだ。
『なら、人型で戦うしかねえだろ! ――』
『だけど、敵は上空で高速戦闘仕掛けてくるんだよ、戦闘機形態のほうが良いんだよ・・・・』
『海も人型形態だと抵抗がきつくって、速度が出ないし!』
この惑星の敵には戦闘機形態で戦ったほうが有利だが、FLのプレイヤー達は本職の戦闘機乗りではない。
本職ですらAIなしではコントロールが難しい翼の形をしたFLの戦闘機達、猛者とは言え一般プレイヤーはAI補助ありきで今まで戦ってきた者がほとんどだ。
『なんとか手動で戦闘機形態で戦うしか無いか!? ・・・・くそっ、それにしたって、雲が濃くて敵が見えねぇ!!』
『もっとコントロールしやすい戦闘機形態の機体でくればよかった! 誰だよ、前進翼の複葉機とか頭のイカれた物を作ったヤツ!』
『それはスワローテイルを使っているお前が悪い』
特にスワローテイルが不評であった。
しかもこの惑星は恒星にそれほど近くないが、それでも水蒸気が多く、雲が多かったそのため非常に視界が悪い。
それに水蒸気が多いせいで大気圧が高い。
さらに――酸素が非常に濃い惑星なので、敵の攻撃の爆発が大きくなるのだ。
だからといって、爆発が弱くなる海中は海中で、
『海中の方はどうだ!?』
『駄目だ、それでなくとも海は暗いのに、雲が多くて陽光があまり届かないせいか暗くて敵がどこにいるのか分からない』
『それに、敵は水の抵抗に合わせた形をしていて、早すぎる!!』
敵はこの惑星の環境での戦いに最適化されていた。
『じゃあソナーだ、ソナーを使え!!』
『もうやってる』
『って、誰だアクティブソナーを使ってるのは、相手にこっちの位置がバレるぞ! 狙撃が来る、今すぐ止めろ!』
辺りが見えない暗闇のような中、アクティブソナーは敵の位置をVRに表示してくれる。
しかしアクティブソナー自体が、音波を放って、反射してきた音波で周囲を調べる機械なので、自ら音を放って位置を相手に知らせるようなものである。
アクティブソナーには、さらに問題があった。
『アクティブソナーやめろ! あちこちからピコーンピコーンってうるさくて、敵の音が聞き取れねよ!』
味方のパッシブソナーの邪魔にもなるのだ。
『じゃ、じゃあどうしろって言うのよ!?』




