431 バレます
マイルズが個人通信を切って、ブルーテイルで巨大戦艦の前に出る。
『なにしてるんですかマイルズさん!! 轢き殺されますよ!!』
作戦を聴いていないきらりさんが叫んだ。
にしても敵戦艦が流石に速い、豆粒みたいに見えていたのに一気に巨大になっていく。
するとマイルズは自分の機体と、戦艦が衝突する寸前、
『〖無敵〗』
〖無敵〗は自分や、自分の機体に衝突してきた物を反射するスキルだ。
マイルズや、マイルズの機体に触れたものの運動を反転させる。
だから、マイルズの機体に衝突した戦艦が反射された。
見事に、今までの進行方向に対して逆方向に。
反対向きに最高速度に達するまでの時間、約0.2秒。
秒速 11キロで移動していた物体が、0.2秒で反対方向に動けば、考えるのも悍ましいGが掛かることになる。
そんな事になれば戦艦本体はともかく、内部のMoBがただでは済まない。ドミナント・オークの体は普通のオークと変わらないって、さっきフェアリーさんが言ってたし。
もしあの戦艦に人間が乗ってたりしたら、血がまたたく間に一箇所に集まって血管が破裂して、血の袋になって――グロいので、考えるのは止めよう。
私から遠ざかっていく戦艦からの攻撃が、ピタリと止んだ。
すると通信から、アレックスさんとエレノアさんの声が聞こえてきた。
『うわぁ』
『これは酷いです』
『おお。凄まじい回数、クレジットとポイントが入ってきた――これはいつ終わるんだ・・・?』
マイルズの懐が温まったようだ。
すると、きらりさんの疑問の声がした。
『え――なに、なんなの? 急に戦艦からの攻撃が止んだけど。マイルズさんは、一体なにをしたんですか?』
これに答えたのはエレノアさん。
『相手戦艦が速度たっぷりなんで、〖無敵〗というスキルで反射したんですよ』
『そ、それって?』
『相手戦艦は、おおよそ秒速 11.2 キロで飛んでいました。こんなものが一瞬で反転したら、Gがどうなると思いますか?』
『えっ、Gが100を超えたり?』
『そんな感じです』
『さ・・・さすがマイルズさん、よくそんな事思いつきますね』
『いや、思いついたのはクールだ』
『えっ』
『そういえば、クールさんも〈無敵〉の印石を出してましたっけ』
ゲットはできなかったけどね。
『ひっ!! ――わ、私さっきの決闘で秒速3000メートルくらいで飛んでたんですけど!』
怯えるきらりさんの声に対して、アレックスさんの呆れるような声が掛かる。
『アレをやられたら、一発だったろうな』
いや、印石出しただけでスキル持ってないんだけど。
『あのっ―――私、リアルでも決闘しようとしたんですけど!』
『弾けたトマトになるところだったな』
『ヒィィィッ!!』
きらりさんの声が悲鳴に変わってしまった。
あんな事は人間相手にしないよ、あたしゃ!
