408 かんちがい
◆◇sight:三人称◇◆
スウたちが突撃を初めた頃、後方に位置する今作戦の連合旗艦ミリアルドではこんなやり取りがされていた。
「スウ機、リッカ機、アリス機、戦線を離れていきます!」
「なにっ――彼女たちがいなくなると11時方向が手薄になるぞ、呼び戻せ!!」
「しかし彼女らは、特別権限で動かれており!」
「特別権限か・・・・くっ、それでは文句を言えん」
歯噛みする士官の後方で、タタセ少佐が顎に手を当てていた。
そうしてタタセ少佐は、スウの動きをみて「やはり」と頷いてから、静かに士官に答える。
「――いえ、文句などそもそも見当違いです」
「タタセ少佐?」
「これでいいのです。観なさいスウさんの迷いのない動きを。あの方の事です、なにか考えがあるはずです――」
今回に関して言えば、スウには何の考えもない。
スウは、単にやることがほとんど分からないから、とりあえず突っ込んだだけである。
それと迷いが無いのではなく、作戦を訊いていなかったので考える要素がなく、迷うことが出来ないのである。
しかし、タタセは「ハッ!」っと何かを発見した様に顔を上げた。
なにもない場所に、何を発見したのであろうか。
「そうか、浸透戦術」
なにか、大仰な戦術名が出てきた。
この言葉に士官も何かに気づいた様に顔を挙げ、タタセを見た。
だから、彼らは何もないのに、何に気づけたのか。
士官の表情は、我が意を得たりと言った表情であった。
「浸透戦術――訊いたことがあります。防御が硬い塹壕戦が主流にった頃、膠着を打破するために生み出された戦術だとか」
「そうです。今の状況は、まさに塹壕戦に近い。敵の防御があまりにも厚く、これは塹壕に例える事が出来るでしょう。――そうして、これだけ防御を固められてしまうと攻略に時間が掛かりすぎる。――プレイヤーさんは長時間の戦いになると、帰還してしまう方がかなり出ます」
「確かに、プレイヤーの方々は地球で用事が有る場合、帰ってしまう方が多い。――これを我々には防げませんが、できるだけ地球に用事ができないように沢山のクレジットを払っています――ですが、それでも足りないことが有る」
「はい、ところが私の作戦は長期戦になる可能性があった。――しかも今回我々は出来るだけ早く特殊部隊を突入させ、海賊に捕われている人々を助けたい事を最初にお伝えています」
「なるほど! だからスウさんたちは捕われている人々を、一刻も早く助けたい一心で・・・!」
スウが話を訊いていればワンチャン有ったが、今のスウは作戦を全く知らない。
タタセ・アルジェントが、真剣な表情で頷く。
「はい、間違いないでしょう」
間違いだらけであった。
「さすが〖銀河より親愛を込めて〗や、アセンストの称号を持つスウさんだ・・・・」
「捕われている人々を救うため、――スウさんは攻略を早めるため、敵の防御の弱点を見つけ、そこに火力を集中して切り崩していく浸透戦術を取ったのです! 彼女等は少数でそれが出来る精鋭達なのですから!」
「そうか、戦いは数が趨勢を決める。しかし彼女等は規格外だ。数にすればたった3、だから作戦には影響はない。けれどその3は、作戦上の3と同じではない」
「なるほど! ―――スウさんの考えが読めなかった自分が浅はかでした! スウさんが特別権限ストライダーであることに不満を感じた私が恥ずかしい――あの方こそ、特別権限であるべきだ、あの方の動きは我々には想像もできない深い考えの上に成り立っているのに、それを我々がコントロールしようなどと烏滸がましい――私は自分が許せない!」
自分の言葉を後悔する士官に、しかしタタセは優しく諭す。
「恥じる必要はありません。スウさんの考えをすぐに理解しようとするのが、そもそも不可能なのです。人は自分の知っているものの中でしか理解できません。スウさんのような人間を誰もしらないのですから、理解できないのは当然です。――しかし今、貴官はスウさんという大きな存在に触れた」
「はい!」
「良かったですね、成長できて」
「はい―――っ!!」
話を側で訊いていた別の士官が、モニターを仰望するように観て、スウを遠く見た。
「しかし―――スウさんは、なんとお優しい」
連合でのスウの人気が、勝手に上昇していく。
だがここで、一人の士官が首を傾げる。
「ですがお待ちください、タタセ少佐。我々にはスウさんたちの攻撃している敵の防衛網に、弱点が有ったようには視えませんでしたが」
しかしタタセ・アルジェントは、士官の疑問を一蹴する。
「何を言っているのです。あのスウさんですよ、我々には見つけられない弱点を見つけたのでしょう。――それに、我々には弱点には視えなくとも、彼女には弱点になり得るのです」
確かにスウには他人には弱点に出来ない場所でも、弱点にできる。
ただ一つの問題は、今回スウは、弱点など見つけていない。
何も考えず、脳筋に突っ込んでいっただけである。
「流石は、銀河の妖精」
「我々には考えも及ばぬ領域で、彼女は戦っているのですね」
「その通りです」
考えが及ばないのは当たり前である。
スウは何も考えていなかったのだから。
及びたくても何も無い。
という感じで、勘違いがやり取りされていた。
ちなみにこの様な勘違いは連合では時折起きており、それがスウ人気に拍車を掛けていることを、そっと添えておきたい。
◆◇sight:鈴咲 涼姫◇◆
『怖い怖い怖い。スウ本当に当たらないんだろうな!!』
無数の弾丸の雨を、ジェットコースターのように躱していく画面に、リッカが若干涙目で、私に尋ねた。
「大丈夫、このくらいなら! ――多分」
『多分!?』
いや、結構弾幕が厚くて。
〈発狂〉ほどじゃないけど、〈狂乱〉くらいはあるんで、3機分の被弾面積には、結構きつい。
タタセさんから連絡が入る。
『どんどん突破口が開いていきます! スウさんたちが特別権限で、我々の考えを上回る動きをして下さったお陰です! 私の作戦では時間が掛かりすぎました――スウさんは自らの行動で、我々に示してくださったのですね! 本当にありがとうございます!』
(え・・・なんの話?)




