399 なんか来ます
リッカはさらに、すき焼きからお肉を持ち上げる。
「アリスの肉は、本当にすきやきに合うな!」
アリスのお肉に関しては、私は特にハヤシライスとすき焼きでよかった。
私もハヤシライスをもう一度 ぱくん。
「このレベルのお肉だと、私は焼き肉で食べたら即胸焼けだったよ」
アリスが不思議そうな顔で、私を見る。
「お肉を食べ慣れたDNAなわたしは、全然平気なんですよねえ。――日本の方って、霜降り肉は2、3切れで胸焼けしちゃって食べられなくなる人がいてビックリです」
私がまさにそうなんだよねぇ。胃が脂に慣れてないのかな。
アリスはリッカの兎をしゃぶしゃぶして ぱくり。
「――リッカ! この兎肉、美味しいですね! 思った通りしゃぶしゃぶに合います。凄くサッパリしています。なんでしょう豚肉みたいな、鶏肉みたいな感じなので、ポン酢でさっぱり頂くのが箸休めになります。新鮮だからか、雑味も臭みも全く無いです!」
「わたしが獲ったからな、美味しくて当然だ」
獲った人で味は変わらんと思うが。
というか肉で箸休めって、さすが昔から食肉文化の人。
私はすきやきの味がジュワッと染み込んだ白菜を、お米に合体させる。
「まあ、私はお野菜も大好きなんだけどね」
「草食系ですねぇ」
「アリスが肉食系すぎるんだよ。――おっと、炊いてるご飯が吹きこぼれた――火を調節しなきゃ」
アリスとリッカが、燃える薪を移動して火力調節する私を見て言う。
「アリス、なんでだろうな」
「ですね」
「「インドアな涼姫が、なんで一番キャンプ慣れしてるんだ?(でしょう?)」」
アニメとか動画とかの影響ですよ。
料理は元々、得意だし。
あと、
「部屋キャン・・・・」
私が呟くと、
「スウさん・・・」
「スウ・・・」
アリスとリッカが、今度こそ可哀想な物を見る目になった。
「ほら! ウチバルコニーがあるからさ! そこでアルカナくんやリイムとBBQをさ!」
いや、湿地のロッジでやる事が多いんだけど。
「な、なるほどです!」
「今度呼んでくれー」
「お、おー!」
私はふと周りの樹木を見上げる。
「思ったんだけど。これさ、蜘蛛とかムカデとかでてきたら嫌だね」
「が、害虫は嫌ですね」
「うむ」
なんて話してたら、とてつもないサイズの害虫が飛んできた。
遠くから バッサ バッサ という羽音。
リッカが空を見上げる。
「なんか飛んできたぞ」
「ドラゴンですね」
「ドラゴンだねぇ」
『かぐわしき香りに来てみれば、これはこれは小さき者たちよ』
ドラゴンが どーん と降りてきた。
土埃とか入ったら嫌なので、急いで蓋を出来るものは蓋をする。
『小さき者たちよ。命が惜しければ、そのかぐわしき香りを放つ食物を我に捧げよ』
「どうします?」
アリスに首を傾げられたので、とりあえず。
「まあ、ちょっとぐらい分けてあげる?」
リッカがヤレヤレと肩をすくめた。
「スウはそうやってすぐ甘やかす。こういう輩は分からせてやれば良いんだ」
「まあまあ。――ドラゴンさんも食べます?」
私がドラゴンに尋ねると、奴はのっしのっしと寄ってきた。
なのでお肉とすき焼きを、シェラカップに盛り付けてあげる。
「どーぞ」
『うむ、素直で良いぞ』
ドラゴンはシェラカップを爪で挟んで ひょいぱく 一口。
良いお肉だから、もっと味わってほしいのに。
ドラゴンが目を見開いた。
『なんだこの旨い肉は!!』
「美味しいでしょー」
生産者さんにお礼をしなさい。
「スウが育てたわけでも品種改良したわけでもないのに鼻高々だな」
「まあ、そうなんだけどさ」
他人の手柄で、よく自慢するリッカに言われたくない。
『しかし旨いが、物足りんな。最早我の食事なのだから、全て』
言ったドラゴンが、すき焼きの鍋に手を伸ばした。
そうして取手に爪を掛けようとしたので、
「〖超怪力〗、〖念動力〗、〖怪力〗、〖乱歩〗」
私は乱歩で猛烈に左に移動しながら、ドラゴンの頬へ〖念動力〗右フックのパンチ。
バゴォン という音が鳴ってドラゴンが吹っ飛んだ。
『おごぉぉぉおおお―――!!』
顔面をセコイアに埋めたドラゴンが叫びながら足をジタバタさせている。
「自分勝手は許しません」
なんとかセコイアから首を引き抜いたドラゴンが、怒りの表情でコチラを睨む。
『き、貴様、我を誰だと!!』
私は〈時空倉庫の鍵・大〉から、243ミリキャノンを取り出し、遠くの大岩を撃った。
爆散する大岩。
爆音に、ドラゴンが大岩を見た。
ドラゴンが徐々に震えだす。
レッドドラゴンなのに顔が真っ青。
私は彼に尋ねる。
「行儀よくできますか?」
ドラゴン、首を上下にカクカク。
「じゃあ座っていいですよ。私が盛り付けてあげますね?」
ドラゴン、首を上下にカクカク。
私は焼き肉と、すき焼きをシェラカップに盛り付けてあげる。
ドラゴンに渡すと、お肉を一切れずつ食べだした。
「美味しいですか?」
ドラゴン、首を上下にカクカク。
「よかったです」
私が優しく微笑むと、ドラゴン、体を左右にガクガク。
優しく微笑んだのに、どういう意味だよ。
という訳で食事も終わり、ドラゴンが這々の体で帰ったので、私は提案。
「温泉入ろうか」
「温泉見つけたんですか!?」
「おおっ」
「違う違う」




