414 戦争になります
リッカがヤレヤレと首をふる。
だって、こちとら17年物のコミュ障だぞ。訊いて回れるわけ無いじゃん。
アリスが苦笑いしながら、口を開く。
「――トロールは能力的に、さっきのアーマードミオの上位互換みたいです。無限回復がないですが、それでもタフさが戦車なんで危険には変わりないですよね」
「――ケンタウロスユニットとか、バーサスフレーム用の武器とか使えれば良いんだけども、あっちはさすがに危険だよね。鉄骨じゃ崩落させかねない」
「ここ、ダンジョンより面倒ですねぇ」
「私の弾丸足りるかなあ」
「わたしとアリスには、オリハルコンの剣があるから体力が続く限り戦えるぞ」
「当機の燃料は、数千年活動しても問題ないわ」
「ボクも魔力の続く限り、攻撃できる」
「私だけかあ、弾数が心配なの」
「じゃあ、作戦を周りのプレイヤーさんたちとも共有してきますね」
「おねがいします」
私が平身低頭になると、アリスが他のプレイヤーの方へ歩いていく。うーん、颯爽。
というわけで、準備不足な生身でレーザー戦車みたいな敵と戦う攻略が始まった。
巨大な扉が開かれた――ってトロール、多ッ。
なんだろう3メートルは有りそうな箱のような物に手足が生えていて、全高は4メートルほど。
そんな体で、両腕に銃。
もはや二足歩行戦車といった風貌だ。
そんなのが広大な広間に、400体ほどひしめき合っている。
そしてトロール達の最奥に一層巨大な、8メートルほどの黄金のトロール。
間違いなくあれがトロールキングだと思う。
「ティタティー!」
「うん」
ティタティーの魔術が、黒い壁を作り上げる。
黒体の壁だ。
私の知らない人――サングラスの男性プレイヤーがみんなに注意を入れる。
「ドローンのカメラをVRに繋いで敵を見て撃つんだ。絶対に、黒体から顔を出すなよ!」
ティタティーがどんどん壁を作っていく。
その後ろに隠れて、プレイヤーたちが銃を放つ。
トロールたちは、黒体にレーザーが効かないと見るやいなや、実弾に切り替えてきた。
黒体はかなり硬いけれど、流石に弾丸で破壊される部分も出てくる。
すると、リッカが〖水作成〗で黒体の前に水の壁を作った。
水はレーザーも、実弾も減衰できるから、黒体を庇える。
ただ、リッカの生成できる水の量では、全員の前を庇いきれない。
「ティタティーもっと沢山の黒体をお願い!」
「う・・・うん! 【クリエイト・アイス】【クリエイト・アイス】【クリエイト・アイス】!」
かなりキツそう。
さすがのティタティーでも1000人の前に黒体を作り出して維持すのは限界ギリギリみたいだ。
そりゃもう戦争レベルだもんね。
というか敵も戦車みたいなのとか、こんなの戦争と変わんない。
ティタティーの負担を減らすためにも、私もなんとかしなきゃ。
狙うは、最奥にいるトロールキング!!
私は〖触手〗の黒体で自分を覆い尽くす。
その状態で〖透視〗を使う。
よし、
「――〖飛行〗!!」
「うわっ、なんか飛び出したぞ」
「黒い――影??」
「あれもしかして、黒体か!?」
敵のレーザーが私を撃つけど、効かない。
すると実弾が飛んでくる。
もちろん躱す。
さらに〈時空倉庫の鍵〉からスプレー缶のようなものを3つほど取り出して、あちこちに投げる。
強烈な光と音が放たれた。
効くかどうか分からないけど、目潰しにフラッシュバンを投げてみたんだ。
これがどうやら効いたようで、私に向かってくる弾丸が少なくなった。
私は、トロールキングに向かって、アサルトライフルを掃射しながら近づいていく。アサルトライフルは銃身が長く、小口径高速弾だから威力が高い。銃身が長いと威力が上がるのは、幅跳びの助走距離が長いと遠くまで飛べるのと同じ様な理屈。
場合によっては口径の大きなマグナムの方が威力があったりするけど、あっちは連射できない。
❝なあ、地面に転がってる薬莢に、ロイヤルハーミットの刻印がみえたんだけど❞
❝ヤルハを、あんなにバカスカ撃って・・・❞
❝運営涙目❞
❝スウたん、あんまり無茶されるとロイヤルハーミットは無料除外とかなりかねないから・・・・ほどほどに・・・❞
❝あの子、ヤルハを無料から除外されても困らないくらいにはクレジットもってるから❞
❝つか、無料になってからロイヤルハーミット社の弾丸、全部SOLD OUTになってたのに、あの子どこであんなに大量のロイヤルハーミットを仕入れてきたんだよ。憧れのマイマスが手に入らなくて、泣いてる子もいるんですよ!❞
❝あ・・・察し❞
❝立ち入り禁止区域か! またチートしてる!❞
なんかコメントに察せられてるけど、私はそれどころではない。トロールの数が、あまりに多い。
全てが私を攻撃しているわけじゃないけど、結構な数のトロールに狙われている。
私が弾丸を躱しながら前に進んでいると、私の足を掴もうとしてきたトロールがいた。
ちょっと不味い角度かも・・・〖空気砲〗で角度を変えて躱そうとすると、手を伸ばしてきたトロールの頭にロケット弾が刺さった。
誰かが対戦車ロケットランチャーを放ったんだ。
私はトロールにロケットランチャーが着弾した衝撃で、ちょっとふらつく。
知らない金髪のプレイヤーが、
「ちょ、人の側にロケランとか危ねぇ」
とか言ってるけど、大丈夫。
ロケットランチャーの本当の攻撃は時間差でくるんだ。
ただ、もたもたしてらんないので、私は慌てて逃げ出す。
私が十分離れた頃、トロールの頭にロケット弾が突き刺さった側と反対から、ジェットエンジンの噴射口から出る火のような物が吹き出した。
これがロケランの本命の攻撃。
弾頭内で爆発した火薬の圧力によって流体化した金属が、ロケット弾の頭から放たれたんだ。
メタルジェットという、装甲の厚い相手に有効な攻撃手段。
炎は、しばらくトロールの頭の中を蹂躙し続けた。
するとトロールの頭が反対側から崩壊して弾け飛んで、燃え上がる。
(人が持って撃つロケット弾って当てにくいのに、的確に頭にあてて凄いなあ)とか思って振り向くと、マッドオックスさんじゃん。
なるほど、私はオックスさんとなら何度も一緒に戦っているので、私がロケランの特性を知っていると思って援護してくれたんだ。
そもそも私には、黒体や雪花があるからロケランのダメージは簡単に通らないし。
オックスさんの隣にはさくらくんや、江東さんと、あと怖そうな見た目の人もいる――あっ、フェンリルさんだっけ? そういえば江東さんと知り合いだっていってたなあ。
肉弾戦が苦手なさくらくんや江東さんは、オックスさんの後ろに来そうなプレイヤーの整理をしてるみたいだ。
ロケランの筒の後ろにいると、ロケット弾が飛んでいく時のロケット噴射が当たって大怪我につながるからね。
ニヤリとしたマッドオックスさんが、こっちにサムズアップしてる。
でも私は、サムズアップを返す余裕がないので会釈しておいた。
それからも私の危険を察知するやいなや、ロケット弾が飛んでくる。
なにこの頼り甲斐。
「おい、フラッシュバンが効くなら――カメラだ、カメラ・アイみたいな場所を狙え!!」
誰かの声が挙がると、みんながトロールのカメラを狙いだした。




