397 肉を「カモン、ピーポー」ます
私とアリスが脂肪遊戯をしていると、息を切らしたリッカの声がしてきた、
「スウ、火がつかないぞ」
見れば、彼女は棒と木の板を擦り合わせる、原始人みたいな方法で火をつけようとしていた。
手のひらで揉む方式だ。
縦にこする方式でもない。
紐すら使っていない。
「・・・文明捨てんなし。・・・・ていうかこの風の強い惑星で、さっきは、よくそんな方法で火を着けられたね」
さすが脅威のチビっ子。
「さっきは無風だったからな」
なるほど。
「じゃあ、私が着けるから」
私は、鉛筆削りなファイヤースターターを取り出す。
鉛筆削りをみたリッカとアリスが、一瞬キョトンとした。
やがて、可哀想な物を見る目になる。
「涼姫、知らないのか? 鉛筆削りじゃ、火はつかない」
「スウさん・・・・童貞を拗らせて」
「どどど、童貞をちゃうわ!」
「童貞が脳まで達して、脳が童貞に侵されたんですね。――スウさんの童貞なら、言ってくれればわたしが何時でも貰いますから」
「君の視線の先にいる生き物は、乙女!」
アリスがきょとんと「?」を生やしたので、私は諦めて、着火作業へ。
枯れ葉と、細い木を組んで、ファットウッドを削りカスにする。
さらにマグネシウムの粉を掛けた。
最後に、鉛筆削りをナイフの背で擦る。
火が着いた。
「――え!? ―――鉛筆削りで火が着いた!? なんだその魔法!」
「どどど、どうなってるんですか!?」
二人がびっくりしているので、一応説明しておく。
「この鉛筆削りはマグネシウムで出来てるんだよ」
アリスが頷く。
「なるほどです!」
リッカが真顔になる。
「『ぬうっ――あ、あれが世に聞くマグネシウム・・・』」
漫画のネタなので、私は乗っかる。
「『知っているのか、ライデン・・・!!』」
「ああ――塩の事だ!!」
「それは、ナトリウムだ」
私のツッコミに、リッカが凍った。
なんだ? ライデンフロスト現象か?
リッカに一応、詳しく説明しておく。
「ナトリウムもマグネシウムも燃えやすいけど、――マグネシウムはナトリウムより安定してるんだ。両方水に反応するけど、マグネシウムは水に入れても、ナトリウムほど簡単に大暴れしない。でも摩擦熱によってマグネシウムが加熱されると、マグネシウムと酸素が反応しやすくなるんだ。そして摩擦によって発生した火花がマグネシウムの粉にぶつかると、粉が酸素と結合しすぐに燃焼が始まる」
「そうそう、マグネシウムは燃えやすいんですよね。スウさんに教えてもらいました」
「うんうん」
憶えてたね、アリス。
するとリッカが、
「なるほど、全て理解した」
なぜかマグネシウムで全知になった。
さてBBQの準備だ。
私は、BBQ台に炭を移動する。
「スウさん、なんで炭を移動してるんですか?」
「炭の方が美味しく焼けるからね」
「そうなんですか?」
「煙がでないし、遠赤外線もでるから美味しくなるんだ。煙って匂いもあるし煤も混ざってるから、煙臭くなっちゃうし、苦くなっちゃう」
「料理って、深いです」
アリスが納得したところで、リッカが疑問を口にする。
「なあ、スウ」
「どうしたの?」
「炭って燃えカスなのに、何でまだ燃えるんだ? というか、いちいち元から燃える木を燃やして、わざわざ炭にして燃料にするんだ? 効率が悪くないのか?」
「ああ、それは。火って二酸化炭素とか一酸化炭素を放出するでしょ?」
リッカが、しっかりと頷いて返す。
「火の毒って奴か、木属性が反転して恐怖属性になるんだな」
「戻ってこい、現代人」
アリスが「しまった」と言う顔になる。
「地球に帰った時に、教科書を見せるの忘れてました」
「若干取り急ぎお願いするわ――狂信者がポップしかかってるから』
そろそろ『ふたぐん』とか言い出しそうだし。
アリスが紳士のお辞儀。
「仰せつかりました」
「うむ――で、炭だけど。火って、酸素と炭素が合体するときに光と熱を出してるわけで、炭素があれば火は燃え続けるの。――そして炭って、要は水分を飛ばした炭素の棒なんよ。黒いのは炭素だからね」
言いながら、私はせっせと炭を移動する。
「なるほど・・・・木は黒くなっても、酸素がくっつための炭素が沢山残ってるのか」
「うんうん。そして炭は不純物が少なくなるから、木より高温を得られるし、炎も純粋に近くなる。純粋だから燃焼時の温度も安定している――これって料理に大事なんだよね。だから炭で料理すると、水分がないからベチャッとしないし、煙の匂いもつかない、味も変わらない。さらに火だけじゃなくて、赤外線の熱も出るから美味しく食材が焼ける。――肉汁とかからは煙出るけどね」
私がせっせと炭を移動していると、リッカも手伝い始めた。
「なるほど、不純物が少ないのか。煙に燻された服とか、臭いもんなぁ」
「そうそう。そんな炭素を全てを酸化して――つまり空気中の酸素に持ってってもらって――全部を灰にしようとしたら、凄まじく時間がかかるよ」
「・・・純粋な炎、安定した温度、高温、味や香りを邪魔しない――いい事ずくめだな。だから、いちいち炭にして焼くのか」
「うんうん。そゆこと」
「料理は化学って言うけど、マジなんだなぁ」
リッカも納得したので、私は炭を網の下にまんべんなく敷いて、温度のムラを少なくする。
一部、炭の量を調節して、高温部分と低温部分も作っておく。
「準備OK! カモン、ピーポー!」
私は、クーラーボックスを開く。
中には肉、いっぱい肉。
実はみんなも食べるかしれないと思って、多めに持ってきた。
余ったら、帰ってから食べられるし。
「肉だー!」
リッカが箸を掲げる。
アリスも嬉しそう。
「スウさん、このお肉――絶対美味しいやつです!」
「うんうん、柔らかいぞー」
「楽しみです!」
「では肉焼き開始! 焼くのは各自好きなものを好きに焼くように!」
「はい!」
「おー!」
一応おしらせを。
ファンタシアでの試合部分と、晩餐部分を本編から削除しました。
そして短編として放流しました。
試合
https://ncode.syosetu.com/n9770ky/
晩餐
https://ncode.syosetu.com/n9772ky/
これを機に、今後も、本編に載せられないかも・・・みたいな話や、使わなかった話を短編にしていこうかと思います。