『あのクールって人なんなんですか!? ――コ、コメント教えて! クールって人は、本当に新人の前線プレイヤーなの!?』
❝やっと気づいたか❞
❝だからコメントはこまめに見ろと❞
❝スウだよ、つかフェアリーテイル乗ってるのなんかスウかマリ曹長しかいねーだろ❞
『え、アレって白いスワローテイルじゃないの!? あれがフェアリーテイル!?』
❝見た目はにてるけど、別物だよ❞
『じゃ、じゃあ本当にスウさん!?』
❝間違いなく❞
❝腕も、機体も、なんならあのキョドってる感じも❞
『ヒィィィィィィィィ―――ッ!!』
とうとう発狂するような声が通信から漏れてくる。そんな怖がらなくても何もしないって。
『あの人、さっきリアルで戦おうって言ったら、お前死ぬぞって言ったんだけど!!』
・・・・それは、確かに怖いわ。
『ス、スウさん、生意気言ってすみませんでしたぁぁぁ!!』
私の視界に、きらりさんのウィンドウが開く。若干泡を吹いている。
「あ、いえ・・・・別に分かってもらえたなら、もう」
『分か――は、は、はい、分からされました!! 二度と逆らいません!! げ、下僕にでもなんでもしてください!!』
「え゛!? そ、そういう意味じゃなくてですね」
『アレックスさんみたいに、犬と――いえ、駄犬とお呼びください!!』
「犬? あ、・・・・それなんですが、アレックスさんのドギーはTACネームで・・・・」
『た、たっくねーむって、なんですか!?』
「えと・・・・パイロットに付く、コードネームとか二つ名みたいなものです。私のクールはアレックスさんに付けてもらったTACネームです」
『そ―――そうだったんですか!? 私、てっきり貴女がアレックスさんを犬とか呼んで馬鹿にしてるのかと思って!! 私の無知のせいでご迷惑をかけて、本当にすみません!!』
「ああ、それで怒ってらっしゃったんですね。いえいえ、アレックスさんの為に怒ってたなら仕方ないですよ」
『本当にすみませんでしたぁぁぁ!!』
❝スウ、相変わらず優しいなあ❞
❝相手がスウで、本当によかったなぁ、きらり❞
ここでアレックスさんから通信が入る。
『きらり、俺のためだったのは有難うと言っておく――少し過剰なのでもう二度としなくてもいいが。ただな、これから今まで前線に来れなかった奴らが、新鋭機とか割引とかでどんどんこっちに来ると思うんだ。ソイツ等を追い出すより、迎え入れて強くなってもらった方が良いと思うんだよ』
『・・・・はい』
『納得して貰えたならそれでいいよ。――お前の腕は、俺も信用してる。これからも頼むぜ』
『は、はい!』
一件落着かな?
とうかきらりさんって、アレックスさんの事――なるほどなあ。アレックスさんて、西海岸でスポーツカー乗り回してそうな爽やかイケメンだもんね。
ところで、さっきから周りのプレイヤーが騒いでるんだけどなんだろう?
『戦艦を撃て撃て! 逃がすな!』
『反撃してこない的よ! みんなで破壊すれば勲功ポイント、ガッポガッポよ!』
『おらおらおら、そのデケェケツを蜂の巣にしてやるぜ!』
な、なるほど。
とはいえ、まだドミナント・オークの乗る戦闘機は残ってる。
ドミナント・オークは油断できる相手じゃない。
私は戦艦を無視してドミナント・オークの戦闘機と暫く戦っていた。
するとマイルズに向かって飛んでくる敵の戦闘機がいた。
現在マイルズもかなりの加速をしてしまっている。
敵が馬鹿みたいに加速してるんで、ある程度早くしないと戦いにならないんだ。
マイルズの機体の速度は、だいたい秒速1キロくらい。
――で、私が弾倉を切り替えようとした瞬間、ガトリングを撃ちながら私の方へ迫ってくる戦闘機がいた。
するとマイルズは、さっきの応用を思いついたのか、横から敵機を掴んだ。
するとニュートンのゆりかごのように、マイルズの加速が相手に移動する。
もちろん掴んだだけなので、すべての加速が相手に移動したわけではないけれど、相手は0.2秒ほどで、横向きに秒速数1キロの加速をしてしまった事になる。
こうなると、今回も内部で発生するGが凄いことになる。数百Gにも達するだろう。
マイルズも急に速度を失ってGが発生するので、〖無敵〗のスキルを発動したのかな?
というわけで今回も相手は、ただで済むわけがなく。
相手の機体は戦艦ほどの強度は無かったらしく、ロケットエンジンの辺りから爆散していく相手の機体。
『ピィィィィィィィ』
すると、またきらりさんが叫んでしまった。
ご、ごめんね。
さらにきらりさんのコメントも恐怖している。
❝宇宙って、衝突しただけでもあんな事になるのかよ!❞
❝怖ッ! 宇宙の戦い、怖ッ!❞
という感じで、68層の攻略は無事? 終了しました。
すみません。前回、地球の脱出には第一宇宙速度と書きましたが、地球の脱出に必要な速度は第二宇宙速度でした。申し訳ないです。
第二宇宙速度は、秒速 11.2 キロメートルです。




