426 アレックスさんに頼まれます
私が、震え縮こまっていると、アレックスさんがフォローを入れようとしてくれた。
「いや待てきらり、この女性は」
「アレックスさんは、黙っててください!!」
「お・・・・おう」
きらりさんの剣幕に冷や汗を流すアレックスさん。
私がアレックスさんの表情を覗き見ると――あ・・・・、あれは諦めた表情だ。
女性の扱いに慣れてるアレックスさんだからこそ、早々に全面降伏してる。
「熱した女性は自然に任せて冷ますしかねーや」みたいな顔だ。
助けてくれないんですかあ!?
私が絶望感に苛まれていると、きらりさんが金切り声で私を切りつけてくる。
「パーティーメンバーは何処だって訊いてんのよ!!」
「い、いましぇん」
「は!?」
「いましぇん」
「ちゃんと喋れよ!!」
この人、こわいよおおお。
アリス、リッカ、チグ、たすけてえええ。
「い、いないです」
きらりさんが、机に拳を叩きつける。今度は手のひらじゃない、拳だった。
「いない!? あんた常識もないの!? ここは下層よ!? ソロで来ていい場所じゃないの!!」
「で、でも――」
「でも!? ――いいから帰れよ!! 下層しかも68層だぞ!! 10台とか20台の下層じゃないんだ。お前みたいなのが事故って、周りに迷惑掛けるんだよ!! 周りに何かあったら責任取れんのかよ!? ――今すぐ帰れ!!」
きらりさんが食堂の出口を指さした。
「・・・・えっと、はい。じゃあ、帰りまう」
私は涙目で立ち上がって、出口に向かおうとする。
すると、アレックスさんだった。
「あかんあかんあかん!! ――クールにいなくなられたらワイが困る!! 今回はマイルズの奴が遅れてくるんや!! クール、ワイとパーティー組もう、な? それなら問題ないやろ、きらり!」
なぜか急に関西弁になるアレックスさん。
「はあ!? ランキング5位のアレックスさんのパーティーに、コイツ!?」
「いや、ワイは5位は・・・・もうクールのせいで」
そうえば私が2位になったから、アレックスさんは6位に転落したんだっけ。
なるほど、ごめんなさい。
「いえ・・・その・・・悪いですし」
私が断ろうとすると、アレックスさんが頭を振って旋風を起こす。
「全然悪くねぇよ!! マイルズの代わりなんだから!」
ビックリしたのはきらりさんだ。
「1位のマイルズさんの代わり!?」
アレックスさんは、私を必死に引き止めてくる。
「エレノアもいるから、な?」
その言葉に私の顔が輝いた気がした。
「えっ、エレノアさんも来てるんですか?」
するとギャルでもないのにオギャる私の顔に、指が突きつけられた。
「決闘よ」
「え・・・・?」
「ランキング30位の私が、今から分からせてあげる。私が勝ったら、尻尾巻いてとっとと帰れ」
さ、30位は確かに凄いけど。
30位・・・・アリスと私が出会った頃のアリスが、16位だっけ。
きらりさんは、どのくらいの実力なんだろう?
私が困惑してると、アレックスさんが「あちゃー」という風に手のひらで顔を覆っている。
「まあもう、クールが分からせてやればてっとり速いか」とかも言ってる
私的には、こういう形の決闘とか嫌いなんですけど。
・・・・助平さんと試合みたいなのならいいのに。
しかも前みたいにリイムを守ったり、綺雪ちゃんの為とかならともかく「自分が攻略に参加できるか」とかだと、逃げたいだけなんですけど。
というわけで、なぜか攻略前に私ときらりさんはVRの宇宙で向かい合っていた。
『えーっと、じゃあルールを説明するぞ』
アレックスさんがルールを説明してくれる。
『公平を期すため、使える機体は勲功ポイント100万までの機体』
確かに1000万のフェアリーテイルだと、ズルいかも。
配信を再開したらしいきらりさんの嘲るような声が聞こえてくる。
『あ、そうそう100万までよ。私の200万の機体だと強すぎるから。アイツから文句でないようにね。ねー、みんなもコイツうざいよねー。うんうんやっぱそうだよね』
あちらの視聴者さんには私の顔が見えなくて、誰か分からないみたい。私がきらりさんの配信を見ると、私の顔とかは出てない。
さっき食堂できらりさんに話しかけられた時も、私はうつむいてたし。
きらりさんの視聴者さんには、謎の誰かがきらりさんに因縁つけて、今からきらりさんが懲らしめるという構図になっているらしい。
ただ、何人か❝あの声、スウじゃね?❞みたいなコメントがあるんだけど、きらりさんはコメントをあまり見ないタイプらしくて、気づいていない。❝いや、クールって名前らしいけど?❞とかも言われてる。
私、スウなんです。とか言ったら決闘が中止になるかな?
なんて考えが私の脳裏によぎったら、視界の端にアレックスさんの顔が映ったウィンドウが開いた。
『スウ。これは個人通信だけど、ちょっと良いか?』
「ど、どうしたんですか?」
『いやさ。きらりのヤツ、腕はそこそこあるんだが、前にも下層攻略に初めて来たプレイヤーを追い出したんだよ』
「そ・・・・そうなんですか」
『今後、下層攻略は70層、80層、90層と更に厳しくなっていくと思う。人員は増えたほうが良い。連合も下層攻略者を増やすために色々割引きしたり、新鋭機を出してきてるし。今みたいに下層攻略を固定メンバーばっかでやってくような閉鎖的体質じゃ、いずれ行き詰まるかも知れないと思うんだ』
「・・・それはそうかもです」
『これから下層攻略に見ない顔がどんどん増えていくと思う――そして、そうでないと駄目だと思う。スウも100層に行きたいんだよな?』
「それはもちろん、はいです」
『だから、ちょっとガチで分からせてやってくれないか? 今回の攻略はスウだって事を隠して、新顔のフリしてさ』
「あの・・・・でも・・・騙すような真似は、気が引けるんですが」
『きらりもちょっと痛い目みたほうが良いんだよ。今みたいに増長したままだと、分かった時には手遅れになる可能性がある――命掛けてんだから。安全なVRで分からせてやってくれ』
「・・・・――それは・・・・分かりました。じゃあちょっと本気出してみます」
『嫌な役割をさせてすまないけど、頼む。』
「――いえ」




