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425 ボッチで攻略に行きます

 というわけで始めての下層攻略です。やってきました68層なわけだけど。残念ながら知り合いがことごとく忙しくて誰も一緒に来てくれませんでした。ボッチ鈴咲、面目躍如。


「ふふふ、いいんだ。プロボッチだもん、寂しくなんか無いし」


 私が、68層を攻略する人が集まってくる連合の戦艦にフェアリーさんを駐機して、「そういえば夕食まだだったや」と、とりあえず食堂に向かっていると、声が聞こえてきた。


「こん、きらりん。やっほー、みんな。明洲香(あかすか) きらりだよ~! 今日は、いよいよ60台の下層攻略が始まったという事で、68層に来てるの~。いつもの下層攻略だけど、やっぱり今回もハートがどきどきバクバクだよ~。みんな今日も、応援よろしくね☆きらりん!」


 あー、配信者さんもいるんだなあ。

 周りを見回せば、そこかしこにカメラを備えたドローンに話しかけたり、ポーズをしかけたりする各国の配信者らしき人がちらほら。

 ちなみにきらりさんの☆はどうやってるのか、本当に☆が散っている。おそらくFLの超科学だ。

 なんだろう、ネトゲによくあるエモートとでも言うつもりなんだろうか。どこに超科学を投入してるんだか、銀河連合さん。


 ただ流石に、配信者が多いという感じではない。100人くらい集まってる中に、4人くらい混ざってる感じ。

 みんな頑張ってるなあ。

 私? 今回は配信しない。――だって絶対ボッチだっていじられるもん。ウチの視聴者なら絶対いじる。


❝食べ物屋に一人で入るんだワロwww❞


 って言った前科があるからな、アイツ等。

 『孤独のグルメ』っていう名著を知らんのか、アイツ等は。

 アームロック掛けるぞ。


 そんな事を考えながら食堂で、『プリプリトマトとシャキシャキレタスの特濃タルタルソースの照り焼きチキンバーガー』という品名のハンバーガーを、舌を噛みそうになりながら注文。

 食堂の隅の席に座る。

 本来数千人規模の攻略にも対応している連合の戦艦なので、下層攻略に参加する人のような少ない人数ではキャパ的にかなり余裕があるらしく、お客さんの姿は閑散としている。なので隅は自由に取り放題。オセロなら無敵なこと間違いない(当社比)。


 爽やか寄りの炭酸飲料をお供にハンバーガーをモグモグしていると、はみ出たソースが唇の端についたので備え付けの名前も知らない紙で「君の名は?」と思いながら拭く。


 紙をガサガサやっていると、見知った顔が入ってきた。


(アレックスさんじゃん)


 ここで「やっほー! アレックスさーん!」とか声を掛けるならそれは、鈴咲 涼姫じゃない。鈴咲 涼姫の偽物だ。これ豆な。


 私の偽物が現れて、見分けないといけない時のお供にどうぞ。


 私は顔を伏せて、ハンバーガーをもしゃもしゃ。


 私が「コギトコギト」と、自分が本物だと確信していると、アレックスさんに声を掛ける人物がいた。


「アレックス・バーミンガムさ~ん! お久し――」


 さっきの明洲香 きらりさんの声だ。

 ところがアレックスさんが、きらりさんとほぼ同時に、


「お、クール」


 私に話しかけてきた。

 『クール』はアレックスさんが私に付けてくれたTACネーム――パイロットとしての二つ名。

 見つかってしまった私は、仕方なく顔を挙げて挨拶をする。

 ぺこり と会釈。


「ド、ドギー」


 私がアレックスさんのTACネームを言って小さく手を振ると、横から声が聞こえてきた。

 

「は? ドギー? 何アレックスさんを犬みたいに呼んでるの、アイツ!!」


 声の方を見れば、すんごい形相のきらりさんがいた。

 私は恐怖のあまりサッと顔をそらす。


(こ、こわぁ)


 だってアレックスさんのTACネームがドギーなんだもん。向こうがTACネームで呼んできたんだから、こっちもTACネームで呼び返すのが礼儀じゃない!?


 私が肉食獣を前にしたマーモットみたいに震えていると、アレックスさんが私の隣に座る。

 女の風上に置かせていただいている――曲がりなりにも一応、女の子である私の横に当然のように座るのは、流石アレックスさん。


「よっ。クールも68層の攻略に参加するのか?」


 アレックスさんが二本指で敬礼みたいにして、指を振った。

 なんだこの、西海岸でサーフボード抱えてそうな爽やかな男は。


「一応」

「クールが居るなら、今回の攻略は余裕だな」

「そんn――「貴女なんなの!!」


 私が返事をしようとすると、きらりさんにより机に手のひらが叩きつけられて、大きな音がなった。

 机が若干跳ね上がって、私が両手で持って机に置いていたハンバーガーが跳ねて、思わず握りしめてしまってソースが飛んで ぴゅー と私の鼻に掛かった。

 さらに私が言いかけた〝そんな〟の〝な〟の前半の音〝n〟が鼻の中を駆け抜けて、私の鼻筋あたりから「んがー」という音が出た。


 なに!? このきらりって人、ホントにこわいんですけど!?

 きらりさんは、視聴者に「ちょっとまってね☆」と言って、配信を一旦閉じたようだ。

 最後にカメラに「きらりん☆」とポーズをしてウィンクした後、私に鬼の形相を向けてきた。


「クールさんだっけ!? 全然クールになんか視えないけど、よくもそんな恥ずかしいID付けられるわね!!」

「ぴぃ」


 私は彼女の豹変ぶりに恐怖して、顔を引き攣らせる。

 ク、クールはIDではなく、TACネームなんです。あと貰い物なんです。

 それの前にギークにされかかったんです。

 なんて、私は心の中で反論しながら、顔は涙目。


 きらりさんは、マシンガントークで私を乱射してくる。

 言葉の凶器ってこいう意味だったの!?


「だいたい貴女、見ない顔だけどなんなの!? 下層攻略ってね、ほぼ固定メンバーなの! みんな顔見知りなの!! 貴女みたいなポッと出がいていい場所じゃないの!! あんたみたいなのが急に参加してきて連携乱されたら、こっちは堪んないのよ。そもそも、こんな場所で一人で食事してるとか、パーティーメンバーはどこ!!」


 う・・・パ、パ、パ、パーティーメンバー、いないよ!?

 だって誘ったけど、誰も来てくれなかったんだもん!!

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― 新着の感想 ―
なんで68層に来るような配信者なのにスウの顔を知らないんだ...
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