395 キャンプ料理を開始します
私が薪を拾っていると、何かの鳥の「ツピピピ」という鳴き声が聴こえた。
見上げれば超巨大な針葉樹が沢山聳えて、まるで集中線。そこに小さな小鳥が停まってる。
にしても超巨大な樹は、ウロも超巨大。洞窟みたい。
私が、立って入れるようなウロもまである。
誰かが倒木をくり抜いて作ったトンネルを、木立の囁きを聴きながら抜けてし、ばらく歩く。
すると、宝石に見えるほど透明度が高い、沢が見えてきた。
沢の中に浮かんでいる、飛び石のようになった石を跳んで行けば、湖。
山のくぼみに雨水や雪解け水が溜まったものらしく、大きさはそこまでない。
湖の横に鎮座している大きめの岩に登って、湖底を観る。
湖底では、巨大なセコイアの倒木が折り重なって眠っていた。
ターコイズブルーの湖の底は、まるで時間が止まっているかのように――刻を封じ込めたかのように、想いを馳せさせた。
強い風が、湖から小さな水滴を運んでくる。
「気持ちいい」
私は両腕を広げて、大自然を感じる。
「この森に、引き籠もりたい」
隠者になる人の気持ちが、ちょっと分かった。
❝この人ディオゲネス症候群だし、ほっとくとマジでディオゲネスになっちゃうぞ❞
❝場所もファンタシアだし、アンドリュー様が賢者に褒美を与えに来ちゃう❞
「それは、そこを退いてくれって言わないといけなくなりますね」
❝スウたんが言うと、単に人と関わりたくないから言ってそうw❞
❝案外ディオゲネスもそんな意味で言ったのかもなw どっか行けだと角が立つしワロw❞
「ディオゲネスさんの気持ちが分かったかも」
私が賢者ゴッコをしていると、記憶を取り戻させるコメが流れる。
❝スウたん、本来の目的は良いの?❞
❝日が暮れちゃうよ?❞
「あっ! そうでした、薪薪」
というわけで、薪を拾って日が暮れる前にベースに戻ってきました。
するとリッカが何かを掲げている。
「獲ったどー!」
え?
よく見ると、角の生えた――兎!?
ぎゃー、私の仲間がー!
ジルコンみたいになって砕けてないと言うことは、あの兎は、MoBではなかったみたい。
リッカが兎をあっさり捌き出す。
ひえー、ガチ勢がいる! ガチサバイバーが!
私は凄惨な光景から目を背ける。
私の料理に取り掛かろう。
まずメスティンに、よく浸水させた無洗米を入れて、ペットボトルの天然水を入れる。
ちなみにこの天然水は、昔は爽やか炭酸に使われていた天然水らしい。
この水自体、かなり貴重なんだとか。
そんな水が最近、期間限定で天然水として販売されてるんで買って来た。
さて、拾ってきた薪を組んで――、上にスチール製の台を組む。
え「ファットウッドだけで焼かないのか?」
ファットウッドって、すんごい煙が出るんだよね。
あと炭も欲しいので、ご飯を炊くついでに炭を作ろうかなって。
私が焚き火の準備をしていると、後ろから カンカン という音がしてきた。
振り向けばアリスとリッカがナイフを薪に埋め、さらにナイフを薪で叩いて薪割りしてる。
私は森で、落ち葉や薪も大中小と、色んな種類の薪を拾ってきたので薪割りの必要なし。
――だが、私も薪割りする。
だって、アニメとか動画でやってて、憧れるじゃん!?
あんまり出来る機会はないんだから、やっておく。
コンコンコン ガンガンガン。
「か・・・・硬すぎる〖超怪力〗」
❝さっそくズルw まあ、スウたんに力作業は無理かw❞
❝後ろでは、アリスとリッカが事も無げに薪を作ってるのにワロw❞
ふう、楽しかった。
でもそろそろ暮れて来たので、早く火を着けないと。
真っ暗な中での着火作業になっちゃう。
落ち葉と、薪づくりで出来た木くず焚き火の上に乗せて、焚き火台を組む。
「さて、取りい出しましたは鉛筆削り――」
❝鉛筆削り?❞
❝どうすんのそれ❞
「――はい鉛筆削りなんですが、これマグネシウムで出来てるんですよ」
❝いや、マグネシウムだけで良いじゃん。なんで鉛筆削りである必要が・・・?❞
❝マグネシウムのファイアースターターなら専用の売ってるけど、なんでわざわざ鉛筆削りw❞
私は、細いファットウッドを鉛筆削りに突っ込んで回して削る。
❝あーーー!❞
❝なるほどスゲェ!❞
一部の視聴者は気づいたみたい。
「はい。この削りカスを、着火剤にします」
私は普通の枝も、削りカスにする。
薄い削りカスのお陰で、これなら簡単に火が付く。
❝よく思いついたなパネェな❞
「考えたのは私じゃないですけどね。アメリカの特殊部隊にも採用されてるらしいです」
さて、マグネシウムをナイフで削って、粉をファットウッドにふりかけていく。
もちろん料理用のナイフとは別。
そうしてナイフの背でマグネシウムを素早く擦れば、火花が出た。
火花がマグネシウムの粉に火を着けて、ファットウッドの削りカスに燃え移り、普通の木の削りカスに燃え移り、落ち葉に燃え移り――
「はい、着火できました」
❝手速ぇ❞
「針葉樹の薪は火がつきやすいし、道具も材料も良いので、イージーゲームでしたね」
焚き火の上の台に、生米入りのメスティンを置いて、最初は弱火。
「『〽はじめチョロチョロ、中パッパ。赤子泣いても蓋とるな』」
❝古風な歌知ってるなあ❞
❝幼児虐待の歌❞
❝不穏なこと言うなw❞
「以前は、家でも土鍋でご飯を炊くことも多かったんですよね」
❝本格的だなあ❞
私は、もう一箇所焚き火の準備。コチラにも台座を組む。
こっちの台座には一番大きなコッヘル。
すき焼きを作る。
マトリョーシカの一番大きなお鍋に、まずは白菜。
最初に肉だけを焼いたりしない感じ。
私って、牛肉はあんまり火を通さない方が好きなんだよね。
すき焼きだから、好きにするのです。
焚き火台を広げて設置、さっきみたいに火を着けて、コッヘルを置いたら白菜を温めていく。
すると水分がでてくるので、醤油とみりんを入れて、砂糖で味の調整。
すき焼きの味になったら、野菜を投入。
春菊、人参、長ネギ。
私のすき焼きは、水を入れたりしない。
いわゆる無水って奴です。
白菜は旨味が強めの野菜なので、十分な旨味が取れます。
なにより出てくる水分が多い上に、そこに様々な複雑な味が含まれているのが素敵です。
ちょっと熱したら、もう野菜がヒタヒタ。
野菜の甘味と旨味だけのスープができたら、次はきのこ類。
舞茸、しいたけ、しめじ。
食感、旨味、味という完璧な布陣。
さらに豆腐を投入。
お肉はまだ入れません。お肉は食べる直前に、しゃぶしゃぶみたいに入れる感じです。
そうこうしている間に、お米を炊いているメスティンが吹いた。




