406 ちびっ子の銃をメンテします
「・・・すごい人ですよねロイトさん。ロイトさんが整備してくれたら、わたしがちょっと銃を当てられるようになりました」
リッカが抱きついてきて、私の体を揺さぶる。
「スウ、ロイトに教えてもらうなんてずるいぞー! こんどロイトの所に、わたしも連れてけー!」
「禁止区域だっつっちょろうが!! ――銃のメンテナンスくらい、地球でも教えてもらえるでしょ!!」
「どこでだー! 銃の国メリケンか!? メリケンに教えを乞いに行けってのか!?」
「マリさんか、マイルズに聴きなよ!!」
「あ――なるほど、それでもいいのか」
❝いや、普通にスウに教えてもらいなよ❞
「「たしかに」」
私とリッカは同時に手を ぽん と打った。
私はニューゲームを、もう一度組み直す。
「じゃあ説明しながらメンテするね。――例えばニューゲームみたいな銃の場合。分解するなら――」
私が丁寧に説明すると、リッカは、
「なるほどわからん」
「なんでやねん」
「――刀なら、分解できるんだけどなあ」
リッカが首を傾げた。
私はスプリングを持ったまま、手ひらを胸の前で振る。
「いやいや、そっちのほうが大変でしょ。――まあニューゲームは分解が難しい方なんだけど、プレイヤーに一番人気な銃のジェネラルP16っていう、グロック17みたいな銃は分解が簡単なんだよね」
「わたしの拳銃はジェネラルP16だぞー!」
「わたしも拳銃はジェネラルP16ですね。というかスウさんみたいにニューゲームとか、渋い銃を使ってる人が珍しいです」
「渋い? ―――かわいくない?」
「本当にその感性だけはわかりません」
「ジェネラルP16は、どうやって分解するんだ?」
「側面のボタンを押して、スライドを前に滑らせるだけだよ」
「ん? ――うまく分解できない? スウ、やってみて」
「ちょ、リッカ、銃口をこっちに向けないで・・・――こうやるんだよ」
私はスライドを押さえて、銃口を逸らしてから、ボタンを押してスライドを引っ張った。
取れるスライド。
「はっや・・・もう打てない。銃って、こんなに簡単に分解出来て大丈夫なの?」
刀に慣れていても、銃には慣れていないリッカが、分解しやすいジェネラルP16にビックリしている。
「これはねえ・・・・こういう事にならないの為にあるのがC.A.Rシステム」
「かーしすてむ?」
「私がよくやってる、銃の構え」
「あー、あのサイドチェスト(ボディビルのポーズ)みたいな?」
「どういう認識してたん」
「剣術にも、刀を奪われないための術理はいっぱい有るからなあ。似たもの同士か」
武器を奪われる問題は、古今東西あるんだなあ。
ていうか今分解したリッカの銃、しっかり弾丸が薬室に入って発射準備完了してるし・・・・銃口避けてから分解してよかった。
「貸して、やってみる」
リッカが、私からジェネラルP16を受け取ろうとする。
「うん、でも待って。メンテ前に弾薬が入ってないかは必ず調べてね」
「あー、そっか。危ないなわたし・・・ごめん」
私は銃弾を薬室から取り出して、弾倉を取り外して空撃ちしてからリッカに返す。
「うん結構真面目に危ないから、気をつけてね。こんな感じで弾倉を外して、スライドをカシャカシャしたら弾丸が入ってたら出てくるから。その後、安全な方向に空撃ち」
「うん、分かった。ほんとに、ごめん。普段は弾丸は抜いといたほうがいいんだ?」
「いや使うのが分かってる時は、薬室に弾を準備して置くのは大事だよ、咄嗟に撃てないから。海賊の基地に入る時には、発射準備しておいてね」
「なるほど、理解」
リッカが言って細かく分解していく。
「って、リッカあんまり細かく分解したら、私でも戻せないよ!?」
「なんてこった」
「あーあ・・・まあ、まだ戻せる――よし、じゃあクリーニング始めるね。イルさん、換気を強めにして」
ちなみにやろうと思えばニューゲームも、もっと分解できるけど、そんな事をしたら私には戻せない。ロイトさんに泣き付きに行くことになるだろう。
『イエス、マイマスター』
空気清浄機のファンの回転音が強くなったのがわかった。
私はメンテ途中だったニューゲームのメンテを再開。
銃のメンテナンス用のソルベント・オイルっていうのを取り出す。――FLのロイヤルハーミット社製。
で、まずは内蔵部品にソルベント・オイルを垂らして、ローテーブルの上に置いたフキンの上に放置。
綿を巻いた棒に、ソルベント・オイルを垂らして溝をゴシゴシ。
❝なんか、スウのメンテしてる銃、普通の銃より部品が精巧じゃね?❞
❝思った、なんか噛み合わせいいし、さっき分解したときスライドがほとんど音を立てなかったし❞
❝色が地味だけど、あんな色のニューゲーム観たこと無いよな❞
