417 青いイントロフレームがやばいです。
「スウ、見つけたでー!」
あっ、やばい!
私は音子さんの手を、撃墜された誰かのロブのワンルーム内で、なんとか躱して宇宙に出る。
「アイビーさん! 私今、ケイドロ中なんで、また」
負けたら終辛なんだ。負けるわけにはいかない。
『ケイドロ?』
「ちょっと複雑な鬼ごっこです!」
『そこ、アテナの戦場跡地ですよね? よくそんな場所での遊び思いつきますね・・・』
「誰が考えたか分からないですが、楽しいです!」
『あ、あとですね』
「はい」
『スウさんの使っている青いイントロフレームの素体を、貸していただけませんか?』
「えっ、アレをですか!? なぜ・・・」
『調査の結果、あの青いイントロフレームは、アイリスさんの持ち物だったようなのです』
「あ~~~っ」
だよね。やっぱそうだよね?
じゃあこのイントロフレームは、時間をループしまくってたりする?
アイリスが残して → 私が手に入れて → その後何年も経って、またアイリスが手に入れて――を、ずっと繰り返し?
『あの青いイントロフレームにはアイリスさんの残した、様々なテクニックや作戦情報が保管されているのです。アイリスさんは凄まじい策士だったと伝わっています。それらを解析したいのです』
いや、このイントロフレームに入ってるデータはそれどころじゃないかも。
私とアイリスの間を、何度も何度も無限にループしてる可能性ががが。
「あとでハイレーンに届けてもらえるとありがたいです」
「了解です」
『ではケイドロっていうのを、じっくりと楽しんで下さい』
「はい!」
「ビスカムアルバム改造計画?」
私達がアテナの戦場跡地で、ラクロス配信をしていると、眼の前にウィンドウが開いた。
巨大なウィンドウを人差し指と親指で、抓むようにして小さくする。
『はい、4章プレゼントの第二弾です。あの装備もスウさんには大事だと思うのですよ』
「だ、第二弾があるんですか・・・」
『スウさん、パスです!』
アリスが棒の先に網がついた道具――長いタモみたいなの(スティックと言うらしい)で、ボールを私に飛ばす。
私はアリスのパスを受け――取ろうとして失敗する。
「『ギャーーー」』
私とアリスが青くなって叫んだ。
今回も負けたら終辛なんだよ!
試合内容はラクロス。
そして対戦するのはクレイジーギークス vs ストリーマーズ。
今回もスキルの使用は禁止(スキル有りだと、スウが強すぎると言われた)。
でも今回は流石に空気噴射で移動していい。デブリを蹴ってじゃ、難しすぎるので。
にしても音子さん、私にスポーツを挑むとは、勝ち筋をよーく理解してるじゃないか。
ラクロスは結構荒っぽいスポーツだけど、私たちの体はパイロットスーツが守ってくれているから大丈夫。
ボールが音子さんに渡る。
『クックック、前回と前々回はよくもウチに終辛を食べさせてくれたな? ――やけど、今回はそうはいかんで? というかよくもまー、毎回毎回ウチを負かしてくれるわアンタ。そろそろウチのおしりが保たん。
これはもうスウも終辛を食わなあかん。
余りにも不公平や、あの口の中が爛れ、食道も爛れるような苦しみ、藻掻いて水を飲めば火傷した粘膜に滲みて転げ回るような痛み――スウも体験せなあかん。
そしてウチは泣いちゃうスウに、ドS心をくすぐられるんや』
「変態がいます!」
するとドSアリスだ。
『確かに、わざと負け――』
「冗談じゃない! 負けたら終辛ヤキソバを、アリスも食べるんだからね!」
『・・・・私はそれでも、スウさんの泣き顔が・・・』
「アンタどんだけ私の泣き顔見たいんだ!」
『顔を上気させて泣くような姿――まあ、しませんけども』
なんて私達は会話のドッジボールをする。
――いや、今やるべきはラクロスなんだよ。
ふと音子さんを振り返ると、リッカが音子さんの背後から迫っていた。
そうしてリッカは、音子さんのサイドから、音子さんのスティックを叩く。
網の中のボールが弾かれ飛び出した。
『アリス! ワザと負けるとかふざけた事を言うな! 勝負は真剣にやって常勝、それこそが、わたし達だろう!』
『確かに、スウさんの泣き顔に目が眩んでました』
「そんなもんに眩まないで・・・」
『スウさん、アイデアはないですか?』
アリスの目がドSになり、リッカと音子さんがバチバチにボールを取り合い、アイビーさんに質問される。
なにこれカオス。
私は急いで考えて、アイビーさんに返す。
「じゃ、じゃあ火器管制を担当してくれる人とか、いたらいいなあと思います。――あと、味方の機体を内部で修理したり?」
『なるほど、あの量の武器を一人でコントロールするのは大変ですもんね。ドローンや、バリアなんかもコントロールする人がいてもいいですね。さらに修理ですか――修理空母化――合体空母ビスカムアルバム・・・! そのアイデアはいいですね! それで行きましょう! 沢山の人が乗ってスウさんがメインで戦う――凄まじく強いドッキングユニットになりそうです!』
あ、適当に言ったらなんかアイビーさんが止まらない。
「じゃ、じゃあそんな感じでお願いします」
『了解しました! 楽しみにお待ち下さい!』
という感じで、ビスカムアルバムが改造される事となった。
『あ、そうだ・・・・スウさん。スウさんから借りたイントロフレームを解析したところ。データが凄まじい圧縮をされており、解凍したところサーバーがダウンしてしまったらしいのです。1ヨタバイトまでは確認されたらしいのですが、それ以上は・・・・なにか心当たりはないですか?』
え、データでサーバーダウンしちゃったの? というか未来のデータ圧縮技術とか凄そう。
あのイントロフレーム、本当に無限に情報保持してたりしないよね?
情報からエネルギーを取り出せるみたいな話を訊いたこと有るけど、無限にエネルギー取り出せたりしないよね?
いや、アレはなんかエネルギーをコントロールして増幅みたいな話だっけ?
心当たりは有るっちゃあるけど、教えて良いのかな?
「とりあえず、データが膨大だったのかも・・・?」
『なるほどです・・・。確かにアイリスさんとスウさんの二人分のデータにしては可怪しいと、解析班が青冷めながら言っていました。1ゼタバイト程度のはずなのに、ヨタはおかしいと』
前ゼタが分からなかったんで調べておいたんだけど。ヨタは、ゼタの次の単位だ。
ならあのイントロフレームがループ1周で1ゼタの情報を得たとして、1ヨタ・・・・少なくとも1024回はループしてるって事?
『とりあえずビスカムアルバムの改造計画承りました・・・・しかしイントロフレームの解析が一番難航するとは・・・』
こうして通信が切れた。




