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418 白きサメ

 その日私はアテナとの戦闘があった宙域で、アリスとお絵描き配信をしていた。

 最早、なぜアテナ戦跡でやる必要が有るのか、欠片も意味がわからない配信である。


 アリスが描いている絵のタイトルは、『辛さに苦しむ20代女性』という物らしい。


 アリスがペンを走らせるタブレットの中央に、終焉をもたらしそうなほどの苦しみに耐えながら、涙を流し悶絶する女性がいた。おっとりとした顔がぐちゃぐちゃに歪んでいる。

 〝人類が書いた怖い絵、ベスト10〟の新しい1作品になりそうなほどの迫力だった。


 そして私が書いているのはリイム。タイトルは『絵を描く人を邪魔するグリフォン』。

 こら、ペンをクチバシでハムハムするのは止めなさい!


 私がリイムをナデナデモフモフしていると、視界にウィンドウが開いた。

 私はその巨大なウィンドウを「ぺい」っとはたいて視界を確保する。


『スウさん!』

「今日はどうかしましたか、アイビーさん。また何かアイデアが欲しい、とかですか?」

『いえっ、今日はですね。スウさんに届いたファンレターを渡したいと』

「ファ、ファンレターですか!?」


 そういえば、スウチャンネルの事務所にも、ファンレターとかプレゼントとかがよく届く。

 この前も開封配信とかしたっけ。


 銀河連合にも届いてるのかあ・・・・銀河連合ってば、私をどんな風に報じてるんだろう。


『そちらに転送しても構いませんか? 段ボール3つ分になるらしいんですが』

「3つ分なら大丈夫だと思います――というか段ボールは、銀河連合でも使い続けられてるんですか」

『横からの衝撃にも強い、段ボールです』

「なにそれ凄い」

『では転送しますね』


 間もなく転送されてくる転送装置付き段ボール。

 あと、周囲に袋とかもある。プレゼントが入ってるのかな?


 確かに手紙は段ボール3箱っぽいけど、プレゼント入れたらもっと量があるじゃん。

 さすがアイビーさん。「らしい」って言ってたし、確認してないな?


「相変わらず早いですねえ」


 アリスがタブレットから眼を離し呟いた。さっきのやり取りはアリスにも見えていたので、別に彼女がビックリしたりはしない。


 リイムが、「コケー」(おもちゃ? ごはん?)と言いながら段ボールに駆け寄る。

 そして臭いを嗅いで、首を傾げた。


「コケ」(くちゃい)


 まあ、接着剤とか紙の独特の匂いがあるよね。


 私が段ボールに寄ってテープを剥がして中身を見ると、中には便箋や、プレゼントが入っているらしい袋などがあった。


 私は目についた手紙を開いて読む。


「なになに、」

『スウさん、貴女の偉業は凄い。そこで歌を作りました――』

「あ、そういうの間に合ってます」


 他のも読んでみる。


「えっと、」

『スウさん大好きです。本気ですどうか――』

「ごめんなさい」


 私は、素直に「ごめんなさい」と言える子らしい。

 そして次に読んだ手紙で、私は大変なことになる。


『スウおねえちゃんへ いつも ぎんがを まもって くれて ありがとうございます。 

おねえちゃんの おかげで おかあさんも おともだちの アミちゃんも たすかりました。

ほんとうに ありがとございます。


                 とうの まき』


 うおおおおおおお! なんじゃこりゃあああ!!!!

 まだ覚えたてであろうひらがなで、一生懸命書いてある。

 文字が読みにくいけど、それがいい。


「これ、明らかに小学校低学年くらいの子の文章だよね!? 小さい子の手紙とかなにこれエモすぎ!! 鼻血出そう」

「というか出てますよ、スウさん」


 私はアリスにティッシュで鼻血を拭かれる。

 私の鼻の粘膜が貧弱ですみません。昔、鼻血出して、しばらくあだ名がエロ咲だったんだよ。

 別にエロで出したわけでもないのにさ。

 私はアリスに鼻に詰め物されながら叫ぶ。


「この手紙、一生の宝ものにする! そうだお返事、お返事送らなきゃ!」

「スウさんがそんなに喜ぶなんて、手紙を出した子も嬉しいでしょうね」

「どんなファンレターも嬉しいけど、――っぱ、子供が一生懸命書いたのは一味違う! 銀河の平和は私が護ります! この子も護ります!」

「頑張りましょうね!」

「おおっ!」


 心に栄養を貰った日でした。




◆◇Sight:三人称◇◆




「駄目だ攻撃が一切通用しねえ!」

「逃げろ、撤退しろ!! ヤツは威力とかそういう問題じゃなく、攻撃そのものが通用しないんだ!」

「しかもなんてパワーだ、バーサスフレームが完全にパワー負けする・・・っ! ――海に引き込まれたら一巻の終わりだぞ!」

「ユニークモンスターなんて聴いて、報酬目当てにノコノコ来てみたのが間違いだった!! 俺の200万もするバーサスフレームがぁ・・・スクラップにぃ。なんてヒデェ事しやがるんだ・・・」


 39層の海洋惑星。40層攻略後に陸地が3割しかないこの惑星に突如として現れた白いサメ。ユニークモンスターとされる個体名もホワイト・キング。その能力は武器が一切通じないという、恐るべき能力だった。この能力の前にプレイヤーたちは為す術すらなく、つぎつぎと撃墜された。そうしてこの日、とうとう42機目のバーサスフレーム撃墜が記録された。

 圧倒的暴力を示し、プレイヤーたちに絶望を与えたサメは海面から飛び上がり、青い月の前に白い三日月型のシルエットを残し吠える。

 「俺こそが、この海の王者だ!」と示さんばかりに。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 >横からの衝撃にも強い段ボール つまり沢山重ねれば某ガンダ○のコスプレした海外姉貴みたく、チョバムアーマ○っぽい段ボール鎧を作れる可能性が…? まぁスウちゃんはどちらかというと某…
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