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421 思い出のアリスがヒントをくれます

「アリス! 私今、凄いこと思いついた!」

「凄いこと、ですか?」


 あの日の放課後、私達は江の島湘南駅のホームでモノレールを待っていた。

 私が「ぼー」っと駅の天井を眺めていると。思いついたんだ。


「さっき構えの話ししてたじゃん」

「はい」

「こう構えたらいいんじゃない?」


 私は黒い傘を竹刀に見立てて、両腕をクロスするように構えて、顔の上に持ち上げて、斜めに倒す。


「ほら、これなら面、小手、逆胴を同時に守れるよ」


 するとアリスが大笑いした。


「あははっ」


 急に大笑いされて困惑してしまう。


「えっ、なになに」

「それ、中学生がよくやる三点避けっていう奴ですよ。反則です」

「あ・・・・反則なんだ?」

「はい、中学生のころ男子がやって先生に怒られてました。あと、高校生になったら突きがあるんで、それは役に立たないんです。ふふふっ」


 私は思わず恥ずかしくなって、傘を降ろした。


「そ、そうなんだ。剣道やってる人には、常識だったんだね」

「ですね。反則なんで大抵指導する人に教えられます。でも、確かに有効な手段だとは思いますよ。ただ、ルールの穴を見つけるのはスウさんらしいですねぇ」

「私って、そんなにルールの穴ばっかついてるかな!?」

「ついてますねぇ」

「がぁん」

「がーんって本当に言う人、初めて見ました」


 私は暫く考える。


「じゃあさ、二点避けならどう?」

「二点避けですか?」

「うん。一点に隙を作ってそこに攻撃を誘うの」

「なるほど」


 アリスの顔が、急に真剣なものになる。


「確かに・・・それは反則ではないですし、むしろ凄く実戦的だし――なにより達人っぽいのが素晴らしい」

「達人ぽいの大事?」

「大事です――けれどそんな都合の良い構え方が有るでしょうか。一点だけ晒して、すぐに防御できる場所をがら空きにする・・・・探せば何処かに既に有りそうなんですが――こうでしょうか」


 アリスが赤い傘を竹刀に見立て、三点避けの構えを取って、それをゆっくり降ろしていく。


 アリス、背中の竹刀が泣いてますよ?


 頭の防御が無くなっていく。

 そうして胴の辺りで手を止めた。

 剣を胴体の前で、真横に持っている感じ。


 左右の胴、小手を同時に守る形になっている。ただ、中段の構え以外は左右の小手が打点になるので、左小手をまもれてないけれど。


 アリスがなにかに気づいた顔になった。


「あっ、これって――」


 アリスが右足を引いて、半身になる。


「脇構えの変形ですね。胴体まで剣を持ち上げた、脇構えです」

「あー」

「待って下さい、これ凄いかも知れません――こうすれば」


 アリスが今度は、左足を引いて半身になる。


 胴体に有る傘の先が、こっちに向いた。


「スウさん、この構えに隙ありますか?」


 その構えは切っ先をほんの少し上げれば、こちらの突進のカウンターの突きになる構えだった。


「怖い、攻撃範囲に入れない」

「ですよね。この構えって槍の構えなんですよ」

「あーーー・・・・」

「竹刀がもっと長ければ、凄くいい構えかも・・・剣道だとこの構えは有効ではないかもしれませんが、大太刀のホタルマルブリンガーでこの構えをすれば、相手はこちらの間合いに飛び込めませんよ」

「確かに」

「さらにです。初めはこう構えます」


 アリスが私に対して正面に向き、仁王立ちになった。


 胴の前で、傘を真横にしたアリスが、私に向かって真正面を向いている。


「槍の構えとは逆に、隙だらけになったね」


 アリスの頭と喉が、がら空きになっちゃった。


「スウさん。私の隙に対して、軽く攻撃して下さい」

「えっ」


 アリスに攻撃するというのもだけど――私は周りを見回した。さっきから傘を使って剣術ゴッコしている女子高生が珍しいのか好奇の視線が、私達を串刺しにしていた。


 同じ学校のクラスメイトまでいる。ちょっと笑ってる、あんまり見ないで・・・。


「えっと、じゃあ」


 私は再び黒い傘を竹刀に見立てる行為を敢行。中段に構えると、アリスから注意が入る。


「危ないんで、あんまり思いっきり突っ込んでこないでくださいね」

「う、うん――。まあ、なんかあったら〖再生〗するよ」


 「えいっ」と軽くアリスの頭に傘を振り下ろそうと、一歩前に――出ようとすると、アリスが左足を下げて半身になった。

 すると一瞬でアリスの傘が私の正面に回り込む。


 アリスの頭は遠くなって、剣先は一気に前に来た。そうしてアリスの行動を予想していなかった私の胸が、アリスの傘で ぽよん と押された。


 私は思わず感動の声を上げた。


「これ凄い! 隙だらけの構えが一瞬で変形して、難攻不落になった!」

「へ、変形ですか・・・そうですね。そうとも言えます。――この仁王立ちの構えは、右横の防御力は高いですが前の防御はまるで無いです。――それを半身にする事で、防御力が入れ替えられるんです。これは相手の意表を突けますね。――剣道はともかく、ホタルマルでこれをやったなら、みずきでも騙せそうです」

「アリス、悪い顔になってるよ」

「FLの剣術でも、私が勝てるかも」

「みずきとFLで剣の試合したことあるの?」

「有りますね」

「か、勝てるの・・・? あの天然チート気味のチビっ子に?」

「勝てません。勝てる訳有りません。それはもう手品みたいな方法であっさり負けます。黒リッカなんか目じゃない強さですよ、本物のみずきは」

「黒リッカも強かったけどなあ」

「まあ、本物のみずき相手だと、この構えのカラクリを一目で見破りそうですけど」

「そしたらもう、私はあの子を人間だと認めない」

「にしても驚きの柔らかクッションですね、それこそ反則にしないといけないのでは・・・?」

「え? なに・・・・?」

「いえ、なんでも・・・」

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