❝あの銃なんぞ?❞
ロイトさんの最高傑作です。
うわ、すぐにブラシが真っ黒になる。
ガーゼを交換して、さらにゴシゴシ。
次は放置していた部品もゴシゴシ、黒い液体が垂れてきた。
「ちょっと前にフルオートで連射したから、随分汚れてるなあ」
しっかりメンテナンスを終えて、ニューゲームを組み立て直す。
スライドを前後させる。
うん、なんの引っ掛かりもない。元通り。
❝音一つ無いぞ❞
❝まじであの銃はなんなんだ❞
私はピストル・カービン用のアタッチメントもメンテナンスして、ニューゲームをはめ込んで空撃ちしておく。
この後多分、使うことになりそうだし。
❝でた、謎のアサルトカービン――それ、中身ニューゲームだったのかよ・・・❞
「え、それって中身ニューゲームだったんですか!?」
「そうそう、銃身伸ばしてくれたりフルオートにしてくれたりするんだ」
ちなみにロイトさんにC.A.Rシステムを見せたら、ストックの長さを簡単に変更できるようにしてくれた。
❝なにあのアタッチメント。俺も欲しくて、今銀河連合の武器カタログ観てるけど、どこにもないぞ❞
私はピストル・カービンtheニューゲームが愛おしくて頬ずりする。
「あー、この機能美がふつくしい」
❝目がイッてるぞ❞
❝キマってる❞
アリスが若干引いたので、すぐに止める。
「じゃ、じゃあリッカの銃をメンテするね」
「たのむー」
バラバラに散乱しているジェネラルP16を、私はメンテしていく。
メンテを続けていると――あ・・・バレルという銃弾の通り道(パイプみたいな部分)から、かなり黒い汁が出てきた。
❝これ・・・リッカ、そうとうメンテをサボってたな❞
❝自分で出来ないから、仕方ないんだろうけど❞
❝あんまりメンテしないでいると、誤作動しちゃうぞ❞
そこでふとアリスが、アサルトライフルや何やら取り出しているんで目をやると、
「ごめん、アリス。アサルトライフルはメンテナンスできるけど。その火縄銃みたいなのは・・・」
「あ、流石に無理ですよね!? あはは」
さすがに。
こうして私はリッカとアリスに説明しながら、みんなの銃をメンテナンスをしていった。
「さて、次――ん? うわっリッカ、この銃!! ――珍しいの持ってるね!」
音子さんと同じくマテバのキアッパ・ライノ200DSみたいな感じのマニアックな形状の回転式拳銃が置かれていた。
銃身が下の方についてるっていう変わった形のヤツ。
リッカが首を傾げる。
「整備しにくいか?」
「いや、リボルバーだから簡単だけど。これ、使ってるの?」
「使ってるか、使ってないかと言うと。使ってない」
使ってないんかい。
「あんまり汚れてないもんね」
ちょっと煤が付いてるくらい。
「高威力の弾丸を撃てる銃で、リボルバーが欲しくて買ったんだけどなぁ。なんか使いにくいんだよなぁ、それ。――競技向けって聞いたから買ったのに」
「マテバは、パララックスが凄いからね」
「パララ?」
言ったリッカが真顔になり、パラパラを踊りだす。
なんか小声で人の名前を呼んでる。
「視差の事。ほら、銃身と照準が離れてるでしょ?」
「あーーー! だから当てにくいのか!」
リッカが手をヒラヒラさせながら返してきた。
「そうそう。まあ『銃身が低いと反動が押さえられる』とかいい部分もあるんだけど。この銃で狙うのには、練習が必要かなぁ」
「ふむ。じゃあ、銃身と照準が近いのが楽なのか?」
「だね。一番いいのは普通のリボルバーとか、ワルサーP38とか」
「ワルサーP38――るぺぇんの使ってる銃だな」
「それそれ。まあ、ワルサーP38は口径が小さいんだよね――FLなら、口径の大きなワルサーもあるかもだけど。一般的には威力有る弾丸を視差を小さくして撃ちたいなら、普通のリボルバーになるかな」
「やっぱリボルバーは良いな、カッコイイし! 今度買おう!」
「そだね、リボルバーはメンテもしやすいし、いつまでも廃れないね!」
「リボルバーの凄さがわかったぞ!」
「リッカが銃に詳しくなってくれて、嬉しい!」
これはいい酒が飲める相手になってくれるかも。飲まないけど。
私は嬉しくて、思わず勢い込む。
「一晩中、語り合いたいね!」
「それは嫌だな」
キッパリ言われて、私は「ホロリ」と涙した。
「ほ、ほら、リッカってたまにウチに泊まりたいとか言うじゃん・・・・? パジャマパーティーで銃を語ろうよ・・・」
「どこの世界にパジャマ着て、一晩中銃について語り合う女子高生がいるんだ。バグってるだろその世界」
くっ。
そのあと〖仲間〗ゲートを開いて、森で試射もしておいた。〖仲間〗を撃ったわけじゃない。
それから出発前にリッカへ、メープルちゃんの入学祝いを、のしを付けて渡しておきました。




