420 超重力惑星で人型モードはきついです
いきなり眩しくなった。ライトを反射して、プリズムの万華鏡の様に光る壁。
――この採掘場では、上手くすればダイヤモンドより硬いロンズデーライトが手に入るらしい。
ロンズデーライトは、ダイヤモンドより硬いダイヤモンドの仲間。
このロンズデーライトが手に入れば、1段階強力な装甲を、かなり安く作れる。だからレア素材として、プレイヤーに大人気。
どのくらいレアかというと、――地球内部の圧力ですらロンズデーライトを生成するには足りないので、隕石衝突の際でくらいしか生成される事はなくて、生成されても殆が顕微鏡サイズ。
でもこの高密度の惑星なら、ロンズデーライトは惑星内部でも生成されるらしく、大地の深い場所に眠っている。
これが地殻活動で地表付近に登ってくる場所があるのだとか。
その場所の一つが、この第一採掘場らしい。
『おっ、アンタも採掘かい?』
私が採掘機を〈次元倉庫の鍵・大〉から取り出して、採掘の準備に取り掛かっていると、ロブⅡに乗った一人のプレイヤーさんが私に話しかけてきた。
「そうなんです」
『んおっ、女の子か!? 可愛い声してんな!!』
「えっ、あ・・・ども」
声だけは昔から、よく褒められる鈴咲 涼姫です。
『俺が掘ってる近くの横穴の先に、ロンズデーライトが出やすい場所があるぞ』
「本当ですか!?」
『ただ、MoBが居座っちまって採掘できないんだ。一緒に倒さないか? ――女の子だし、乗ってるのスワローテイルだし、後ろから撃っててくればいい』
私にとっても、ロンズデーライトがいっぱい手に入るなら渡りに船だ。
あと、フェアリーテイルとスワローテイルは似てるし、私の乗っている機体がフェアリーテイルだと気づかない人も多い。
「是非です!」
『じゃあ、PT組もうぜ。女の子とPTが組める――やったぜ。俺のIDはタズマ』
「私のIDは、スウです」
『ん? ・・・・』
言った彼の機体が首を傾げる。
VRで操縦しているので中の人が首を傾げると、バーサスフレームまで連動してしまう。
かなり長い間があった。そうして彼が言葉を発した。
『・・・・・・・・・・・・今、なんて?』
「あっと、私のIDはスウです」
今度の反応は凄く早かった――むしろ食い気味だった。
『――スウたん!?』
「え、あ・・・はい。そんなふうにも呼ばれます」
『よ、良く見たら、その機体スワローテイルじゃなくて、フェアリーテイルじゃん!? しかも白いフェアリーテイルで、この可愛い声、本物のスウたんしか居ねえじゃん!!』
「ど、ども」
『生スウたんだー! Her スゥ Her スゥ。良い匂いしそう』
「あの若干怖いので帰っていいですか?」
私が抑揚のない低い早口で言うと、相手も素早く反応してくる。
『い、行かないで!! あのMoB結構強いんだよ!』
「マジですか。私もロンズデーライト欲しいし頑張ろうかな」
『スウたんが居れば百人力だわ』
「頑張ります」
なるほど、MoBを一緒に倒す仲間を探してて私に話しかけてきたのかな。
タズマさんに連れられ、ロンズデーライトがよく取れるという奥に案内されると、なんか壁を舐めてるウォンバットみたいなモンスターがいた。
どうやら壁に着いているカーボンの砂を舐めているらしい。時々ダイヤモンドもグラファイトもゴリゴリ食べている。
いくら有機物の元だからって直接カーボンを取り込まなくても・・・・というかMoBってケイ素生物なんじゃ?
あと、ダイヤモンドを噛み砕く顎とかどうなってんの。
透明なダイヤの壁を舐めるMoBを見ていると、視界にMOBの名前が表示された――シジフォス。
ギリシャ神話に登場するのかな? 流石に知らない。
ちなみにバーサスフレームが使う採掘機で掘ったものとは言え、洞窟みたいな感じで狭いので飛行形態では戦えない。
シジフォスがこちらの足音に気づいたのか振り返る。奴はこちらを見留た瞬間、飛びかかってきた。大きく口を開いてこちらに噛みつこうとしてきている。
私はシジフォスの顎を躱そうとフェアリーさんを後ろに跳ばそうとする。しかし、重力が強すぎてバーサスフレームが思ったように動かない。
すると逃げ遅れた右足をシジフォスが サク。
齧られた。
「ふぁ!?」
サクサクサク っと、膝辺りまで一気に齧られる。
「ちょ・・・・いや、いくらフェアリーさんの装甲が薄いからって、そんなにサクサク食べないで!?」
『そいつの歯、異常だから注意して!』
タズマさんの注意の声。
シジフォスが、今度はフェアリーさんの左足に噛みつこうとする。
アカンて、ロケットエンジンそんなに齧られたら宇宙に登れなくなって、フェアリーさんロストしちゃう。
最悪空母か戦艦で回収しに来ればいいけど。あんな質量どもが、こんな高重力惑星から脱出するのにはどれだけのエネルギーが必要なのか、考えるのもしんどい。
重力のせいで、左足まで逃げ遅れそうになってシジフォスに噛まれそうになったので、左足のロケットエンジンを点火。ジャンプしてヤツの口内に、ロケット噴射をお見舞い。
駄目だ、コイツ全然止まらない。
左足までヤツの口内に吸い込まれた瞬間、ファンタズマさんがロブⅡのシールドを構え、バリアを展開してシジフォスの脇腹に体当たりしてくれた。
ふっとぶ――いや、あんまり吹っ飛ばないシジフォス。うーんGが効きすぎてる。あと、大気圧もあるかな。
私はフェアリーさんで後ろにけんけんをしながら、機体を地面に立たせようとして失敗する。
流石に巨大メカ、体重が重すぎて生身の感覚で片足バランスを取ろうとしても全然立てない。
バランスが崩れやすすぎて話にならない。
しかも高重力じゃ私には片足で立つなんて無理。
さらにけんけんしながら壁際まで下がり、壁に背中をついて、なんとか立位を維持した。
にしても、こんな重力も大気圧も強い惑星で、敵はなんて速い動きをするんだ。
こっちは、まともに動けないのに。
というか片足になっちゃってまともに戦えそうにない。
メインエンジンの一機がやられたから、素早い動きなんてできない。
人型で戦うのは苦手だしどうすればいいんだろう。こっちが動きにくいなら最小の動きで相手にカウンターを決めればいいのかな。
アリスとかリッカなら、こんな場合どうするんだろうか――というかあの二人ならこの惑星で片足でも、バランスを取って立てるのだろうか。
そこで私は、以前アリスと交わした会話を思い出す。
 




